交換レンズレビュー

Loxia 2/50

シャープな描写と柔らかいボケを両立

 カールツァイスがこのところ意欲的だ。世界最高画質を目指したOtus 55mm F1.4やAPS-Cミラーレス用のTouitシリーズの展開など、度々注目を集めることが多い。そんな同社が35mmフルサイズ用EマウントレンズLoxia 2/50をリリースする。

今回はソニーα7で試用した。発売は10月24日。実勢価格は税込9万9,900円

 と、ここまで述べると不思議に思う読者もいるかもしれない。すでにフルサイズEマウントには同じカールツァイスの名を冠したSonnar T* FE 55mm F1.8 ZAと Sonnar T* FE 35mm F2.8 ZAがあるからである。

 しかし、この2本はソニーが主体となって開発設計しているのに対し、Loxiaシリーズはカールツァイス自体が開発および設計を行ったもの。つまりLoxiaシリーズは生粋のカールツァイスレンズといってよいものである。

 ちなみに、本レンズの構成は4群6枚でプラナータイプとする。

デザインと操作性

 鏡筒のデザインはOtus 55mm F1.4やTouitシリーズとは些か異なる。フォーカスリングおよび絞りリングとも目の細かなローレット加工が施され、たいへん美しいものである。粘着性のラバーを採用するOtus 55mm F1.4やTouitシリーズとは違い、ホコリが付着しても軽く払うだけで吹き飛ぶのもよい。

大口径というにはちょっと物足りない明るさだが、その分余裕のある光学系のため優れた描写特性を誇る。絞り羽根は10枚とちょっと贅沢な仕様だ

 レンズ着脱用の指標やマウント部外周のラバーは、カールツァイスのブランドカラーとしているのもデザイン上のポイント。お馴染みのカールツァイスの四角いロゴは鏡筒にはなく、代わりに同梱される金属製レンズフードの左右両側にそれぞれ貼り付けられる。また、前玉周囲にはレンズ銘が入るが、Otus 55mm F1.4同様「Carl Zeiss」ではなく「ZEISS」と刻まれているのも目新しく感じられる。

 官能的ともいえるのがフォーカスリングの操作感だ。本レンズはAF機能が搭載されておらず、完全なMFレンズ。フォーカスリングの操作性は、レンズの評価を左右する大きな要素のひとつといっても過言ではない。そのフォーカスリングは、重過ぎることも軽過ぎることもなく驚くほど滑らか。どの撮影距離においてもトルク感が変化するようなこともない。動き始めもスムースで、しかも思った位置に吸い付くようにフォーカスリングが静止する。工作精度の高さが感じられるとともに、フォーカシングが実に楽しい。

レンズ指標と防塵防滴用のスカートはカールツァイスのブランドカラーである青で統一される。マウント面にあるマイナスネジのようなもののは、絞りを滑らかに操作できるデクリック機能のスイッチ

 MFというとピントの精度に不安を持つ向きもあるかも知れない。しかし、スルー画の拡大機能を使用すれば、その心配は不要。初心者でも正確なピント合わせを可能だ。たしかに、AFにくらべれば手間はかかるが、落ち着いてピント合わせを行えば失敗するようなことはまずない。なお、最短撮影距離は45cm。

 絞りリングを備えているのもレンズフェチにはたまらない。クリック音は甲高さを抑えたもので、レンズの風格によく似合っている。クリック感自体も適度な重さのあるものだ。さらにカールツァイスらしいのは、1/3段ステップのクリックとしていることである。デジタルカメラとなって露出の設定がよりシビアとなったが、そのような要求に応えるものである。

 なお、絞りは常時設定した絞り値まで絞り込まれた状態となっている。被写界深度の状況は把握しやすいものの、正確にピントを合わせようとするとその度絞りを開く必要があるため面倒なことも多い。古い一眼レフ用レンズで見受けられるような、設定した絞り値と開放絞りにワンタッチで切り換えられる絞り開放レバーが付いていると便利に思える。

レンズフードは金属製。内側は植毛が施され、遮光効果も高そうだ。カールツァイスの青いバッジはこのレンズフードの左右それぞれに付く

遠景の描写は?

 開放絞りではほんのわずか甘さが残るものの、絞りF8までキレのある描写だ。もちろんキレがあるといってもいたずらにカリカリとしたものではなく、あくまでもナチュラルな解像感の高さである。

 画面の周辺部となるとさすがに中央部ほどの解像感は得られないものの、不足を感じるようなことはない。さらに倍率色収差による色のにじみも皆無。非常に線の細い描写といってよい。

 周辺減光およびディストーションは良好に補正されており、こちらも気になるようなことはない。描写のピークはF5.6からF8。F11以上絞り込むと弱いながらも回折現象の発生するが、これは光学特性上致し方ないところである。

  • 作例のサムネイルをクリックすると、リサイズなし・補正なしの撮影画像をダウンロード後、800×600ピクセル前後の縮小画像を表示します。その後、クリックした箇所をピクセル等倍で表示します。
  • 縦位置で撮影した写真のみ、無劣化での回転処理を施しています。
中央部
以下のサムネイルは四角の部分を等倍で切り出したものです。共通設定:α7 / -0.3EV / ISO100 / 絞り優先AE / 50mm
F2
F2.8
F4
F5.6
F8
F11
F16
周辺部
以下のサムネイルは四角の部分を等倍で切り出したものです。共通設定:α7 / 0EV / ISO100 / 絞り優先AE / 50mm
F2
F2.8
F4
F5.6
F8
F11
F16

ボケ味は?

 ボケは美しく素直。ボケはじめからデフォーカスになるまで不自然に感じるようなところがまったくない。しかもボケた被写体同士は滑らかに溶け合う。濁ったようなところやボケ味の乱れも作例を見るかぎりまったくないといってよい。

 球面収差の補正効果が優れているためか、このことは前ボケに関しても同様だ。ちなみに絞り羽根枚数は10枚。ボケの美しさの一端を担う。

絞り開放・最短撮影距離(約45cm)で撮影。α7 / 1/1,600秒 / F2 / +0.3EV / ISO100 / 絞り優先AE / 50mm
絞り開放・距離数mで撮影。α7 / 1/3,200秒 / F2 / +1EV / ISO100 / 絞り優先AE / 50mm
絞りF4・距離数mで撮影。α7 / 1/1,250秒 / F4 / +0.3EV / ISO100 / 絞り優先AE / 50mm
絞りF5.6・距離数mで撮影。α7 / 1/640秒 / F5.6 / +0.3EV / ISO100 / 絞り優先AE / 50mm

逆光耐性は?

 通常太陽のような強い光源を画面の中に入れると、その対角線上にゴーストが現れることが多い。ところが本レンズの場合、作例を見るかぎりゴーストの発生がまったく見受けられないことに驚かされる。

 カールツァイスご自慢のT*コーティングにより内面反射を徹底的に抑え込んだことが大きい。さらにフレアの発生も光源の周囲にわずかに見受けられる程度で、気にならないレベルといってよい。逆光でも撮影への躊躇いは必要ないレンズである。

太陽が画面内に入る逆光で撮影。α7 / 1/5,000秒 / F5.6 / 0EV / ISO100 / 絞り優先AE / 50mm

作品

絞りは開放F2。ボケの柔らかさは、このレンズの特徴のひとつ。ピントの合った部分直後のボケはじめは自然で嫌みがない。デフォーカスとなるまでなだらかにボケが大きくなっていくのがよく分かる。α7 / 1/200秒 / F2 / +0.3EV / ISO100 / 絞り優先AE / 50mm
開放で撮影。作例を見るかぎりピントの合った部分のシャープネスは高く、コントラストも上々。周辺減光も気にならないレベルである。前ボケは素直な印象だ。α7 / 1/2,000秒 / F2 / -0.3EV / ISO100 / 絞り優先AE / 50mm
こちらも開放で撮影を行っている。ピントの合っている部分のキレはよく、立体感のある描写だ。背景のボケはナチュラルな印象だが、前ボケも不自然な感じなどない。α7 / 1/1600秒 / F2 / -0.3EV / ISO100 / 絞り優先AE / 50mm
絞りはF2。ピントの合った部分の解像感は高く、背景から被写体が浮き立っているかのように見える。デフォーカスとなるまで被写体のエッジは緩やかに消失している。α7 / 1/800秒 / F2 / +1EV / ISO100 / 絞り優先AE / 50mm
絞りは開放から1段絞ったF2.8としている。光の影響もあるが、こちらもピントの合った被写体が浮き立っているように見える。全体に雰囲気ある描写が得られた。α7 / 1/400秒 / F2.8 / -1.3EV / ISO100 / 絞り優先AE / 50mm
絞りはF2.8。アウトフォーカスとなった背景とピントの合った部分との分離がよく、立体感ある描写が得られた。周辺減光も気にならないレベルである。α7 / 1/640秒 / F2.8 / +0.7EV / ISO100 / 絞り優先AE / 50mm

まとめ

 MF操作を楽しめるα7シリーズのユーザーにとって、たいへん魅力的に映るレンズだが、同時にMF操作を敬遠していたり、苦手としているユーザーにもオススメしたいレンズである。

 手の動きに忠実に従うフォーカスリングの操作は楽しく、正確にピントが合ったときの気持ち良さは、描写特性の素晴らしさとともにこの交換レンズで写真を撮り続けたいときっと思うはずだ。

大浦タケシ