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伊丹空港周辺で「超望遠レンズ」の飛行機撮影に挑戦

別所隆弘さんが講師の「Z8」GANREF撮影セミナーレポート

弊社インプレスが運営する写真SNS「GANREF」における「注目製品レビュー ニコン Z8&超望遠レンズ【飛行機編】」のイベントとして、飛行機撮影をテーマにした撮影セミナーが9月7日(土)と翌8日(日)に開催された。

8月に開催された「注目製品レビュー ニコンZ6III」に続く企画で、GANREFメンバーの8名が飛行機の撮影をしながら、「Z8」と超望遠レンズを組み合わせた性能や使い勝手をGANREFで発信してもらう企画となっている。

参加したGANREFメンバー、別所さん、ニコンイメージングジャパンの関係者
別所隆弘さん

今回はフォトグラファー、文学研究者、ライターと幅広く活躍している別所隆弘さんを講師に迎え、飛行機を間近で撮影できる伊丹空港(大阪国際空港)付近で撮影を敢行した。

1泊2日のセミナーでは4カ所を回り、別所さんのアドバイスのもと、様々なシチュエーションで撮影を行った。レビュアーに選ばれたメンバーにはニコン「Z8」と希望するレンズやアクセサリーが1カ月間貸し出されている。今回のセミナーやそれ以外での試用記がすでにGANREFにアップされつつある。

GANREFで進行中の「注目製品レビュー ニコン8」トップページ

「注目製品レビュー ニコンZ8」
https://ganref.jp/common/monitor/nikon/z8_airplane/

Z8はフラッグシップの「Z9」譲りの高い性能を持ちながら、大幅に小型化したモデル。飛行機を含む動体検出AFや20コマ/秒の連写などに対応している。発売は2023年5月。実勢価格は税込60万円前後となっている。

ニコン Z8

「逆算の思考法」で撮影スキルを高める

初日は伊丹空港近くの「グリーンリッチホテル大阪空港」に集合し、1時間30分ほどの座学が行われた。座学の内容は、具体的なZ8の使い方というよりも飛行機写真のコツや写真撮影に対する考え方といった別所さんらしい内容だった。

座学の様子

別所さんのメインカメラはZ8だが、高感度画質がより優れているZ6IIIもよく使っているそうだ。主な被写体は水の風景、飛行機、花火、四季の風景など。各地を回って撮影されている。

飛行機の撮影に関しては「逆算の思考法」と題して撮り方を解説した。撮影時の設定についてよく質問を受けるそうだが、具体的な数字はあまり意味が無いそうだ。

というのは、感度も昔に比べて大幅に上げられるようになり、AIを使ったノイズリダクションも優秀になったことから、「今知っている設定値が数年先には常識ではなくなる。数字の意味が無いとまではいわないが、今この場でしか使えないものになってしまう」とのこと。

重要なのは数字を覚えることよりも、思い描いた完成形から逆算し、その時の状況によって何が必要か、どういう数字にするかを判断できるようにしておくことだという。「昔だったらできなかったことでも、現在の機材の強みなどを生かせば撮れる絵が変わってきます。これが1番今日お伝えしたいことです」と別所さん。

別所さんの飛行機写真は、機体をメインにしつつも風景写真として撮っているという。「飛行機写真は撮る人によって差が付きづらくなっています。作品として見せるとなると、背景との組み合わせやドラマチックな光など飛行機を含めた風景として捉えるのが良いでしょう」と話す。

別所さんの作品

Z8のAFに関しては、「夜の闇の中でも飛行機モードで確実に当たります。そこは心配しなくていいですね」とのこと。本格的な飛行機撮影が初めての参加者も見られたが、安心したのではないだろうか。

また別所さんはHDR(HEIF)撮影も勧めていた。HDR対応ディスプレイで見ることが前提だが、コントラストに圧倒的な違いがでる。

HEIF記録を設定したところ
HDR対応ディスプレイでHDR(左)とSDR(右)を表示させたところ。実際にはかなりダイナミックレンジの差が出ていた

HDR表示は一部のMacやスマートフォンが対応しているが、「もう1年2年すると普及してくると思う。自分の環境もHDRで揃えています」とのこと。なおRAW+HEIFで撮影しておけば、RAWからSDRの画像を作れるので非HDR環境でも問題無い。

もうひとつ、別所さんお薦めの撮影が動画。Z8などは内部収録でRAW動画が記録できるなど、ワンオペでも高品質な動画撮影が可能となっている。セミナーでは飛行機の動画を流して、「飛行機を撮ってもすごく良くなっている。高感度ノイズも目立ちません。色もとても綺麗ですね」と画質を評価。写真は写真で良いが、写真では見せられない動きや色の変化といったものを動画で楽しんでほしいとのことだった。

別所さんの話を参考に設定を行うメンバー

いよいよ撮影開始!

座学が終わると最初の撮影地にバスで移動した。やってきたのは空港の西側にある猪名川土手。離陸機の上昇を捉えられるポイントだ。滑走路までは距離があるのに加えて、離れていく機体を撮影するのでレンズは超望遠がメインとなる。

今回はバスツアー形式になっている
ホテルを出発して間もなく猪名川土手に到着

別所さんからは、大型機は離陸のタイミングが遅い点に注意して、飛行機の飛ぶ位置を考えて構図を作るというアドバイスがあった。また滑走路近くでは駐機中の機体と絡めたり、上昇中は雲を背景に入れると良いとのこと。

構図を広く作るのも手で、24-70mmの縦位置で上昇中の機体を入れるのも収まりが良くお勧めだそうだ。

猪名川土手は滑走路の北側の先端に近い場所だ
別所さんからアドバイスを受けつつ撮影の準備に入る
離陸機を撮影するメンバー

この場所からは着陸機を狙うこともでき、その場合は400mm程度でOKという。別所さんはNIKKOR Z 100-400mm f/4.5-5.6 VR Sを使っており、着陸機が近づいてきても調整しやすく使いやすいという話だった。着陸機の方向は滑走路に逃げ水が出ていてその反射も絵になるとのこと。

猪名川土手では滑走路の正面に来ることも可能

露出設定は、飛行機が一番白いのでそれを白トビさせないような設定にする。ホワイトバランスはオートが優秀とのことだが、現像時に調整するのも良いそうだ。

伊丹空港の展望デッキへ

続いては伊丹空港の展望デッキに移動した。北ターミナルと南ターミナルがあり駐機中の機体を近くで見られるほか、滑走中の機体も横から狙えるポイントだ。

伊丹空港の展望デッキはアクセスが良く撮影がしやすい

駐機しているのは北ターミナルがJAL機、南ターミナルがANA機になっており、双方行き来して撮影できる。別所さんは、出発の準備をしている機体と作業している人を絡める構図も良く撮るという。駐機している機体は24-70mmの35mmや50mmでかっこ良く撮れるそうだ。

駐機している機体を近くで撮れる

着陸機では、降りてくる機体の背景に梅田のビル街が重なるので超望遠レンズで一緒に写すと絵になるそう。この場合は600mmか800mmが適するとのこと。

左方向に望遠レンズを向ければ着陸機が狙える

離陸機は、向こうに旋回して行く直前に雲と合わせた構図を狙える。飛行機撮影では構図をあらかじめ決めておき、10秒くらい先を考えておくことが重要という。加えて、Z8の最速になる20コマ/秒の連写での撮影を勧めていた。

日中の絞り値はF8を基本にし、暗くなるにつれて開けていって開けられなくなったらブレないシャッター速度を保ちつつ、感度を上げていくという考え方を伝授した。

別所さんに質問をしながら撮影できるのもこうしたイベントならでは

いよいよ千里川土手

夕食をはさんで、初日3か所目となる千里川土手へ。着陸機が真上を通る飛行機撮影の名所として知られる。18時過ぎから撮影を開始し、マジックアワー、そして夜景を狙った。この撮影がツアーのハイライトでもある。

薄暗くなりつつある千里川土手に到着
さっそく滑走路にレンズを向ける

この時間は離陸機と着陸機の両方を撮ることができる。離陸機を撮るにはスローシャッターで三脚を使いたいとのこと。着陸機はシャッター速度を速くし、手持ちでフォローしながら撮るのが良いそうだ。

マジックアワーに機体が映える

当日は天気が良く、夕やけにも恵まれた絶好の状況。夕景をバックにした写真も狙うことができた。加えて三日月も出ており、超望遠レンズで月と機体を一緒に映すというテクニックも別所さんが披露した。

滑走路方向に対して左には三日月が出ていた

着陸機は特に大きく大迫力になるが、滑走路の中心から左右どちらでも絵になるそうで、その中で特に良いポジションを探すようにする。機体のお腹に滑走路の灯火が写り込むようにするのがポイントだそうだ。

現場で超望遠レンズを借りることもできた
迫力の着陸機を待ち構えるメンバー

この場所では超望遠レンズが定番だが、50mmや85mmといった単焦点レンズも大きなボケを生かせて有用とのこと。別所さんは写真の傍ら、「NIKKOR Z 135mm f/1.8 S Plena」で動画の撮影も行っていた。

手持ちで動画に挑戦するメンバーも

朝の千里川で到着機を狙う

2日目はホテルの朝食を済ませ、バスで再び千里川土手へ。8時頃から撮影を開始し、日中の到着機をカメラに収めた。昨晩は千里川を挟んで滑走路から離れた側にいたが、ここではより滑走路に近い側の土手で撮影している。

千里川土手を進むメンバー。すでに到着機が来つつあった

昼間は早いシャッター速度が切れるので、比較的自由なレンズや構図で撮りやすい。滑走路の中心線で正面から狙うのも良いが、別所さんは斜め30度くらいから撮ると機体が美しく見えて好みだそうだ。

撮影ポジションやレンズ選択などのポイントを話す別所さん
日中ということもあり、手持ちで超望遠レンズを構えるメンバーが多い

出発機も撮ることができ、別所さんによると上昇中の機体と背景の山並み、そして雲を利用した構図が狙えるそうだ。また、ピクチャーコントロールの「ディープトーンモノクローム」は機体が映えるのでぜひ使ってみてほしいとのこと。

同行したニコンイメージングジャパンのスタッフが操作方法などをサポートする

「NIKKOR Z 400mm f/2.8 TC VR S」を使っていたメンバーは、「内蔵テレコンで瞬時に画角を変えられるのが良い。離陸機を追いながら、背景を大きく入れたいときにすぐ引くという使い方ができた」と話していた。

NIKKOR Z 400mm f/2.8 TC VR S

また、「従来に比べて小型。800mmを手持ちで撮れるのは驚き」と言うのは、「NIKKOR Z 800mm f/6.3 VR S」で狙っていた別のメンバー。メンバーはカメラとともにレンズの魅力も実感できたようだ。

NIKKOR Z 800mm f/6.3 VR S

滑走路を一望できる伊丹スカイパーク

最後に訪れたのは伊丹スカイパーク。空港西側にある大きな公園で、滑走路が一望できる。ちょうどターミナルビルとは滑走路を挟んで反対側に位置しているため、空港の建物や駐機中の機体と合わせて離着陸機を撮影できる。

伊丹スカイパークは滑走路と並行した細長い公園
暑い時期には嬉しい屋根付きの場所も

滑走路に向かって公園の左側は離陸機の撮影に向くポイント。ターミナルビル方向には大阪モノレールの車両も見えるので、それも一緒に収めることも可能となっている。

モノレールが走って来るタイミングも狙い目

離陸機を上手く収められるポイントは、機体が浮き上がる管制塔の正面辺りとのこと。「70-200mm程度でも十分撮れる」と別所さん。スカイパークは高低差があるので、下から撮るか上から撮るかでも違った絵になるそうだ。

滑走路に直角の位置なので、1/500秒~1/1,000秒程度の高速シャッターを切るというアドバイスがあった。一方で流し撮りをすると背景の建物が良い具合に流れるのもスカイパークの良いところ。流し撮りに挑戦するメンバーの姿も見られた。

この場所は夜の流し撮りもお薦めとのこと

個性に富んだ作品が並ぶ

すべての撮影を終えてホテルに戻り、講評会が行われた。ここでは、各自2枚のベストショットをセレクト。その場でA3ノビにプリントして発表した。

セレクト作業も真剣
作品はエプソン「SC-PX1V」でプリント
講評会の様子

メンバーの作品はいずれも個性に富んだもので、似た作品がほとんどなかったのが印象的だった。別所さんからは各メンバーの力作を評価する言葉が多かった。飛行機撮影の慣れ・不慣れもあるなか、選ばれたメンバーの力量が発揮された作品が並んだ。

メンバーの作品
別所さんも自身の作品をプリントして披露した

今回、GANREFメンバーのうち3名に作品のお話を伺った。

Westie.Mさん
Westie.Mさん

ちょうど咲いていたサルスベリを前ボケに入れた写真です。アクディブD-ライティングを強にして花の露出を持ち上げることで、良い明暗差にできました。

ニコンのレンズは他社に比べて軽い印象で、ボディとのバランスが良いですね。普段は別メーカーのカメラを使っていますが、操作系も覚えてしまえば問題無いです。電子シャッターなので振動が少ないのも気に入りました。ニコン機は中身が詰まっているという高級感があると思いました。

Westie.Mさんのレビュー・撮影記


まささん
まささん

飛行機撮影は初めてです。この写真はNIKKOR Z 600mm f/4 TC VR Sを使って縦位置で撮ったもので、別所さんが仰った「風景写真として撮る」という点を意識しました。

レンズの解像力も高いですし、遠くの被写体でもピントを合わせてくれました。600mmのレンズは初めてで、こうした写真が撮れて良い経験ができました。皆さんの作風が自分と全然違ったのも良い刺激になり、参加して良かったと感じました。

まささんのレビュー・撮影記


あすらんママさん
あすらんママさん

初めて飛行機を流し撮りした写真です。ちょうど2機が同じ方向に進んで珍しい事だと聞きました。天候などの条件も良く、思い出深い写真になりました。千里側土手ではヨンニッパでの撮影にも挑戦しました。応募時はうまく撮れるか不安でしたが、撮影した写真と動画が美しく、この感動は忘れられません。

今はZ6IIを使っていますが、Z8は液晶モニターのきれいさを始め、見る感覚も撮る感覚も全然違いますね。憧れの別所さんと一緒に回れるだけでも嬉しいのに、なかなか手に取れない超望遠レンズも使うことができてすごく感激しました。

あすらんママさんのレビュー・撮影記


ツアー中のメンバーからはZ8やNIKKOR Z レンズに対して、飛行機を補足するAF性能と高速連写を評する意見が多く、さっそく欲しいというメンバーの声もあった。

別所さんから多くのことを学び、またメンバー同士でもリアルな情報交換ができたことだろう。高価でなかなか使う機会が限られる機材も体験でき、写真ライフに大きなプラスとなったのは間違いなさそうだ。その成果はメンバーのレポートでぜひチェックしてほしい。

1981年生まれ。2006年からインプレスのニュースサイト「デジカメ Watch」の編集者として、カメラ・写真業界の取材や機材レビューの執筆などを行う。2018年からフリー。