特別企画
ディレクターとクリエイターの視線。内田ユキオ流“GR III・GR IIIxの使い分け”とは
2022年11月16日 07:00
これから最初のGRを手に入れようとしている人も参考に
皆さんの周りに「写真を撮りにいくときはGRを2台だけ」という人がいますか?
GRの過激な二台持ちは、どっちもGR III、どっちもGR IIIxという人ですね。リングやストラップの色だけ違って全く同じ機種。これはすごい。「いつもそのGRだね」と言われていて、じつは7台持っていてローテーションしていたら、もっとすごいです。スティーブ・ジョブズみたい。
ただ、そういった人たちのためだけに記事を書くわけにもいかないため、今回はGR IIIxとGR IIIの2台持ちを想定します。GRを2台持ち歩こうとすれば気軽さはスポイルされますが、まだ一般的な交換レンズ2本より軽くて小さいです。上着があれば左右のポケットだけで収納できるからバッグも必要ありません。
カメラは2台あっても楽しさは1.5倍くらいなのが常ですが、GRに関しては2.5倍くらい楽しくできると思います。そのための提案が今回のテーマ。2機種の違いについても触れていくので、これから最初のGRを手に入れようとしている人も参考にしてください。
焦点距離以外に違いはあるの?
レンズはどっちがシャープで、色の違いは……といった意見があるかもしれません。しかし、私が使った限りではそれらに差を感じません。撮るものによってアプローチが変わった場合に、「わずかに違いがあるように見える」が真相じゃないでしょうか。
GR IIIxならボケが楽しめるけれど、マクロ時の最大倍率はGR IIIのほうが上、といったスペックを比べてみるのも楽しいです。愛用者の声を聞くと、「扱いやすくてなんでも撮れるのはGR IIIxのほう、気楽さが魅力で思い入れがあるからGR IIIは好き」という意見が多いようです。
コンセプトやデザイン、インターフェイスに至るまで28mmを前提にして作られたカメラですから、フィット感は28mmにアドバンテージがあり、でも40mmの汎用性の高さは実用面でときにそれを上回る魅力がある、といったところでしょうか。
小は大を兼ねる?
40mmに28mmの代用は出来ないけれど、28mmをクロップすれば40mmの代わりになるじゃないかって考えもありますね。
数年前にソフトウェアメーカーのプレゼンを見ていたら、「迷ったときにはいちばん画角が広いレンズが1本あればいいんですよ。あとはプロファイルを使ってどんなレンズの画像も作れるから」と話していました。
通販番組の便利包丁みたいで、それで満足できるならGR III一択ですが、そういう人がそもそもGRを欲しがるか疑問です。
ナイフのよう、それも多機能ではなくソリッドな単一タイプで、それで釘を打ったり、魚の鱗をはいだり、マイナスドライバーの代わりにできるからこそ、「GRを使いこなすのは楽しい~!」と思えるのに。
見た目はよく似ています
2台持ちをするとき困るのは、バッグのなかで手探りしたとき2機種の区別ができないこと。
レンズ(鏡胴)の出っ張りで指がかりが異なり、それで区別できると言いますが、スナップを撮っていてそんな余裕があるなら、バッグを開いてカメラを見ます。意識は被写体に集中したままカメラを扱いたい。だから私は、GR IIIには外付けファインダーを乗せています。
28mmでリズムをつくる
どちらかを常に外に出して持ち歩き、もう1台はバッグの中に入れる習慣をつけるのもいいです。
それなら被写体との距離が遠くても撮れる40mmが先で、被写体に近づけたら28mmに取り替えるのがスムーズな流れです。しかし、ここでは外に出して持ち歩くほうをGR IIIにするのをオススメします。
理由は3つあって、まず心理的に寄ったところから引いていくのは難しいから。次に広角のほうが被写界深度が深いから早く撮れる。そして厳密なフレーミングをしなくてもサマになる画角なので、最初のシャッターを気軽に切れてリズムを作りやすい。
40mmは“クリエイターの視線”
私の場合、それでも先にバッテリーがなくなるのはGR IIIxなので、枚数をたくさん撮っていることになります。あと半歩、あと1cm動こうか、と迷える楽しさがあるからでしょう。
GR IIIの有名なプロモーションムービーのなかで、「28mmはディレクターの視線」というキラーフレーズがあります。GR IIIxが発売されたとき、これが更新されることを期待していたのですがそのままでした。
個人的に、28mmが“ディレクターの視線”だとするなら、40mmは“クリエイターの視線”です。自己主張があって「自分の視点を通して伝えたいことがあり、それを誰かと共有したい」という願いがあるから。
運用のヒント
前回の記事で紹介したパーティの場合だと、シーンタフネスに優れて一番早いのはGR IIIxのU1です。攻撃のターンで最初に動いてくれるので、GR IIIはベホマ系の回復呪文を任せて……。
あれ、写真の話から遠ざかってしまったので戻すと……、まずGR IIIxのU1で最初のカットを撮り、次にどっちがいいか悩んでフィットするほうで枚数を重ね、最後にGR IIIで引き気味のカットを押さえておく。
それをしておかないと、必要な情報が足りていなくて写真の整理に不自由したり、もっと別のアプローチがあったかもしれないと反省する余地が生じてしまうから。ディレクターに怒られてしまうわけですね(笑)
義務だと思うと写真が窮屈になるため、ルーティンにして楽しむのがいいです。ひとつの発見で深く関われるため散歩も楽しくなりますよ。
設定について。2台持ちの醍醐味は
ファンクションボタンの割り当てなど、操作に関するものは2台共通にするほうがいいでしょう。28mmに向いている機能、40mmをアシストするのに最適な機能、それぞれありますが混乱するよりいいです。画像設定は思い切って変えて、使い分けを楽しむのもいいので、前回の記事を参考にしてください。
GR IIIならプログラムAEでガシガシ撮りたいけれど、GR IIIxは絞り優先にしてボケ量にこだわりたい、ということを思うようになったところから、2台持ちの醍醐味が始まります。
谷根千(東京を代表する下町)だからGR IIIをメインに、蔵前(東京のブルックリンと呼ばれる)ならGR IIIxをメインに撮ってみよう、とか。それってレンズ交換と何が違うの? と思うかもしれません。それが違うからこそGRはレンズ固定式を守り続けているのです。
あなたに最適なGRはどっち?
もしも5つ質問をさせてもらえたら、おすすめのGRを選んであげられると思います。例えば「ユニクロと無印良品どっちのお店が好き?」「ビュッフェと定食、ホテルの朝食ならどっち派?」「画面の傾きとフレーミングの甘さ、気になるのはどっち?」など。つまりは水平性と垂直性の違いです。
言うまでもなく例外はあって、こんなゲームみたいなことでGRそのものが自分に合わないと感じるようなら残念すぎます。これは私の考えですが、うまく撮れたことを喜びに感じるタイプならGR IIIxが、とにかく写真を撮ること自体が好きでたまらないならGR IIIが合うように思います。
GRを使っているというだけで「仲間だね」と通じ合える文化がありますから、身近なGRユーザーを見つけて一緒に写真を撮りに行けたらいいですね。