写真展レポート

竹内敏信写真展「日本の桜」NIPPON-NO SAKURA

トークイベント「竹内一門 おおいに師匠を語る」より

撮影:竹内敏信(愛媛県久万町、現久万高原町)

竹内敏信氏は風景写真の魅力を広げ、多くの写真愛好家をこの世界に引き寄せた写真家だ。大型カメラで精緻に風景を捉えることが本道だったが、35mmカメラを使い、瞬間に見せる美しさや躍動感のある表現をも写真に収めていった。

本展では作者のテーマの一つである桜の写真で構成した。写真集「櫻」「櫻暦」「山櫻」「一本櫻百本」からセレクトした写真とともに、昨年春、東京ミッドタウン内で撮影した新作も並ぶ。

竹内氏は当時隆盛だったグラフジャーナリズムに憧れ写真を志した。最初の写真集「花祭」は愛知で700年以上続く神事芸能を記録したもので、その撮影の傍ら、35mmカメラで風景を撮影していた。1984年に制作されたキヤノンのカレンダー「天地聲聞」で一躍、風景写真家として注目されるようになった。

竹内敏信氏。「日本の桜」NIPPON-NO SAKURAが富士フイルムスクエアで開催中。
2019年3月21日に行われたトークイベント「竹内一門 おおいに師匠を語る」の模様。

風景を見る真摯な目

アシスタントが口を揃えるのは被写体を発見する眼の良さと、瞬間を見つけてそれに対応するスピードだ。有名な場所は選ばず、偶然、見つけた被写体を求めて撮ることが多かった。

桜の撮影でも場所は決めず、「常磐道を北へ」という指示で動き始めることもあった。

「車中では双眼鏡で被写体を探し、師匠が手を上げたら止まれの合図です。撮影場所に着いたら、撮りたいイメージに合った機材がすぐに用意できないと、イライラしているのが分かる。それは今ある光を逃したくないからで、それが写真に存在感、迫力を生む秘密の一つです」(佐々木啓太氏)。

「ある時、遠く離れた場所を指示された。近づいてようやく被写体が分かったが、師匠はあの距離でこれが見えていたのかと不思議でした」(阿南一夫氏)

撮影:竹内敏信(長野県三郷村 現安曇野市三郷村)

清水哲朗氏は「1日の走行距離は400㎞が目安でした」と言う。ある時の取材では車で東京を出発し、滋賀県の米原で竹内氏と合流。日本海に出たが桜には早く、何も撮らないまま、太平洋側へと向かったそうだ。

撮影には35mmと67判、645判が必須で、それぞれ2台ずつ。さらにスタジオで使う大型の4×5判をロケに持ち出すこともあった。

「雪の北海道でこの装備を運ぶのは一苦労でした。普通、アシスタントがラッセルするのですが、僕が歩くと体重のせいか足跡が深くえぐれて後続は歩きづらいらしく、僕の時は師匠がラッセルしていました」(井村淳氏)

もう一点、7人が共通して指摘するのは、竹内氏が行く先々で良い風景に出会う確率の高さだ。

「風景が劇的にどんどん変化するのを目の当たりにして驚くばかりでした」(秦達夫氏)

「地元の写真愛好家さんに案内を頼むこともありましたが、彼らがこれまでに見たことがないという風景に何度も出会いました」(井村淳氏)

それは「私欲ではなく、美しい風景を多くの人に伝えたいとの想いが強くあるから、そういう風景を引き寄せるのではないか」と古市智之氏は指摘する。

橋の上で撮影していた時、強風で遮光用のシャワーキャップを飛ばしてしまった。

「現場を汚すことを何より嫌い、この時が一番強く怒られました。カメラにフィルムを装填し忘れる大失敗もしましたが、この時ほどではありませんでした(笑)」

撮影:竹内敏信(東京都渋谷区代々木公園)

カメラコレクターの側面も

竹内氏はクラシックカメラのコレクターとしても著名であり、収蔵数は約1,800点。昨年、名古屋学芸大学へ寄贈された。

「写真誌の中古カメラ店の広告を見て、朝一番で買いに行くことが何度もありました。ただ初めてのおつかいでは先客が2人いて買えませんでした」

収蔵品のメンテナンス要員として事務所に入ったと自ら言うのが種清豊氏だ。自身もコレクターであり、実際、竹内氏とは中古カメラ店で出会ったという。

「撮影にはクラシックカメラを数台持ち、期限が切迫したフィルムを好んで使って撮影していました」

竹内氏と何度もカメラを買いに行き、「何台か買ってもらったことがあります」と明かすと、ほかの6名から驚きの声が上がった。

東京ではちょうど3月21日に桜の開花宣言がされた。ここフジフイルムスクエアの会場では、いち早く見事な桜が満開だ。

撮影:竹内敏信(福島県郡山市紅枝垂地蔵桜)

FUJIFILM SQUARE 企画写真展 竹内敏信写真展 「日本の桜」 NIPPON-NO SAKURA

会場

フジフイルム スクエア
東京都港区赤坂9-7-3

開催期間

2019年3月15日(金)〜4月3日(水)

開催時間

10時00分〜19時00分(入館は終了10分前まで)

休館

無休

入場料

無料

ギャラリートーク「師匠と歩いた桜の道」

3月31日(日) 写真家 福田 健太郎氏(14時00分と16時00分からの2回。各約40分)

市井康延

(いちいやすのぶ)1963年、東京生まれ。ここ数年で、新しいギャラリーが随分と増えてきた。若手写真家の自主ギャラリー、アート志向の画廊系ギャラリーなど、そのカラーもさまざまだ。必見の写真展を見落とさないように、東京フォト散歩でギャラリー情報の確認を。写真展の開催情報もお気軽にお寄せください。