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キヤノン「第3回 GRAPHGATE」のグランプリに奥田峻史さん

新しい才能が集う写真・映像作家 発掘オーディション

3回目となる写真・映像作家 発掘オーディション「GRAPHGATE」のグランプリ受賞者が決まった。ビデオグラファー/フォトグラファーとして活動する奥田峻史さんで、「プレゼンテーションの完成度の高さ」が選考の決め手だった。

奥田さんは1年後、キヤノンギャラリーSで個展を開くほか、3年間、キヤノン製カメラやレンズなどが利用できる。賞金は100万円。11月29日(日)、東京・品川のキヤノンSタワーで開催されたグランプリ選考会の結果を紹介する。

プレゼンテーションを行う優秀賞の受賞者は5名。持ち時間は1人10分で、その後、審査員との質疑応答が10分ある。奥田さんは最初に登壇した。

奥田峻史さん

奥田峻史さんは高校時代からビデオカメラを持ち街へ出て、さまざまな人の語りを記録した。最初の作品は、思い出の音楽を聴く人の表情を記録し、その後、思い出したことや、今の気持ちを語ってもらった。

その後はフリーランスで、アートプロジェクトのドキュメンタリーを中心にPR映像、MV、スチル撮影の仕事を行っている。

「その人にとってのエネルギー源のようなもの。その人の人生の推進力のようなものが見えてくる瞬間がある。それを見つけるため、固有の振る舞いに目を向け、耳を傾ける」と話す。

舞踏家などとの出会いを通じ、撮影テーマは「身体」にシフトしていった。

グランプリ受賞の暁に実施する展覧会の中心には、相次いで余命を告げられた祖父母の終末期を撮影した映像、写真作品を選んだ。

「老人やがん患者の最期の姿としてではなく、1つの入り口として提示する。今を生きる人たちへ、どのようにして生きるかの問いへと思考を広げていけるようにしたい。タイトルは『ウィズ・マイ・ボヤンシー/With my buoyancy』で、buoyancyは浮力や、精神的な快活さ、回復力を意味します」

さらにここに彼の妻を被写体にしたものと、さまざまな人の体をテーマにする2つの新作を加える。

「彼女は食べることが好きで、その姿は『社会と関わる方法』であり、『踊り』のようなものにも見えた。そこからは日常を生きる上での切実で明るいエネルギーを感じた」

奥田さんは彼女を小型のフィルムカメラでほぼ毎日撮影しており、今後も継続するそうだ。

もう1つは制作中の新作で、写真と映像を使い、さまざまな人の体と世界との関わりを捉える。現在はアスリートやダンサーの取材を進めている。競技中の姿ではなく、自分の身体と孤独に向き合っている時間を共にし、そこで見えてくる何かを探求している。

今後は「カメラを通して出会った人たちと、それぞれの身体を通し世界と関わる喜びを見つけていきたい」と話す。その原点は、自分が社会に出た時、同世代の若者はうっすら病んでいて、感情が劣化していると感じたことだ。どこに向かって歩けばいいのか。それは自分の身体を頼りに、新しい自分を発見していくことしかない。

「人が持つ大きなエネルギーを信じ、それを写すことに自分の人生を使っていきたい」

kokoroさん

kokoroさん

kokoroさんはフォトグラファー、ビジュアルアーティストとして活動中。

今回の応募をきっかけに、なぜ写真を撮るのか、何のために作品を作り、何を表現したいのかを考えたという。彼女にとって作品は「静かな祈り、お守りのようなもの」だ。外の世界で何に傷つこうと、心を動かすことはやめなくていいし、自分が美しいと思う心は誰にも奪えない。

アート作品は、忙しく生きる中で忘れてしまったことや、かつて持っていた感情や景色を思い出させてくれる。さらにその先へ思考を持っていき、言葉の一瞬手前に穏やかに導いてくれる。

「その感覚がたまらなく好きなのだ」

展覧会は3つのコンセプトに分ける。現在制作中の初写真集『here in the blue,you are known』と、祖母の葬儀で撮影した写真、映像作品だ。映像では、これまで彼女が書き溜めた「琴線に触れた言葉」を、多くの人に読んでもらう姿を流す。

「まずは自分のために表現をする。それがあわよくば誰かのための光になれたらいい。それが私にとって生きるという行為の全てです」

水島貴大さん

水島貴大さんは「街とそこに生きる人」をテーマに撮影を続けている。

中学生の頃、友人の部屋で、壁に貼られたインスタント写真を見て写真に興味を持った。友人たちを撮ったその写真からはさまざまな物語を感じさせてくれた。

街で会った人を撮り、手作りの写真集『Long Hug Town』を制作。それが初めて行った台湾で「2017 Photo ONE Taipei ポートフォリオレヴューアワード」を受賞した。

それを機に台湾と日本を行き来し、2020年から台湾に移住し、この国の人々を撮り始めた。数年かけ、台湾を1周した。この旅を台湾では環島(ファンダオ)と呼び、この国の多くの人が行う試みだという。

「コンビニの店員が電話をしながら接客をしたり、食堂で気づくと隣に野良犬が座っていたり、台湾の暮らしには良い意味での適当さ、緩さがあり、人間味に溢れている」と話す。

展示では「環島回憶?」として、2020年から26年暮れまでの台湾で撮ったポートレートを中心に展示する。来年には、1ヵ月ほどかけて、歩いて台湾を巡る予定で、その際、ビデオ作品も制作する。

今後は運営に関わる自主ギャラリーで台湾作家を紹介する活動のほか、韓国での撮影も視野に入れている。

大野咲子さん

大野咲子さん

大野咲子さんは食を中心にした分野で、スタッフカメラマンとして活動を行う。その傍ら、不妊治療と家族間をテーマにした写真集『家族のあとさき』を出版したほか、子どもを授かった親子のポートレートを制作してきた。

その続編として家族と暮らすのが難しい人々にフォーカスを当て、児童養護施設に通う。ここでの撮影は難しいが、今後、ボランティアとして関わっていくという。

展示ではこれらの作品に加え、かつて撮影した子どもたちの好きな食べ物を撮影した写真なども加えていく。

それぞれのテーマは生活の中の気づきがきっかけで、深く結びついている。展示では各シリーズが呼応し合える空間を目指す。

今後も家族や関係性、葛藤、時代が抱える課題を中心に制作を続ける。自分の経験を出発点に、他者や時代とつながり対話へと広がる作品を作りたいと話す。

大鐘愛子さん

大鐘愛子さん

大鐘愛子さんは撮影スタジオに勤めながら、自らの作品制作を行う。モチーフは街の風景、人物、モノたちだ。そこで大事にしているのは「色彩」。常にフィルムカメラを持ち、街で気になるものを撮影する。

またカラフルだったり、シュールな場所を見つけると、後日、女性モデルを連れて行って撮る。

展覧会タイトルは「色彩のコレクション」。会場にはカラフル、ポップ、強烈、生々しさ、シュールをキーワードに写真を並べる。

作家の感性が社会や文化に影響を与える

選考委員を務めた小野泰洋氏(自然番組プロデューサー)は「映像の時代だと思っていたが、審査を通じスチル写真の可能性を感じた」と話す。

齋藤精一氏(パノラマティクス主宰)は「応募者は審査会を経て、人と共有することで新たな気づきが生まれたと思う。GRAPHGATEは腕試しであり、この門をくぐることで違う世界に行ける。活用してほしい」と語った。

キヤノンマーケティングジャパン株式会社カメラ統括本部長の吉田雅彦氏

キヤノンマーケティングジャパン株式会社カメラ統括本部長の吉田雅彦氏は「昨今、生成画像、フェイク動画が多く出てきている。ただAIは過去から学ぶことしかできないが、作家の目、心の目は今や未来を見ることができる。今をどう切り取るかは作家の感性によるもので、それが社会や文化に影響を与えていく」と語り、今後も作家のサポートに尽力する姿勢を強調した。

次回のGRAPHGATEの募集は来年4月ごろ発表予定。

(いちいやすのぶ)1963年、東京生まれ。コロナ禍でギャラリー巡りはなかなかしづらかったが、少し明るい兆しが見えてきた。そんな中でも新しいギャラリーはいくつも誕生している。東京フォトギャラリーガイドでギャラリー情報の確認を。写真展の開催情報もお気軽にお寄せください。