トピック

ニコン Z fにぴったりのフォクトレンダー交換レンズは?

“最新性能+懐かしのデザイン”でZ fと共鳴する6本を実写検証

フィルム一眼レフカメラの香り漂うミラーレスカメラ「ニコン Z f」。待望の35mmフルサイズセンサーを搭載したとあって、最新性能と懐かしのデザインテイストのどちらも楽しめる、独自の世界観で注目を集めています。

コシナ・フォクトレンダーのニコン Z マウント用レンズもまた、懐かしの交換レンズを思い起こす金属外装の鏡筒に最新の光学性能を収め、職人の手で作り込まれたMFレンズならではの操作感で撮影を楽しめる希有な存在です。

今回はそんなフォクトレンダーのZ マウントレンズから、フルサイズ対応の6本全てを用意。フォトグラファーの立花奈央子さんにポートレートの実写を通じて印象を語ってもらいました。(編集部)

立花奈央子
(株)オパルス代表取締役。自社スタジオを拠点に各種人物写真を撮影。東京都外郭団体での起業家向け写真講座講師、専門誌での機材レビュー執筆を行うほか、芸能プロデュース業務で積んだ豊富な現場経験を活かし、MVやYouTube番組等、動画の企画制作も手掛けている。

ニコン Z fとコシナレンズの共通項

フィルムカメラFM2をモチーフとしたクラシカルな外装デザインで、若者と50代のニーズを両取りした「ニコン Z fc」のヒットが記憶に新しいところだが、そのフルサイズセンサー版とあっては、嫌が応にも食指が動く。

レトロな見た目にフラッグシップ譲りの機能が詰め込まれた「Z f」は、情緒的な質感と最新の機能性の両面から、その価値を訴えかけてくる。真鍮が使われたダイヤルの質感、操作感、詰まった質量のどれもが心地よく、振動を伴うメカシャッターの音がもたらす没入感によって撮影に耽溺する。

そんなひとときも、他の部位で安っぽさや違和感を感じた瞬間に興覚めしてしまうものだが、コシナ・フォクトレンダーのレンズとの組み合わせにおいて、その心配はない。

美観も性能の一部と考えるコシナの交換レンズは、他メーカー品にプラスチック製品が多いのに対して総金属製。鏡筒にアルミ、レンズマウントは真鍮。一部品ずつ材料を加工して社内で一貫生産されたレンズのフォーカスリングは、指先に吸い付くような操作感で使用者にストレスを感じさせない。

独立したプロダクトとしても際立った美しさと、使用者に寄り添った細やかな設計、それらを実現する高い技術力は、Z fと合わせて使用した際に余すことなく体感できる。

ニコン Zに最適化した光学設計

フォクトレンダーの交換レンズは、フォーカスリングの回転方向が純正レンズに揃えられているだけではなく、光学設計もニコン Z シリーズのイメージセンサーに最適化されている。各メーカー製品に合わせた開発は一聴すると当たり前のことのようだが、それには非常に高いコストを要する。この点をさらりと形にしているだけでも、コシナのレンズ開発への矜持が伺える。

Z f に合わせると実にしっくりとはまるオールドレンズ風の鏡筒デザインであるが、機能に妥協はない。対応ボディと最新ファームウェアを使うことで、Exif情報、ボディ内手ブレ補正(3軸)に加え、3種類のピント合わせサポート機能(フォーカスポイント枠色変化によるピント合わせ、ピーキングによるピント合わせ、拡大ボタンによるピント合わせ)を活用できる。

常に被写体が動くポートレートでのMF撮影は難度が高く感じられるが、フォーカスピーキングがMF撮影でのプレッシャーや不安の多くを取り除いて、リラックスして撮影を楽しむことができた。

SUPER WIDE-HELIAR 15mm F4.5 Aspherical

超広角レンズでの撮影は、周辺部の歪みをどう処理するか難しいことも多いが、このレンズは極めて歪曲が少なく、画像周辺部の色被りに対策した光学設計もなされており、周辺までシャープな画像が得られる。

最短撮影距離は0.126mと短く、超広角レンズ特有の遠近感を活かした作画も可能。建物や風景などを入れ込み、広がりを演出するのに最適な一本。代替品が多い標準付近のレンズと異なり、このレンズでなければできない作画があるというだけで、ポートレート心をくすぐってくる。

飛び道具的でありながら、周辺歪曲の少なさ、高い解像感、ストレートな色表現といった高い基本性能で端正な絵作りも実現可能だ。


広い画角を活かし、ダイナミックに背景を入れ込んで人物を配置。平行と垂直を意識するとすっきりと見える。幅2.5m程度のごく一般的な歩道で、通常は引きがとれないロケーションだが、超広角のおかげでおさめることができた。

Z f/SUPER WIDE-HELIAR 15mm F4.5 Aspherical/マニュアル露出(1/250秒・F11)/ISO 400

APO-LANTHAR 35mm F2 Aspherical

すらっと引き締まったスタイルがZ fにベストマッチ。広めの幅がとられたフォーカスリングはハンドリングが良く、タイトなピント合わせも指を滑らせながら楽しむことができる。RGBの軸上色収差は限りなくゼロであり、その解像力やコントラストの再現性には、ズームレンズ派だった筆者も宗旨替えを検討するほど。

究極の性能を追求した準広角レンズと称するだけあり、納得の描写力と高い質感を備える。特に、特殊形状が採用された12枚からなる絞り羽根は、開放のF2だけでなくF2.8とF5.6でも円形となるので、美しい玉ボケを得ることができる。


標準より少し広めの画角がスナップ的にも使いやすい35mm。少し下から煽ることで、脚をより長く、頭をより小さくスタイリッシュに。補色同士である赤と緑でモノトーンが基調の女性モデルを挟みこみ、構図のバランスをとる。

Z f/APO-LANTHAR 35mm F2 Aspherical/マニュアル露出(1/500秒・F5.6)/ISO 400

リズミカルな壁面装飾をオブジェに見立て、ステージのようにポージングを決めてもらった。強い直射日光のもとでもバランスの良い描写。強い光と影、床面の繊細なマーブル模様、壁面のくっきりとしたテクスチャなど、メリハリのある描写が得られた。

Z f/APO-LANTHAR 35mm F2 Aspherical/マニュアル露出(1/1,000秒・F5.6)/ISO 400

NOKTON 40mm F1.2 Aspherical

大口径F1.2と明るく、軽量・コンパクトで携行性抜群。最短撮影距離0.3m、コシナのニコン Z マウントレンズの中でも最軽量の315g。実勢価格も10万円以下で非常に使い勝手の良いレンズだ。APS-C機では60mm相当の標準域レンズとして使うことができ、サブカメラで活用できる汎用性も持つ。

フィルターサイズは58mm。10枚構成の絞り羽根から描かれるなめらかで大きなボケ味は、ポートレートとすこぶる相性が良い。個人的に“つけっぱなしレンズ”を選ぶなら、単焦点ならではの明るさと手軽さ、画質を備えたこのレンズを選びたい。


秋の昼下がり、澄んだ空気を感じさせる柔らかな逆光。市街地は背景の情報量が多く難しいロケーションだが、開放から少し絞ったF2でくっきりと浮き立った被写体に、やわらかいボケ描写がニュアンスを沿えてくれた。

Z f/NOKTON 40mm F1.2 Aspherical/マニュアル露出(1/1,000秒・F5.6)/ISO 400

トンネル内のローコントラスト下でも、しっかりとディティールを捉えた描写が実現。頭の周りには吹き抜けの空間を配置し、額縁のようにして表情を強調した。

Z f/NOKTON 40mm F1.2 Aspherical/マニュアル露出(1/125秒・F4)/ISO 400

NOKTON 50mm F1 Aspherical

開放F1の超大口径単焦点レンズ。その顔となる前玉(第1面)には研削非球面(GA)レンズを採用し、高水準の画質と引き締まったスタイルを両立させるとともに、12枚構成の絞り羽根でアウトフォーカス部の自然な描写も実現した。ラインナップの中ではハイレンジな価格も納得の妥協なき設計。

Z fに装着すると相対的に大きく感じるが、重量バランスが良いため長時間使用していても疲れを感じることはない。精緻なピント合わせも、その滑らかな操作性でストレスを感じることなく集中できる。期待を裏切らないピント面のシャープな描写ととろけるようなボケ味、堂々とした存在感を放つ佇まいは、一度手にすれば手放せなせなくなるだろう。


開放のF1で描写された揺らぐ瞳に引き込まれる。直射日光を透過するようにレンズ前にプリズムを配置すると、虹を作ることができる(画面左上)。逆光でも嫌なフレアやゴーストが発生せず、コントラストもしっかりとしている。優れたコーティング性能を実感できた。

Z f/NOKTON 50mm F1 Aspherical/マニュアル露出(1/8,000秒・F1)/ISO 400

背景を入れこむことでいっそう奥行感を楽しめる。ピント面のカリッとした描線と、そこからなだらかに溶けていくまろやかなボケ味はこのレンズならでは。ぜひ堪能していただきたい。

Z f/NOKTON 50mm F1 Aspherical/マニュアル露出(1/8,000秒・F1.4)/ISO 400

石造りの回廊調モールにインスピレーションを得て、現像でオールドレンズのようなニュアンスを足して遊んでみた。

Z f/NOKTON 50mm F1 Aspherical/マニュアル露出(1/500秒・F1)/ISO 400

APO-LANTHAR 50mm F2 Aspherical

一言で表すなら「最高性能」。フォクトレンダー史上最高性能の標準レンズであるEマウント専用レンズをベースに、ニコン Z マウントのために最適化されたコシナ自慢の一本。8群10枚構成のうち、非球面レンズ2枚に加えて異常部分分散ガラスが5枚も投入されているのは、レンズ好きなら食いついてしまうポイント。この構成だけでも開発陣の並々ならぬ熱意が伝わってくる。

アポクロマート設計で軸上色収差などを徹底的に排除するとともに、解像力やコントラストの再現性も究極を追求しているだけあって、圧巻の描写力。高い機動性からくるハンドリングの良さは言わずもがな。目視の感覚に近い画角なので直感的に使うことができ、それでいて自然に作品を格上げしてくれる頼もしさがある。


限りなく忠実な色再現で、見たままの絵作りが実現。撮って出しでも作品にできる強度を持ち、それをベースに自分流の味付けも楽しむことができる、まるで高品質な食材のようなレンズ。

Z f/APO-LANTHAR 50mm F2 Aspherical/マニュアル露出(1/2,000秒・F2)/ISO 400

艶やかな髪の毛の一本一本が生きているかのような質感描写。込み入った背景を前にしても、その存在感は前に迫り出してくる。

Z f/APO-LANTHAR 50mm F2 Aspherical/マニュアル露出(1/8,000秒・F2)/ISO 400

MACRO APO-LANTHAR 65mm F2 Aspherical

最短撮影距離31cm、最大撮影倍率1/2倍の大口径マクロレンズ。RGBの軸上色収差を限りなくゼロに近づけるアポクロマート設計で実現した解像力やコントラスト再現性には、全幅の信頼を置くことができる。優れた操作性で精妙なピント操作が可能だ。最高クラスの解像力を誇り、まつ毛はおろか、肌の産毛までも精細に描写する。

10枚羽根の絞りによるやわらかいボケを活かしても、マクロレンズとしてパーツをアップにしても楽しめる。単焦点レンズの2本目に取り入れると、作品の幅を大きく広げてくれるだろう。


65mmの望遠効果で背景の奥行きを活かす。絞りをF4に設定し、フォーカスリングをリアルタイムで操作し続けることで、動きを付けていくモデル撮影でも良い歩留まりが得られた。


ぜひ拡大して解像力をチェックして欲しい。髪の毛、服の繊維、肌のキメなど、自分の目以上によく写しとるこのレンズは、写真としての目を問い直してくれる。

Z f/MACRO APO-LANTHAR 65mm F2 Aspherical/マニュアル露出(1/2,000秒・F5.6)/ISO 400

MFレンズの使いこなしTIPS

MF(マニュアルフォーカス)撮影の際に最も不安となるピント合わせは、画面の拡大表示とフォーカスピーキングでかなりフォローされる。それに加えて、連写を取り入れるとさらに安心だろう。連写ではメモリーカードの書き込み速度やバッテリー容量がネックになるが、Z fはコンパクトながらZ 8等と同じ大容量のバッテリーを採用しているため、2時間・2,000枚ほどの撮影を危なげなくこなしてくれた。メモリーカードはできるだけ高速のものを選ぶこと。SD/microSDカードは一度購入するとそのまま使い続けることになるが、MFレンズを導入するなら同時に見直しを提案したい。再生や転送がスムーズに運ぶことは、自分が思っていた以上に快適だからだ。

まとめ:良い道具は、使用者の可能性を拡張する

AFで慣れた身にとって、MFのみで撮影に繰り出すのに及び腰となる気持ちはよくわかる、自分もそうだからだ。

せっかく撮影してもピントが抜けていたら?
撮りたいと思う画角のレンズを持っていなかったら?
操作に一生懸命で構図やコミュニケーションが疎かになってしまったら?

などなど、不安は尽きない。しかし、考えてみてほしい。一般的なAFレンズでのMFは、AFが効かない場合に緊急避難的に用いられることが多いため頻用は想定されておらず、MFに特化して設計したものに比べると操作性が劣る。

その点、コシナレンズは官能的とも言える触感をもってして、フォーカスリングに触れるために撮りたくなる、というパラダイムシフトを起こしてくれる。この境地は、実際に触ってみなければわからないので、ぜひ店頭に足を運んでみてほしい。一度手に取るだけでモノとしての魅力が否応なく伝わってくるはずだ。

そしてMFレンズはAFレンズとは異なり、光学性能や描写を最優先した自由度の高い設計が可能となっている。設計者が込めた理念により純度の高い形で触れ、その写りを通して体感することで、いっそう使う喜びを感じられるのだ。

ズームレンズに慣れていると、単焦点レンズは画角に制約がかかると感じるかもしれないが、その枠の中でどうバリエーションを出そうかと試行錯誤することこそが、自分の中に新しい目を作ることに繋がる。

良い道具とは、思い通りに働くだけではなく、使用者の可能性を拡張してくれるものと考えている。伝統はアップデートされる。クラシックは新しいスタンダードにもなる。

前時代のものとされていたFM2をZ fが再解釈して蘇らせたように、自分自身も過去を活かし次へ進んでいきたい。そんな時、コシナ・フォクトレンダーレンズとそれがもたらす撮影体験は非常に心強いパートナーになるだろう。

モデル:梨奈 鎮守あおい
ヘアメイク:高橋茉里
アシスタント:平木楽々
製品撮影:曽根原昇


立花奈央子