特別企画

「SIGMA 18-35mm F1.8 DC HSM」リレーレビュー
その2(赤ちゃん編)

使いどころの多い“F1.8ズーム”。EOS 70Dのライブビューで撮る

 シグマから発売された「SIGMA 18-35mm F1.8 DC HSM」は、ズーム全域でF1.8の明るさを実現した大口径ズームレンズです。キヤノン用とシグマ用が発売済みで、ソニー用、ニコン用、ペンタックス用の発売日は未定。いずれもAPS-Cサイズの撮像素子にあわせた設計になっています。今回はこのレンズとキヤノンEOS 70Dの組み合わせで、1歳6カ月の娘を撮影しました。

SIGMA 18-35mm F1.8 DC HSM。キヤノン用を試用しました。

※詳しいスペックなどを記載した記事はこちら

※リレーレビューその1(ポートレート編)はこちら

高速シャッターで動きを止める

 繰り返しになりますが、このレンズの特徴は何といっても開放F値がF1.8と明るいこと。標準ズームレンズでこの明るさは他にありません。明るいレンズには、2つのメリットが生まれます。

 ひとつは速いシャッター速度が得られるという点。動き回る子どもを撮るとき、被写体ブレを防ぐため、シャッター速度を速くする必要があります。今回は寝姿を除いて1/500〜1/1,000秒程度のシャッター速度が得られるように調整しました。

 もちろん感度を上げればシャッター速度も上がりますが、ノイズを抑えるために感度をなるべく低くしたいもの。一眼レフカメラのレンズキットにについてくる標準ズームレンズの多くは、開放F値がF3.5〜5.6ですから、F1.8だと大きな違いになります。

公園に流れる音楽に合わせて踊りはじめました。子どもの仕草はとてもユーモラスなので、ぜひ写真に残しておきたいものです。絞り開放ではシャッター速度が1/1,000秒まで上げられたので、被写体ブレを防ぐことができました。EOS 70D / SIGMA 18-35mm F1.8 DC HSM / F1.8 / 1/1,000 / ISO100 / +2.3EV / 35mm
子どもとはいえ、動いている姿を撮るときのシャッタースピードは1/500秒以上に設定しておくのが安心です。近い距離では拡大率が高くなるのでかなりの高速シャッターが必要ですが、遠くにいる場合は1/500秒程度であれば動きを写し止めることができます。EOS 70D / SIGMA 18-35mm F1.8 DC HSM / F2.8 / 1/500 / ISO100 / -0.3EV / 35mm
滑り台を降りてくる姿を収めようと連写しました。ワンショットAFではピント位置がわずかにずれることもありましたが、AIサーボAFで何度かチャレンジ。そのほとんどでピントがしっかり合っていて驚きました。EOS 70D / SIGMA 18-35mm F1.8 DC HSM / F2 / 1/1,250 / ISO400 / +1.3EV / 20mm

ズームレンズなのに大きくぼかせる

 もうひとつの魅力は、背景が容易にぼけるという点。絞りの開放値が明るいほど背景がぼけやすく、人間の視覚を超えた世界が広がります。

 写真で背景をぼかすには、「絞りを開ける」「焦点距離を長くする」「被写体に近づく」「被写体と背景との距離を離す」という4つの要素を必要とします。このレンズは広角〜標準系ではあるものの、開放F値がF1.8と明るいので、それほど近寄らずとも大きくぼかすことができます。

 しかもこのレンズは35mm判換算で焦点距離約28.8-56mm相当(キヤノンボディの場合)の画角。広角から標準域で、単焦点レンズのようにぼかせるところが魅力なのです。

 赤ちゃんが歩き始めると、室内よりも屋外で撮影する機会が多くなるでしょう。そうすると望遠系のレンズより広角系のレンズの方が、周囲の雰囲気を一緒に写せると同時に、子どもに手が届く距離で撮影できます。目の離せない年頃のときこそ安心感があります。

開放から少し絞り込んだF2.5で撮影しました。アップ気味のときは被写界深度が浅くなりすぎることもあるので、ぼかしたいと思っても開放ではなく焦点距離や被写体との距離を考慮して、少し絞り込むこともあります。EOS 70D / SIGMA 18-35mm F1.8 DC HSM / F2.5 / 1/500 / ISO100 / +0.7EV / 35mm
絞り開放のF1.8を選択しました。まつ毛にピントを合わせていますが、拡大するとその解像度の高さに驚きます。また、室内で明るく写したいとき、感度を低く抑えられるのも嬉しい点です。EOS 70D / SIGMA 18-35mm F1.8 DC HSM / F1.8 / 1/60 / ISO100 / +2.33EV / 26mm
被写体に寄るのが背景をぼかす基本。でもこのレンズは開放F値が明るいので、寄らずにぼかせるのが面白いです。ローアングル+絞り開放で撮ると、ふんわりとしたぼけが得られます。EOS 70D / SIGMA 18-35mm F1.8 DC HSM / F1.8 / 1/800 / ISO200 / +1.7EV / 35mm

クローズアップも楽しめる

 最短撮影距離は28cm。赤ちゃんの小さな手をクローズアップすることもできます。近接撮影時の画質もすばらしく、まつ毛の1本1本がシャープに解像されていることがわかります。寄れば寄るほど被写界深度が極端に浅くなるので、ピント合わせは慎重に行ないましょう。

顔をどアップで撮影しました。最短撮影距離付近で絞り開放にして撮影すると、被写界深度はわずか数mm。それでも角度をうまく調整すれば、くちびる、鼻先、まつげのすべてにピントが合います。EOS 70D / SIGMA 18-35mm F1.8 DC HSM / F1.8 / 1/30 / ISO100 / +1.7EV / 35mm
子どもの手はとても小さくて愛らしい被写体です。斜めから撮ると、腕にかけてぼけていくので、奥行きを出すことができます。生まれたばかりの頃から手のクローズアップを撮っていますが、見比べると手だけでも成長を感じることができます。EOS 70D / SIGMA 18-35mm F1.8 DC HSM / F1.8 / 1/30 / ISO100 / +2EV / 29mm

逆光でふんわり柔らかく

 普段から逆光で撮影することが多いのですが、広角側で直接太陽光が入り込むようなシーンではさすがにフレアが起こりました。そのときはフードの先を手で遮光したり、やや斜めから撮影すれば問題ありません。

 逆光での撮影は難しいイメージがあるかもしれませんが、顔に影が出にくく滑らかになるメリットがあります。赤ちゃんを撮る場合はむしろ、髪の毛が輝くとてもきれいな光なのです。

 状況によっては顔が暗くなることもありますが、露出補正をプラス側にすることで、明るく写すことができます。

ドレスが光を透過し、髪の毛が輝く。逆光の光は被写体を美しく見せてくれます。この場合は画面の左上に太陽がありました。レンズの表面に光を受けるとフレアが発生するので、レンズ面が影になるよう、私だけ木の陰に入り込んで撮影しています。EOS 70D / SIGMA 18-35mm F1.8 DC HSM / F1.8 / 1/640 / ISO100 / +1.3EV / 35mm
逆光だと顔が暗く写りがちですが、露出補正をプラスにすれば明るく写せます。むしろ全面が影になるので、顔の凹凸が滑らかに。丸ぼけの形の美しさも特徴です。EOS 70D / SIGMA 18-35mm F1.8 DC HSM / F2.2 / 1/250 / ISO100 / +2.3EV / 35mm

EOS 70Dの高速ライブビューAFにも対応

 子どもを撮るときは、子どもの目線までアングルを下げて臨場感を出したいものです。逆に上から見下ろして地面を背景にしたり、下から見上げるようにすれば空が背景に入り、上を見上げたようなアングルを得ることができます。

 バリアングル液晶モニターを搭載したキヤノンEOS 70Dは、そんなローアングルやハイアングルの撮影を容易に行なうことができます。このレンズはキヤノンの純正品ではないですが、ライブビューのAFも十分高速でした。

赤ちゃんを撮るには、バリアングル液晶モニターと、ハイブリッドCMOS AFによる高速ライブビューAFの組み合わせがとても便利

 また、こちらへ向かって走ってくるなど速い動きを追うような状況では、AIサーボAFが役立ちました。動き回る子どもを撮るのは難しいものですが、そこは高性能な機能にどんどんと助けてもらうと良いですね。

子どもを見下ろすアングルは顔がうつむいて見えるのでなるべく避けますが、背景となる地面の造形がおもしろい場合は撮ることもあります。そのとき、顔が見えている必要があるので、完全に真上ではなく斜め上から撮るか、上を向くように名前を呼びます。EOS 70D / SIGMA 18-35mm F1.8 DC HSM / F2.8 / 1/400 / ISO100 / +0.3EV / 18mm
階段の段差を利用して下から見上げるように写しました。すると青空を背景になり、爽やかさを感じさせることができました。子どもの目線より低い位置から撮ることで、顔がより上を向いたように感じられます。EOS 70D / SIGMA 18-35mm F1.8 DC HSM / F2 / 1/4,000 / ISO100 / +1EV / 32mm
カメラを地面に置くようにして撮っています。しかし、屋外で寝そべるのははばかられるので、可動式液晶モニターを利用して、画面を見ながらフレーミングしました。また、夕方の雰囲気を演出するため、ホワイトバランスを調整して赤味を加えました。EOS 70D / SIGMA 18-35mm F1.8 DC HSM / F2 / 1/2,000 / ISO200 / +0.7EV / 23mm

 大口径ゆえに実際に持つとずっしりと重みを感じますが、EOS 70Dとのバランスがよくホールディングしやすかったです。ズームリングの操作も滑らかでストレスを感じることはありません。

 今回はぼけの魅力に惹かれて、夢中で我が子を撮影しました。子どもの成長はとても早いものです。“かわいい今"をたくさんの写真に収めていきたいですね。

ミドルクラスのボディとしては小柄なEOS 70D。ちょっと前方が重いものの、本レンズとのマッチングは悪くないです。

協力:株式会社シグマ

吉住志穂

(よしずみ しほ)1979年東京生まれ。日本写真芸術専門学校卒業後、竹内敏信事務所に入社。 2005年4月に独立。自然の「こころ」をテーマに、花や風景の作品を撮り続けている。日本自然科学写真協会(SSP)会員。