新製品レビュー

RICOH THETA S

ハイスペックモデルの新機能と高画質を検証

2013年の初代THETAに続き、動画撮影対応のマイナーチェンジモデルとしてRICOH THETA m15が2014年に市場投入されてから約1年。今度はイメージセンサーとレンズを一新し、動画撮影機能も大幅に強化した高画質版といえる「RICOH THETA S」が発表された。

THETA m15はスタンダード機として併売されるが、実質的にはこのTHETA Sが新たなTHETAの顔となるだろう。さっそくその上位機種の実力を検証してみたい。

そもそも、THETA(シータ)って何?

最近では知名度も上がってきたTHETAだが、まだご存知ない人もいるかもしれないので軽くおさらいをしよう。THETAとは、前面と背面に1つずつの円周魚眼レンズを持つスティック状のデジタルカメラだ。

シャッターボタンを一押しするだけで、この2つのレンズを通して撮影した画像をもとに、全方位360度の全天球画像を生成する。本体には液晶モニターを持たず、画像の再生は専用のアプリをインストールしたスマートフォンやタブレットかパソコンで行う。

発売開始からほぼ1年ごとのアップデート。左奥は初号機THETA、真ん中はTHETA m15(ブルー)さて、新登場のTHETA Sとは…!?

撮影画像は指先やマウスの操作でグリグリと360度自由に動かして、視点や画角、天地反転や遠近感の変化を楽しめる。またリコーが運営する専用サイトtheta360.comを利用することで、インターネット上で簡単に全天球画像をシェアすることが可能だ。

2013年秋のTHETA初号機は360度全天球の静止画像のみ撮影できたが、昨年2014年秋にマイナーチェンジしたTHETA m15では、基本的な静止画撮影仕様はそのままに1回あたり最大3分の全天球動画撮影モードを搭載するとともに、全4色のカラーバリエーションで展開し人気を得た。また、全天球動画は大手投稿サイトのYouTubeも対応するようになった。

新登場のハイスペック版「THETA S」

一見すると形状はほぼ同じに見えるため、違いは黒塗装だけに見えるかもしれないが、THETA Sでは、さらなる高画質を得るため、従来よりも大型の1/2.3型撮像素子を採用している。これに伴いレンズも新規設計となった。それらを納める筐体も新たな型を起こして作られており、THETA m15と並べるとその違いがわかる。表面には手触りの感触が良いソフトフィールと呼ばれるマットな質感の加工が施され、上位機種に相応しい品格を備えた印象だ。

THETA S(左)と従来モデルのTHETA m15(右)。外観寸法で幅2mm、高さ1mm、レンズ含まずの奥行きで0.5mm、本体重量で30g増となっている。
わかりやすい違いは、側面に3番目のボタンとして静止画/動画の切り替えボタンが新設されたこと。
THETA Sの前面には、Wi-Fiアイコン、静止画/動画モードを示すアイコン、録画中を示す赤色点灯が浮かび上がる洒落た表示方式を採用している。
外観で異なるのは、底部にHDMI出力が装備されたこと。初代THETAから不評だった本体充電と画像転送に使うUSB端子の配置は、THETA Sでも変わらなかった。しかし、本機種では充電中の使用が可能になっている。

THETA S単体で可能な操作は、電源ON/OFF、Wi-Fi通信のON/OFF、静止画/動画モードの切り替えと、静止画撮影のたのシャッターレリーズおよび録画開始・録画停止。それとライブストリーミングモードでの起動だ。

単体での撮影は静止画/動画ともにオート露出での撮影に限られ、露出補正やホワイトバランスの設定などはスマホアプリからとなる。

違いを実感、一新された写り

THETA Sでは、表裏それぞれに6群7枚構成の開放F2レンズと、1/2.3型の裏面照射型CMOSセンサーを採用している。約12M×2の画像から、出力画素数にして約14Mの全天球静止画像を生成する。

カメラに記録される画像はメルカトル図法で展開された横長のデータとなるが、今回よりLサイズ(5,376×2,688ピクセル)とMサイズ(2,048×1,024ピクセル)の2つの記録画像サイズの選択が可能になった。

画像サイズの切り替えは専用アプリでのみ行える。

3,584×1,792ピクセルで記録されるTHETA m15の画像と見比べると、確かに高画質が際立つ。画像の一部を拡大してもシャープに描写されていて、細かい部分までしっかり再現できている。従来の描写力では、大人数の記念撮影などでレンズに近いところに居る人はともかく、離れるにつれかなり描写が甘くなっていき、特に室内撮影など光の乏しい状況では限界を感じる場合も多かった。しかし、THETA Sでは安心して使えそうだ。

また、天球画像の一部をスクリーンショットで切り出す際にも、従来よりもシャープな静止画を得られる。

参考:従来モデルTHETA m15と画質比較

THETA Sの記録画像はLサイズで5,376×2,688ピクセルの1,400万画素相当。一方THETA m15は3,584×1,792の640万画素相当で、単純計算でも2倍以上の解像度となる。同じシチュエーションで撮影した結果を見比べれば、当然ながらTHETA Sの解像感の高さが際立つ。

・THETA S:ISO100

THETA S:ISO100 - Spherical Image - RICOH THETA

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・THETA m15:ISO100

THETA m15:ISO100 - Spherical Image - RICOH THETA

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・THETA S:ISO100

THETA S:ISO100 - Spherical Image - RICOH THETA

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・THETA m15:ISO100

THETA m15:ISO100 - Spherical Image - RICOH THETA

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・THETA S:ISO100

THETA S:ISO100 - Spherical Image - RICOH THETA

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・THETA m15

THETA m15:ISO100 - Spherical Image - RICOH THETA

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使用できる最高ISO感度はISO1600で従来通りだが、撮像素子サイズの大型化により高感度撮影のノイズ感にも大きな差が現れている。積極的に高感度を使うことは多くないかもしれないが、イザと言う時に今までより遠慮なく使えるというのはありがたいことだ。

高感度作例

・THETA S:ISO1600

THETA S:ISO1600 - Spherical Image - RICOH THETA

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・THETA m15:ISO1600

THETA m15:ISO1600 - Spherical Image - RICOH THETA

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新しい「THETA S」アプリと連携

THETA Sを手から離してどこかに置いたり、自撮り棒などに装着して遠隔撮影する際に不可欠なモバイルアプリは、THETA S専用のものが用意された。画面が本体色にあわせて黒を基調とするデザインになっているが、基本的な作りは従来のアプリを踏襲しており、既存のTHETAユーザーならば何一つ迷わずに使えるだろう。

アプリの一新に伴い静止画撮影モードでも追加されたり、向上した機能がいくつもがあるので紹介しよう。

ライブビューに対応。表示形式は2種類

新アプリでは、メルカトル展開した横長パノラマ状のライブビューをリモコン画面上部に表示するタイプと、再生時のように全天球画像で確認できるタイプの2種類のライブビュー撮影が可能になった。

これにより、事前に露出や被写体の位置関係などを把握できるようになり、撮り直しや保険的に多くのシャッターを切る必要がなくなり、撮影効率が格段に良くなった。

パノラマライブビューの様子
パノラマライブビューは画面全体を一望できるので、画面内に大きな明暗差があるシチュエーションで露出補正を掛ける場合などでも効果を確認しやすい。
全画面ライブビューの様子
全画面ライブビューは、再生時同様に画面を指でスワイプしてグリグリ視点を変えたり、ピンチ操作で拡大縮小も行える。被写体の配置など、構図重視の場合に仕上がりイメージをチェックしながら撮影できるのが便利だ。
ライブビュー切り替え画面

撮影モードに「マニュアル」を追加

THETA Sのレンズは絞りF2固定のため、マニュアル露出モードはシャッター速度とISO感度の組み合わせで露出を決定する。これに伴い、従来は1EVステップだったISO感度設定がより細かい1/3EV幅で行える。

また従来は最も低速のシャッター速度は1/7.5秒だったのに対し、THETA Sでは最長60秒までの長時間露光が可能になったので、夜景や光跡、天体撮影が守備範囲に入るだけでなく、意図的な低速シャッターでブレの表現なども楽しめる。

マニュアルモードのリモート画面
絞りは固定のため、任意のシャッター速度とISO感度の組み合わせで露出を決定する。

ハイライトの白トビを防ぐDR補正

設定画面

Wi-Fiリモートのオート撮影時のみ、新たに追加された新機能のDR(ダイナミックレンジ)補正を利用できる。これは、適正露出の-1EVで撮影し、暗部のみを持ちあげる加工を自動で行うもの。これにより明暗差が激しいシチュエーションで中間部もしくはシャドウ部に重点を置いた露出設定をした際に、ハイライト部が露出オーバーで白トビしてしまうことを防げる。

具体的には、太陽光の強く当たっているところと日陰、屋外と室内など、明暗差のある被写体が混在するシーンで自然な仕上がりにしてくれる。特に晴天屋外での撮影には重宝する機能だ。

参考:DR補正の効果

通常撮影では背景の太陽光で白トビを起こしている樹木の葉や地面も、DR補正をオンにすることで救済される。

DR補正なし
DR補正あり

高感度のノイズ感を軽減する

オート撮影時のオプション機能として、DR補正と同時に追加されたのがノイズ低減機能だ。これは明るさに応じて、連写合成でノイズリダクション効果を得るか、感度を下げて撮影するかを自動判断する。この機能をONにすることで、通常撮影にくらべ約1段分のS/Nが向上するという。DR補正との同時適用はできない。

ノイズ低減をオンにしている時には、シャッター音がわりの電子音が長めの音色に変更される。これはどちらの方法でノイズ低減効果を得るにしても、シャッターレリーズの時間が長くなるので、その間にTHETA Sをなるべく動かさないようにという警告を兼ねている。

作例:ノイズ低減ON

ノイズ低減をONにすると、暗部のノイズ発生が明らかに抑えられている。夜間の撮影も大いに楽しめそうだが、低速シャッターもしくは連写合成のため手持ち撮影は避けたほうがよさそうだ。作例ではミニ三脚と自撮り棒の組み合わせにTHETA Sを固定した。建物やタクシーなどの動いていない被写体はシャープに描写しているが、逆に撮影者の自分がほんの僅かに動いてしまったようだ。

オート撮影 ノイズ低減ON(THETA S) - Spherical Image - RICOH THETA

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扱いやすくなった動画モード

動画モードのアプリ画面

新生THETA Sの中でも一番期待と注目を集めているのは、実は動画撮影機能かもしれない。というのも、これまでTHETAの動画機能は、撮影した動画を一度パソコン上のアプリで変換する必要があった。その場ではモバイル端末に転送したり、再生や消去を行なうこともできなかったのだ。また、動画モード自体も独特な起動方法だったり、LED点灯を見てカメラが動画モードかどうかを判別するのが難しいなど、少々扱いが厄介だった。

※編集部注:10月15日公開のiOS版アプリから、THETA m15でも全天球動画を直接モバイル端末アプリに転送して再生が可能になりました。

その点、THETA Sの動画機能は、カメラ側でもアプリ側でも自由に静止画モードからの切り替えが可能になり、本体には動画モードであることを示すアイコンの表示や、録画中の赤ランプが点灯するなど、判りやすくなった。

加えて撮影したその場でスマートフォンにダイレクト転送でき、即座にアプリ上で全天球動画の再生が可能。そのままインターネット上への投稿も行え、不要なNG動画の消去もできるなど、THETA m15で指摘されていた不満点をほぼ解消して使いやすくなった。

専用サイトのtheta360.comへのアップロードは1動画あたり5MBの制限はあるが、先に述べた通り動画投稿サイトやSNSでも対応が進んでおり、全天球動画を楽しむ環境の広がりはこれからも大いに期待できる。

動画作例

THETA SではフルHDサイズに相当する1,920×1,080ピクセル/30fps/16Mbps(Lサイズ)と1,280×720/15fps/6Mbps(Mサイズ)の2通りが選択可能で、一回あたりの記録時間は25分もしくはファイルサイズの上限4GBと大幅に拡大された。


※対応する表示環境でのみ、YouTube画面で360度操作できます。HD画質推奨

参考:動画クオリティをTHETA SとTHETA m15で比較

筆者謹製、THETA比較撮影ギア(編集部撮影)

・THETA Sの動画

・THETA m15の動画

スマートフォンアプリでの再生は、通常の画面モードの他に、それぞれのレンズで撮影された動画を画面内に並べて表示するモードもある。どちらのモードでも、視点の変更や拡大縮小などは自由に行える。

右上の画面切り替えをタップするとセレクターが表示される。写真は2画面表示モード
THETAには静止画の連写モードがないので、動きのあるシーンの静止画撮影の裏ワザとしても動画モードが活躍しそうだ。
同じ動画から、全く異なる構図をスクリーンショットで切り出した例。Lサイズで撮影した動画なら、メールやブログ程度に十分使えるクオリティといえる。

ただし、動画ファイルは必然的にファイル容量が大きくなり、録画時間が長いほどスマートフォンへの転送も時間がかかる。使用する端末の処理能力や無線LANの通信状態も影響するため目安だが、転送には録画時間の3〜4倍かかる印象だ。USB接続でデータの吸い上げだけが簡単に行えるような機能か、本体に接続できるストレージデバイスなどが将来的に登場すれば嬉しい。

スマートフォンにまとめて複数データを転送する場合には、長時間スマホを使えなくなるので結構なストレスにもなる。仮に電話が掛かってきた場合には、転送中のデータがキャンセルされてイチからやり直しになるのが少々煩わしい。もし動画転送がバックグラウンドで可能になるならば、改善に期待したいところだ。

ちなみに動画ファイルの転送中はアプリの画面を切り替えることができないため、新たな静止画/動画のリモート撮影は不可となる。試してみたところ、THETA S本体のシャッターボタンを押しての静止画撮影は可能だった。

総括:画質を取るならTHETA S!

THETA Sはほかにも、新型Wi-Fiモジュールによる転送速度の向上(従来比4倍)、内蔵メモリーの倍増(4GB→8GB)、HDMI(type-D)端子の新設によるライブストリーミング出力、充電しながらの使用が可能になるなど、言わば新機能のてんこ盛りで、上位機種にふさわしい納得の仕様での登場だと思う。細かなことだが、従来機では撮影画像に本体のシャッターボタン周囲が一部写り込んでしまっていた現象も解消し、おおむね良い印象を受けた。

気になった点としては、ライブビューを多用すれば、当然ながらバッテリーの消耗が早い。充電しながら使用可能になったためモバイルバッテリーで対応できたが、バッテリー側の出力が1.5A以下の場合は電源が落ちてしまって使えないので注意が必要だ。そして従来同様にUSB端子が底部にあるため、充電中は自撮り棒やテーブル三脚などが使用できない。ここには多少不満が残る。本体の温度上昇もやや気になるところ。

また、THETA Sに限らず従来機でも同様だが、蛍光灯下での撮影でISO感度を上げるなどしてシャッタースピードが速まると、フリッカーによるノイズが出やすい。これは画面内に渦状に発生するため、少々目ざわりに感じる。

新しいTHETA Sアプリでも、撮影データをブラウズする画面では機能的な進化は無かった。例えば同じシチュエーションで複数回撮影すれば、似たようなサムネイルが並ぶことになり、特にスマートフォンのアプリ画面でそれぞれを判別することは難しい。簡易的なレーティングやマーカー機能が欲しいところだ。

THETA Sアプリの転送画面

…とリクエストはいろいろ出てくるが、従来機と比較すれば「ズバ抜けた」機能で満足度は高いものになっているし、撮った全天球画像や動画を確認していると、それが素直に楽しい。画素数が2倍以上なのだから当然といえば当然の話だが、おそらく既存のTHETAもしくはTHETA m15ユーザも、THETA Sの画像を見て心が大いに揺らいだことだろう。

全天球画像を手軽に楽しむという点では、併売されるTHETA m15の価格や画像ファイルの扱いやすさといった軽快さも魅力的だが、より高精細な画像を撮りたい人や、動画主体に楽しみたい人であれば、迷わずTHETA Sを選ぶべきだといえる。

宇佐見健

(うさみ けん)1966年東京生まれ。日本大学藝術学部写真学科卒業。スクーバダイビング専門誌、広告代理店を経てフリー。カメラ雑誌では新製品インプレッションやHow toなど各種記事を執筆している。写真展「Pola Holga Paradise」(2004年・東京写真文化館Stage)、「Norway Photo Journey 風景とムンクな肖像」(2014年・リコーイメージングスクエア新宿)。カメラ記者クラブ・カメラグランプリ選考委員