交換レンズレビュー
Sigma 17-40mm F1.8 DC|Art
さらに焦点域が拡大 使い勝手のあるF1.8標準ズームレンズ
2025年7月25日 07:00
「Sigma 17-40mm F1.8 DC|Art」は、APS-Cサイズ相当のイメージセンサーにあわせた設計の大口径標準ズームレンズです。特徴は、開放F1.8通しという単焦点レンズ並みの明るさをズーム全域で達成していること。
今回試用した富士フイルムXマウント用の他に、ライカLマウント、ソニーEマウント、キヤノンRFマウント用があります。
サイズ感
世界初のズーム全域F1.8通しのレンズである同社の「18-35mm F1.8 DC HSM|Art」の革新性を受け継いだ本レンズ。実にシグマらしいハイスペックレンズと言えます。
外形寸法は約φ72.9×118.2mmで、質量が約530g。F2.8クラスの標準ズームと比べれば大きく感じるかもしれませんが、なにしろそれを超えるF1.8通しですので、むしろ良くこのサイズと重さに収めてくれたものだと思います。まさにミラーレス専用設計だからこそできた、匠の技術と言ったところではないでしょうか。しかもインナーズームですので、ズーミングによる全長の変化もないというありがたさです。
本レンズは「圧倒的な光学性能と比類のない表現力を提供することにより、高水準の芸術的表現を叶え」てくれる、「Artライン」に属しています。つまりは描写性能重視の高性能レンズということです。
操作性
リング類はレンズ先端から「フォーカスリング」、「ズームリング」、「絞りリング」といった標準的な装備。「絞りリング」を備えているあたりは、動画撮影にも配慮した最近のシグマ高性能レンズらしいといえると思います。
ボタン類やスイッチ類もそれなりに多く備えていて、「絞りリングクリックスイッチ」などは、同じように動画撮影時にクリックを無効としてスムーズな明るさの変更を意図したものだと思われます。
「フォーカスモード切換えスイッチ」は本来、AFとMFを切り換えるためのものですが、なぜかXマウント用だけは「AFロックスイッチ」を適用させるための切り換えになっています。Xシリーズのカメラは基本的にボディ側でAFとMFを切り換える仕様ですが、この点は少し疑問です。
絞りリングに対しては「絞りリングロックスイッチ」も用意されており、絞りリングの「A」ポジション(絞りオート)でリングをロックしたいとき、また、絞り値を「A」ポジションに入らないようにしたいときに使うことができます。
近頃のシグマレンズは妙にレンズフードの質感が高く、例にもれず本レンズにも「LH728-02」というロックボタンが装備された立派なレンズフードが同梱しています。遮光効果が高いうえに品格も上がりますので、ぜひ装備して使いたいところです。
解像性能
あえて開放絞り値のF1.8で、平面的な建築物を撮影したのが以下の画像になります。まずは広角端の17mmから。
画面中央部で高い解像感を示しているのは、さすがArtラインのレンズといったところです。周辺部では中央に比べてやや結像の甘さが見えますが、それも拡大しなければ気づかない程度。実用的にはほぼ問題となることはないでしょう。
むしろ約25.5mm相当の広角で、これほど高い解像性能があることは称賛に値することだと思います。また、周辺部に倍率色収差による色ズレがありますが、それもほとんど気にならない程度に抑えられています。
次に望遠端の40mmで撮影したのが以下の画像です。
望遠端40mmでは、広角端に比べてさらに高い画面の均質性が見られるようになります。周辺部での画質のわずかな甘さはさらに抑えられ、倍率色収差の影響はまったくに近いほどなくなります。どちらかというと、広角よりも望遠の方が画質的に得意なレンズなのかもしれませんね。一般的に開放絞り値に近い描写は、広角方向よりも望遠方向で多用される傾向があると思いますので、本レンズのこの特性は納得できるものだと思いました。
まあ、細かいことを言わなければ、本レンズの解像性能は、広角端、望遠端ともに、開放絞り値F1.8から非常に優れた性能を持っているといって差し支えないでしょう。
近接撮影性能
本レンズの最短撮影距離は28cmとなっていますが、これがどのズーム域で最短となるのかは公表されていません。しかし試用したところ、どうやらズーム全域で最短撮影距離が28cmとなっているような感触を得ました。もしかしたら、多少の違いはあるかもしれませんが、少なくとも実際には最短撮影距離の差をほとんど感じずに撮ることができると思います。
というわけで、広角端の最短撮影距離で撮影したのが以下の画像。広角端での最短撮影距離や撮影倍率は公表されていません。最短撮影距離が(おそらく)変わらないのは便利なのですが、焦点距離17mm(35mm判換算約25.5mm相当)で最短28cmというのは、今どきのレンズとしてはちょっと物足りないのが正直なところ。思ったよりも被写体が小さく写ってしまいます。
次に、望遠端の最短撮影距離で撮影したのが以下の画像。望遠端40mm(35mm判換算約60mm相当)での最短撮影距離における最大撮影倍率は公表されており、その数値は約0.21倍となっています。
F1.8通しの大口径ズームとしてはかなり優秀な近接撮影性能で、本レンズは望遠端付近で近接撮影の真価を発揮できるレンズと言えそうです。大口径ならではの大きなボケ味も期待できますしね。
作例
開放絞り値のF1.8で魅せられるピント面のシャープネスの高さと、そこからつながるボケ味の良さが絶妙で、これが本レンズの魅力になっていると感じました。もともと、カミソリのように鋭いシャープネスはシグマレンズの得意とするところでしたが、本レンズではその持ち味がよりうまく生かされているようです。
レンズの描写性能が最大限となるF5.6-8.0付近では、鋭いシグマレンズの持ち味がより良く表現されるところです。しかも本レンズでは、キリキリと迫ってくるようなシャープネスではなく、程よく立体感を維持しながら被写体を浮き上がらせる自然なシャープネスを実現しているところが本当に素晴らしい。
端的に石仏を写した写真でも、モノの深みをよく表してくれているような気になります。
ボケ味についても健闘しているのが本レンズの良いところ。インナーズームの標準レンズではありますが、違和感のない自然なボケ味を実現していると思います。ズームレンズでこれはすごい。ふとした情景を何気なく切り撮りたいスナップ写真において、この表現力の高さはとてもありがたいものといえるでしょう。
ボディ側の機能へも当然のように順当に対応してくれます。最新の富士フイルムXシリーズがもつ被写体認識の性能もあり、眼をとらえて正確にピントを合わせます。
本レンズ搭載のAFモーターは「HLA」、いわゆるリニアモーターですので、大口径で重いフォーカス系レンズも問題なくスムーズで静か、かつ正確に駆動してくれます。
ズームレンズにしては広い絞り値の選択は、表現の幅の広さにつながります。本レンズが持つ確かな描写性能と表現力の幅広さは、予測の難しいスナップ撮影でも大いに活躍してくれることでしょう。実際に、楽しく街を歩きながら撮影するなかで、絞り値と画角を変えながら、様々な選択肢を楽しむことができました。
まとめ
一眼レフ用の「18-35mm F1.8 DC HSM|Art」で、世界初の開放F1.8通しの標準ズームを発売したシグマが、再びミラーレスカメラ用の大口径標準ズームとして世に送り出したのが本レンズです。
ミラーレスカメラ専用の設計と最新技術が盛り込まれただけに、ズーム域を広げながら大幅な小型・軽量化に成功しているのですから素晴らしい。それでいて描写性能はすこぶる高く、AFも速く正確と、全く非の打ちどころがないレンズといえます。
あえていうなら望遠端の焦点距離が60mm相当と、一般的な24-70mm F2.8クラスの望遠端に届かないところに少しの不満を感じるかもしれませんが、単焦点レンズ並みの明るさが1本で収まることを考えれば、それも実に些細なことでしかないと思います。