特別企画

フルサイズミラーレスの新たなベーシック「ソニー α7 IV」& 新フラッシュの実力は?

いち早く使ったフォトグラファー山隈祐介さんに聞く

α7 IV。装着レンズはFE 35mm F1.4 GM

ソニーがこの秋に発表した「α7 IV」は、ベストセラー「α7 III」の後継となる新しいフルサイズミラーレスカメラだ。αのラインナップの中では引き続きベーシックモデルの位置にあるが、あらゆる面で強化された結果、ベーシックモデルとは言い切れない、これまでにないポジションを得たとも言える。さらに、同時発表のフラッシュ「HVL-F60RM2」「HVL-F46RM」にも注目。

結婚式の前撮りや披露宴といった撮影で実際にα7 IVとフラッシュを使用したウェディングフォトグラファーの山隈祐介さんに、その真価を聞いた。

山隈祐介(やまぐまゆうすけ)
福岡にて写真を学び、スタジオアシスタントを経て2012年より婚礼における写真撮影、映像制作会社ケーアールケープロデュース株式会社に在籍。2017年には拠点を東京に移し、指名制フォトグラファーとして活躍するかたわら、クリエイティブディレクターとして多くの撮影現場を監修。2018年、2019年には全米最大のフォトコンペティションWPPIにてSilver Awardを受賞。今季よりフリーランスとして独立し、始動。個性と感性で撮り切る撮影スタイルが持ち味

ウェディングフォトグラファーである山隈さんは、結婚式の前撮りや披露宴といった撮影の場にα7 IVを持ち込み、すでに多くのショットを重ねたという。

今回は同時発表のフラッシュ「HVL-F60RM2」「HVL-F46RM」とあわせてその評価を語ってもらった。

高次元にまとまった新スタンダードフルサイズミラーレス……α7 IV

有効約3300万画素

——新しいα7 IVはα7 IIIから画素数が増えています。実際に使ってみていかがでした?

まず、その解像感にびっくりしました。すみずみで滑らかで洗練された描写です。とてもきれいで、絵の力があります。

今のソニーのラインナップは分野ごと特色があると思います。高解像の7Rシリーズや、高感度/動画の7Sシリーズ、スピードの9シリーズ、そしてフラッグシップのα1。

私はα1(有効約5010万画素)やα7R IV(有効約6100万画素)なども使っていますが、ウェディングと広告で使い分けています。

特にウェディングの場合はお客様にはリサイズしてお渡しすることが多いため、α7 IVの有効約3300万画素はちょうどいい画素数です。さらに他の基本性能のベースが一段高いため、どの現場でも、どんな分野でも対応できるカメラになると思います。自分の可能性を広げられる、心強い相棒だと感じたのが、最初の印象ですね。

撮影:山隈祐介
α7 IV / FE 12-24mm F2.8 GM / マニュアル露出(1/1,200秒・F5.6) / ISO 64

階調の豊かさ

——ウェディングドレスや肌の再現はいかがでしたか。

結婚式では、ウェディングドレスやベールなど、白をいかに美しく表現できるかがとても大切です。レースや刺繍など同じ白でも細部の色は異なり、その繊細な白の違いを映し止められることが重要です。一方で、新郎新婦のお母さまなどが着ている黒留袖の黒や、シャドウ部の階調も重要になります。

その点α7 IVでは、白いところも黒いところも極端な再現にならず、よりイメージに近づけられます。シャドウからハイライトまで、滑らかに繋がっています。

撮影:山隈祐介
α7 IV / FE 50mm F1.2 GM / マニュアル露出(1/60秒・F2.2) / ISO 125

α7 IVで撮影した写真は、15ストップの階調記録でしっかりRAWデータに残っていますから、自分の理想の作品に仕上げられます。

一方で「JPEGでもいいのでは?」と思えるほどにα7 IVのJPEGには階調が残っています。

α7 IVの絵には力があり、自分がイメージしている存在に落とし込みやすい。まるで自分の目にシャッターがついているように撮影できます。迷っている絵にならないのです。納得しないでシャッターを切った感覚がありません。

——新機能「美肌効果」はいかがでしょうか。

女性の顔や首、肩など肌の再現も、肌の補正機能によってしっかりカバーされていて、レタッチの作業も軽減されます。レベルも選べるので、効果が強すぎて質感が損なわれることを防げます。

高感度

——高感度性能についてはいかがですか?

画像処理エンジンがBIONZ XRに進化したことが影響しているのだと思いますが、高い感度でも恐れずに使えるようになっています。

その場の光のままで表現したいシーンであっても、これまでは高感度ではノイズのざらつきを避けるために、フラッシュを使っていたこともありました。

しかし、α7 IVでは、そうした今までは難しかったシーンでフラッシュを使わず高感度で撮影しても、デジタル的なノイズが感じられず滑らかに再現されます。今までは納品できなかった条件でも積極的に使えるようになりました。今後は、色々と試して新しい撮影シーンを探していきたいと思います。

撮影:山隈祐介
α7 IV / FE 50mm F1.2 GM / マニュアル露出(1/320秒・F2.8) / ISO 3200

ウェディングの撮影では、やり直しがきかないので、カメラに対する安心感が重要です。不安だとチャレンジもできません。その点α7 IVは安心して使えます。それこそが一番の武器であり、使う魅力です。私はウェディングを軸に広告、物、料理を撮影していますが、特定の分野に限らず使えるカメラだと思います。

バリアングル液晶モニター

——操作面での変更はどうでしたか。

背面液晶モニターがバリアングル式になり、できることが増えました。

α7 IIIのチルト式でもローアングルやハイアングルに対応できましたが、ウェディングフォトだと低い位置から縦位置で撮影することも多いのです。そうしたときは、地面に這いつくばるようにして撮影するのですが、バリアングル式のモニターを使うことで絵作りに集中できます。

また、ウェディングフォトでは、撮影中に写真を見せて欲しいという要望が少なからずあります。そういうとき撮影を中断して、カメラを持って行き背面液晶モニターに表示したプレビューを見て頂いていたのですが、バリアングル液晶モニターなら被写体にモニターを向けて写真を見せながら撮影することができる。どう写っているかお客さん自身が確認できることで安心感を与えますし、現場を中断させるロスも無くなります。

カスタマイズ可能になった旧露出補正ダイヤル(後ダイヤルR)

——従来でいうところの露出補正ダイヤルに、任意の機能が割り当てられるようになりました。

普段はマニュアル露出で、前後ダイヤルで絞りとシャッター速度を設定しているので、これまでは露出補正ダイヤルは使わずにいました。

そこに感度やクリエイティブルックなど、様々な機能が割り当てられるようになった。何がフィットするかダイヤルの振り分けを試していきたいと思っています。

ファインダーから目を離すことなく、右手だけで解決できるのであれば、集中につながり、撮影が途切れることもなくなるでしょう。

シーンを逃さないカメラとの一体感

——業務で使用した際のレスポンスはいかがでしょうか。

結婚式にはドラマチックなシーンがありますが、そういったシーンは数秒で終わってしまいます。ウェディングフォトでは、そうしたシーンを写真に閉じ込め、絵を作っていく必要があります。

撮影:山隈祐介
α7 IV / FE 35mm F1.4 GM / マニュアル露出(1/2,000秒・F2.0) / ISO 3200

AFの合焦などのカメラの動作、握り心地も含めたカメラの操作など、ストレスがなく撮影できました。カメラのことで心配することなく、瞬間に対応できるのは一番の魅力でした。

ほかの参列者の方も写真を撮っていますが、それとは違うドラマチックな写真にすることが僕の仕事です。α7 IVを使うと演出かと思えるほどの写真が撮れます。

新しい表現にチャレンジしたくなる……新製品フラッシュ HVL-F60RM2/HVL-F46RM

フラッシュの使い所

——新しいフラッシュ(HVL-F60RM2、HVL-F46RM)が発表されましたが、仕事の現場でフラッシュはよく使われるのでしょうか。

左からHVL-F46RM、HVL-F60RM2

カメラの高感度性能が高くなりフラッシュを使うシーンが少なくなっているのは確かですが、フラッシュを全く使わない……とはいきません。

ウェディングフォトでは、自然光と定常光、そしてフラッシュの光を、足し算、引き算していきます。窓の外や格子越しにフラッシュを置き、オフカメラでフル発光させることもあります。

そのため光量は非常に大切で、今回のHVL-F60RM2は、ガイドナンバー60※1で高速連写に連動して発光できるのがいいですね。ウェディングフォトでは時間のない中で様々なシーンを求めることが多く光を臨機応変に作る必要があるので、フル発光で連続で使っても問題ないのは、安心感があります。

また、結婚式に先駆けての屋外でのロケーション撮影(前撮り)では、逆光のほうが印象的に写せることも少なくありません。

撮影:山隈祐介
α7 IV / FE 50mm F1.2 GM / マニュアル露出(1/1,000秒・F3.5) / ISO 64 / フラッシュ発光

肌の質感を出すにはレタッチでは足りず、やはりフラッシュを使い日中シンクロで撮影した方が良い結果を得られます。新郎も新婦も、撮っているうちに硬い表情がとれてきます。そうなると連続で撮影、連続発光が必要になりますが、HVL-F60RM2はついてきました。

また、細かいところですが私が強く評価しているポイントがあります。それは、HVL-F60RM2、HVL-F46RMともにシューが金属になり補強されて強くなっていたり、シーリングによって防塵・防滴性能が向上している点ですね。

オフカメラにしたり、カメラにのせたりと、付け外しをすることが多いので、耐久性が向上しているのは故障の心配が軽減されありがたいところです。これまで壊さないようにと、ゆっくりと付け外しをしていましたが、ウェディングフォトは1秒を惜しむ世界。安心してタフに使えるのは非常に価値が高いです。

ガイドナンバー46※2のHVL-F46RMは、サイズ感・機能がα7 IVとセットにしたときにバランスがいいですね。フラッシュが大きければ周りとぶつかりやすくなります。ちょうどいい大きさです。

※1:照射角200mm設定時、ISO100・m
※2:照射角105mm設定時、ISO100・m

最高連写でもP-TTL調光が可能に

——α7 IVと新フラッシュの組み合わせだと、連続撮影モードLoに加えてMid,Hi時と速い連写モードでも毎コマごとのP-TTL調光が可能になっています。

今回は試してないのですが、毎回プリ発光できるようになったことで、撮れるシーンが広がる可能性を感じています。

撮影:山隈祐介
α7 IV / FE 35mm F1.4 GM / マニュアル露出(1/250秒・F2.0) / ISO 3200 / フラッシュ発光

たとえば、新郎新婦に花びらを投げて祝福するフラワーシャワーでは、フラッシュを使わず連写で対応していました。花びらが舞うと、それによって影ができ、光の状態が変わるシーンでフラッシュを使うのはリスクがあるからです。しかし、アクセントを足したいと思うこともあり、P-TTLで毎コマごとに調光されるのであれば対応できそうです。

純正フラッシュである意義

——最近は廉価なクリップオンフラッシュも出回っていますが、山隈さんがメーカー純正のフラッシュにこだわる理由は?

ウェディングフォトでは基本的にライティングも含めて1人でおこないます。フラッシュをオフカメラで使うときでも、そこから離れずにワイヤレスで、カメラから光量の調整ができる操作性のよさは純正ならではだと思います。ファインダーをのぞいたまま光をコントロールできるので、その瞬間を切り取れます。

高画質かつ使いやすい画角……FE 35mm F1.4 GM

——今回、レンズはFE 35mm F1.4 GMなどを使っていますがいかがでしょう?

ウェディングフォトはアップで人だけを撮るというよりも、その場の雰囲気も含めて写して欲しいというニーズが高くあります。そうした「空間を生かしつつ主役がいる写真」を撮るには、35mmという画角は実は最適なのです。広すぎず、縦位置でも横位置でも歪まず、絵作りしやすいといえます。

お客さんも、結婚式の写真をSNSに上げる際、自身の顔のアップよりもそういった空間を含めた写真を好んで選ぶ方も多いのです。35mmの画角のレンズは今後一般の方でも使われる方が増えていくのではないでしょうか。

撮影:山隈祐介
α7 IV / FE 35mm F1.4 GM / マニュアル露出(1/4,000秒・F1.6) / ISO 1250

FE 35mm F1.4 GMは、開放F値1.4という明るさ、そして小型であることも魅力です。三脚を立てず鞄一つに機材を入れ、足で稼いで撮るウェディングフォトでは機動性が大切です。

α7 IVと組み合わせたとき、開放F値1.4でも安心してシャッターが切れるAFの食いつきの良さと精度の高さ、そして「G Master」レンズのポテンシャルを感じる解像感の高さ。これが純正ならではの設計なのだと思いました。

(執筆者より)取材を終えて……当たり前をワンランク上に

α1やα7R IVといった高速/高画素機を使っている山隈さんですが、新しいベーシックモデルであるα7 IVは画素数や階調の良さ、高感度性能なども、ウェディングフォトに過不足なく使え、魅力的な存在だったようです。新しいフラッシュ( HVL-F60RM2/HVL-F46RM)も堅牢性や連続発光の向上など、新しい武器になりそうでした。

ソニーのこの冬の新製品は、これまで当たり前だったことをワンランク上にする可能性を秘めていそうです。

製品写真・状況写真:曽根原昇
協力:ソニーマーケティング株式会社

猪狩友則

(いがり とものり)フリーの編集者、ライター。アサヒパソコン編集部を経て、2006年から休刊までアサヒカメラ編集部。新製品情報や「ニューフェース診断室」などの記事編集を担当する傍ら、海外イベントの取材、パソコンやスマートフォンに関する基礎解説の執筆も行う。カメラ記者クラブでは、カメラグランプリ実行委員長などを歴任。