新製品レビュー

Nikon Z 5(後編)

Z 6と詳細比較 実は“玄人好み”かもしれない1台

前編ではZ 5単体で実写した際に感じた事をメインにレビューを行いました。今回の後編では兄貴分に当たる同じ画素数のZ 6との比較検証をしています。裏面照射型CMOSセンサーと表面照射型CMOSセンサーの違いの他にどんな違いがあるのか? 見てみたいと思います。

連写性能の違いとローリングシャッター

最高約12コマ/秒のZ 6に対して、Z 5は最高約4.5コマ/秒と大幅にパワーダウン。Z 5単体で使う分にはリズムが崩れるほど遅いと感じることはありませんでしたが、あまり連写向きのカメラじゃないと感じたこともまた事実です。遅くはないけれど速くもない。4.5コマ/秒から感じた素直な感想です。

ということで、比較的安定的に観察が出来る電車を撮影したところ、以下のような感じになりました。どちらも最速設定で撮っています。軽くチェックしただけでもZ 6ではZ 5の倍の密度で撮影出来ている、ということが分かると思います。

Z 5
NIKKOR Z 24-50mm f/4-6.3(50mm) / マニュアル露出(F6.3・1/1,250秒・+0.7EV) / ISO 400
Z 6
NIKKOR Z 24-50mm f/4-6.3(50mm) / マニュアル露出(F6.3・1/1,250秒・+0.3EV) / ISO 400

レリーズの感触についてもZ 6と撮り比べてみましたが、前編でも軽く触れているようにコマ速の違いというよりも、シャッターの動作シーケンス速度がZ 6とでは若干異なることが原因で、Z 5のレリーズ感はZ 6と若干違いました。Z 6の方が若干小気味よい感じですが、比較しなければ分からない差です。一応録音してみましたが、音声データよりも実際の方が違いは明瞭でした。

同じシーンで電子シャッター利用時のローリングシャッター歪みについてもチェックしてみました。電車の進行方向は画面右から左です。時速は50km/h弱かと思います。

読み出し速度が目測で3倍くらい違うことが分かります。おそらくここが両機の一番の違いでしょう。

Z 5:NIKKOR Z 24-50mm f/4-6.3(50mm) / マニュアル露出(F6.3・1/1,250秒・+0.7EV) / ISO 400
Z 6:NIKKOR Z 24-50mm f/4-6.3(50mm) / マニュアル露出(F6.3・1/1,250秒・+0.3EV) / ISO 400

感度別の描写を比較

キヤノンEOS R5/R6と同じ場所、同じ焦点距離と撮影距離でざっくり構図を合わせて撮ってみましたので、キヤノン機との違いが気になる方は、以下のレビュー記事を参照してみて下さい。

で、その違いはというと、ISO 3200まではほぼ同等。少なくとも筆者の目には有意な差を認めることが出来ませんでした。ISO 6400では、ややZ 6が有利に見えますが「ISO 6400までなら実使用上では遜色ない」というのが筆者の印象です。ISO 12800以上では約1段程度Z 6が明確に優位になります。

Z 5:NIKKOR Z 24-50mm f/4-6.3(50mm) / 絞り優先AE(F8・1/15〜・1/8,000秒・±0EV)
Z 6:NIKKOR Z 24-50mm f/4-6.3(50mm) / 絞り優先AE(F8・1/13〜・1/6,400秒・±0EV)

左がZ 5、右がZ 6
ISO 100
ISO 200
ISO 400
ISO 800
ISO 1600
ISO 3200
ISO 6400
ISO 12800
ISO 25600
ISO 51200

実際にISO 6400で撮り比べてみましたが、遜色ないというか、指摘されなければ分からない程度の差しかありませんでした。“フルサイズ機に期待する高感度性能がある”、と評価できます。

Z 5(NIKKOR Z 24-50mm f/4-6.3[50mm] / プログラムAE[F6.3・1/1,250秒・+0.3EV] / ISO 6400)
Z 6(NIKKOR Z 24-50mm f/4-6.3[50mm] / プログラムAE[F6.3・1/1,600秒・±0EV] / ISO 6400)

気になったこと・その1:EVFの覗き心地

Z 6と撮り比べをしてみると、気づいたことがいくつかありました。

ひとつはEVFの覗き心地です。以下のファインダー内部はどちらもスマートフォンで撮影しているので実際の印象とはやや違う部分もありますが、接眼レンズの反射率はZ 5の方がやや高いです。晴天・屋外などの周囲が明るい状況では、メガネ着用者のように眼と接眼レンズとの距離が離れてしまう状態において、その差が少し判別しやすくなります。Z 6の方がクリアな表示を見ることが出来ました。

日中EVF
Z 5
Z 6

接眼レンズの反射の違い
Z 5
Z 6

スマートフォンのアウトカメラを接眼部に押し付け、環境光の影響があまり入らないように撮影しても、Z 6の方がEVF光学系の内面反射が少ないことが分かります。接眼保護窓と呼ばれる最も眼に接する部材だけ変更になっている(ニコンに聞いた「Z 5」一問一答(その1)より:記事はこちら)以外はZ 6と同じEVF光学系が使われているとのことなので、その部分のコーティングの違いが効いているのだろう、と推測できます。もちろんZ 5だけで使っている分には全く気にならないことです。

気になったこと・その2:暗所でのEVFの見え方

他には暗所で撮影する場合にZ 5のライブビュー映像がややノイジーになる、という点があります。分かりやすいようにレンズキャップをして全暗状態で撮影すると、これくらいの差があります。

Z 5
Z 6

これはEV4を下回るシーンから少しずつ気になり始め、夜景シーンではかなり気になりました。背面モニターでは環境光の影響もあってそれほどノイズが目立たない印象ですが、周囲の光がカットされるEVFでは顕著にノイズ感があります。

ニコンに質問したところ、以下のような回答が得られました。

撮像素子の違いによりノイズ特性が異なるため、高感度/暗所などのシーンではその影響を受けやすくなります。

今回はキットレンズで主に撮影を進め、大口径レンズを使用していないので、明るいレンズを使用した場合の感触については分かりません。ですが開放絞りの段数分だけ影響を受ける光量に余裕がある、という予想が立てられます。

気になったこと・その3:AF

AFの感触についても若干の違いがありました。

具体的には低コントラストの被写体や暗所での撮影時に、Z 6の方が撮影が完了するまでの時間が明らかに短い、という点です。

これについては比較画像を作成することが難しかったので、データのみのお伝えとはなりますが、PCのディスプレイにアナログストップウォッチとコントラストチャートを表示し、コントラストチャートにAF枠を重ねて目測で秒針が5の倍数に重なるところでレリーズ一気押し。この時、AF開始前に無限遠と至近端のそれぞれにピントリングを操作した場合と、AF合焦状態のそれぞれ3つの条件で各60回ずつ撮影。撮影画像から撮影時間を求めています。また事前情報としてZ 5ではローライトAFをOFFにしていた方が、シーンによってはAF合焦までの時間が短縮出来る、ということだったので、そちらについても測定しています。なお、この時のコントラストチャートの明るさは大体EV4弱程度です。

結果は以下のとおり。目視により撮影しているのでカメラの実力よりもレリーズラグが大きくなっていること、またある程度の測定誤差を含む計測結果になっています。そのため各60回のデータのうち、明らかにイレギュラーなものを除外し、標準偏差を求め偏差の中央値となる秒数を記載しています。

露光までのラグ(標準偏差[s])
LowLight-ONZ 5Z 6
AF開始〜露光まで(至近端から)0.250.18
AF開始〜露光まで(無限遠から)0.600.25
AF合焦状態で一気押し0.260.15
露光までのラグ(標準偏差[s])
LowLight-OFFZ 5Z 6
AF開始〜露光まで(至近端から)0.250.16
AF開始〜露光まで(無限遠から)0.440.20
AF合焦状態で一気押し0.150.13

AFが動作する条件では基本的にZ 6の方がAF開始から撮影完了までをより速く遂行出来ていることが分かります。ローライトAFをOFFにしている、かつAF合焦状態ではほぼ同等なので、レリーズタイムラグそのものに差があるというワケでは無いようです。ので、ほぼAFの動作による差分ということも明確です。

1点だけ挙げるとすれば、ローライトAFがONの状態でZ 5は合焦状態でも時間がやや掛かっていますが、AF合焦状態であっても少しピントを探るような動作があり、その分伸びている、という印象でした。

この結果をもとに、暗所等でのAFの感触の違いについてもニコンに質問したところ、以下のような回答が得られました。

Z 6は撮像素子の違いにより、低輝度下でのフレームレート制御が異なるため、Z5よりも合焦までの時間が速くなっています。そのため、Z 6はローライトAF ONとOFFによるAF速度の違いは限定的になります。

Z 5が合う人とZ 6が合う人。筆者の場合

Z 6が合う人

1:5コマ/秒を超える連写速度が必要な人
2:暗所での撮影や高ISO感度を多用する人
3:4K動画撮影を多用する人

上記した条件のうちのいずれかに当てはまる場合は、Z 6がより適しているとみてよさそうです。理由は、スペックの差と高感度性能で、約1段程度Z 6の方が秀でているからです。もちろん、スペック差については絶対的な条件になりますが、2番目にあげている高感度性能については、ISO 6400での比較画像をご覧いただくと分かる通り、実用上の差は微かです。これを許容出来るのであれば2番の条件は無視しても問題はないでしょう。

3番目の4K動画撮影を多用したい場合についても、Z 6が秀でています。ローリングシャッターの歪みが小さいこと、4K記録時に大きくクロップされないことがその理由です。

ただ、ひとつだけ注意点があります。連写性能ではZ 6の方が確かに秀でていますが、Zシリーズは現状でカメラを固定しない状態での動体撮影シーンで安定して結果を残せるカメラではありません。これは「撮影性能が不足している」という意味ではなく「適不適の問題」です。もちろん運動会程度であればZシリーズでもしっかりと撮影が出来ますが、ドッグランや室内競技などのように、動作の激しい被写体を捉える撮影シーンだと、ニコン機ならばD500やD780などの一眼レフ機を選択したほうが、明らかに撮影が楽です。

Z 5が合う人

a:SDダブルスロットに魅力を感じる人
b:USBで給電・充電したい人
c:モードダイヤルの位置は右側が良い人
☆:お散歩カメラとしてフルサイズ機が欲しい人

Z 5には約2年の月日の差がある分、Z 6にはない魅力があります。その魅力をまとめると、a・b・cの3点に集約されてきます。

まずa。筆者の経験ではSDカードであれば世界中どこでも購入することが出来ました。日本国内であればコンビニに行けば手に入りますし、海外であっても例えばクルーズ船や大きめのフェリー船内にある売店などでも購入出来る場合がありました。XQDカードやCFexpressカードの入手性は決して高くはありません。バッテリーはあるのに記録容量が足りない! というシーンに遭遇したとしても、“何とかなる”というSDカードが使用できるという安心感には大きなアドバンテージがあります。

bのUSB充電についても、旅先にチャージャーを持ってくるのを忘れてしまった、という絶望的な状況でもバッテリー充電が出来るのは、とても大きな魅力です。暴論になりますが、Zシリーズのサブ機としてZ 5をチョイスすれば、サブとして撮影に参加させられるだけでなく、バッテリーはEN-EL15cじゃなきゃダメという制約はありますが、充電器としても活躍の場が生まれるということでもあります。

aとbについては、カードが無い、チャージャーが無いという最悪な状況でも何とかなるという安心感の高さが魅力になります。

cについては「慣れ」によるところが大きいですが、頻繁にモードダイヤルを操作する人であればZ 6よりもZ 5の方が軽快に操作出来るはずです。

☆については、よりリーズナブルだから、というのが主たる理由です。

ということで、連写と4K動画を多用しないなら、Z 5のアドバンテージは大きいように思います。

ちなみに、背面モニターはスペック上はZ 6の方が上ですが、両機を併用した感じでは特にその差を否定的に感じるシーンはありませんでした。

ちなみに筆者がどちらかを選ぶなら、Z 5になります。理由はSDカードで記録が出来ること。ダブルスロットによる冗長性が担保されていることの2点に対する評価と価格的な魅力が理由です。

まとめ

Z 5を言葉で表現するのはとても難しいです。表現の難易度ではなく、どうしても雑な言葉になってしまうから、というのがその理由。四の五の言わずに1回触ってみて。もし可能なら1日レンタルしてみて。返却する時にはジンワリと分かるから。共感出来ても多分言葉にはならないし、共感出来ない人もそれなりにいると思います。共感出来る出来ないについては「好み」があり、それは食の好みと全く同じものです。

少し話が脱線しましたが、Z 5は“触れてみないことには全くその良さが分からないカメラ”だというのが結論となります。というのも、スペックよりも手に触れる部分に力が入っちゃっているから。モードダイヤルや電源スイッチなどの摺動部のスムースな操作感、ボタン類のスレ感のなさと、たとえ斜め方向に押し込んでも損なわれない滑らかな押し感。カバー類を操作した際のおもちゃ感の少なさ。心地よいEVFを持つカメラが増えてきた中でも、覗き心地の良いファインダーを有すること。「撮った!」感のあるレリーズ感など、挙げていけばキリが無いんだけど、全て「体験」しなければ分からないし、過去にどれだけ多くのカメラや機械に触れてきたか、ということからも、その感じ方の衝撃波というか、共感度が変わってきます。

筆者の好みだけで言えば、モードダイヤルのクリック音が明瞭な代わりに少し安っぽいとか格好が好きじゃないとか、もっとこうして欲しい、こうだったら良いのに! みたいな事が他にも色々とありますが、それでも何だか憎めないと感じるのはスペックという陳腐化する部分ではなく、色褪せない道具としての魅力を磨いているからだと思います。

そういった憎めないカメラは「長く使えそう」と感じられる製品でもあるのです。

現実的な事を言えば、Z 5と長く付き合っていきたいと考えた人の中で、特にエントリーユーザーやビギナーのうち、おそらく40%以上の人が2年以内に、そのZ 5の撮影性能を物足りなく感じるようになると思います。動画性能であったり連写性能であったり、AFの万能性であったり、といった面で不満が出てしまうのは、このクラスのカメラが抱えている宿命のようなものです。

写真には色々な楽しみ方があって、スポーツを撮りたい人がいれば、色々なレンズの描写を楽しみたい人もいます。1台で何でもこなせるカメラが好きな人もいますし、じっくりと長時間向き合って撮影するのが好きな人、同じ場所に何度も通って色々な表情を見つけるのが好きな人、適材適所で機材選びをするのが好きな人、現場で出会う人とのコミュニケーションを楽しみたい人など様々です。

そういった様々な楽しみ方がある中で、あえて戦略を設けずに、自由気まま・足の向くままに撮影したい人向けのカメラがZ 5なのだろう、と。広告風に表現するなら「お散歩スナップが撮影旅行になるカメラ」です。ということで、レンズは1〜2本だけの身軽なスタイルで写真を楽しみたいって人にこそピッタリなカメラでした。そんな人たちは、すでに性能への不満を卒業していて、「気持ちよく撮れれば良いや」という境地に達しているハズだと思います。

価格帯やスペック的には“フルサイズ入門機”って感じだけど、2週間近く実際に手元に置いて感じたことは、Z 5ってむしろ玄人好みなカメラなのでは? というものでした。

だからこそ、タムロンがソニーEマウント用の小型軽量単焦点として発売しているF2.8シリーズのように広角で寄れるレンズとか、とても薄型のパンケーキレンズが欲しいとなるのです。

豊田慶記

1981年広島県生まれ。メカに興味があり内燃機関のエンジニアを目指していたが、植田正治・緑川洋一・メイプルソープの写真に感銘を受け写真家を志す。日本大学芸術学部写真学科卒業後スタジオマンを経てデジタル一眼レフ等の開発に携わり、その後フリーランスに。黒白写真が好き。