FUJIFILM X、それぞれのコンセプトを探る

写真の楽しさを改めて教えてくれた軽快スナップモデル

写真家・並木隆さんに聞く「X-T20」の魅力

愛機FUJIFILM X-T20と並木隆さん。

富士フイルムのミラーレスカメラ「Xシリーズ」には、同じイメージセンサー、同じ映像エンジンを搭載した5モデルが存在する。X-H1、X-T2、X-Pro2、X-E3、X-T20の5機種だ。

他のカメラメーカーのラインナップと異なり、明確なヒエラルキーを持たないこれら4台の違いとは何か。スペックシートからわからない特徴を導きたく、それぞれのリアルユーザーに愛機の話を聞いた。それがこの連載「FUJIFILM X、それぞれのコンセプトを探る」だ。

今回のテーマは「FUJIFILM X-T20」(以下X-T20)。

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一眼レフカメラライクなデザインで汎用的な立ち位置を特徴とする「X-T2」に対し、光軸上にEVFを搭載しているところは同じながらも、小型軽量化と高いコストパフォーマンスを達成したのがX-T20。

X-T2ほどの本格的なスペックではないものの、その分、手の届きやすい小さな万能機として作り上げられており、X-T2の画質・機能を気軽に得られるデジタルカメラといえるだろう。

そんなX-T20を上位機種のX-T2とともに愛用しているいうのが、花をモチーフとした情緒溢れる美しい写真で知られる写真家・並木隆さん。並木さんといえば、自然を相手とする厳しい環境で撮影されることもあるはず。いったいどのように2種類のカメラ、とりわけX-T20を使っているのか、お話をうかがった。

イメージセンサーX-Trans CMOS IIIセンサー 約2,430万画素
レンズマウントFUJIFILM Xマウント
撮影感度ISO100〜51200(拡張設定を含む)
最高シャッター速度1/4,000秒(メカシャッター)
連写性能約8コマ/秒(メカシャッター)
ファインダー0.39型有機ELファインダー 約236万ドット
液晶モニター3型 約104万ドット タッチパネル
動画最大3,840×2,160/29.97p(4K)100Mpbs
外形寸法118.4×82.8×41.4mm
質量約383g(付属バッテリー、メモリーカード含む)

サブ機としてメイン機として

−−直撃になりますが、フィールドでの撮影が多い並木さんでしたら、X-T2を使われるのが順当なのではないかと悩んでいました。どのような経緯でX-T20を使われているのですか?

並木:実はその通り、メインのカメラはX-T2で、X-T20はそのサブ機というつもりで購入したものでした。「小さなX-T2」という意識でした。

−−始めはサブ機という意識だったのですね。

並木:そうですね。富士フイルムのデジタルカメラは色が素晴らしいのでずっと使ってみたいと思っていました。X-T2とイメージセンサーは同じで撮れる画像も同じなのだから、X-T20はサブ機としては最適だろうと。X-T2を2台持つ手もありましたが、気持ち的にも重いなとまだ思っていた時でした。

−−スペックは問題なかったのですか?

並木:自分の作品撮影のジャンルとして、細かい機能はそれほど必要ないので、耐久性を考えたらX-T2、そのサブ機はX-T20で大丈夫だろうと考えていました。

−−(レンジファインダータイプの)X-Pro2・X-E3ではなく、(一眼レフタイプの)X-T2・X-T20を選ばれたのはなぜですか?

並木:使い慣れていた一眼レフカメラと同じように、光軸上にファインダーがあるからです。背面モニターで花の写真を撮ると、どうしてもその方が撮りやすいですから。本当のところ、小型軽量という点でX-E3も気になったのですが、X-T20はチルト式液晶モニターを搭載しているので、そこも大きなポイントになりました。

−−花の撮影のプロである並木さんのメイン機がX-T2、サブ機がX-T20として、実際のところX-T20の出番はこれまでありましたか?

並木:本格的な作品撮影と言う意味ではいまのところありませんね(笑)X-T2が順調に仕事をしてくれていますから。でもここが大切で、せっかく買ったのに、ただ持っているだけではモッタイナイと思うようになって、新たに小さめの交換レンズ「XF23mmF2 R WR」をX-T20のために購入したのです。

−−花マクロのイメージが強い並木さんが23mm(焦点距離35mm前後相当)というのも意外ですね!

並木:やっぱりそんなイメージですか(笑)でも本当にこのレンズを買ってから、日常写真はもちろん、旅行やちょっとした遠出に持ち出すようになりました。「ああ、カメラってこんな楽しいものだったよね」と思い出させてくれたのが、XF23mmF2 R WR を手に入れてからのX-T20です。

−−ところで、随分カジュアルなバッグをお使いですね。

並木:これですか? X-T20の時はいつもこんなバッグで持ち歩いています。カメラバッグっていかにも写真を撮ってる人っぽくてちょっと好きになれないんです。X-T20でしたら、このくらいのライトなバッグの方がせっかくの気軽さを損なわずに写真を撮れますものね。

並木:数年前までは一眼レフカメラを使うことが多かったので、重くて、仕事以外で持ち歩こうという気にはサラサラならなかったのですけど、富士フイルムのミラーレスカメラを使うようになってからは、小ささが気に入ってこうしたスタイルに落ち着いてきています。一眼レフカメラに比べたらX-T2も十分小さいですけど、X-T20はそれよりも圧倒的な小ささがあってそこがいい。

−−他のレンズはX-T20ではあまり使わないのですか?

並木:使い始めの頃はX-T2と同じように、色々なレンズをつけて試していました。今日見ていただく写真もいろいろなレンズで撮った写真で構成しています。でも、やっぱりX-T20の小ささを活かすにはXF23mmF2 R WRみたいな小さくて写りの良いレンズの方がバランスがいい。XF35mmF2 R WR、XF90mmF2 R LM WRなんかもいいですね。

並木さんのお気に入りはコンパクトなXF23mmF2 R WR(右)。XF90mmF2 R LM WR(左)は散歩中に出会った花を撮るため。

絵作りはX-T20でも健在

−−つまり日常的なスナップ写真が多いのですか?

並木:そうです。X-T20ではあまり花の写真撮っていないんです(笑)やっぱり普段使いや旅でのスナップ写真、記念写真が多くなりました。でもそれが僕にとってのX-T20。花の写真はもちろん好きですけど、どうしても仕事の感覚になってしまいます。その点X-T20だと、自分の作風とか、仕事で撮らなければならない被写体とか、そういう縛りを抜きに目についたものを好きなように撮れます。

撮影:並木隆
X-T20 / XF18mmF2 R / 18mm(27mm相当) / 絞り優先(1/60秒・F2.0・±0EV) / ISO2500
撮影:並木隆
X-T20 / XF23mmF2 R WR / 23mm(35mm相当) / 絞り優先(1/60秒・F2.0・+1.6EV) / ISO400

−−こちらの写真は「アドバンストフィルター」の「ミニチュア」ですね。

並木:X-T2だとエフェクト系の機能は基本的に使いませんけど、X-T20だと気持ちが楽なので「そういえばこういう機能もあったな」と思い出して使ってみたくなります。楽しいもんですね。この写真は息子と旅行に行った時に竹芝ふ頭近くのホテルの窓から撮った景色です。

撮影:並木隆
X-T20 / XF18-55mmF2.8-4 R LM OIS / 18mm(27mm相当) / アドバンストフィルター:ミニチュア(1/1,900秒・F2.8・±0EV) / ISO400

−−こちらの写真は「XF50mmF2 R WR」で撮影されていますね。

撮影:並木隆
X-T20 / XF50mmF2 R WR / 50mm(75mm相当) / プログラム(1/60秒・F2.0・+1.0EV) / ISO800

並木:X-T20で焦点距離50mmのレンズだと75mm相当ですので、あるいはスナップだと撮りにくいと感じる方もいるかもしれません。僕自身23mmが今のお気に入りですが、ボケを活かした写真を撮りたいと思ったときには活躍してくれるレンズです。

−−ズームレンズはあまりお使いにならないのですか?

並木:ズームレンズは開放F値が暗く、背景ボケをコントロールしにくいのであまり使いません。自分が被写体に近づいて大きく撮るという行為を信条にしていますので、概ね撮るときは単焦点レンズです。あと、ズームレンズだとサイズが大きくなってしまいますので……富士フイルムは小さくて明るい単焦点をたくさんラインナップしてくれているのも嬉しいところです。

−−富士フイルムといえば「フィルムシミュレーション」ですが、並木さんのお気に入りは何になりますか?

並木:何といっても「ベルビア」ですね。彩度が高めのフィルムシミュレーションですけど、実は、他メーカーでは相当する絵作り設定はすぐに色が飽和してしまうので使っていませんでした。しかし、富士フイルムの場合はベルビアでも色が粘って階調を残してくれるので積極的に使っています。

−−フィルム時代のネイチャー系では、何といってもベルビアが代名詞でしたしね。

並木:「ああ、このカメラの絵作りはオッケーだな」と本当に思いました。特に緑の出方が素晴らしく、富士フイルムの絵作りには感心しています。

撮影:並木隆
X-T20 / XF50mmF2 R WR / 50mm(75mm相当) / プログラム(1/550秒・F2.0・-0.3EV) / ISO200

並木:富士フイルムのカメラを使っていてすごく思うことが、JPEG画像の出来栄えが完璧だということです。ユーザーのレタッチに委ねることなく、撮影した時点でコントラストや階調が完成されているので、余計な調整をする必要がまったくない。

−−なるほど、この写真などは一見すると全体が白トビして危うさを感じますが、よく見ると色の階調を絶妙に残して成立していますね。

撮影:並木隆
X-T20 / XF23mmF2 R WR / 23mm(35mm相当) / 絞り優先(1/1,400秒・F2.0・+2.3EV) / ISO200

並木:そうです。とても難しいシーンですが、絵作りの上手さが手伝って思った通りの写真に仕上がっているのがわかりますか?

−−並木さんの露出設定の絶妙さもあるのでは?

並木:それもあるかもしれませんが(笑)色の出し方や階調表現の巧みさと言ったところが、富士フイルムのデジタルカメラの良さなんですよね。撮るときのカメラ設定さえちゃんとしておけば、後は何もしなくて大丈夫な完璧な画像を提供してくれる。これはユーザーにとって大きなメリットだと思います。

−−本業の花の写真はどうでしょう。

並木:X-20でもX-T2と同じように花の写真が撮れます。イメージセンサーやプロセッサーが同じなので撮れた花の写真はX-T2と同じクオリティです。

撮影:並木隆
X-T20 / XF60mmF2.4 R Macro / 60mm(90mm相当) / プログラム(1/250秒・F2.4・±0.0EV) / ISO400

−−X-T20でもX-T2と同じように綺麗な花が撮れる?

並木:はい、撮れます。だから控えとしての役目も担ってもらっていますが、それ以上に、気軽さを活かして普段使いにも活躍してもらっているということです。

−−富士フイルムは新機種のX-H1を発売しましたが、仮にX-H1をメイン機として使った場合、サブ機はX-T2になりますか?X-T20になりますか?

並木:う〜ん(笑)やっぱりX-T20ですね。この小ささと軽さはサブ機として代えがたいものがありますし、持っていけば隙間時間のスナップ撮影のメイン機にもなってくれる便利さがありますからね。

−−X-H1が登場したいま、むしろX-T20の存在価値がハッキリしてきているということですね。

並木:まったくその通りです。X-T2とX-T20、これからも使い分けながら、どちらもどんどん使っていきます。

まとめ……“X-T2ジュニア”以上の存在価値

小さく軽く、初心者にも親しみやすい操作性をもったX-T20であるが、上位モデルと同じイメージセンサーとプロセッサーを搭載することで、シリーズ共通の優れた画質が得られている。むしろ同じクオリティのまま小型軽量を達成したことで、新しいX-T20ならではの価値が強調されている印象だ。

この春には最上位機種となるX-H1が新たに加わり、ますます幅を広げたXシリーズのラインナップ。今後も多くの写真家が、それぞれの表現意図に合わせて最適な1台を選んでいくことになるだろう。

デジタルカメラマガジンで「Xで撮る日本四景」連載中!

デジタルカメラマガジン2018年4月号では、X-T20を手にした田尾沙織さんが、X-T20で広島・尾道を軽快にスナップした模様が掲載されています。ぜひご一読ください。

制作協力:富士フイルム株式会社

曽根原昇

(そねはら のぼる)信州大学大学院修了後に映像制作会社を経てフォトグラファーとして独立。2010年に関東に活動の場を移し雑誌・情報誌などの撮影を中心にカメラ誌等で執筆もしている。写真展に「イスタンブルの壁のなか」(オリンパスギャラリー)など。