交換レンズレビュー
Batis 1.8/85
優れた描写性能とツァイスらしいボケ味が美しい
Reported by 大浦タケシ(2015/9/9 07:00)
35mmフルサイズフォーマットに対応するソニーEマウントのカールツァイスレンズである。ライセンス生産のソニー純正ZAレンズとは異なり、カールツァイス自体からリリースされる。
カールツァイスでフルサイズ対応のEマウントレンズとしてはLoxia2/35を発売済みだが、本レンズはリニアモーターによるAFに対応。さらに光学系にフローティング機構を採用し、手ブレ補正機構も備えるなど、より先進的なスペックとしている。
レンズ構成は8群11枚。特殊低分散ガラスレンズを3枚採用する。
デザインと操作性
鏡筒はミラーレス用大口径レンズとして考えるなら、フルサイズ用なこともあり大きい部類だ。大きさは81×105mmで重量は475g、フィルター径は67mmとし、カメラに装着したときの見た目の押しは強い。
シェイプは、一眼レフ用のOtusシリーズや同じミラーレス用のTouitシリーズに準じたもの。レンズ先端が緩やかに広がり、一目で同社のレンズであることがわかる。さらに付属するフードは鏡筒とシェイプが一体化するもので、カールツァイスの美学を感じさせるものである。
本レンズの機能的な注目といえば、有機ELによるディスプレイを備えていることだろう。どちらかといえば奇をてらわない製品づくりを行うカールツァイスにしては珍しい。
合焦距離と被写界深度を表示するが、最短撮影距離0.8mから5.0mまでの近距離撮影時と、5.0mから無限遠までの遠距離撮影時では被写界深度の表示方法が異なる。前者は合焦面を中心に前後のピントの合う距離を、後者はカメラからの距離で示す。
たしかに近接撮影では合焦面から前後のどの範囲まで被写界深度に入るか気になることが多いし、風景などではカメラから見てどこまでが被写界深度内となるか気になることが多いので、近距離撮影時と遠距離撮影時で表示を変えることは理に適っている。
この表示は、デフォルトではm表記とし、カメラのフォーカスモードの設定がMFモードかDMFモードのときのみ表示されるが、それぞれ設定が変えられるのも特徴だ。
では、ボタンやスイッチ類の一切ない本レンズでは、どのように設定を行うのだろうか。答えはフォーカスリングにある。最短撮影距離から(カメラ側から見て)時計回りに1回転させると表示の単位がmからftに、あるいはftからmに切り換わる。
反対にフォーカスリングを無限遠の位置から反時計回りに1回転させると表示モードの切り換えが可能となる。表示モードは、MF時もAF時も常に表示する[ON]、MFモードかDMFモードのみ表示する[MF]、常に表示無しの[OFF]から選択できる。いずれも実にユニークな設定方法といえる。
手ブレ補正機構の搭載は、恐らく焦点距離85mmの単焦点レンズとしては初めてとなるだろう。補正段数は公表されていないが、画角を考えるとたいへんありがたく思える部分である。
さらに防塵防滴構造の採用も嬉しいところ。取扱説明書を見ると完全ではないとメーカーはエクスキューズしているものの、各所にシーリング処理が施されており、雨天時でのネイチャーや風景などの撮影では心強く感じられる。
遠景の描写は?
画面中央は開放からエッジの効いたキレのある描写だ。カメラはローパスフィルターを搭載するα7を用いているが、ローパスレスのカメラで撮影したかと思えるほどである。
絞り開放から立体感もあり、等倍画像を閲覧するのも楽しく感じられる。画面周辺部に関しては、絞りF2まではわずかにシャープネスに欠けるきらいがあるものの、その範囲はわずか。しかもF2.8になると改善されほとんど気にならないレベルに。
目障りに思える色のにじみの発生はなく、周辺減光も同じくF2.8まで絞るとほぼ解消される。総じて文句のつけどころのない遠景描写と述べてよいだろう。
- 作例のサムネイルをクリックすると、リサイズなし・補正なしの撮影画像をダウンロード後、800×600ピクセル前後の縮小画像を表示します。その後、クリックした箇所をピクセル等倍で表示します。
- 縦位置で撮影した写真のみ、無劣化での回転処理を施しています。
※共通設定:α7 / 0EV / ISO100 / 絞り優先AE / 85mm
ボケ味は?
カールツァイスのレンズはボケの美しさにも古くから定評があるが、本レンズもそれは継承している。撮影した条件の場合、合焦面から始まるボケの変化はクセのようなものは感じさせず滑らか。ボケが大きくなるほど被写体同士が溶け合うが、ナチュラルで柔らかく感じられる。
若干前ボケは暴れることもあるが、全体的には中望遠レンズらしい美しいボケ味である。ポートレート撮影の多いα7ユーザーは見逃すことのできないボケ味といってよいだろう。なお、最短撮影距離は0.8m。絞り羽根は9枚で、円形絞りを採用している。
逆光耐性は?
撮影した作例を見るかぎり、太陽が画面内にある画像では、ゴーストの発生が見受けられる。さらによく見ると薄いものもいくつか散見される。ただし、このレベルのゴーストは、他のアッパークラスのレンズでもよく見受けられるものなので、本レンズが一概に逆光に弱いとは言い切れないだろう。むしろこのような条件でもコントラストは高く、締りのある描写である。
一方、太陽が画面のすぐ外にある作例では、光源近くではフレアが発生しているものの、ゴーストは見受けられない。もちろんコントラストは高く、ヌケのよさを感じさせる。
作品
合焦面から始まるボケは滑らかに大きく、そして柔らかくなっていく。前ボケも作例を見るかぎり際立ったクセは感じられず、ナチュラルで柔らかな印象だ。
開放F1.8で撮影だが、ピントの合った部分のキレは鋭く、開放絞りにありがちなエッジの緩さのようなものは一切感じない。周辺減光はやや強め。
こちらも開放F1.8だが、他の作例同様シャープネス、コントラストともたいへんよい。前ボケが若干うるさく感じられなくもないが、上々のボケ味。
ピントの合った部分から前後に滑らかにボケていく様子が分かる。ポートレートを撮ったらこのボケ味がどう影響するが、大いに気になるところ。
絞りF2.8まで絞ると周辺減光は大きく改善され、シャープネスおよびコントラストはさらに増す。画面周辺部の描写は中央部分と遜色がなく、高い次元で均一性のとれたレンズだ。
本レンズの描写のピークは絞りF8あたり。写真はそれよりも1段開いた絞りF5.6だが、合焦面のエッジの高さやヌケのよさなど文句の付けどころの無い結果と言ってよい。
まとめ
カールツァイスの85mmレンズというとヤシコンマウントのPlanar T* 1.4/85があまりにも有名であるためか、その後に登場する同ブランドの85mmレンズはF1.4が多く、また我々もその開放値であることを知らず知らずのうちに求めてきた節がある。
しかしながら、本レンズは敢えて開放値をF1.8と控えめなものにしたことで、優れた描写特性が無理なく得られ、さらには手ブレ補正機構を搭載することが可能に。加えて同ブランドのフルサイズ対応の交換レンズとしては比較的リーズナブルなものとしている。
そんなBatis 1.8/85はα7ユーザーにとってこの上ない中望遠単焦点レンズになること間違いないだろう。本レンズとともにBatis 2/25も発売されたが、今後同シリーズのさらなる展開を願ってやまない。