特別企画

ディレクターとクリエイターの視線。内田ユキオ流“GR III・GR IIIxの使い分け”とは

これから最初のGRを手に入れようとしている人も参考に

皆さんの周りに「写真を撮りにいくときはGRを2台だけ」という人がいますか?

GRの過激な二台持ちは、どっちもGR III、どっちもGR IIIxという人ですね。リングやストラップの色だけ違って全く同じ機種。これはすごい。「いつもそのGRだね」と言われていて、じつは7台持っていてローテーションしていたら、もっとすごいです。スティーブ・ジョブズみたい。

ただ、そういった人たちのためだけに記事を書くわけにもいかないため、今回はGR IIIxとGR IIIの2台持ちを想定します。GRを2台持ち歩こうとすれば気軽さはスポイルされますが、まだ一般的な交換レンズ2本より軽くて小さいです。上着があれば左右のポケットだけで収納できるからバッグも必要ありません。

カメラは2台あっても楽しさは1.5倍くらいなのが常ですが、GRに関しては2.5倍くらい楽しくできると思います。そのための提案が今回のテーマ。2機種の違いについても触れていくので、これから最初のGRを手に入れようとしている人も参考にしてください。

焦点距離以外に違いはあるの?

レンズはどっちがシャープで、色の違いは……といった意見があるかもしれません。しかし、私が使った限りではそれらに差を感じません。撮るものによってアプローチが変わった場合に、「わずかに違いがあるように見える」が真相じゃないでしょうか。

GR IIIxならボケが楽しめるけれど、マクロ時の最大倍率はGR IIIのほうが上、といったスペックを比べてみるのも楽しいです。愛用者の声を聞くと、「扱いやすくてなんでも撮れるのはGR IIIxのほう、気楽さが魅力で思い入れがあるからGR IIIは好き」という意見が多いようです。

コンセプトやデザイン、インターフェイスに至るまで28mmを前提にして作られたカメラですから、フィット感は28mmにアドバンテージがあり、でも40mmの汎用性の高さは実用面でときにそれを上回る魅力がある、といったところでしょうか。

ダイナミックな奥行き、臨場感を大切にした構図、構えてからの素早さ、これこそGRというショット。絞り込んでいないのにピントが深いのも広角レンズのおかげ
GR III プログラムAE(F5.6・1/60秒)ISO 400/レトロ

小は大を兼ねる?

40mmに28mmの代用は出来ないけれど、28mmをクロップすれば40mmの代わりになるじゃないかって考えもありますね。

数年前にソフトウェアメーカーのプレゼンを見ていたら、「迷ったときにはいちばん画角が広いレンズが1本あればいいんですよ。あとはプロファイルを使ってどんなレンズの画像も作れるから」と話していました。

通販番組の便利包丁みたいで、それで満足できるならGR III一択ですが、そういう人がそもそもGRを欲しがるか疑問です。

ナイフのよう、それも多機能ではなくソリッドな単一タイプで、それで釘を打ったり、魚の鱗をはいだり、マイナスドライバーの代わりにできるからこそ、「GRを使いこなすのは楽しい~!」と思えるのに。

カメラを構えてしまうと気遣って避けてしまうので、自転車が通りがかったタイミングに合わせてシャッターを切った。車輪の位置をフレームのフチに合わせるのは楽ではないけれど、こういう写真は単焦点のほうが割り切れるため撮りやすい
GR III シャッター優先AE(F11・1/500秒)ISO 800/ハイコントラスト白黒

見た目はよく似ています

2台持ちをするとき困るのは、バッグのなかで手探りしたとき2機種の区別ができないこと。

レンズ(鏡胴)の出っ張りで指がかりが異なり、それで区別できると言いますが、スナップを撮っていてそんな余裕があるなら、バッグを開いてカメラを見ます。意識は被写体に集中したままカメラを扱いたい。だから私は、GR IIIには外付けファインダーを乗せています。

28mmでリズムをつくる

どちらかを常に外に出して持ち歩き、もう1台はバッグの中に入れる習慣をつけるのもいいです。

それなら被写体との距離が遠くても撮れる40mmが先で、被写体に近づけたら28mmに取り替えるのがスムーズな流れです。しかし、ここでは外に出して持ち歩くほうをGR IIIにするのをオススメします。

理由は3つあって、まず心理的に寄ったところから引いていくのは難しいから。次に広角のほうが被写界深度が深いから早く撮れる。そして厳密なフレーミングをしなくてもサマになる画角なので、最初のシャッターを気軽に切れてリズムを作りやすい。

もし40mmのGR IIIxを手にしていたら、縦位置で道を半分に切って奥行きを強調したと思う。いつも持ち歩くとき、優先順位をワイドにしておきたいのは、一歩や二歩のフットワークではどうにもならない条件が多いから
GR III プログラムAE(F8・1/60秒)ISO 800/ポジフィルム調

40mmは“クリエイターの視線”

私の場合、それでも先にバッテリーがなくなるのはGR IIIxなので、枚数をたくさん撮っていることになります。あと半歩、あと1cm動こうか、と迷える楽しさがあるからでしょう。

GR IIIの有名なプロモーションムービーのなかで、「28mmはディレクターの視線」というキラーフレーズがあります。GR IIIxが発売されたとき、これが更新されることを期待していたのですがそのままでした。

個人的に、28mmが“ディレクターの視線”だとするなら、40mmは“クリエイターの視線”です。自己主張があって「自分の視点を通して伝えたいことがあり、それを誰かと共有したい」という願いがあるから。

ワイドレンズだと奥行きが付きすぎて、手前の二人を切るか、奥の二人を小さく扱うか、二択になってしまう。レイヤー的という言い方をすることが多いが、距離の違う被写体を対比して撮るような場合に40mmは最適
GR IIIx プログラムAE(F8・1/125秒)ISO 400/レトロ

運用のヒント

前回の記事で紹介したパーティの場合だと、シーンタフネスに優れて一番早いのはGR IIIxのU1です。攻撃のターンで最初に動いてくれるので、GR IIIはベホマ系の回復呪文を任せて……。

あれ、写真の話から遠ざかってしまったので戻すと……、まずGR IIIxのU1で最初のカットを撮り、次にどっちがいいか悩んでフィットするほうで枚数を重ね、最後にGR IIIで引き気味のカットを押さえておく。

それをしておかないと、必要な情報が足りていなくて写真の整理に不自由したり、もっと別のアプローチがあったかもしれないと反省する余地が生じてしまうから。ディレクターに怒られてしまうわけですね(笑)

義務だと思うと写真が窮屈になるため、ルーティンにして楽しむのがいいです。ひとつの発見で深く関われるため散歩も楽しくなりますよ。

前回の記事で紹介した、スクエア+クロスプロセスの組み合わせ。コレクション感覚で、被写体を中心にして撮り溜めていくなら、40mmのようなクセのない焦点距離がいいと思う
GR IIIx プログラムAE(F5~11・1/60~125秒)ISO 400/クロスプロセス

設定について。2台持ちの醍醐味は

ファンクションボタンの割り当てなど、操作に関するものは2台共通にするほうがいいでしょう。28mmに向いている機能、40mmをアシストするのに最適な機能、それぞれありますが混乱するよりいいです。画像設定は思い切って変えて、使い分けを楽しむのもいいので、前回の記事を参考にしてください。

GR IIIならプログラムAEでガシガシ撮りたいけれど、GR IIIxは絞り優先にしてボケ量にこだわりたい、ということを思うようになったところから、2台持ちの醍醐味が始まります。

谷根千(東京を代表する下町)だからGR IIIをメインに、蔵前(東京のブルックリンと呼ばれる)ならGR IIIxをメインに撮ってみよう、とか。それってレンズ交換と何が違うの? と思うかもしれません。それが違うからこそGRはレンズ固定式を守り続けているのです。

ワイドレンズで撮りたくなる奥行きを、あえて40mmで撮って丁寧に垂直と水平を合わせると、ピリッとした緊張感が生まれる。通行人をアクセントで入れているのがポイント
GR IIIx プログラムAE(F11・1/125秒)ISO 400/クロスプロセス

あなたに最適なGRはどっち?

もしも5つ質問をさせてもらえたら、おすすめのGRを選んであげられると思います。例えば「ユニクロと無印良品どっちのお店が好き?」「ビュッフェと定食、ホテルの朝食ならどっち派?」「画面の傾きとフレーミングの甘さ、気になるのはどっち?」など。つまりは水平性と垂直性の違いです。

フィルム時代からGRを愛用していたため、「孤独を客観視して楽しむ」ような撮影スタイルが身に染みている。こんな写真を撮ろうとしてしまうところもGRならでは
GR III プログラムAE(F11・1/250秒)ISO 1600/ハイコントラスト白黒

言うまでもなく例外はあって、こんなゲームみたいなことでGRそのものが自分に合わないと感じるようなら残念すぎます。これは私の考えですが、うまく撮れたことを喜びに感じるタイプならGR IIIxが、とにかく写真を撮ること自体が好きでたまらないならGR IIIが合うように思います。

GRを使っているというだけで「仲間だね」と通じ合える文化がありますから、身近なGRユーザーを見つけて一緒に写真を撮りに行けたらいいですね。

1966年新潟県両津市(現在の佐渡市)生まれ。公務員を経て独学で写真を学びフリーに。ライカによるモノクロのスナップから始まり、音楽や文学、映画などからの影響を強く受け、人と街の写真を撮り続けている。執筆も手がけ、カメラ雑誌や新聞などにも寄稿。著書「ライカとモノクロの日々」「いつもカメラが」など。