特別企画

超高精細も甘い描写も自由自在!今度のSILKYPIXは“生み出す画”が凄い!!

現像エンジン一新で生まれ変わった画質&機能をチェック

本当に驚いた。SILKYPIXシリーズの解像感のよさは以前から実感していたが、今回の「SILKYPIX Developer Studio Pro 11」(以下、「SILKYPIX11」)はその性能にさらに磨きをかけてきたからだ。

個人的に「オーバースペックでは?」と思えるほどのクオリティだが、それをあえて追及し実現する辺りが、“攻めた”RAW現像ソフトSILKYPIXシリーズなのだろう。

現像前
SILKYPIX11 現像後

SILKYPIXをご存じない方のために簡単に紹介すると、純国産のRAW現像ソフトとして長い歴史をもつ製品で、「繊細な画質」と「個性が出せる色作り」が魅力のソフトだ。

SILKYPIXでなければ作り出せない色もあるし、それが簡単に実現できるように工夫されている。

SILKYPIXの基本情報は紹介の必要もないくらいネット上に溢れているので、今回は「SILKYPIX11」の驚きの新機能を中心に見ていきたいと思う。

レンズの性能がアップしたようなスッキリ感——クリアビュー

「SILKYPIX11」を起動して、最初に確認したのが「クリアビュー」の効果。

SILKYPIXをはじめとするRAW現像ソフトは、色情報の羅列でしかないRAWデータを映像にするための変換処理をおこなっている。この処理が「デモザイク処理」と呼ばれるもの。

RAW現像ソフトの中核的な処理で、画質と色を決めるいわば心臓部に当たる。カメラなら映像エンジンだし、車ならエンジンに相当する、個性の源となるとても重要な部分だ。

今回の「SILKYPIX11」は、ここに手を入れてきた。

その結果として得られたのが、まるで視力がアップしたかのようなスッキリ感のある「超高精細」なディテール。

印象としては、ズームレンズと単焦点レンズの違いのような描写で、この画質を活かすにはしっかりとした撮影の技術と、解像感を見せつけるだけの“説得力”のある被写体が必要だ。

赤枠部分を「クリアビュー」設定と従来の「標準」設定で等倍に切り出して比較した。「クリアビュー」のほうが、岩肌の質感や水の流れる筋の見え方が向上しているのが分かる。

写真全体と拡大部分
クリアビュー
標準

冒頭でも感想を述べたが、多くのひとにとってオーバースペックかもしれない。この解像感を必要とする写真家がどれほどいるのか……。

いい換えるなら、「クリアビュー」の画質に魅力を感じたのなら、かなりの熟練者だろう。

「SILKYPIX11」はほかにも解像感を調整する新機能を搭載しているので、体験版を入手して自らの目で確認してもらいたい。

従来の設定(標準)に戻すことも可能

ちなみに、一部のハイレベルなユーザーしか「クリアビュー」のメリットは得られないのかというと、そんなことはない。この機能により基本的な画質がアップしているため、多くの写真愛好家に仕上がりのよさをもたらしてくれる。

「クリアビュー」は凄い技術だけれど、標準で機能がオンになっているから「知らぬ間」に恩恵を受けているということ。

それと、誤解しやすいかもしれないが、「クリアビュー」はシャープネスなどの画質調整機能ではない点に注意。写真を開くときに適用される表示方法の仕組みなので、写真が加工されるわけではない。

解像感アップの力技——「超解像」合成

解像感つながりで紹介したいのが、合成機能のひとつとして搭載された「超解像」合成機能。

「SILKYPIX11」はRAW現像ソフトでありながら、レタッチソフトのように写真が合成できるという“飛び道具”をもっている。「超解像」合成は、そこに新たに搭載された機能となる。

効果としては、デジカメに搭載されている「ハイレゾショット」と類似した機能で、複数の写真を合成してピクセル数の大きい高解像度の写真を作るというもの。さらに、ノイズの軽減もおこなってくれる。

合成結果としては、ピクセル数を元写真の「2.0」倍にするか、「1.5」倍にするかが選べる。

超解像
「合成方法」から「超解像」を選ぶと、オプションとして「出力倍率:2.0」、「出力倍率:1.5」と、「TIFF(16bit)」、「DNG」が選択できる。ちなみにDNGとは、RAW形式のこと

今回は試しに、3枚の写真を使って「超解像」合成をしてみた。

なぜ3枚なのかというと、筆者は普段からブラケティングで露出をバラして3枚撮影しているから。普通に「超解像」合成した作例は「SILKYPIX」のサイトに解説が出ているので参照いただきたい。

「超解像」機能を使うことを想定して、普段から同じ写真を何枚も撮ることはあまり現実的ではないけれど、露出のブラケティングで同じカットを複数枚撮影することは珍しくない。

その写真から「超解像」合成が作れれば一石二鳥。実践的な使い方といえる。

結果はというと、期待以上の高画質。

手持ちで撮影したため、合成に使った3枚の写真は微妙に位置がずれている。それにもかかわらず、合成後の写真はピタリと位置が揃い、解像感と画素数がアップ。ブラケティングの写真から作っても色や露出の崩れは感じられず、使い勝手がよさそうだ。

ここでは3枚の写真で試したが、枚数が多くなればその分画質がよくなり、ノイズ軽減の効果も高い。

±1段の異なる露出で撮影した3枚の写真を「超解像」合成に使用。元写真の画素数は、6,000×4,000ピクセル。

写真は、元、1.5倍、2倍の写真を等倍で切り出したもの。2倍のピクセル数になっても解像感が保たれ、さらにノイズも軽減。この作例を見る限り、±1段程度の露出差の写真なら問題なさそうに思える。

元の写真
出力倍率:1.5
出力倍率:2.0

こちらは、元、1.5倍、2.0倍の結果を同じ大きさに揃えて掲載した例。解像感が荒れやすい蕩けるようなハイライトも見事に描写。1.5倍は2.0倍に比べ、エッジの鋭さが感じられる印象を受ける。

元の写真
出力倍率:1.5
出力倍率:2.0

「出力倍率」の「2.0」と「1.5」倍の違いは、ピクセル数というよりは画質の硬さで選ぶとよさそう。

「2.0」倍は元の画質をそのまま大きくした印象で、「1.5」倍のほうはエッジが際立った印象。クッキリ感を出したいときは「1.5」倍が重宝するだろう。

ちなみに、元の写真がJPEGとRAWでは、断然RAW形式をベースにするべき。解像感のアップという高品位化を図るのだから、ここは妥協してはいけないポイントだ。

合成後の画像形式は、元がRAWの場合は「TIFF(16bit)」か「DNG」(RAW形式)、JPEGの場合は「TIFF(16bit)」が選択可能。合成後にRAW形式が選べるのは、色調整の面からもありがたい。

ノイズリダクションの新たな選択肢——「多重露光(動体)」合成

新機能のうち、その名称から目的が分かりにくかったのが、「多重露光(動体)」合成機能。

多重露光というと、異なる写真を重ねてコラージュのような映像を作るイメージだが、「多重露光(動体)」合成はノイズリダクション系の機能といえる。

効果としては、同じ構図の写真を重ねてノイズを軽減するというもの。このタイプの機能や処理は珍しいものではないが、「多重露光(動体)」機能のよく考えられている点は「ベースとなる写真」が指定できること。

ベースの写真(代表コマ)の画柄を使い、そのほかの写真はノイズを消すために用いられているため、合成しても写っている被写体が消えたりすることがない。手持ち撮影で微妙に構図がズレた写真も、自動で位置合わせしてくれる。

「多重露光(動体)」合成機能
①最初に選んだ写真が「代表コマ」になり、②それ以外は主にノイズ処理に使われる。合成機能は、③「選択コマを合成」ボタンをクリックして起動。設定に関しては、④「多重露光(動体)」を選んだら、⑤位置ずれ補正の有無と、⑥「出力形式」を指定するだけでOK

同じ構図で複数カットがあれば、パラメーターの調整なしでノイズが軽減できるという点はとても便利。合成結果を見ると、通常のノイズリダクション系機能のように解像感が甘くなることもなく、元の画質を維持してノイズを取り除いてくれる。

技術も経験も必要としないため、エントリーユーザーでも高品位なノイズリダクションが実現できる優良機能だ。

「代表コマ」の赤枠部分を等倍で切り出した例。元の状態、3枚合成、5枚合成を比較すると、枚数が多いほうがノイズ軽減力が高い。ノイズが気になるシーンでは積極的に使いたくなる機能だ。

代表コマ
元の状態
3枚合成
5枚合成

デメリットがあるとすれば、この機能を使うために複数の写真が必要という点。ノイズが気になりそうなシーンでは、あらかじめ複数カットを撮影しておくという手間が必要になる。

でも、大丈夫。

「SILKYPIX11」には、過去のバージョンから進化してきたノイズリダクション機能が備わっている。こちらは、1枚の写真からでも高品位にノイズが軽減できる優れた機能だ。

「多重露光(動体)」合成機能と異なり使いこなすには技術を要するが、ノイズを処理する性能は一級品。スキルのあるユーザーなら、両方の機能を比較してより効果的に処理できる方を選ぶという使い方もある。

色の作り込みが容易に——ファインカラーコントローラ「詳細」

SILKYPIXシリーズは攻めた機能をたくさん搭載しているにも関わらず、「なぜこれができない?」と不思議に感じていた処理がある。それが、色の変換。

従来のバージョンでも「ファインカラーコントローラ」と呼ばれる色を変換する機能は搭載されていたのだが、この機能は微調整的なもので、「赤を青にする」ような大幅な変換はおこなえなかった。

「SILKYPIX11」は、この「ファインカラーコントローラ」に新モードの「詳細」機能を搭載し、大幅な色の変換を実現。

変換する元の色の範囲や変換後の色、色の換え方などが細かく指定でき、色の作り込みがしやすい。色変換の可変幅が広いので、塗り替えるように色が変えられる。

「ファインカラーコントローラ」の「詳細」機能の効果。写真上で色をクリックすると、変えたい色の範囲が白枠で表示される。①「カラーサークル」で●(元の色)をドラッグし、②変換後の色を指定すると色が変えられる。

補正前
補正後

色を変える作業自体はとても簡単で、変えたい色をクリックして指定し、変化後の色を「色相」「彩度」「明度」スライダーで作るか、「カラーサークル」でセットすればよい。

ここまでは、筆者もマニュアルなしで作業できたし、仕組みを知らずとも問題なく扱えていて楽しいのだが、この機能を説明するとなるとちょっと困ってしまう。

「ファインカラーコントローラ」の「詳細」機能で、色変換の特性を担っている設定が「階調優先」という部分。「全域」「色相」「彩度」「なし」の4パターンが選べて、「なし」にすると、変化後の色にすることができる。

これがもっとも分かりやすくて、大きく色が変更できる設定だ。

「階調優先」を「なし」にすると、①写真上で指定した色とその範囲(白枠内の色)が、②変換したい色で塗りつぶされるように置き換わる。

補正前
「階調優先なし」で補正

問題は、「全域」「色相」「彩度」がどのような変換をおこなっているのかという点。

マニュアルによると、「『変換元』の点から色相および彩度方向にグラデーションがかかるような色のつながり~」となっている。

変換結果から想像すると、前述の3つの設定はクリックで指定した色を徐々に変化させる設定のようだ。元の色とミックスされるように変化するため、色の変化量は少なくなるがベタ塗りのようにならないという特性がある。

「色相」は色みの変化を優先し、「彩度」は鮮やかさを優先し、「全域」はその両方もち合わせた設定といえる。

まずは、滑らかな色の変化を望むなら「全域」、完全に置き換えるなら「なし」と覚えておくとよいだろう。

「階調優先」の「全域」「色相」「彩度」設定は、①元の色から、②変換したい色に向かって徐々に色が変化するため、色のつながりがよいという特性がある

アンニュイな画作りの強い味方——「明瞭度」

「SILKYPIX11」は、画質の甘さを出す機能も搭載してきた。その機能が、「部分補正ツール」に搭載された「明瞭度」スライダーだ。

この機能は文字どおり画質を明瞭にするものだが、スライダーをマイナス調整することで紗のかかったような甘い画質が作り出せる。

「部分補正ツール」に搭載された「明瞭度」スライダー。プラス方向に調整すると、「シャープ」機能とは異なるクッキリ感が得られる。マイナスの調整で得られる滲んだような描写は、幻想的な演出に適している。

補正前
明瞭度:+100
明瞭度:―100

「明瞭度」はブラシなどで指定した範囲に対して適用できるため、マイナス調整して肌の質感を滑らかにするような処理に便利。ポートレート系の写真家なら、この使い方が多くなるだろう。

スナップ系の写真家は、ぜひ「段階補正フィルタ」と組み合わせてみてほしい。「段階フィルタ」とはグラデーションを描くように部分補正が適用できる機能で、この機能を使い画面のハイライト部分を覆うように選択すれば、「明瞭度」スライダーのマイナス調整でアンニュイな描写が作り出せる。

追加で、「ぼかし」スライダーでほんの少しだけぼかしをかけると、ゆるい解像感のまったりとした画質に仕上げられるし、そこからコントラストを少し下げたり、プラス補正したり、色温度を変えたりと、作画のイメージは膨らむに違いない。

「段階補正フィルタ」で水面部分を選択し、「明瞭度」スライダーを「―100」に設定。水面の反射が滲むようにやわらかくなり、幻想的な印象が出ている。

補正前
明瞭度:―100

すこぶる高い利用価値——「Auto領域指定ツール」

「ホワイトバランス」に搭載された「Auto領域指定ツール」は、地味ながら色補正の中核となりそうな機能だ。もしかすると、多くの写真家にとってはこの機能の恩恵がもっとも大きいかもしれない。

Auto領域指定ツール
「Auto領域指定ツール」は、①「ホワイトバランス」の設定を「Auto」にすると、②「Auto領域指定」がアクティブになり選択できる

この機能は、指定した範囲の色温度をオートで補正するというもの。

類似機能に色をクリックして補正する「グレーバランスツール」が搭載されているが、この機能とは使い勝手が大きく異なっている。

「グレーバランスツール」はクリックした色を無彩色にするため、“効きが鋭い”機能だ。その代わり、「この色の偏りを取る」という絶対的な補正がおこなえる。

対して「Auto領域指定ツール」は、指定した範囲の偏りを軽減するように「オートホワイトバランス」を適用する。通常の「オートホワイトバランス」は写真全体の色で判断されるが、それが部分的な色を元に補正できるようになったということ。

カメラの露出計でいうなら、「オートホワイトバランス」が評価測光、「グレーバランスツール」がスポット測光、「Auto領域指定ツール」は部分測光、のようなものだ。

「Auto領域指定ツール」の効果の例。枠で囲んだ範囲のホワイトバランスで写真全体が補正できる。

補正前
①の部分を範囲指定
②の部分を範囲指定
③の部分を範囲指定

指定枠の大きさは自由に変えられるので、広い範囲でナチュラルに色補正をしたり、狭い範囲でミックス光のひとつに色温度を合わせたりなど使い勝手がよい。

しかも、その後にスライダーで調整も可能なので、「Auto領域指定ツール」で見せたい部分の色に合わせてから、スライダーで色を追い込むような使い方が可能。

露出やコントラストに関しても、類似の機能をぜひ実現してほしい。
「自動露出補正」は搭載されているが、被写体を部分測光するように全体の露出が整えられれば、初心者だけでなく大量の写真を扱う上級者も作業が捗り便利ではないだろうか。

iPhoneユーザーにうれしい機能——「領域情報フィルタ」

ユーザーが限定される新機能になるが、iPhoneのApple ProRAWで撮影した写真の領域情報(Semantic Masks)に対応した。

写っている内容に合わせて「空」「肌」「ポートレート」の範囲を自動認識し、その範囲に対して部分補正が効率よくおこなえる。

ただし、現状(2022年1月執筆時)では、「iPhone 12 Pro」および「iPhone 12 Pro Max」で撮影したRAW形式のみ対応と、かなりニッチな機能でもある(iPhone 13 Pro/13 Pro Maxは検証中)。

追記:1月27日 Apple iPhone 13 Pro, 13 Pro Max 対応済み。

領域情報フィルタ
対応した写真を表示すると、「部分補正ツール」の「領域情報フィルタ」ボタンがアクティブになる。クリックすると被写体により「空」「肌」「ポートレート」の項目が表示され、補正すると自動で補正範囲が作られる(作例撮影:編集部)

空や人物を自動選択というと「選択した被写体」を補正する機能と思いがちだが、範囲を反転して人物の背後をぼかしたり、空以外の露出を整えたりなど、使い道は多い。

現状ではiPhoneに限定されているが、このような仕組みが多くのデジタルカメラに搭載されはじめると、RAW現像やレタッチはもっと効率よくなるのだろうなと希望を抱く機能でもある。

「領域情報フィルタ」は「反転」機能があるため、空を補正するだけでなく、「反転」にチェックを入れて地表物を補正する使い方もできる。

空を補正した例
(作例撮影:編集部)
空以外を補正した例
(作例撮影:編集部)

まとめ:初心者から上級者まで満足できる高機能RAW現像ソフト

「SILKYPIX11」は機能をより深く掘り下げ、色と画質に磨きをかけてきた印象だ。高度で緻密なテクニックを駆使して存分にRAW現像が楽しめる。

その反面、底上げされた基本性能はエントリーユーザーへの恩恵ともなっているのも事実。写真を開くだけで従来よりも高品位になっていたり、「オートホワイトバランス」が使いやすくなっている辺りは、初心者ユーザーも忘れていない証しだろう。

個人的には、「SILKYPIX11」は歴代バージョンの中でもかなり気に入っている。「このソフトでしかできない」という処理が増えたため、ますます手放せなくなってしまった。

今回のバージョンも従来どおり、搭載する機能により「プロフェッショナル版」と「スタンダード版」が用意されているので、使いたい機能に合わせてチョイスしてみよう。

とはいうものの、「SILKYPIX11」に関しては「プロフェッショナル版」がおススメ。「スタンダード版」は「合成機能」や「部分補正ツール」「Auto領域指定ツール」など、「SILKYPIX11」の独自性ともいえる機能の多くが未搭載なので、少し寂しい気がする。

せっかく「SILKYPIX11」を使うのなら、これらの機能のクオリティや可能性、便利さに触れてもらいたい。

制作協力:株式会社市川ソフトラボラトリー

桐生彩希