新製品レビュー
DJI Osmo Action 4
低照度に強いアクションカメラがようやく登場
2023年10月25日 07:00
写真愛好家のみなさん、アクションカメラで動画撮影を楽しみましょう! レンズ交換式のデジカメ動画とは一線を画す「ブレのない安定した映像」にきっと魅了されるはず。
そんなアクションカメラの雄、DJIの「Osmo Action」シリーズに最新型の「Osmo Action 4」が登場。基本スペックはココで紹介しているので、今回は本機の画質、特に「階調」に着目してチェックしてみた。アクションカメラのレビューとしては異質な切り口だが、このカメラの特性でもあるし、ほかではお目にかかれないレビューなので楽しんでもらいたい。
「階調感」を狙ったアップデート
まずは「Osmo Action 4」(以下、Action 4)を簡単に紹介しておこう。
本体で特徴的なのは前面に搭載されたタッチ操作が可能なモニターで、自撮りしながら構図を確認したり、タッチ操作で設定の変更が行える。
また、本体下部にはマグネット式のクイックリリースを搭載し、自撮り棒からネックマウント、三脚というように、素早く付け替えることができる仕組みだ。
動画の最高解像度は4K。フレームレートは4K動画が最高120fps、FHD動画は240fpsで撮影が可能。
FOV(視野角)は155度(公称:35mm判換算9mm相当)。写真愛好家の感覚では、対角魚眼レンズに近い写りと考えるとイメージしやすいだろう。ちなみに、画角は焦点距離9mm相当、10mm相当、14mm相当、24mm相当から選択可能(後述参照)。
もっとも、前述のスペックは前モデルの「DJI Osmo Action 3」(以下Action 3)と同様。というよりも、映像ブレ補正やレンズの画角などの基本的なスペックに大きな変更はなく、Action 3の後継機というよりもバリエーション的なカメラといえる。
例えるなら、ソニーのα7に対するα7Sのような関係と考えるとよいだろう。
Action 4になって大きく変化したのが、イメージセンサーのサイズだ。
従来の1/1.7インチから1/1.3インチに大型化され、階調の再現性や低照度性能が向上している。センサーサイズの大型化とともに10bitのLogモードを搭載している点からも、階調に関する表現力を意図したアップデートが施されていることは明らかだろう。
大型センサーがもたらす暗所性能の高さ
まずは、最大のトピックでもある大型化されたイメージセンサーから見ていこう。
大きくなったイメージセンサーは、4Kから6Kになるような解像度のアップに使われるのではなく、「画素サイズの拡大」に使われている点が特徴だ。
1画素当たりの面積が広くなることでたくさんの光が捉えられ、暗い中でも明るく写せたり、繊細な明暗の変化が写せたりという効果が得られる。Action 4は前者の効果が大きく、暗いシーンにおいては、これまでのアクションカメラとは一線を画す明るさと階調感で写せるようになった。
上のサンプル映像を見ても分かるとおり、木の葉の暗い部分も黒つぶれせずに濃淡が残っている。奥には水の流れ落ちる壁があり、その前に幾人も並んでいるのだが、肉眼でようやく判別できる暗さにもかかわらず映し出されている。さらには闇の中で動く小さな人影も捉えているし、ノイズも気にならないレベルに収まっているなど、暗所性能はとても高い。
自撮り棒でカメラを手に持ち、ラフに歩いて撮影すると多少の映像ブレは残ってしまうが、それでも許容できる範囲。多くのアクションカメラやスマートフォンで撮る暗所映像のように、光源がビヨビヨと伸縮したりにじむような映像のブレは程よく抑えられている。
ちなみに暗所撮影の場合、映像ブレ補正機能の効きめを強くしても、画角が狭くなるだけで効果は得にくい。安定した映像を撮るなら、補正に頼るよりも「ていねいに歩く」方が効果的だ。
サンプル映像は画像だけでなく、音に関してもチェックしてもらいたい。
上の2点の動画は水の流れる公園で撮影しているのだが、水音や蝉の声に混じり、遠方の話し声も聞こえてくる。歩きながらのシーンでは音源の位置や距離感が伝わってくるなど、防水性の高い本体のマイクとしては秀逸だ。
もっとも、マイク性能のよさはAction 3でも定評があったので、Action 4ならではの利点というわけではないのだが。
暗所映像も音声も、小さなカメラでここまで写せれば十分に満足できるだろう。
ちなみに、上記の3点の映像は「D-Log M」のカラーモード(後述参照)で撮影している。
暗いシーンはコントラストが強いと暗部が黒くつぶれやすいが、やわらかなトーンで撮影できるD-Log Mなら階調感のある映像が撮影しやすい。
白とびを感じさせない滑らかな階調変化
暗所性能ほどの際立ちはないが、階調(濃淡や色)の変化に関しても質感がよく、難しい明暗の変化でも破綻せずに上手く色をつなげている印象だ。
意図的に光源を画面に入れ、白とびが出そうな明暗差の激しいシーンを何度か撮影してみたが、「白とびした」と感じる部分にも階調(色)が残っていることも多かった。また、たとえ白とびしても「白から階調の残る部分にかけてのグラデーション」が滑らかに描写されるため、白とび部分が気にならないという画作りだ。
また、上の映像のように、極端に明るい部分と暗い部分が混在するシーンにおいては「シャドウが暗くなり過ぎない」点もAction 4の色調特性といえる(カラーモードは「ノーマル」)。
写真でいうところのHDRのような効果でシャドウ部の階調感が保たれるため、フレーム内に太陽などの強い光源が入っても安心して撮影が続けられるだろう。
この色調特性を好まないときは、動画編集ソフトでシャドウを下げれば階調感を維持しつつ暗部のしまった色調にできるし、次に紹介するD-Log Mで撮影しておけば、イメージに合わせた色調に仕上げやすくなる。
そのままでもイイ感じな10bit Log撮影
Action 4は2種類のカラーモードを搭載している。
カラーモードとは一般的なデジタルカメラでいうところの仕上がり設定のようなもので、「ノーマル」と「D-Log M」から選択可能。ちなみに、どちらのモードも10bit映像なので色調整の耐性が強い。
「ノーマル」は文字どおり、普通の撮影に適した色になる設定だ。原色系の色が鮮やかになる特性があり、デジカメの仕上がり設定でいうと「ビビッド」に近い色彩と考えよう。
これはアクションカメラ全般にいえることだが、アクションカメラの「普通の色」はデジタルカメラにとっての「極彩色」に近い。ちょっと“やり過ぎ感”のある色調のカメラも多い中、Action 4のノーマルモードは比較的おとなしい色といえるかもしれない。
対して「D-Log M」モードは、撮影時にコントラストと彩度を下げることで、階調のつぶれや色飽和を未然に防ぐモードのこと。とくに黒つぶれしやすいシーンにおける階調維持に効果的で、シャドウの階調感を出したいときはこのモードで撮影するとよいだろう。
実践的にいうなら、モニターで確認して黒く見えている部分が気になったらD-Log Mで撮ればいい。
白とびに関しては防ぐことはできず、ノーマルで白とびする状態ならD-Log Mでも同様のケースが見受けられた。むしろ、白とびに関してはノーマルのほうが抑えられる場合もあるなど、モードの選択が難しい。
したがって、白とび軽減に関しては、カラーモードの使い分けを気にしなくてもよいかもしれない。
本来なら、Log映像は編集ソフトで色調整をして仕上げる必要があるのだが、D-Log Mの色調はデジタルカメラで撮影するLog映像ほど極端なローコントラストにはならない。「発色を抑えた軟調な色彩」というトーンのため、そのままでも十分に使える色だし、コントラストと彩度を軽く調整して“普通の色”に戻すことも簡単だ。
Action 4を使うなら、D-Log Mを「色調整が必要な特別なモード」とは考えず、「落ち着いた色調」を得る手段として普段使いするのがおススメ。シャドウがやわらかくて浅い色彩は、シーンによってはエモい効果を作り出すこともできる。
もちろん色調整をして思い描く色彩を出したいときも、素直な色調のD-Log Mは大いに役立つはず。
視野角と映像ブレ補正は撮れる解像度に注意
あらかじめ確認しておきたいのは、Action 4のイメージセンサーは4K解像度で、レンズは単焦点、映像ブレ補正は電子式という点。
光学ズームは搭載されていないため、画角を変える場合は映像をクロップしなければならない(35mmフルサイズ→APS-Cクロップで焦点距離が1.5倍になるイメージ)。また、電子式の映像ブレ補正は“動いていない部分を切り抜く”ことでブレを吸収するため、映像はひと回り小さくなってしまう。
4K映像をクロップすると当然4Kよりも小さな映像になるわけだが、これを補間することで4Kに戻しているのがAction 4の4K映像だ。そのため、理論上もっとも高解像度となる設定は、クロップが生じない「視野角:超広角」と「映像ブレ補正:オフ」の組み合わせとなる。
ちなみに、視野角が狭くなるほど、または映像ブレ補正の効果を強くするほどクロップ率が大きくなるため、補間後の解像感が甘くなりやすいはずだが、Action 4の4K映像はそれを感じさせない解像感を維持している。
もっとも、画質劣化が顕著になるほどのクロップが必要な設定になると、最高解像度が2.7Kに制限されるため、おのずと解像感が維持される仕組みだ。
アクションカメラの要となる映像ブレ補正の効果に目を向けると、その実力は不満を感じないレベル。動かすたびにカクカク・フニャフニャと不安定に映像が補正されるデジタルカメラの動画とは雲泥の差だ。
手持ちで歩いて撮影する程度ならもっとも効果の弱い設定「RockSteady」で十分だし、撮影時の動きが程よく伝わるためリアリティのある映像が撮れる。
もし、ブレの頂点で生じる“カクン”という衝撃が気になるのなら、1段階上の「RockSteady+」を使えば良い。“ユラ~”と揺れるように映像のブレを打ち消してくれるため、より滑らかな動きになる。
映像ブレ補正機能の品質はアクションカメラの要でもあり、Osmo Actionシリーズもライバル機と比較されることが多い。
ライバル機と異なり4K映像を補間処理で作り出している点から、映像ブレ補正を強くしたさいの画質がよく話題になるが、上の映像を見ても分かるとおり解像感の甘さを感じる雑な味付けではないので心配は無用。
4K映像でもっとも画質が甘くなるはずの「HorizonBalancing」で撮影しても、筆者が使っている27インチ程度のモニターでは解像度の甘さは気にならないレベルだ。
映像ブレ補正機能の違いによる画質の差を比較するため、前述の比較動画からピクセル等倍に切り抜いた静止画像を用意してみた。よく観察すると違いは生じているが、動画と静止画では画質の感じ方が異なるので参考程度に見てもらいたい。
ライバルとは方向性の異なるカメラ
今回紹介した機能のほかに、個人的に気に入った機能が「タイムコード」。
タイムコードは複数のカメラを同期するためのシステムで、Action 4同士をUSBケーブルで接続するとタイムコード(カメラ内部のカウンターのようなもの)が同期し、編集のさいに時間軸に沿って映像が並べられるようになる。
USBケーブルを外しても各カメラのタイムコードはカウントし続けるので、内部カウントが大きくズレない限り同期した映像を撮ることが可能だ。
たとえば自転車やオートバイの映像を撮影する場合、頭上とハンドルにセットしたAction 4のタイムコードを同期しておけば、同時刻に撮影した異なる視点の映像が編集ソフト上で簡単に並べられる。このような同期作業は音声を頼りに行うため、同じ音が収録されていないと映像を同期すること自体が困難になるのだが、タイムコードを使えばAction 4が何台あろうとも問題ない。
もし、複数カメラの同期に困っているのなら、Action 4を検討してみるとよいだろう。
アクションカメラは「解像感」と「映像ブレ補正の効果」が比較対象になりやすいため、これらに関して前機種からの進化が感じられないAction 4は地味なアップデートに思えてしまうかもしれない。しかしながら、Action 4の優位性はそこじゃない。
大型化したイメージセンサーのメリットを明暗と色の再現性に注ぎ込むという、「階調感にこだわり」をもつ稀有な特性こそ、Action 4最大の武器だ。その点を理解していないと、Action 4のよさを見失ってしまうので注意したい。
ひととおり撮影してみた実感として、大型化したイメージセンサーの効果は十分に発揮されている。日中のシーンは色のつながりがよく、暗所は明るくノイズの少ない映像が撮れて、色調整の耐性も高いなど、写真愛好家が好みそうなカメラだと思う。
レビュー記事の制作中に最大のライバルでもあるGoProの新型(GoPro HERO12)が登場したが、スペックを見る限りAction 4とは異なる方向性のカメラだ。大まかな判断基準として、解像感を優先するならGoPro、階調感を優先するならAction 4と考えれば、両者で悩むことも少なくなるだろう。