新製品レビュー
ニコン Z6III
“部分”積層型センサーの画質・スピード性能は? EVFも進化
2024年7月25日 07:00
7月12日(金)に発売されたニコンの「Z6III」は、35mmフルサイズのイメージセンサーを搭載したZマウントのミラーレスカメラです。
前モデルとなる「Z6II」から、デザインや操作系はおおむね大きな変更がないまま、「部分積層型CMOSセンサー」を採用していることが大きな特徴。画像処理エンジンも最新の「EXPEED 7」に進化しています。つまり「Z6III」は中級機としては珍しい、スピード性能の獲得を目指したモデルと言うことになるのではないかと思います。
上位モデルに位置づけられる「Z9」や「Z8」も、積層型センサーを採用しています。でも、「Z6III」に採用されたのは「部分」積層型です。それって、実用上の性能がどれくらいなのか気になりますよね? 今回はそのあたりに注目してレビューをお届けしたいと思います。
「部分」積層型センサーと最新の画像処理エンジン
「Z6III」の外形寸法は、幅が約138.5mm、高さが約101.5mm、奥行が約74mmで、質量が約670g(本体のみ)となっています。前モデルの「Z6II」は幅約134mm、高さ約100.5mm、奥行約69.5mmで、質量は約615g(本体のみ)ですので、新しい「Z6III」の方が少しだけ大きく重くなっているようです。
搭載する撮像素子は、有効約2,450万画素の35mmフルサイズCMOSセンサーで、画像処理エンジンは「Z9」や「Z8」、あるいは「Zf」などと同じ「EXPEEED 7」です。「Z6II」が搭載する「EXPEEED 6」に比べ、約10倍速い高速処理が可能とのこと。
ただ、極端に画作りが進化したわけではありませんので、解像性能に関しては、画素数が同等でもともと優れた画質をもつ「Z6II」と、明確な違いはそれほどないと思います。
「Z6III」が「Z6II」と決定的に異なるのは、世界初の部分積層型CMOSセンサーを搭載したスピードモデルと言うところ。「部分」と言うのが引っかかって「実際のスピード性能はどうなの?」となりますが、そこは大切なことですので後ほど詳しく述べさせていただきます。
そしてほかの側面として「スピード性能が上がった分、高感度性能は犠牲になっていないのか?」と言うのもまた気になる部分ですね。「Z6II」はニコンのなかでも高感度性能が優れていることで一定の人気があったモデルです。
「Z6III」の常用最高感度はISO 64000。これは前モデル「Z6II」のISO 51200よりも高く、有効約2,400万画素で同等の画素数を持つイメージセンサーを搭載する「Zf」と同じになります。
画素数が同等とは言え、スピードモデルになったのに高感度性能が向上しているのは不思議に思えますが、こうしたことは画像処理エンジンの処理能力が進化したデジタルカメラではまま見られることです。常用最高感度のISO 64000で撮影した作例が以下になります。
常用最高感度とは言っても、スマートフォンやPCのモニターで見る限りはほとんど破綻なく画を成立させているのはさすがと言えるでしょう。ちなみに、高感度としてよく使われるところのISO 6400で撮影したのが以下の作例です。
よほど拡大して確認でもしない限りは、十分に高画質と言ってよい出来だと思います。スピード性能の向上を果たした「Z6III」ですが、高感度性能も前モデルより幾分向上していると考えて問題ないと思います。画像処理エンジン「EXPEEED 7」の真価によるところが大きいのでしょう。
操作系に関する各部の特長
操作系についてのお話です。いきなりEVFから話がはじまりますが、実はここが「Z6III」のスゴイところのひとつだったりします。
ドット数は「Z6II」の約369万ドットから約576万ドットへと大きく向上。このクラスで考えると大変素晴らしい解像度で、隅々まで精細に確認することができます。
また「Z6III」のEVFは、「Z9」や「Z8」で好評だった「Real-Live Viewfinder」に近い見え具合が得られるように設計されています。リフレッシュレートは最高約120fpsに向上していますので、高速連写が得意で動きモノの撮影に活用したくなる「Z6III」の性能と、相性の良いEVFになっています。
しかも、同社調べでミラーレスカメラ史上最も明るいという輝度を誇っているため、(今回の試写では条件的に実感できませんでしたが)晴天の雪景色での撮影でも鮮明な表示が可能になっているとのことです。
さらにはsRGBより広いDCI-P3相当の色域をカバーしており、HLG画像/映像での撮影も有利にこなすことができます。「HLG」は「Hybrid Log Gamma」の略で、撮影時にlog方式を使用して広いラチチュードを記録するHDR映像のための規格。DCI-P3相当の色域をもつ「Z6III」のEVFなら、階調モードを「HLG」に設定した際に、HDR対応の映像ディスプレイにより近い見え具合で確認できるということになります。
背面モニターは、「Z6II」の上下チルト式から、「Z6III」ではバリアングル式に変更されました。しかし、タッチパネルの3.2型TFT液晶、約210万ドットという仕様に変更はありません。EVFがDCI-P3相当の色域対応で素晴らしいだけに、背面モニターも、もうひと踏ん張りして欲しいと思わないでもありません。
シャッターボタン周辺にも大きな変更はありませんが、「露出補正ボタン」の並びがやや変わっています。ディスプレイによる情報表示が、背面モニターとは別にカメラ上面に備わっているのは、分かりやすくて高級感もあっていいですね。
カメラ背面のボタン類やレバー類の仕様についても大きな変更はありません。こうしたところは「Z6II」から引き続いて使う際にも、馴染みやすくよいことだと思います。
メモリーカードスロットはバッテリー室と独立して、CFexpressカード(Type B、XQDカード含む)と、SDカード(UHS-I/UHS-II)に対応しています。CFexpressカードとSDカードのダブルスロットと言うのは、現状で最も汎用性が高いといえるでしょう。
付属するリチャージャブルバッテリーは「EN-EL15c」。前モデルの「Z6II」、および上位モデルの「Z8」と同じです。 セットアップメニュー「パワーセーブ(静止画モード)」が「ON」の場合で約380コマの撮影が可能。前モデルの「Z6II」よりわずかに少ないけど、上位機種の「Z8」よりはわずかに多い。電力を使う機会は多くなっていると思いますが、省エネを維持している姿勢はよいな、と思うところです。
前モデルとは別次元のスピード性能
「Z6III」は、前モデル「Z6II」では「もうひと踏ん張り欲しい」と感じていた、被写体検出機能が大きく進化しています。これは「Z9」や「Z8」ゆずりと言って差し支えないでしょう。
「Z6III」が対象とする検出被写体は「人物」「犬」「猫」「鳥」「車」「バイク」「自転車」「列車」「飛行機」の9種類。被写体検出AF自体は「Z9」以前のモデルから備えていたものの、9種類もの幅広い被写体を検出し、さらには「オート」まで備えているのは、まさに「Z9」や「Z8」ゆずりで、「Zf」と同等です。
被写体検出機能が向上したことで、対象となる被写体のピント合わせは非常に容易になりました。「鳥」(動物のなかに含まれています)を撮影したい場合でも、瞳に正確に合わせてくれるため苦労はありません。前モデル「Z6II」よりも明らかに正確で確実なところです。
一部だけが積層型という撮像センサーということで、実際のスピード性能はどれほどのものかやや不安に思っていたのですが、これがまた予想以上に優れたものだったので驚きました。素早く動く被写体でもよく追従しますし、連写速度は「Z9」や「Z8」に勝るとも劣りません。
「Z9」や「Z8」と同じく、プリキャプチャー機能(ハイスピードフレームキャプチャー)としてシャッター全押し前の30コマ/秒を記録できる「C30」、60コマ/秒を記録できる「C60」、120コマ/秒を記録できる「C120」を搭載していますが、そのうち「C30」と「C60」はフルサイズ(FXフォーマット)で、「C120」はAPS-Cサイズ(DXフォーマット)で記録できます。
「Z9」と「Z8」は、「C60」だとAPS-Cサイズになり、「C120」ではさらに小サイズとなる仕様です。画素数が異なりますので、単純に優劣を比べられるものではありませんが、「Z6III」の部分積層型センサーが健闘を見せているのは間違いないことでしょう。
おかげで「C120」で、被写体を大きく正確に捉えられるとともに、シャッターチャンスを逃すことがありません。
一番心配だったローリングシャッター歪みも良く抑えられています。さすがに真正の積層型センサーを搭載した「Z9」や「Z8」よりは歪みが大きくなりますが、個人的には十分に許容範囲だと感じました。
動画性能も大幅に進化
「Z6III」は前モデル「Z6II」に比べ、動画性能も格段に進化しています。
まず特徴的なことは、12bitの「N-RAW 12-bit(NEV)」と「ProRes RAW HQ 12-bit(MOV)」を、外部レコーダー不要でカメラ内記録ができるようになったこと。これも処理速度が高速な部分積層型センサーと画像処理エンジン「EXPEED 7」を採用したことによる恩恵といえるでしょう。
「N-RAW 12-bit(NEV)」は最高60p、「ProRes RAW HQ 12-bit(MOV)」は最高30pで、6K動画まで記録できるため、4K動画作成時にクロップ、ズーム、トラック、ブレ補正等の編集を行うことができます。
また、「ProRes 422 HQ 10-bit(MOV)」と「H.265 10-bit(MOV)」では、5.4K動画までをサポートしますが、6Kオーバーサンプリングによる「4K 60p」の動画も記録できます。同じ「4K 60p」の動画でも、画質は「Z6II」より高精細です。
以下は、その「4K 60p」で記録した「Z6 III」のサンプル動画になります。
作例
プリキャプチャー(ハイスピードフレームキャプチャー)の「C120」でトンボの飛翔を撮ってみました。部分積層型センサーと画像処理エンジン「EXPEED 7」の高速処理がなければ成し得ない写真で、ここは中級モデルながら「Z9」や「Z8」の技術を継承した「Z6III」の長所だなと思います。最新の有効2,450万画素イメージセンサーで高感度性能にアドバンテージがあるのも嬉しいところです。
そんな優れたスピード性能をもった「Z6III」ですが、ミラーレスカメラらしい前モデル「Z6II」と比べても、だいたい同じサイズ感に収まっているところから、取り回しがよくスナップ撮影などでも快適に使えるのが良いところだと思います。「Z9」や「Z8」では、どうしてもある程度の覚悟が必要になってきます。
解像感や階調性については、先に、ハッキリとした進化は感じにくいかもしれないと述べていますが、しばらく使っているとやはり画質についても進化があるように感じられるから不思議なものです。画像処理エンジンの進化と機種に合わせた最適化は日々進んでいますので、感性でしか分からない向上と言うものがあるのかもしれません。まあ、間違いなく、「Z6III」は高画質なデジタルカメラです。
色仕上げ設定の「ピクチャーコントロール」には、「Zf」で好評だった「フラットモノクローム」と「ディープトーンモノクローム」も搭載されています。本当のモノクロプリントを知っている人が設計したに違いない! と信じたくなる、素晴らしく高度なピクチャーコントロールだと見受けます。この存在だけでも「Z6III」の存在価値は高いと言えるのではないでしょうか。作例は「ディープトーンモノクローム」で撮りました。
「ピクチャーコントロール」を「スタンダード」にして撮影。中級モデルとして求められる性能はすべて内包しながら、「ニコンらしい」画像を得られるところについても実は立派なのではないかと思います。何気なく撮った写真でも、Zシリーズレンズの描写性能を活かしたニコンらしさを感じられる。中級モデルとはかくありたいものだとシミジミ感じました。
まとめ
「Z6III」の進化点が部分積層型センサーと聞いたとき、正直言いますとその価値に対して結構懐疑的に感じたものです。「部分」とは言っても、お値段もそれなりに跳ね上がっているのでなおさらでした。
でも実写して見たら、その考え方は一気に払拭されました。全体的なイメージはフルサイズの中級モデルを維持しながら、有効約2,450万画素の画質はそのままに、真正の積層型センサーにも引けを取らない納得のスピード性能を手に入れています。
大変高価な上位モデルと比べるなら、この性能とこの価格は魅力的と言えるのではないでしょうか。上位モデルに匹敵する性能を持つスピードモデルとして、むしろコスパに優れているとも言えます。
それにしても、「Z6III」のようなスピード性能を特に必要としないユーザーもいることは確かでしょう。そのために、ニコンは現在のところ、前モデル「Z6II」も残したうえでの並行販売としてくれています。必要とするモデルを選べるラインナップと言うのは、実に素晴らしいものですね。