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ついに像面位相差AFを搭載!…「LUMIX S5II」開発チームに聞く強化ポイントとLUMIXの“現在位置”

画質・AF・手ブレ補正・動画の進化を聞いてみた

LUMIX S5II

2020年に発売された「LUMIX S5」(以下S5)といえば、高性能ながらも重厚なイメージが強かったLUMIX S1系をカジュアルに小型化させ、それでいて先進の機能を詰め込んだヒットモデルだ。

そのS5がモデルチェンジし、「LUMIX S5II」(以下S5II)としてその姿を現した。

一見するとS5と変わらないフォルムに見えるS5IIだが、これまでパナソニックが非採用を貫いてきた像面位相差AFの採用をはじめ、新エンジンによる画質面での進化や、動画機能の強化など、なかなかの意欲作に仕上がっている模様。

ということでパナソニックの本拠地ともいえる大阪 門真オフィスにお邪魔して、S5IIの開発チームにインタビューを実施してきた。読者の皆様の代わりに疑問点などをぶつけてみた結果が以下になる。かなりの長文になってしまったが、開発チームのS5IIにかけた熱意を感じていただければ幸いだ。(聞き手:今浦友喜)

上段左から、櫻井幹夫氏(手ブレ補正)、金田憲和氏(外装設計)、栃尾貴之氏(画質)、塩見記章氏(マーケティング)、渡邊慎治氏(商品企画)、中村光崇氏(開発リーダー)、大神智洋氏(AF)※かっこ内は主な担当分野

S5IIの位置付けと狙い

——S5IIの話を聞く前に、まずは従来機でユーザーから好評だった点をお聞かせください。

渡邊慎治氏(以下、渡邊): パナソニックはフルサイズ最後発のメーカーですので、最初の機種であるLUMIX S1(以下S1)、LUMIX S1R(以下S1R)は我々の出来うるフルスイングの性能のものを作るというコンセプトのもと開発をしました。

ただ、その反面、サイズの面などネガティブな意見も多くいただき、それがS5につながっていきました。S1、S1Rで培った技術や性能を小型軽量なボディに凝縮し、より広いユーザー層に届けるというのが基本コンセプトです。

渡邊慎治氏(パナソニック エンターテインメント&コミュニケーション株式会社 イメージングBU 商品企画部 商品企画一課 二係 係長)

塩見記章氏(以下、塩見): S5でユーザーから評価の高い点が2つあります。ひとつは画質が良いということ。特に色再現性やグラデーション、階調表現の美しさといった色表現が、LUMIXのいいところが入っているとして評価いただきました。

塩見記章氏(パナソニック エンターテインメント&コミュニケーション株式会社 イメージングBU マーケティング部 国内課 係長)

——それは他社からの乗り換えやLUMIXマイクロフォーサーズ機からの乗り換えのユーザーなどを含めて画質に満足されていたということでしょうか?

塩見: そうですね。マイクロフォーサーズのLUMIX G9 PRO(以下G9 PRO)から絵作りを変えておりまして、そうしたマイクロフォーサーズLUMIXのユーザーがそのままフルサイズに乗り換えられることに評価をいただいています。

またフルサイズになるとセンサーの持つ情報量の多さやボケ表現がプラスになってくるので、乗り換えや使い分けの意義があると感想をいただいています。他社ユーザーからの乗り換えでは、当社のJPEGの絵作りのカラーサイエンスや、RAWやLogといった素のデータの編集の自由度が高いといったところも評価いただいています。

もうひとつは手ブレ補正です。LUMIXは当初から手ブレ補正はDual I.S.といった形でレンズとボディの手ブレ補正の協調制御を行ってきたので、他社と比べても高い評価をいただいています。

想定するユーザー層

——なるほど。それではS5IIの話に入っていきたいと思います。ズバリ今回のS5IIを使用してほしいユーザー層は?

渡邊: S5IIでは像面位相差AFをLUMIXとして初めて搭載し、スチルの高速連写も約30コマ/秒を実現したことで、動き物を撮るユーザーにしっかりと訴求できると考えています。

塩見: これまでは正直、特に映像クリエイターが作品を撮る際、コントラストAFであることで制約を受けていたと思います。本来表現したかったところを一歩踏みとどまってしまうことがあったのではないでしょうか。その点が像面位相差AFと強化された手ブレ補正によって解消できるように、クリエイターが表現したいものを、そのまま創作表現に反映いただけるよう貢献していきたいと思っています。

求めやすい価格設定

——S5も十分にお求めやすい価格でしたが、今回のS5IIも比較的廉価な価格設定なのがいいですね。

塩見: スマートフォンで撮影を楽しむ方が、いきなりフルサイズでカメラデビューする事例が増えています。以前であればAPS-C機から入っていつかはフルサイズ、というような流れだったと思いますが、今はフルサイズでもお求めやすい商品が市場にあるのと、フルサイズだからといって撮影が難しくないことなどが理由だと思います。

加えて、買い替えとして2台目を購入される方も意識しています。1台目はまだ使い方などがはっきりしていない状態ですが、使っていくうちに「もう少しこうしてみたい」「あんな表現をしてみたい」と自分の嗜好が具体的になっていきます。こうした2台目を考えている方は、意外と1台目のメーカーに縛られず2台目を考える。各メーカーをフラットに見ていることがわかってきました。

そこで重要になるのがスペックはもちろんですが、コストパフォーマンスの良さです。2台目を考えている方々はまだレンズ資産もそれほど揃っていない状態ですので乗り換えがしやすい。これらを考え、間口を広げていきたいということで、S5IIは価格設定が決まりました。

——レンズキットもかなり抑えた価格設定なんですね。ダブルレンズキットに単焦点レンズの「LUMIX S 50mm F1.8」が入っているというのもそうした点を意識しているのですか?

塩見: やはり一番最初に買うのは標準ズームと50mmの単焦点レンズであると考えてこのキット構成にしました。価格はかなり頑張らせていただきました(笑)

単焦点レンズ「LUMIX S 50mm F1.8」を含むダブルレンズキットも用意

“ブラックエディション”の意図

——今回、動画性能をより強化したLUMIX S5IIX(以下S5IIX)も同時に発表されました。とてもかっこいいですよね。ブランドロゴを黒文字にできるってすごい勇気だと思います。こちらの狙いもお聞かせください。

ブランドロゴや表記などを目立たなくした「LUMIX S5IIX」

渡邊: S5IIとS5IIXの違いは動画性能とブラックエディションという外装の違いになります。「よりハイクオリティな動画を撮影したいというユーザーに向けたデザインってどんなものだろう」と考えました。

LUMIXのデザインフィロソフィーに「無心」というキーワードがあります。カメラでの表現はあくまでもクリエーターが主役。カメラやレンズというのはその制作の道具である、という考え方です。それを突き詰めた時に、カメラは黒子のように主張せず、存在感を消し込んでもいいんじゃないかと考えて、S5IIXのブラックエディションにたどり着きました。

LUMIX S5IIが目指した画質

——ところで、LUMIXが目指している「高画質」とは、具体的にどのようなものでしょうか。

栃尾貴之氏(以下、栃尾): 「生命力・生命美」という絵作りの思想をG9 PROの頃から掲げています。画質設計のメンバーだけでなく、企画やソフト設計、光学設計、エンジン開発といった様々な部門から写真や動画の絵作りに熱い思いを持ったメンバーを社内で募り、プロジェクトを立ち上げて取り組んできました。

栃尾貴之氏(パナソニック エンターテインメント&コミュニケーション株式会社 イメージングBU 商品設計部 開発課 係長)

S5IIでもその考え方を踏襲しつつ、新しいセンサーとエンジンでどうしたらもっとブラッシュアップできるかというところに注力しました。また、機種によって色やトーンにばらつきがあると使いにくいものになりますので、統一感を持たせることを意識しています。

——ブラッシュアップした部分とはどんなものでしょうか?

栃尾: 画質を構成する主な構成要素として「高い解像力」や「立体感・奥行き感を感じられるような描写」「豊かな色調表現力」などがあります。

高い解像力については新しいエンジンで「新インテリジェントディテール処理」を搭載しています。それにより例えば斜めの線の描写のスムーズさを向上し、描写の品格を高めています。また、被写体の輪郭部分の縁取り(オーバーシュート現象)も改善し、より繊細な描写を実現しています。

ヴィーナスエンジンも新しくなった

次に立体感の部分ですが、高感度でも「立体感のある描写力」を得るため、新エンジンで高感度ノイズの粒状性を高め、粒状ノイズをある程度残しつつ、細部のディテールの再現性を高めることで被写体の持つ質感や立体感を描写することに拘っています。

そして、色調表現力については、赤や青の鮮やかなトーンはもちろん、健康的な人肌の発色を再現することや、木々の豊富な色数の緑を描き分けること、緑の葉の中の微細な色情報を描き出せることなどに注力しています。

また、カラーシェーディング補正という機能を新たに追加しています。Lマウントレンズであれば、画角周辺部の色かぶりをカメラ内部の制御で補正しておりますが、Lマウント以外の他社製レンズやオールドレンズを装着した場合であっても、本機能をご使用頂くことで色かぶりが軽減されますので、お使いいただけるレンズのバリエーションが広がります。

新イメージセンサー

——S5IIの新イメージセンサーはS5のイメージセンサーに位相差画素を搭載したものですか?

栃尾: はい。位相差画素を搭載した以外、基本的な特性などは同じになります。ただし、センサー周辺のアナログの電子回路、電源周りなどといったハードウェアの部分の見直しを行い、高感度域でも画面内の均一性を保つなどのブラッシュアップをしています。

位相差画素を搭載した新イメージセンサー

——S5IIはローリングシャッター歪みが低減されているとのことですが、基本はS5と同じセンサーでありつつも高速化できた理由を教えて下さい。

栃尾: より高速なセンサーの駆動を使用するということと、新エンジンの処理速度の高速化によって実現しました。SH連写モードですと、ローリングシャッター歪はS5に比べて約半減しています。

像面位相差AF

——S5IIのもっとも大きなトピックは像面位相差AFを搭載したことです。これまでLUMIXがコントラストAFを採用してきた理由はなんでしょうか?

中村光崇氏(以下、中村) :我々としては画質というところを一番重要視しているためです。像面位相差AFを採用すると画素欠損がどうしても発生してしまいます。LUMIXは画質を最優先にしていますので、最高画質が出せる中でAFをどこまで強化できるのかという観点でこれまで開発してきました。そういったところで画素欠損のないコントラストAFとDFD(空間認識AF)を磨いてきました。

中村光崇氏(パナソニック エンターテインメント&コミュニケーション株式会社 イメージングBU 商品設計部 商品設計一課 主任技師)

——なるほど。そしてS5IIで晴れて像面位相差AFの採用となったわけですが、その経緯は?

中村: コントラストAF+DFDをやりながらも、当然市場の要望は我々にも届いておりまして、そうした声も鑑みながら常にどんなAFの方式がベストなのかを検討していました。それに加えて、今回は新エンジンの画像処理によって画素欠損を限りなく影響がないように仕上げられるという目処が立ちましたので像面位相差AFの採用に至りました。

——コントラストAFに対してどのくらい速度が向上していますか?

大神智洋氏(以下、大神): 静止画においては、AF時に高フレームレートに切り替える処理とDFD技術で、過去のG9 PROで約0.04秒といった十分な数値を出しており、S5IIでこの速度から大きな改善はありません。

一方動画においては、先程のAFの都度フレームレートを切り替える処理ができないため、コントラストAFでの高速化が難しかったのですが、S5IIでは大きく改善しています。

大神智洋氏(パナソニック エンターテインメント&コミュニケーション株式会社 イメージングBU ソフト設計部 開発課 係長)

大神: しかし動画のAFは速ければいいというものではありません。従来のモデルでもAF速度を上げることはできましたが、そうするとAFが行ったり来たりして迷うような挙動がありました。S5IIでは迷わず、高速にピントを合わせることができます。動画撮影時はAF速度を選択できるので、低速でも高速でも表現に合ったAF速度が得られるでしょう。

——像面位相差AFの初搭載がこの製品、このクラスとなった理由は?

大神: LUMIXとしては画質に高いこだわりがありましたので、コントラストAFとDFD技術でいかに他社の像面位相差AFに匹敵するか、という観点で開発してきました。「LUMIXは“かたくなに”像面位相差AFを入れない」という声は我々にも十分に届いていました。例えばS5では、被写体の前を何かが通り過ぎたような場合や、背景が高いコントラストであっても、AFが被写体以外に引っ張られないような制御など、コントラストAFにおけるコンティニュアスAF時ではできなかった性能を確立してきました。

とはいえ、他社の像面位相差AFの動作に原理的にどうしても到達できないシーンがあります。24pや30pといった動画時での被写体追従性です。今回、画素欠損など画質面での課題を十分に克服したので、S5IIでの像面位相差AFの搭載を進めました。

——イメージセンサーが、というよりもエンジンが高性能化したことで、像面位相差AFで行こうと決まったということなんですね。S5IIの像面位相差AFは、これまでのレンズでも使用できますか? またこれまで培ってきたDFD技術も生かされているのでしょうか?

大神: 当社および他社のLマウントレンズのすべてが像面位相差AFで動作します。AFはシーンによってはほぼ像面位相差AFだけで動作していますが、一部で像面位相差AFが難しいシーンではDFD技術を使ってAFを行います。

——シーンによって自動で使い分けているんですね。

大神: はい。とはいえ像面位相差AFとコントラストAFが切り替わっていても、ユーザーにはほとんどわからないレベルになっていると思います。DFD技術は像面位相差AFと役割も違いますので、今後も使っていきます。

——像面位相差AFを搭載して低輝度AFの性能は変わりますか?

大神: 低輝度AFは従来から-6EVを謳っていますが、それに関して変わりません。静止画に関しては、暗所でのAFで低照度AFに自動で切り替わります。例えば夜明け前の薄暗いようなシーンでもピントが合うなど、ユーザーからも評価いただいています。なお、動画の低照度AFは従来機よりも格段に性能が向上しています。

認識AF

——認識AFの対象はどうやって決めたのでしょうか

大神: 認識対象としてのトレンドには乗り物や動物があり、LUMIXも動物の認識は搭載しています。とはいえ、動画撮影での被写体の7〜8割は人物であり、人物は乗り物とは違って動きの予測が難しいため、まず確実に人物を検出してピントを合わせる技術の確立に注力しています。

特に人物が複数いるようなシーンでは、今回の新アルゴリズムにより、狙った一人を狙い続けて他の人物にAFが乗り移らないようにしています。これは人物が増えれば増えるほど難しくなってきますので、引き続きアルゴリズムを磨き続けていきます。

連続撮影枚数

——S5IIではバッファがかなり増えたということで連続撮影枚数などはどうかわりましたか?

中村: S5IIでは新エンジンとメモリー構成を大きく刷新しており、メモリーの容量としては約4倍になっています。それによって連写の継続枚数が大きく増えています。具体的にはS5のRAW+JPEGが24枚以上でしたが、S5IIでは同じ条件で200枚以上と8倍以上となっていますので、かなり快適に連写撮影を行うことができるようになっています。

——スチルカメラとして連写性能にこだわった理由は?

中村: 今回、像面位相差AFの搭載に加え、電子シャッターによる約30コマ/秒の高速連写やローリングシャッター歪みの軽減といった性能が大きく向上し、動体撮影もよりアグレッシブに取り組めるようになりました。そこで連続撮影コマ数なども含めて連写性能を大きく改善を図っています。

手ブレ補正機構「アクティブ I.S.」

——新しい手ブレ補正「アクティブ I.S.」の特徴は?

櫻井幹夫氏(以下、櫻井): 主な特徴は、動画歩き撮り時の手ブレ補正効果の大幅な改善です。従来、動画撮影時の手ブレ補正は縦方向・横方向・回転方向の補正割合を一定に割り振っていたのですが、アクティブ I.S.では例えば縦方向のブレが大きいシーンでは縦方向の補正割合をアップするなど、ブレの状態に合わせて補正の割合を調整しています。それにより歩き撮りの補正効果を大きく改善できました。加えて、しっかり構えたフィックス撮りでも手ブレ補正効果が十分に発揮できます。

櫻井幹夫氏(パナソニック エンターテインメント&コミュニケーション株式会社 イメージングBU ソフト設計部 ソフト設計三課 係長)

——ということは静止画撮影でも効果を発揮するということですか?

櫻井: アクティブ I.S.は基本的に動画に特化した機能になります。静止画撮影では、CIPAが定める補正効果段数という意味では変化はありません。ただし、撮影に至るまでのライブビュー中の補正などでも、地道な改善は行なっており、手ブレ補正機能全体の強化は感じていただけると思います。

——画角が狭くなるなどの制限はありますか?

櫻井: 電子手ブレ補正では画角が狭くなる場合がありますが、今回の改善では物理的な手ブレ補正制御のアルゴリズム改善になるので画角への影響はありません。もちろん今まで通り、ボディ内手ブレ補正に加えて電子手ブレ補正を使うこともできますが、その際には画角がやや狭くなります。

アクティブ I.S.は電子式ではないので画角が狭くならない

——広角・望遠など補正が得意な画角は?

櫻井: 今回メインでの改善は歩き撮り撮影時になりますので、広角系のレンズを用いてそのようなシーンを撮影される場合に効果は感じられやすいです。一方、望遠時のフィックス撮影においては、レンズ内手ブレ補正を持つレンズとの組み合わせで更なる手ブレ補正効果が発揮できます。

——画面を横にふるパンニングなどでも効果は感じられますか?

櫻井: はい。今回はアクティブ I.S.といった機能面強化以外にも、動画撮影時の手ブレ補正全体を強化することをターゲットにしています。今回の開発においては、様々な撮影シーンを再現するため、歩き撮りを含め、ひたすら動画撮影を行いました。その中で、急にパンニングしたり方向を変えたりといった動きがあったりしますが、そういった大きな動きの変化の際に補正を強く掛けすぎてしまうと画面がカクつくような動作をしてしまいます。なので今回はそういった部分もより一層なめらかになるような改善を行っています。

——それだけ大きく手ブレ補正を改善しながらもボディサイズに影響を与えないようにするのは難しかったのではないですか?

櫻井: 今回の性能改善は、主に制御よるものですが、手ブレ補正ユニットにも修正を加えています。しかしながら、ボディサイズに与える影響は、最小限にしています。

動画機能の強化

——S5IIでは動画の保存形式なども強化されていますが、このクラスにしては充実した仕様ですね。

渡邊: S5IIではC4K 60p/50p 4:2:2 10bit無制限記録、6K 30p/25p 4:2:0 10bitの記録を可能としました。ありがたいことにGHシリーズをはじめ、「LUMIXといえば動画」というイメージをユーザーには持っていただけています。また昨今の市場の変化としても、より静止画と動画の親和性が上がってきており、両方を使いこなすユーザーが増えてきている実感があります。LUMIXとしてはもともと強かった動画に関しても出し惜しみせず、そうしたユーザーにマッチする製品を作っていくということでS5IIでもこれらの仕様を入れました。

中村: 今までLUMIXは動画性能をこだわって開発してきまして、さまざまな機種を出す中で動画の部分で評価いただいております。ただ、LUMIX S1H(以下、S1H)などは動画性能を高めるために、ハード面を充実させた結果、比較的大きなサイズになっていました。これらを良いと言っていただけるユーザーが多数いる一方で、サイズや価格面などから選ぶのをためらってしまう方もおられました。

そういう中でS5IIは広いユーザーに受け入れていただける、スタンダードという立ち位置から外れることのないサイズ感や価格帯をしっかり固めた上で性能を高めていきました。そうすることでハイエンドクラスとも遜色ない性能と、逆にAF面などはそれらを超える性能を持っています。これまで使うのをためらっていた方にも選んでいただけるかと思います。

——3Dノイズリダクションが進化しているとのことですが、そもそも3Dノイズリダクションとはどんなものでしょうか?

栃尾: 新エンジンによって3Dノイズリダクションも進化しています。3Dノイズリダクションとは動画の時に使うノイズリダクションで、動いているところと動いていないところを判別してノイズリダクションの掛け方を調整しています。動いているところにノイズリダクションを掛けてしまうと残像のようになってしまうことがありますので、動いていないところだけにノイズリダクションを掛けるというのが基本的な考え方になります。今回の新エンジンでその動いているところと動いていないところの判別の精度が向上していますので、より効果的にノイズリダクションを掛けられるようになっています。

リアルタイムLUT

——リアルタイムLUT(ラット)機能が新たに搭載されましたが、これはどのようなものでしょうか?

栃尾: リアルタイムLUTとは、RAW現像ツールなどで作った色調整をカメラのライブビュー画面やJPEG画像、動画に適用して撮影できる機能です。これまでもLUMIXでは動画のLog撮影などでライブビューにLUTを当てて完成形をイメージしながら撮影する機能は実現していましたが、S5IIでは新エンジンの搭載によって、ライブビューに加えてJPEG画像や動画ファイルにLUTを当てて実際の成果物として保存することができるようになりました。

塩見: LUMIXではフォトスタイルとしてさまざまな色のモードを提供してきましたが、リアルタイムLUTでさらにユーザーの自由度を高めることができると考えています。フォトスタイルが無限に広がっていくようなイメージです。

——興味深い機能ですね! 動画で要望が多かったのでしょうか?

塩見: はい。動画ユーザーからの要望は多くいただいておりました。いまLog撮影は一般ユーザーでも撮られることが多くなってきました。Log撮影では動画データをパソコンでグレーディングという作業をするのですが、これはRAW現像と同じで答えが見つからない、やればやるほど迷子になっていくことがあります。

そんな中でいまLUTに注目が集まっています。とはいえLUTを当てようにもエントリーの方からするとややハードルがありましたので、より手軽にLUTを楽しんでもらうためにリアルタイムLUT機能を搭載しました。

実は「LUMIX Color Lab」というサイトで、クリエーターとコラボしたLUTを無償で提供しています。「LUTをやってみたいけどどこからダウンロードしたらいいかわからない」という方はここからダウンロードしていただければと思います。

著名クリエイターのLUTがダウンロードできる「LUMIX Color Lab」。ダウンロードしたLUTをS5IIに組み込んで使用できる

——リアルタイムLUTをカメラに取り込む方法は?

塩見: PCからSDカードに取り込んでいただいてカメラに登録します。デフォルトで入っている「709」というものの他に10個まで登録できます。その後、フォトスタイルから選べます。

ホワイトバランス一時固定

——「ホワイトバランス一時固定」という機能がありますが、どういったものでしょうか?

栃尾: パンニングなどカメラを動かしながら撮影する場合に、オートホワイトバランスにしていると光源や被写体の色味によって意図せず画面の色味が変化してしまうことがあります。始めから終わりまで一定のホワイトバランスで撮影したいお客様のために、始めに設定したオートホワイトバランスで撮り続けられるようにしています。

24bitオーディオ

——4:2:2 10bitの映像に加えてオーディオも24bit対応と贅沢な仕様になっていますね。

中村: 動画は映像だけでなく音声も重要になってきますので、LUMIXは音声にもかなり力を入れて取り組んできています。S5IIはライトユースからプロユースまでを想定していますので、撮って出しでももちろんきれいなのですが、編集されるユーザーを想定しています。編集した際の映像や音声に破綻のないようにしたいということで、情報量の多い4:2:2 10bitや24bitオーディオを採用しました。

ペンタ部に設置された放熱ファン

——マイクの位置が変わっていますね。

中村: はい。今回放熱ファンが搭載されていますのでファンのノイズを拾わないように位置を変更しています。

——このサイズに放熱ファンが入っているんですよね!?

金田憲和氏(以下、金田): 放熱ファンの位置はペンタ部に収納されています。ペンタ部の後ろ半分がファインダーで、前半分が放熱フィンとファンという構造になっています。この位置にすることでちょうどセンサーの真上にファンがある構造になっています。

金田憲和氏(パナソニック エンターテインメント&コミュニケーション株式会社 イメージングBU 商品設計部 商品設計三課)
ペンタ部の両側面に見える排気口

金田: 従来のLUMIXのカメラは背面部に放熱ファンがありまして、センサーの熱を後ろまで持ってきてからファンで一気に飛ばすという考え方でしたが、やはり距離が遠いのでロスが大きかったんです。

——(S1Hを見ながら)あ、これでも遠いんですね。

金田: そうなんです。センサーとファンの間にメイン基板がありますので、ぐるっと周って来なければいけなかったのです。そのため効率が悪かったので、今回は直上に、一番最短距離で結ぶということでロスを最小限にすることができました。

しかもですね、今回はセンサー部の熱を直接とりにいく機構にも成功しました。本来、BIS(手ブレ補正ユニット)搭載機ですので、一番冷やしたいセンサー自体は動いている状態になります。そこに放熱のために物理的に接触しようとすると性能を害してしまうことになるのですが、今回BISを担当するメンバーと調整をしまして、力強く動いているBISに非常に薄い熱伝導部材を付けさせてもらい、それを直上の放熱フィンにつなげて最高効率で冷やす、ということに成功しました。

——ええ! BISに物理的に接触しているんですか!?

金田: 本当に薄い部材ではあるんですが、それがあるのとないのではかなり放熱性が変わってきます。

——すごい。なんだか感動しています。そういった構造は世界初では?

金田: 「物理的に接触」だけであれば世の中にはありますが、我々のものはさらに独自の改良を加えまして特許も出願中です。裏話として、本当はペンタ部の上に吸気口を設けて冷やすのがもっとも効率が良かったのですが、オーディオ部隊にそこはマイクがあるのでダメですよと言われました(笑)。

最終的に吸気口はペンタ部の先端、ロゴマークの下側から吸い込んでペンタ部の横に流す、という構造になりました。開口部からマイクまでの距離が伸びると音に対する影響も大きく変わってきますので無事にクリアすることができました。

吸気口はペンタ部先端の底面にある

——もともとペンタ部の先端側には何が入っていたのでしょうか?

金田: S5だとここにはジャイロセンサーが搭載されていました。それを小型化して別の場所へ引っ越しをしまして、さらにペンタ部をわずかばかり前に伸ばして放熱機構を入れることができました。

——S5IIをはじめて手にした時は放熱機構に気が付かないくらい違和感がありませんでした。言われてから「あ、横に穴がある」と驚きました。この排気口もデザイン的にかっこよくて好きです。

塩見: この放熱機構を見せるか見せないかでもけっこう議論をしました。例えばF1マシンのようにあえて吸気口を見せるというデザインもあるよね、という意見もありつつ、やはりスチルユーザーにとっては見えることでネガティブなイメージを持たれたくはないということで、基本的には隠していく方向になりました。ただ、そこでデザイナーが頑張ってくれまして、基本は見えないけれど、見るとかっこいい、というようなデザインに仕上がったと思います。

——そうなんですよ。GH6はファンの部分が大きく、スチルしかやらないユーザーにとってはちょっと手を出しにくいデザインなんですよね。でもS5IIはスチルユーザーもまったく違和感なく使えるデザインになっている。ちなみにこの放熱構造は防塵防滴に影響はないのですか?

金田: はい。この放熱部は完全にカメラの外部という扱いにしていて、ファンよりももっと内側で防塵防滴のシーリングをしています。つまり、内部部品との物理的な隙間はなく、熱だけを外に持ってきてファンで冷やす、という設計になっています。

ファインダー

——放熱ファンのサイズが追加されたことでファインダーが小さくなってしまった、などはないのでしょうか?

中村: ファインダーは、S5で236万ドットOLEDパネル、倍率約0.74倍だったのですが、S5IIでは368万ドットOLEDパネルを採用したうえに、ファインダー光学系も刷新しまして倍率約0.78倍に向上しました。それだけでなく目を少しずらしたときの目ブレだったり、周辺の歪みという点も改善しています。

——(S5とS5IIのファインダーを見比べながら)おー、ほんとだ。大きくなってるし見やすくなってる。ファインダーを置ける専有面積が少なくなっているようにも見える中でもさらに良くしていくってすごいですね。

金田: ちなみに、ファインダーと背面モニターを切り替えるアイセンサーの位置を下から上に変更しています。これは、雨や雪が降ってきた時にアイセンサー部に溜まって誤作動を起こすことがあるというユーザーの声に応えて変更しました。

グリップのデザイン変更

——ペンタ部周り以外で従来モデルから変化したデザインはありますか?

金田: まずグリップはS5よりもグリップ性を上げるために、中指側の引っ掛かり形状と親指側の反り形状などをブラッシュアップしています。実際、ボディの重さは30g弱増えてはいるのですが、その重さを感じさせないグリップ性を実現しています。

S5(左)に比べてS5II(右)はグリップの形状が変化している

金田: それとこれまではストラップの取り付け部に三角環を採用していたのですが、動画ユーザーからカチャカチャと音がするのは良くないという話がありまして、今回は板金のストラップホールにしています。またそうしたことでグリップを握ったときに三角環がじゃまになるということがなくなるメリットもあります。

あと細かいのですが、シャッターボタンの傾きをS5と比べて外側に傾けています。ほんの数度ですが傾きを付けることで、人差し指が自然とシャッターボタンに掛けられるように改善しました。

——トータルとして見たデザインが秀逸ですね。初めてのチャレンジもある中でデザインで苦労したことはありますか?

北出克宏氏(以下、北出): S5IIは「ハイブリッドミラーレス」というコンセプトを掲げています。

北出克宏氏(パナソニック エンターテインメント&コミュニケーション株式会社 デザイン部 デザイン二課 クリエイティブディレクター)

正直、最初に設計担当からペンタ部に放熱ファンを入れると言われた時はマジか、と思いましたが(笑)、ハイブリッドミラーレスといった点から、これ見よがしに動画に寄ったモデルにしないように、ファンを搭載するといってもそれを誇示するということはなく、スチルユーザーでも違和感なく使ってもらえるデザインに仕上げました。放熱ファンは吸気口と排気口が必要になりますが、それが目立たないようにということでかなり苦心して設計しました。

——その他、デザインでこだわった部分はありますか?

北出: 内部構成が変わったので、操作ボタンの配置も再検討が必要なのですが、S5と一緒に使っても違和感ないように設計とやりとりを繰り返して細かく調整をしました。

またジョイスティックはS5が4軸だったのに対し、S5IIでは8軸に改善しているのですが、加えてジョイスティック自体の形状も変更しています。今までのジョイスティックの形状は、親指の指先で引っ掛けるように使うことを想定した形状だったのですが、長時間使っていると指先が痛くなるという意見が届いていました。なのでS5IIでは親指の腹で操作するような形状に変更しました。

ジョイスティックが8方向に対応したほか、指先が痛くならないよう形状が変更された

北出: それとすごく細かいことなのですが、ジョイスティックの頭の部分は指の腹が収まりやすいように少し湾曲した形になっている上に、細かいドットで引っかかりを作るようになっています。さらに一番外側のドットだけ引っかかりが良くなるように高さを少し上げています。

UHS-II SDダブルスロット

——今回、UHS-II SDカードのダブルスロットを採用されましたがCFexpressではないんですね。

塩見: 今の市場ではCFexpressカードはまだまだ価格も高く、入手性という点ではSDカードに優位性があります。今回の動画性能などもUHS-IIカードで十分に対応できる範囲ですので、UHS-IIダブルスロットの採用ということになりました。

UHS-II対応SDメモリーカードのダブルスロットを採用

中村: S5ではUHS-IIのスロットとUHS-Iのスロットのダブルスロットということで見た目が同じながら性能が違うということで分かりにくいというご指摘もあり今回は両方ともUHS-II対応としました。CFexpressはカード自体のサイズが大きいということと、発熱も大きいのが問題になってきます。そういった点からSDダブルスロットの方がスタンダードモデルとしては適切であると判断しました。

塩見: 細かいところですが、これまではカードのアクセスランプがダブルスロットでも一つだけでしたが、今回はスロットごとに付けて、合計ふたつに増やしました。カードスロットのカバーを空けた中にそれぞれアクセスランプが付いていますので、書き込み中などに誤ってカードを取り出してしまうといったトラブルを防ぎやすくなりました。リレー記録などをしている際も今どちらのカードに書き込んでいるかなどもわかりやすくなっています。

HDMI Type A端子

——他にはHDMI Type Aに変更されていますね。

(上から)マイク、ヘッドフォン、HDMI Type A、USB-Cの各端子

中村: はい。S5がmicro HDMI Type Dだったのに対し、HDMI Type Aに変更しました。やはり故障リスクや接続の信頼性などの点で要望の多いところでしたので改善しました。

金田: 単純に構成すると後ろ側に2mm程度厚くなってしまうのですが、内部構成を工夫してフロント面を下げることで吸収し、フロント面から液晶までの厚みはS5とほぼ同等に保っています。むしろグリップの深さが増すことにつながり、グリップ性も良くなっています。

まとめ:誰もがクリエイターである時代に

——今回S5IIを発売するわけですが、従来機であるS5も併売されるのですね。

塩見: はい。スマートフォンからのステップアップで直接フルサイズ機に入ってくるユーザーが増えているということで、S5はそういった方々に向けたフルサイズの入り口的な立ち位置として併売していくことに決まりました。

——この製品でどういった作品が生まれるのでしょうか。また、クリエイティブの世界にどう影響するとうれしいでしょうか。

渡邊: いまLUMIXは“クリエーターと一緒に歩む”を心に商品開発を進めています。昨今、コロナやスマートフォンの影響もあり、動画、静止画を問わずいろいろな作品がより身近になっているわけで、ゆくゆくはクリエーターという言葉がより一般的に馴染み深いものになり、誰もがクリエーターであるという時代が来ることも想定しています。そうしたクリエーターに対して、動画・静止画ともに自分の表現を1台のカメラで生み出せるものを目指していきたいと考えています。

——ありがとうございます。では最後に皆さんから一言ずつコメントをいただいて終わりにしたいと思います!

栃尾: センサー、レンズ、エンジンに関わる基本画質の進化に加え、AF性能も進化しているので、ぜひこのS5IIを使ってさまざまな撮影体験・映像制作を楽しんでいただきたいです。

大神: 今回、LUMIXのAFの歴史において像面位相差AFの搭載で革命的な進化を遂げたと思います。とはいえ、AFの究極はフルオートで撮影者が意図した被写体に何も考えることなくピントが合うことだと考えています。それに向けてはまだまだやることがあると思っておりこれからも開発を進めていきます。今後のLUMIXにも期待していただければと思います。

櫻井: S5IIでは歩き撮りをメインに手ブレ補正を進化させましたが、それ以外にも静止画や他の動画でもLUMIXの手ブレ補正は評価いただいています。今後もユーザーの使いやすい手ブレ補正を実現していきたいです。

金田: 今回はグリップ性や操作性など直接ユーザーの手で触れられる部分は改善をしっかりと感じていただけるように、放熱ファンについては縁の下の力持ちとして影から撮影を支えられるようにと思い開発しました。ぜひ、お手に取ってみてください。

北出: 最終的にフォルムに現れてくるのがデザインと言われたりしますが、この1台を作り上げるのには、いろいろな関係者の想いが込められています。パーツひとつひとつ、1mm、0.1mmという中にも魂が入っていると思っています。そういった部分もユーザーの皆さんにも触って、感じていただいてカメラを楽しんでもらえたらなと思います。

塩見: LUMIXを愛していただいているたくさんのユーザーがいること、うれしく思っています。とはいえ市場ではまだ強いメーカーではないとも認識しています。今回のS5IIは、かなり高次元の製品になっていると思っており、ここからがLUMIXのネクストフェーズだと我々は考えています。これからのLUMIXの快進撃にご期待ください。

渡邊: とにかくS5IIを触ってみてほしいです。手に取り、撮影をしていただければ良さを必ず感じていただけると確信しています!

制作協力:パナソニック