新製品レビュー
RICOH THETA m15
ついに動画記録に対応 あの全天球カメラが新たなステージへ
宇佐見健(2014/11/14 12:30)
レリーズボタンひと押しで周囲360度を写し込む全天球イメージの撮影が可能なRICOH THETA。2013年秋の発売開始からほぼ1年を経て、このほど11月14日に動画撮影も可能にした新モデルRICOH THETA m15が発売された。
外観は旧THETAを踏襲
2013年11月に発売された初代RICOH THETA。スティック状の本体先端に搭載された2つの円周魚眼レンズが、1レリーズで2枚の画像を記録。それを合成することで、周囲360度をカバーする全天球イメージが生成される仕組みだ。
この時カメラの内蔵メモリーには3,584×1,792ピクセルのパノラマ状のJPEGデータとして記録される。
データを閲覧するには、無償アプリ「RICOH THETA for iPhone/Android」を使ってスマートフォン/タブレットにWi-Fiで転送するか、PCに取り込んでから「RICOH THETA for Windows/Mac」上で再生する。スマートフォンでは画面のスワイプやピンチで、PCではマウスのドラッグ操作で表示箇所を回転させたり、部分拡大などが行なえる。
また専用サイトtheta360.comに画像をアップロードすると、個々の全天球イメージを閲覧するためのURLが発行されるので、FacebookやTwitter、tumblrなどのSNSへもシェアできる。こうしておけば、専用ソフトをインストールしていないスマートフォンやPCでも、360度全方位のパノラマ画像として閲覧ができる(球形には表示されない)。
11月14日発売されたRICOH THETA m15は、は、初代RICOH THETAと外観、光学系、操作ボタンなどのレイアウトはほぼ共通。
ただし新機能として、全天球イメージの動画記録が可能になったのが大きい。また、Wi-Fiでの画像転送速度を従来比にして最大約2倍に高速化したモデルである。
RICOH THETA m15では、新たにブルー、イエロー、ピンクのカラーバリエーションが用意され、質感の変わった従来のホワイトとともに計4色のラインナップとなる。
静止画機能
ここで改めて、RICOH THETAの静止画撮影機能について見てみよう。
本体のシャッターボタンを押して撮影する場合は基本的にフルオート撮影となる。
一方、専用アプリRICOH THETA for iPhone/Androidを利用したWi-Fiリモート撮影では、オート、シャッター優先、ISO優先の3つの撮影モードを選択できるほか、ホワイトバランスの設定、1/3EVステップで±2.0段の露出補正、インターバル撮影設定が可能になる。
これがRICOH THETA for iPhoneの画面例。この画面で撮影を行う。
上から順に、撮影モード、Postview/No Postview、シャッターボタン、露出補正など。
撮影モードは「オート」「ISO優先」「シャッター優先」に切替可能。
「Postview」は撮影ごとに画像転送を実行。およそ16秒ほどで転送画像が表示される。
「No Postview」では撮影ごとの画像転送を行なわない。5秒ほどで次のシャッターを切ることができるので、次の撮影への移行時間を短縮できる。
中央のシータマークをタップするとシャッターが切れる。
インターバル撮影も設定できる。
一般的なデジタルカメラとはかけ離れた形状のTHETAだが、カメラユーザーになじみのある名前の機能もそれなりにある。
ISO優先撮影モード
ISO優先モードでは、ISO100〜1600の範囲で感度を指定できる。1段ステップの設定が可能で、レンズの絞りはF2.1に固定。撮影環境の明るさに応じたシャッター速度が自動で設定される。
低い感度に固定して撮影すればノイズの少ない綺麗な画質を得られる反面、室内など光の乏しい環境下ではシャッター速度が遅くなるので手ブレや被写体ブレに注意が必要。
以下は感度による違いを比較したサンプル。
シャッター優先撮影モード
シャッター優先撮影モードでは、1/7.5秒〜1/8,000秒までの範囲で1段ステップのシャッター速度を設定可能。レンズの絞りはF2.1に固定されるため、撮影環境の明るさに応じたISO感度が自動設定される。
早いシャッター速度で被写体の動きを止めたり、逆に遅いシャッター速度で動きや流れを表現した全天球イメージを撮影できる。
極端に高速シャッターや低速シャッター速度設定すると、ISO感度が自動設定の範囲外になることがある。その場合は露出オーバー、または露出アンダーになるので注意が必要だ。
以下は、シャッター速度の違いを比較したサンプル。
ホワイトバランス
ホワイトバランスの変更も行える。オート以外に、屋外、日陰、曇天、白熱灯1、白熱灯2、昼光色蛍光灯、昼白色蛍光灯、白色蛍光灯、電球色蛍光灯の各プリセットWBが用意されている。ただし、撮影モードがISO優先撮影とシャッター優先撮影のときのみ。
通常の撮影ではオートでほぼ問題が無いが、結果に満足がいかない場合や、あえて色を被らせた表現をしたい時に設定するとよい。
作例
本体のシャッターボタンを押しているためレンズに近い親指が大きく写り込むのがTHETAによる全天球イメージの特徴。
セルフィ(自分撮り)用として市販されているモノポッドの先にTHETAをつけて、アプリのWi-Fi遠隔操作でシャッターレリーズをしている。不自然に大きく写り込む指はなくなった。
画面内に入った黄色の線は、本体の一部分が写り込んだもの。
全天球イメージは画面の視点を動かしたり、部分拡大などすることで一つの画像を何通りもの構図で見ることができる。
全天球イメージは画像としてそのままシェアできないが、自分の気に入った構図に調整してスクリーンショットを取れば、メール添付なども可能になる。
全天球イメージの楽しみ方の一つが、あたかも小さな星の上に自分が立っているような視覚効果になる位置で鑑賞する「スモールプラネット」と呼ばれる手法。
視点を全天球の頂点付近に移動し、俯瞰のようなポジションにするのが楽しむコツだ。
動画撮影機能
THETA m15の最大の特徴は、動画撮影への対応。Wi-Fiボタンを押しながら電源ボタンを押すことにより、動画モードとして立ちあがり、録画スタンバイ状態になる仕組みになっている。
動画モードで電源を立ちあげた場合、電源ランプがゆっくり点滅するのが目印だ。
録画のスタート/ストップは静止画撮影モードと同じシャッターボタンを利用する。
シャッターボタンを押すと、短い電子音とともに録画が開始。それまで点灯していたシャッターボタン上の状態ランプは消灯する。
録画中も電源ランプは点滅を繰り返し、シャッターボタンをもう一度押すと電子音とともに録画停止。再度状態ランプが点灯する。
録画の最長時間は180秒で、録画開始から3分が経過すると自動でストップする。
動画モード時のISO感度はISO100〜400、シャッター速度は1/8,000秒〜1/15秒の範囲となるが、露出やホワイトバランスなども含む撮影設定のすべてがオート設定になる。
動画記録の第一段階では、1,920×1,080ピクセルの横長画面に、円周魚眼レンズによる円形の動画が2つ並んだ状態の動画(.MOV)が内蔵メモリーに記録される。
この.MOVファイルをPCソフト「RICOH THETA for Windows/Mac」の機能でパノラマ(天球をメルカトル図法で展開)状に変換したのがこちらの動画。
その.MP4ファイルを再びRICOH THETA for Windows/Macで開くか、スマートフォンのアプリで開くことで、全天球動画として再生できる。動画として再生しながら、マウスや指先の画面操作で自由な構図変更や部分拡大/縮小が行なえるようになる。
RICOH THETA for Windowsで全天球ムービーを再生しつつ、マウスで視点の移動を行なっている状態を高圧縮でキャプチャーしたのが、この動画だ。
記事制作時はTHETA m15の発売前なので、THETA専用サイトのtheta360.comが動画のシェアに対応していない。予定では、発売日以降にアップロードが可能になるようだ。
なお、theta360.comへは動画アップロードも可能になるが、共有できるファイルのサイズは5MB以下となる。
動画撮影時には音声も同時に記録される。音声記録をオフにしたり、事後処理で省略する機能は今のところ搭載されていない。
原稿執筆時点は発売前のためスマートフォン用の最新アプリが公開されておらず、Wi-Fiを利用した録画機能の詳細は不明である。
theta360.comで公開した全天球ムービー(追記)
theta360.comが動画の投稿に対応したので、以下の全天球ムービーをアップロードしました。マウスで(PC)指で(スマートフォン)、動かしてみてください。いずれのサンプルも宇佐見健さんの撮影です。(編集部)
上のキャプチャー動画で使用したサンプル。
自転車のハンドル部分にクランプで固定した一脚にTHETA m15を固定。顔の前方で目の高さよりも少し高い位置にレンズがある。
THETA m15の取り付け位置を前輪の前に設置している。カメラと被写体の距離の違いで全天球動画も印象が全く異なるのがわかる。
THETA m15を手に持って歩いたり、高く掲げたりするのに加え、モノポッドを利用して身体から距離を離してローポジションに。変化がわかるように撮影してみた。
地上3m近くに咲く花に集まるハチを近接撮影。スペック上、THETA m15のピントの合う範囲は、レンズ先端より10cm~∞。風によって時おり花が大きく揺れてレンズに接触するくらいまでの距離までいける。ただ、大きくボケるわけではないので、画として違和感はない。
まとめ
昨年の発売以来、ワンプッシュで想像を絶する視野を簡単に全天球イメージとしてキャプチャーできる面白さ、その画像を人に見せた時のインパクトなど手伝い、この一年間で着実にファンを獲得してきたTHETA。
ユーザーから寄せられる機能の改善や追加などに関する声に対してリコーは良く聞入れており、発売からこの1年間に例えばiOS用アプリのバージョンアップだけでも10回以上を数え、撮影機能の改善や進化させている。
今回搭載された動画撮影モードもユーザーからの要望としては上位に挙がっていた項目に違いは無いと思うが、思いのほか早く対応しつつも初代THETAに比べて販売価格を大きく下げたことは正直驚いた人も多いだろう(初代THETAの発売時の実勢価格が4万円台半ば、THETA m15の店頭予想価格が3万円台前半)。
そのぶん、静止画の画質向上や内蔵メモリー容量などは据え置かれ、要望の多かったUSBインターフェースの位置が底面のままだったりするが、まずはこの小さなデバイスで簡単に全天球ムービーの撮影が可能になったことは歓迎すべきことだと思う。
今回の試写ではリニューアルされる予定のスマートフォン用アプリが無い状態なので、実際の使用環境と違うところは多々あった。
例えば、PCで変換しない限り動画が確認できない点など、幾分不便を強いられた。また、現段階では不要な動画をTHETAから削除する場合でもPCとのUSB接続が必須である。
また、内蔵メモリーの容量も心もとない。仮に3分間の動画を撮影した場合、1動画あたりのファイルサイズは約260MB。10本も動画を撮影すれば、単純計算でも内蔵メモリー容量の半分以上を使用することになる。
旅先などで直ぐに撮影データを吸い出すことができない環境では、メモリー容量の残量にも気をつかいながら撮影する必要がある。
しかし現段階での不満点も、今まで同様に本体ファームウェアおよびアプリのバージョンアップにより改善・進化される余地はじゅうぶんある。
それに、本モデルからAPI公開とSDK提供が行なわれるため、リコーが提供する純正アプリ以外にも、アプリが開発されることが予想される。全天球表現の可能性が、さらに広がることに期待してよいだろう。