新製品レビュー

Panasonic LUMIX S5II

シリーズ初の像面位相差AFを試す

パナソニックが2月に発売したミラーレスカメラ「LUMIX S5II」は、35mmフルサイズのイメージセンサーを採用するLUMIX Sシリーズの新しいモデルである。同社のミラーレスカメラは、フルサイズとマイクロフォーサーズ規格の2ラインを展開している。

LUMIX S5IIはLUMIX Sシリーズのミドルレンジとして、手堅くつくられたモデルである。新開発のイメージセンサーは有効画素数が2,420万画素。LUMIX S1Rのように5,000万画素前後とするフルサイズモデルも少なくないが、2,420万画素でも必要にして十分。A3ノビサイズ以上の大判プリントでも解像度に不足を感じることがなく、データの大きさからハンドリングもしやすい。保存する際もストレージの容量を圧迫することが少なくなるため、実用的な画素数と言っていいだろう。

ちなみにLUMIX Sシリーズには、フラグシップで4,730万画素の「LUMIX S1R」、同じく2,420万画素の「LUMIX S1」、動画撮影に軸足を置く「LUMIX S1H」をラインナップ。さらに、LUMIX S5IIの派生版として動画記録により重きを置いた「LUMIX S5IIX」が本年6月に発売予定となっている。

大きさを感じないルックス

「LUMIX S5II」の外形寸法は約134.3×102.3×90.1mm・約740g(バッテリー、SD含む)。従来モデル「LUMIX S5」の約132.6×97.1×81.9mm・約714gと比べて多少増加している。大柄な部類に入るボディだが、それを感じさせないルックスである。マウントはライカおよびシグマと共通とするLマウントを採用する。レンズ装着の指標の位置は検討の余地がありそうだ。

余裕のあるボタン、ダイヤル配置

ミドルレンジのミラーレスとしては大柄なボディのLUMIX S5II。そのメリットと言えば、操作部材などのレイアウトに余裕が生まれ、操作性の向上に一役買っていることだ。小型化を図ったカメラのなかにはボタン、ダイヤル類の間隔が小さくカメラを構えた右手での操作がしにくいものや、操作する指が迷うこともある。本モデルはそのようなことは少なく扱いやすいカメラと言える。

カメラ背面部に設置されたボタン、ダイヤルなどをはじめとする操作部材が適度に自己主張しており、操作に戸惑うことは少ない。

特に実感するのがフォーカスエリアを選択するジョイステイック。指の当たる部分が大きく、長時間撮影しても操作する右手人差し指の腹が痛くなるようなことがない。小型軽量とするか操作性を優先させるかはトレードオフであるが、本モデルのようなコンセプトも悪くないように思える。

カメラ背面の主要操作部。余裕あるレイアウトで、操作する指が戸惑うことはない。ジョイステイックのタッチ面は広く、右手親指の腹による長時間の操作でも痛くなるようなことは少ない。
インターフェースは、写真上からマイク端子、ヘッドフォン端子、HDMI端子、USB Type-C端子。USB Type-C端子を使ったバッテリーのボディ内充電を可能としている。
カードスロットは安心のダブルスロット。使用メディアはSD/SDHC/SDXCカード。当たり前のことだが、スロットの番号は上が1、下が2となる。他社のカメラには反対とするものも見受けられるが、断然こちらのほうが分かりやすく間違いも少ない。
バッテリーは先代モデルと同じく「DMW-BLK22」。フル充電からの撮影可能枚数はモニター使用時、ファインダー使用時とも約370カットとしている(メーカー公表値)。なお、バッテリーチャージャーは別売となっている。

ピントの山がつかみやすいEVF

EVFがクリアで見やすく思えたのも好感の持てるところ。解像性能は368万ドットと最近のモデルとしては一般的な値であるが、コントラストが極めて高く、すっきりとした見え具合を実現。ピントの山の掴みやすさなどもライバルよりも秀でているように思える。また、ファインダーアイピース周りのアイカップは大きく遮光効果が高いことも見え具合のよさに寄与していると述べてよいだろう。積極的にファインダーに接眼して撮影したくなるカメラである。なお、液晶モニターはバリアングルタイプ3インチ・184万ドットとしている。

映像関係者のなかでも意見が分かれるというが、静止画撮影をメインに考えるのであれば、光軸から大きく外れないチルト式のほうが使いやすいように思えるのだが。

フレアを抑制して高画質を実現するイメージセンサー

イメージセンサーはローパスフィルターレスであり、センサー表面にAR(Anti Reflection)コーティングが施されている。効果として逆光撮影などで発生しやすいセンサー面での反射を抑制している。

ローパスフィルターレスのイメージセンサーであることを実証する結果である。赤い屋根やタイル貼りの壁など繊細に写し出している。パソコンの画面を拡大するのが楽しくなってしまうほどの写りだ。
LUMIX S5II/LUMIX S 20-60mm F3.5-5.6/絞り優先AE(F5.6、1/500秒、-0.3EV)/ISO 100/WBオート
クリアで鮮明な写りである。これだけでも本モデルで撮影を楽しむ価値はあるように思える。
LUMIX S5II/LUMIX S 20-60mm F3.5-5.6/絞り優先AE(F5.6、1/1000秒、±0EV)/ISO 100/WBオート
ちょっと意地悪に真逆光で撮影を行った。センサー表面へのARコーティング、およびレンズのコーティングにより内面反射が抑えられ、フレアの発生は皆無。ゴーストも見受けられない。逆光撮影とは思えないほどのすっきりとしたクリアな写りである。
LUMIX S5II/LUMIX S 20-60mm F3.5-5.6/絞り優先AE(F8.0、1/640秒、±0EV)/ISO 100/WBオート

このイメージセンサーのもうひとつの特徴と言えば、ローリングシャッター歪みをこれまで以上に抑えていることだ。

センサーからの読み出し速度の高速化により、多少動きが速い被写体でもほぼ気にならないレベルで記録することが可能。しかも最高コマ速は30コマ/秒を実現する。クラシックのコンサートやオペラ、バレエ、はたまた結婚式など静寂性を要求されつつもカット数の欲しい撮影では心強い見方となりそうである。

なお、電子シャッターでの最高速はメカシャッターと同じ1/8,000秒としている(メカシャッター設定時の最高コマ速は9コマ/秒)。

良好な高感度特性

高感度性能に関して、ISO 3200まではノイズの発生はよく抑えられベース感度であるISO 100と遜色ない仕上がり。それ以上の感度となるとわずかずつとはなるが、色ノイズ、輝度ノイズとも増していく。コントラストも少し高くなっていくようだ。ただし、最高感度であるISO 51200でも階調および色調の破綻らしい破綻はない。解像感の低下についてもさほどではなく、良好な高感度特性と述べてよいだろう。

ISO 100
ISO 200
ISO 400
ISO 800
ISO 1600
ISO 3200
ISO 6400
ISO 12800
ISO 25600
ISO 51200
こちらの写真はISO 12800での撮影。画像を等倍まで拡大するとノイズが発生していることがよく分かるが、25%ほどの拡大率だと気にならないレベルだ。手ブレ補正もよく効いており、シャープな写りが得られた。
LUMIX S5II/LUMIX S 20-60mm F3.5-5.6/絞り優先AE(F5.0、1/80秒、-1.0EV)/ISO 12800/WBオート

バッファメモリは従来機の4倍

キーデバイス以外として、バッファメモリの強化は忘れてはならない部分だ。メーカー発表値となるが、先代「LUMIX S5」と比較し、約4倍の容量を持つバッファメモリを搭載。RAW+JPEGの同時記録で連続撮影を行なった場合など最大撮影可能コマ数が大幅に向上している。

スポーツなどの動体、野鳥、動物、ポートレートなどの撮影では、その恩恵は小さくなく、バッファフルとなり撮影が止まってしまうようなことは皆無と思われる。これまで高速連写を得意とする一部のハイエンドスピードモデル以外致し方ないところと思われており、我慢を強いられることも少なくなかった部分だけに、連続撮影の多い写真愛好家は注目しておきたい。

手ブレ補正は最大6.5段補正

従来モデル同様、5軸対応センサーシフト方式の手ブレ補正機構を採用する。カメラ単体で最大5.0段の補正効果を達成し、さらに手ブレ補正機構を内蔵するレンズとの組み合わせでは最大6.5段の補正効果が得られる。また従来では補正しきれなかった大きなブレを補正する「アクティブ I.S.」を搭載。手持ちでの動画撮影時に有効で、従来機と比べ約2倍のブレまで補正ができる。特に歩きながらの撮影に効果的である。

最大9,600万画素のハイレゾ撮影

そして、LUMIX S5IIではこの機構を応用したものとして最大9,600万画素相当の画像が得られる高解像度モード(ハイレゾモード)を新たに搭載。イメージセンサーを微動させながら8回連続で撮影を行い、カメラ内で自動合成処理を行う。三脚を必要とし、動体の撮影には適さないものの、合成精度は極めて高く風景撮影や物撮影などでは積極的に使ってみたい機能である。

ハイレゾ設定時の画像サイズは、9,600万画素(12,000×8,000)のXLサイズのほか、4,800万画素(8,496×5,664)のLLサイズからチョイスが可能。記録フォーマットはJPEGに加えRAWにも対応する。
通常設定
LUMIX S5II/LUMIX S 20-60mm F3.5-5.6/絞り優先AE(F8.0、1/640秒、-0.7EV)/ISO 100/WBオート
ハイレゾモード
上は通常設定、下が9,600万画素のハイレゾモードで撮影。ともに中央部を等倍でトリミングしている。三脚の使用はマストだが、超高精細の世界が手軽に楽しめる。合成の精度も極めて高く、圧倒的な解像感だ。
LUMIX S5II/LUMIX S 20-60mm F3.5-5.6/絞り優先AE(F8.0、1/640秒、-0.7EV)/ISO 100/WBオート

AFセンサーはLUMIX初の像面位相差方式に

像面位相差方式としたAFはある意味トピックといえるだろう。「LUMIX S1R/S1」も含め、パナソニックのデジタルカメラはこれまで全て、AFスピードで不利と言われるコントラスト方式を採用してきたため、待ち望んでいたLUMIXユーザーも少なくなかったことだろう。ちなみにプレスリリースなどを見ると、同方式のAFを採用したことを高らかに謳っているようだが、随分以前からライバルの多くがそうであることを考えると、むしろようやくパナソニックも重い腰をあげてくれたかと思わずにはいられない。

実際使ってみると、AFスピードでストレスを感じることはほとんどない。コンティニュアスAF(AF-C)による動体撮影でも被写体への喰いつきは良好で、ようやくライバルたちに追いついたように思える。なお、被写体認識機能としては、顔と瞳以外に人体、動物にも対応。クルマや航空機、野鳥といった被写体には残念ながら対応していないが、今後のファームアップに期待したいところだ。

被写体認識機能の精度は高く、対象となる被写体がファインダー内にあるとすぐに認識し捕捉する。
ブランコに乗る人物を近距離でコンティニュアスAFを使い撮影している。被写体認識は顔優先を選択。若干後ピンであるものの、撮影距離の近さや設定した絞り値(開放F1.4)を考えれば、申し分のないところだろう。
LUMIX S5II/LUMIX S PRO 50mm F1.4/絞り優先AE(F1.4、1/2500秒、+1.0EV)/ISO 400/WBオート
瞳AFでの撮影。カメラを人物に向けると“間、髪を容れず”瞳を捕捉する。ポートレート撮影では精度も含め瞳AFにピントは任せてまったく問題ないレベルである。こちらのホワイトバランスも上々の結果だ。
LUMIX S5II/LUMIX S PRO 50mm F1.4/絞り優先AE(F1.4、1/640秒、+1.0EV)/ISO 100/WBオート
このカットも瞳AFでの撮影。髪の毛が瞳にかかるような条件でも確実に捕捉。絞りは開放F1.4での撮影だが、そのことをまったく気にせずシャッターを押すことができる。肌色再現性も上々で、ポートレート撮影が楽しく感じられるカメラである。
LUMIX S5II/LUMIX S PRO 50mm F1.4/絞り優先AE(F1.4、1/500秒、+1.0EV)/ISO 100/WBオート

動画について

動画画質の選択は実に多彩。スペックを見ると数え切れないほどの画質が並ぶ。ちなみに最高画質としては、アスペクト比3:2では最大6K30P、16:9では5.9K 30Pでの撮影が可能としている。

静止画撮影では直接関係のない部分であるが、動画撮影機能に一際力を入れるパナソニックのカメラらしいのが、ボディ内に放熱構造を採用していることだ。

これは動画撮影時にイメージセンサーをはじめキーデバイスの発熱を抑えるもので、ファインダー部分に放熱ファンを持ち、前面下部と両脇にヒートシンクがある。放熱ファンは外からは見えないが、スリット状のヒートシンクが外観上のアクセントにもなっている。

ミラーレスでの動画撮影では、熱対策が課題となっており、富士フイルム「X-H2/H2S」に至ってはカメラ背面に装着する外付けの冷却ファンを純正オプションとして用意していたり、一部のミラーレスに装着できるサードパーティ製の冷却ファンもあると聞く。今回のLUMIX S5IIの冷却ファンとヒートシンクはそれらをさらに一歩すすめたものと言えるだろう。なお、ヒートシンクを見ると水やホコリの侵入が気になるが、LUMIX S5IIは防塵防滴構造としているので、心配は無用だ。

その他作例を加えながら

タングステン光と蛍光灯の光が入り混じりホワイトバランスの難しい条件だが、見た目に近い結果が得られた。ISO感度は32000。さすがに輝度ノイズ、色ノイズとも発生していることが容易に把握できるが、それでもよく抑え込んでいるように思われる。
LUMIX S5II/LUMIX S 20-60mm F3.5-5.6/絞り優先AE(F4.4、1/100秒、±0EV)/ISO 32000/WBオート
こちらもホワイトバランスが思ったとおりのナチュラルな結果となった。夜景撮影などホワイトバランスの設定の難しいシーンではLUMIX S5IIは強力な味方となること請け合いだ。ISO 32000での撮影だが、破綻しているような写りは見受けられない。
LUMIX S5II/LUMIX S 20-60mm F3.5-5.6/絞り優先AE(F4.0、1/250秒、+0.3EV)/ISO 32000/WBオート
フォトスタイルは「ヴィヴィッド」を選択。色乗りがよく、鮮明でクリアな画像だ。フォトスタイルにはそのほか「風景」や「人物」、「モノクローム」などを搭載。好みでパラメータが調整できるので、自分だけのフォトスタイルをつくってみるのも面白いだろう。
LUMIX S5II/LUMIX S 20-60mm F3.5-5.6/絞り優先AE(F5.6、1/80秒、+1.3EV)/ISO 100/WBオート
ピントの合った部分のエッジのキレがよいため、被写体が浮かび上がって見えるほど。EVFの見えのよさに加え、シャッターボタンの感触やシャッター音など感性に訴える部分も安っぽさなどまったくなく、撮影が快適に楽しめるカメラである。
LUMIX S5II/LUMIX S 20-60mm F3.5-5.6/絞り優先AE(F5.6、1/640秒、-1.0EV)/ISO 100/WBオート
ピントの状態が把握しやすい高精細で高コントラストのEVFと、素早く測距点を移動できるジョイスティックのおかげで、スナップ撮影でも“ガチピン”の写りが楽しめる。質感描写も上々だ。
LUMIX S5II/LUMIX S 20-60mm F3.5-5.6/絞り優先AE(F8.0、1/320秒、-0.7EV)/ISO 100/WBオート
曇天の下、人物撮影を行った。ここでも感心させられたのがホワイトバランス。全カット、オートWBで撮影しているが、青かぶりすることも、アンバーっぽくなるようなこともなく、見た目にナチュラルな仕上がり。曇天でもオートに任せて問題がないのはとても助かる。
LUMIX S5II/LUMIX S PRO 50mm F1.4/絞り優先AE(F1.4、1/320秒、+0.7EV)/ISO 100/WBオート

まとめ

冒頭にも記したように手堅くまとまったLUMIX S5II。プロやアドバンスドアマチュアは当然ながらが、カメラの扱いに慣れ始めたビギナーへも機能的に末長く使えるカメラとしてオススメできる一台である。また、比較的熟れたプライスもこのカメラのポイント。

同じミドルクラスに位置付けされるキヤノン「EOS R8」は、「RF24-50mm F4.5-6.3 IS STM」の付属するレンズキットが同社オンラインショップで税込29万3,700円であるのに対し、LUMIX S5IIは「LUMIX S 20-60mm F3.5-5.6」の付属するレンズキットが同じくメーカーオンラインショップで税込28万1,160円と1万円以上リーズナブル。

LUMIX S5IIにはボディのつくりのよさに加え、ジョイステイックやコントロールダイヤルが搭載されているなど使い勝手は、マルチコントローラー(=ジョイステイック)やサブ電子ダイヤル2(=コントロールダイヤル)を未搭載とするEOS R8を大きく上回り、お買い得感は極めて高いと述べてよいだろう。

加えて今年3月1日にフルサイズ対応のLUMIX Sレンズの一部はメーカー希望小売価格が値下げされており、このことも強く訴求できるものである。こちらも冒頭で記しているが、本年6月には、LUMIX S5IIにRAW動画出力に対応するLUMIX S5II Xが登場。値段は1割ほど高くなるようだが、ブランド名がブラックアウトされているなどLUMIX S5IIには異なる外観上のカッコ良さがある。

どちらを買えばより幸せになるのか悩むのも悪くなさそうだ。

モデル:透子

宮崎県都城市生まれ。雑誌カメラマン、デザイン企画会社を経てフォトグラファーとして独立。以後専門誌および一般誌、Web媒体、セミナーなど多方面で活動を行う。公益社団法人日本写真家協会(JPS)会員。一般社団法人日本自然科学写真協会(SSP)会員。