新製品レビュー
リコーイメージング PENTAX 17
使いこなしが奥深く楽しいハーフサイズコンパクトフィルムカメラ
2024年7月15日 07:00
リコーイメージングより、2024年7月12日(金)に発売されたコンパクトフィルムカメラの「PENTAX 17」。まさかこの時代に新品のフィルムカメラが大手メーカーから発売されるとは思ってもみなかったこともあり、結構なお祭り騒ぎになっているようです。
今回は、発売前に本機を試写させていただく機会に恵まれましたので、実際の使用感はもちろんのこと、これまでのフィルムカメラ、そしてこれからのフィルムカメラのあり方の考察を交えながら、「PENTAX 17」の存在意義を、あくまで難しく考えない範囲で見ていきたいと思います。
コンパクトフィルムカメラとして最適なサイズ感
フィルムカメラと言うこともあって、いつもの “デジカメ Watch” とは随分勝手が違いますね。それでもここは、いつも通りにザックリ話を進めてみたいと思います。
「PENTAX 17」の外形寸法は、幅が約127.0mm、高さが約78.0mm、奥行が約52.0mmとなっています。小さいのは確かですが、昨今の小型・軽量化を意識したミラーレスカメラと比べると、さほど小さいわけではありません。ここは、ミラーレスカメラの進歩が素晴らしいともとれますし、フィルムを詰めながらここまで小さいのは、スゴイこととも受け取れましょう。
ただし、質量に関しては「PENTAX 17」が290g(本体重量)と非常に軽量なのに対し、ミラーレスカメラは軽量と言われる部類でも最低350gは超える(ボディ単体)のが普通です。長いフィルムカメラの歴史のなかにあって、決して最軽量と言うわけではありませんが、「PENTAX 17」がデジタルカメラに比べて圧倒的に小さくて軽いことはお分かりいただけるのではないかと思います。
今どきのコンパクトフィルムカメラに求められる操作性
ハーフカメラですので、ファインダーは縦長になります。そのファインダーがカッコよくて「PENTAX 17」のデザインを特徴づけていますね。
接眼方面からファインダーを見るとアルバダ式のブライトフレームが良く見えます。内側の枠は近距離時の視野補正枠。そもそも視野率がそれほど高くないこともあり、遠距離でも近距離でも思った通りに構図を作るのは非常に難しかったです。しかし、コンパクトフィルムカメラと言うのはそもそもそういうものですので、そんなもどかしさに楽しさを見つけたいものです。
接眼部右横の2つの丸は、警告系の青ランプとフラッシュ系の橙ランプです。青ランプが点滅したときは何かしらが撮影に支障がある状態(例えばレンズキャップをしたままシャッターを切ろうとしているなど)ですので、ここはよくよく注意をした方が良いでしょう。
「巻き戻しノブ」を引き上げて裏蓋を開いた状態。こうしてみると、本機が35mm判1コマを2分割して17×24mmサイズにしたハーフサイズフォーマットのカメラであることがリアルに分かります。
「巻き戻しノブ」を引き出して、時計回りにクルクル回すとフィルムを巻き戻せるのですが……。
マニュアルフィルムカメラのお約束で、フィルムを巻き戻す時は底面にある「巻き戻しボタン」を押さないとフィルムが巻き戻せない仕組みです。この「巻き戻しボタン」は、巻き戻し中にずっと押し続けなければいけないタイプなのが少々面倒ですが(1プッシュでリリースされるタイプもあります)、「PENTAX 17」は愛おしいカメラですので、面倒でもすぐに慣れてしまうのではないかと思います。
マニュアルのフィルムカメラらしく「巻き上げレバー」でフィルムを給装します。レバーでフィルムを巻き上げるのはすごく楽しい作業です。コンパクトカメラにこのカラクリをとりいれてくれたのは本当に嬉しい。
現在何コマ目まで撮ったかは、「巻き上げレバー」の横にある「フィルムカウンター」で確認します。ハーフカメラですので、カウンターのコマ数は最大が72コマになっています。
フラッシュも内蔵しています。ガイドナンバー約6(ISO 100・m)となっており、「PENTAX 17」に搭載されている25mmレンズの画角をカバーしています。フラッシュの充電までに約9秒かかり、そこは先述のファインダー横の橙ランプ(充電中点滅、充電完了で点灯)がお知らせしてくれます。
グリップにあるコインネジを外すと電池室が現れます。使用できる電池は「CR2」で、これは購入時に1個付属しています。当たり前ですが、充電する必要はありませんので(むしろできない)、購入後すぐにカメラを使えます。
「ゾーンフォーカス」の意外な難しさと楽しさ
「PENTAX 17」は、描写性能に定評のあった「PENTAX エスピオ ミニ」のレンズ光学系をもとに、ハーフサイズフォーマット用に新たに設計し直したトリプレットタイプの25mm(35mm判換算37mm相当)の単焦点レンズが搭載されています。
まあそれは良いのですが、「PENTAX 17」は一般的に想像されるマニュアルフォーカスでなく、この手のカメラとしては良く採用されるところの「ゾーンフォーカス」を採用していますので、そこらへんをちょっとだけ詳しく説明させていただきたいと思います。
マクロ(0.24m~0.26m)
「チューリップのマーク」です。最短撮影距離での撮影らしい意匠ですね。0.24m~0.26mという、本機のレンズとしては極めて近接な撮影領域になります。当然、ピント合わせは難しくなりますが、付属のハンドストラップをピンと張ると、ちょうど24cm付近になりますので、案外正確なピント合わせが可能です。
テーブルフォト(0.47m~0.54m)
「マクロ」ほどではないけど近接撮影が得意なゾーンです。ナイフとフォークのマークが印象的ですね。名前の通り、得意な守備範囲はテーブルフォトで、卓上に並べられた2、3の料理を撮るのが得意な距離感だと言えましょう。応用範囲は広めながら、被写界深度は案外狭いため、距離感についてはそれなりに慎重になる必要があるかもしれません。
至近距離(1.0m~1.4m)
「1人の人物のバストアップ的な記念撮影」を撮るのに最適なゾーンということになります。マークも概ねそんなイメージです。作例では花壇に咲く花を広めに撮っていますが、こうした日常的な使い方を「テーブルフォト」に類似する距離感として使ってゆくと、良いのではないかと思います。
近距離(1.4m~2.2m)
「2人くらいのウェストアップ的な記念撮影のマーク」になっています。実際に被写界深度は2.1m~5.3mですので妥当だと思います。このゾーンもスナップ撮影で多用するゾーンですので、ある程度厳密にピントを合わせたい場合は近距離と、次にでてくる中距離の使い分けがキモになってくるのではないかと思います。
中距離(2.1m~5.3m)
「3人くらいの全身を撮る記念撮影のマーク」になっています。街スナップなどでは重要な距離感のゾーンで、前出の「近距離」と丁寧な使い分けをしたくなるところです。撮影ゾーンの2.1m~5.3mと言うのは、まさに数名の記念写真を撮るのに最適な距離感ですので、旅先での写真撮影にもよく使うことになるゾーンなのではないでしょうか。
遠距離(5.1m~∞)
「山のマーク」です。要するに無限遠のピント位置です。ただし、被写界深度が深めに設定されている「PENTAX 17」の場合、遠くとも5.1m以遠は被写界深度内となりますので、風景撮影などには使いやすいゾーンと言えるのではないかと思います。5.1m以上離れた被写体なら迷わずこのゾーンです。
というわけで、「PENTAX 17」の特徴のひとつである「ゾーンフォーカス」について説明してきましたが、いつも的確に合わせようとするのはなかなか難しく、結構な慣れが必要だと言うのが実感です。
実のところ、リコーイメージングとしては撮影モードはまず「AUTO」にして撮影してほしいとのことです。撮影モード「AUTO」は、なるべく被写界深度を深くする設定ですので、「写るんです」などのレンズ付きフィルムのように、ピント位置に悩まなくて済むうえ、レンズ付きフィルムよりも高度な撮影設定が得られます。
撮影モードについては、次章に譲りますので、単純そうに見えて実はそうでない「PENTAX 17」の真価を見てください。
今となっては結構オリジナルな「撮影モード」
「PENTAX 17」には、いまどきの一般的なカメラと同じように「撮影モードダイヤル」を備えています。しかしその内容は、マニュアル露出や絞り優先AE、シャッター速度優先AEと言った並びとは随分異なったものになっています。知らないとどう使っていいか迷ってしまうと思いますので、ここでそれぞれの「撮影モード」について説明をしてみます。
【AUTO】
「AUTO」はオートです。なるべく被写界深度を深くしたパンフォーカスになるようにオートで設定されていますし、必要と判断された時にはオートでフラッシュを発光する撮影モードです。フラッシュが自動で発光されるのはこの撮影モードだけです。
「PENTAX 17」の基本となる「露出モード」で、レンズ付きフィルムと同じように撮れながら、それよりはずっと高度なオート撮影を実現してくれます。
【P】プログラム:標準
カメラが最適と判断した露出を自動的に適用してくれるオート撮影です。ただし、ピントはゾーンフォーカスから自分で選択して、フラッシュの発光はありません。
ゾーンフォーカスでピント位置を自分の意思で選びながら、露出はカメラ任せ(基本的に「PENTAX 17」の露出はカメラ任せです)と言う場合に最適な撮影モードと言えるでしょう。日中の撮影はこのモードでいけると思います。
【BOKEH】「絞り開放」でボケ味を優先した露出設定
ボケ味、ボケの大きさを優先するために「絞り開放」で撮影することを優先した撮影モードです。ゾーンフォーカスは自分で選ぶ必要がありますし、フラッシュの自動発光もありません。
ゾーンフォーカスで最適なピント位置を選択できれば、ハーフサイズフォーマットで37mm相当の焦点距離でも思った以上のボケ量を得ることができます。特に、マクロ~至近距離撮影時に効果を発揮してくれます。
【B】バルブ
基本的に絞りは開放F値のF3.5となり、シャッター速度はシャッターボタンを押してから離すまでの秒数となります。「PENTAX 17」で唯一のマニュアル露出的な撮影モードと言えるでしょう。別売りのケーブルスイッチ(CS-205)と三脚の使用がオススメ、と言うより前提になります。いわゆる長秒時露光に適した撮影モードです。
【P+フラッシュマーク】日中シンクロ
この撮影モードにするとフラッシュが強制的に発光されます。「日中シンクロ」という名称にはなっていますが、今回の試写では。フラッシュ光の当たった主要被写体は適正露出で、背景は暗く写っていました。シンクロと言うよりは、一般的なフラッシュ撮影のモードに近いようです。
【月のマーク+フラッシュマーク】低速シンクロ
フラッシュが発光するのは「日中シンクロ」と同じですが、こちらは背景も適正な明るさとなるように露出がコントロールされます。夜景などの背景の明るさはそのままに、フラッシュの当たった手前の被写体は明るく写すことができます。
暗いシーンに適した露出になりますのでシャッター速度は遅くなることが多く、下の作例では盛大に手ブレを起こしてしまいました。三脚が必要になることが多そうです。
「撮影モードダイヤル」もなかなかに使いこなしは難しく、普段は撮影モード「AUTO」を基本とした方が良さそうです。「AUTO」での撮影に慣れたうえで、常にフラッシュは発光させたくないので「P」を選ぶ、ボケ味の効いた印象的な写真を撮りたいので「BOKEH」を選ぶといった具合に、自分が撮りたいイメージに合わせて、他の撮影モードに発展していくと無理なく楽しめるのではないかと思います。
単純そうに見えて、思ったより奥深い撮影ができる機能を備えているところは「PENTAX 17」の良いところですね。
応用を効かせたい「PENTAX 17」の露出補正機能
オート露出を主体とする「PENTAX 17」ですが、撮影者が意図して写真の明るさを調整できるよう、きちんと「露出補正ダイヤル」を装備しているのは嬉しいところです。
例えば露出補正をせずに逆光で写真を撮ると、下の作例のように影になった船は黒くつぶれがちになってしまいます。
そこで、影になった船が明るく写るように、「露出補正ダイヤル」を+2にして撮影したのが下の作例です。多くのコンパクトフィルムカメラやレンズ付きフィルムではなかなかできない芸当ですね。
ただ、露出補正ダイヤルの設定幅が、-2~+2と比較的狭いことが玉にキズ。ラチチュード(デジタルカメラのダイナミックレンジのようなもの)の広いネガフィルムの場合、デジタルカメラやリバーサルフィルムのようにダイレクトに明るさが反映されず、1~2段程度の露出差はプリント時の補正で分かりにくくなってしまうことが多いです。作例は、プリント注文時に補正をしないようお願いしたため、そこそこの違いがでています。
そこでオススメしたいのが、「ISO感度ダイヤル」での露出補正です。例えば、ISO 400のフィルムを使っていた場合、プラス補正をしたいなら「ISO感度ダイヤル」を正規のISO 400でなくISO 200にセットすれば+1EVの露出補正をしたことと同じになり、ISO 100にセットすれば+2EVの露出補正をしたことと同じになります。
マイナス補正をしたい場合は、逆にISO感度ダイヤルをISO 800や、それ以上にすればOK。使うフィルムのISO感度にもよりますが、「露出補正ダイヤル」と「ISO感度」ダイヤルを組み合わせれば、-5EV~+5EV、あるいはそれ以上の幅広い露出補正が可能になります。
ISO 200のカラーネガフィルムを使って、露出補正をせずに撮影した夕陽と海の写真は下のような結果。「PENTAX 17」の最新鋭な露出精度には驚かされるところですが、夕陽のイメージとしてはもっとアンダーにしたい……。
ネガカラーフィルムですので、-2EV程度では効果が薄いだろうと考え、「露出補正ダイヤル」を-2EV、「ISO感度ダイヤル」をISO 800の-2EV相当、合計-4EVの露出補正を行った写真が以下になります。全体が十分にアンダーとなり、主役の夕陽が効果的に輝いているさまを表現できたのではないかと思うのですがいかがでしょう。
実はこの「ISO感度ダイヤル」を露出補正として活用する方法は、マニュアルフィルムカメラを愛用している人にとっては、わりと常套的な使い方です。わずかなスペースに±2EVまでの「露出補正ダイヤル」を搭載している「PENTAX 17」ですが、それも「ISO感度ダイヤル」を利用しての露出補正の活用を見越してのことだったのではないかと思うのです。
その他の作例
すでにここまでの作例で何度も登場していますが、太陽などの強い光源に対する逆光耐性は、コンパクトフィルムカメラとは思えないほど高いです。しかも9枚羽根による本格的な絞り機構を搭載していますので、光源まわりから発生する光芒(光条とも)も多数出て印象的です。最新にして最適化されたHDコーティングが施されているおかげでしょう。
「ゾーンフォーカス」や「撮影モードダイヤル」の選択は思ったより難しい、といったことはさんざん上述していますが、それを的確に示すかのような作例が以下になります。ピントも明るさも、全然思ったようにはいってません。でもこれはこれでアリかな? と思えるところがコンパクトフィルムカメラの良いところ。自分の使いこなしとカメラの熟成を長い目で見て楽しめます。
上の作例に反して、偶然うまく行ってしまったのが以下の作例です。ネコの瞳になるべくピントを合わせようと「撮影モード」は「BOKEH」、「ゾーンフォーカス」は「テーブルフォト」を選んだのですが、結果的には手前のネットにピントがあってしまいました。だがそれがいい。結果だけを主張して「あえてネットにピントを合わせることでネコの存在感を演出しました」とか言いたくなります。「PENTAX 17」の面白いところですね。
「ゾーンフォーカス」を遠距離にして海辺の光景を収めてみました。なかなか選択に迷う「ゾーンフォーカス」ですが、遠距離とマクロについては、フレーム枠が明確なだけに構図を決めやすく感じました。この2つを基準にして、途中の「ゾーンフォーカス」におけるパララックスに慣れていけば最強の「PENTAX 17」使いになれるのではないかと期待が膨らみます。
まとめ
比較的に素朴な機能を備えているため、基本の撮影モードで気楽に楽しめるのが、ハーフサイズフォーマットを採用したコンパクトフィルムカメラである「PENTAX 17」です。難しいことは考えずに、「AUTO」で感性の赴くままにパチパチお気に入りの写真を撮っていくのが本来の正しい使い方でしょう。
でも一般的なコンパクトフィルムカメラより、ずっと高度な撮影条件にも対応しているのが「PENTAX 17」の素晴らしいところ。そこは本機を使いこなしていくうえで「もっと自分らしい写真を!」と感じた時、意欲的に挑戦していけば良いことだと思います。36枚撮りのフィルムなら、72枚以上撮れるという長い時間が許されているのですから、その熟成期間も楽しめるのではないでしょうか。