新製品レビュー
Canon RF24-240mm F4-6.3 IS USM
小旅行撮影で使い勝手と描写力をチェック
2019年11月8日 12:00
本レンズは広角端24mmから望遠端240mmまでの広い焦点距離をカバーする、光学10倍の高倍率ズームレンズだ。35mm判フルサイズミラーレスカメラ「EOS R」シリーズが採用するRFマウント用の交換レンズとしては6本目(発売は2019年8月。RFマウントは現在8本がラインアップしている)。軽量ながら光学式の手ぶれ補正機構を搭載するなど、旅先などの撮影で有利な携行性に優れたレンズに仕上げられている。
デザインと操作性
本レンズがカバーする焦点距離は、24mmから240mmまでと幅広い。この広い焦点距離域は、超ワイドや超望遠といった「超」が付くような特化した画角を求めない限り、一般的な撮影領域の多くをカバーできる。
サイズバランスも、35mm判フルサイズ対応の高倍率ズームレンズにしては比較的コンパクト。重量も750gと焦点距離を考えれば十分に軽量だといえるレベルに抑えこまれている。またスイッチ類も必要最小限にとどめられているため、シンプルで好感が持てるデザインとなっている。
今回は、EOS RPとの組み合わせで撮影をおこなった。レンズとボディーのホールディングバランスだが、個人的な好みに調整するため、ボディー側にエクステンショングリップ「EG-E1」を装着して使用した。印象としては、EOS RPに比べてひとまわり大きいEOS Rであれば、拡張グリップなしでもシックリくるバランスであると感じた。
フォーカス駆動にはAF性能に優れたナノUSMを採用。カメラ側の「デュアルピクセルCMOS AF」との組合せにより、一般的な撮影条件では動作の静粛性も良く、開放F値がF6.3側になる焦点距離でも特にAFが迷うようなこともなく、スムースで正確な合焦を確保出来た。
このほかレンズ側に光学手ぶれ補正機構を搭載しており、ボディとの協調動作によって最大約5段分の手ブレ補正効果を発揮するデュアルセンシングISに対応している。
レンズは繰り出し式となっており、焦点距離に応じて全長が変わるタイプだ。24mm時に最も短くなる設計となっている。
鏡筒側面手前側にロックボタンが備わっているので、移動時にレンズが不用意に繰り出されるのを防止できる。かなりコンパクトになるので、カメラを提げたまま携帯する際にも便利だ。
RFマウント用レンズならではの特徴である、コントロールリングも搭載している。これは、ISO感度や露出補正といった任意の機能をレンズ側のリング操作に割り当てて使用できる機能で、今回筆者は使用頻度の高い「露出補正」をコントロールリングに割り当てて撮影を進めていった。
また、本レンズでは新たに、このリングをフォーカスリングとしても使用可能にする「フォーカス / コントロールリング」切り替えスイッチが設けられている。上側に設けられているのが、その新設された「フォーカス/ コントロールリング」の切替スイッチだ。下側には光学式手ブレ補正機能「IS」のオン・オフスイッチが備わっている。
本製品はフードが別売となっている。ズームレンズといえどもレンズフードはフレアやゴーストの発生を防ぐためには必要なアイテムなので、ぜひ用意しておきたい。専用レンズフードは「EW-78F」だ。
作例
ススキの穂が美しい季節。高倍率ズームとしてはかなり耐逆光性能が良いと感じるレンズだ。
望遠側の焦点距離では小さな花でもここまで寄れるなら準マクロレンズとしても充分な使いでがある。
赤い屋根が特徴的な水道塔。空の背景と同じような色味の壁面だが、少し絞るだけでも立体感が出る。
水道局の古い建物がおしゃれだ。24mm側でも歪みはあまり感じられない。
責任者の方から建物内部を親切に案内していただいた。暗い中でもコンクリートの壁面や機械室の装置の金属がリアルな質感で再現された。
秋晴れの青空に浮かぶ白い雲が生き物のように風に流れて行く。ワイド側24mmでの撮影だが、周辺減光も1段半絞るだけで、見られなくなった。
長岡市内から郊外へちょっと走ると越後平野の田畑が広がる。自然の緑が美しい田園風景の遠景も克明に描写している。
暗い室内での手持ち撮影だったがシャッタースピード1/4秒でもブレていないのは、約5段分の効果があるというIS機能のおかげだ。このくらいの効き目があるのならISO感度を上げることなく撮影領域をひろげることができる。
磨りガラスや真鍮の蛇口など、古い家の中にはかつての繁栄の跡が残る造りが見られる。標準レンズの焦点距離50mmで捉えたカット。リアルな空気感が感じられる。
望遠端240mmで開放絞りとなるF6.7で撮影した。前後のボケ味も優しくなめらかだ。状況は逆光ぎみであったが、高倍率ズームレンズとしては十分に耐えていると感じる。
高倍率ズームレンズを使用しているとついつい両端ばかりを使ってしまうので、そこを避けてファインダーを覗きながら中間の焦点距離を見つけると50mm前後の標準域に落ち着いてしまうのは何故だろうか(笑)。F8まで絞るとグッと解像度が増すように感じられる。
石、紙、木材、ガラス、金属と、様々な材質がフレームに収まっているが、いずれの質感描写も良い。老舗の醤油屋さんの店先だが、お地蔵さんや郵便ポストがあることから人々の行き交う場所だったことがうかがえる。
摂田屋という地名の古い街では昭和の香りが残る建物や風景に出会うことが出来る。
昭和感満載の建物の庭が懐かしい。望遠150mmの焦点距離で庭の奥の引き戸へフォーカス。画面手前を横切る枝葉のボケ味が自然な感じだ。
植物の名前はよく知らないが、アフロヘアーみたいなものはおそらくコキアの仲間だろう。高台の小さな庭先で西陽を受けて逆光に輝いていた。画面すぐ上部に太陽が入ってフレアが発生しているが、細部の描写再現も充分なので、この程度のフレアなら問題ない。
弥彦神社では季節柄、七五三の親子がたくさんお詣りに来ていた。晴着を着て記念写真を撮っている子どもの着物の質感や色味も鮮やかに、かつ美しく再現されている。
大きな樹がある神社の境内だが森の中みたいな光線が差し込む。逆光での撮影だが陰になった樹の裏側の暗部まで潰れることもない。
何があったのだろう(笑)。ふと目についた瞬間であってもAFの動作が素早く目についた被写体をしっかりと捉えてくれる。
近接撮影にも向いている。寺泊漁港の防波堤で釣りをしていた人に見せてもらった小さな蛸をクローズアップで撮らせてもらった。こんなに小さくても唐揚げにしたら美味しいそうだ。
日本海に面した国道沿いの堤防の上では余った魚をわけてくれるのを知っている海鳥たちの姿が見られた。その姿は、漁師さんが夕食を持ってやって来るのを待ちわびているように見えた。
本レンズは色のりも良く、日没後のグラデーションも見事に描写してくれた。
太陽が沈んで時間が経ったので帰ろうとクルマに乗り込んだ瞬間、遠い桟橋の向こうで残照の最後の光を振り絞るように突然クリムゾン色に光が輝いてきた。慌ててカメラを取り出して240mmの望遠側でシャッターを切り続けた。肉眼でもかなり暗い状態だったが最新のIS機構によって、こうした場面でも極端にISO感度を上げることなく手持ちでの撮影が可能であった。
暗闇が光を覆い尽くしてしまうまでの日没後の空が好きだ。家路へつくわずかな乗客を乗せたバスがボクの横を走り去っていく。スローシャッターでバスだけを流してこの旅の撮影を終了した。
まとめ
メーカー純正かつ35mm判フルサイズのイメージサークルに対応した10倍のズーム比を有するレンズは、2019年11月現在、本レンズとソニー「FE 24-240mm F3.5-6.3 OSS」(SEL24240)の2本しかない。
さすがに10倍ズームともなると光学的にも物理的にも設計上の難しい問題が山積しているのだろう。最新の技術が投入されているとはいえ、撮影条件によってはパープルフリンジなど、若干の色収差が見られた。
しかし、10倍もの焦点距離倍率がもたらす利便性を考えると個人的には気にする必要はないと思う。今回は新潟県の長岡を基点に、そこから車で日帰りで行ける場所へ何日か通う小旅行スナップ撮影というシチュエーションで撮影を進めていった。掲載した全カットは三脚無しの手持ちで撮影しているが、暗い室内や日没後などの厳しい条件も多く、手ブレ補正機構に助けられるシーンもあった。
約5段分の手ブレ補正効果によって暗い場面などでもあまりISO感度を上げることなく撮影出来た。補正効果の効きも良く、安心して頼れるため、以前なら尻込みしてあきらめていたような条件でもシャッターを切る楽しみが増えることだろう。
本レンズの大手量販店における実勢価格は税込でも約12万円ほどとなっている。他のRFマウントレンズに比べればだいぶ購入しやすい価格帯にあるレンズになっているといえる。何よりも高倍率ズームレンズとしては軽量・コンパクトであるため、アクティブに動きまわりたい旅行などに連れ出せばこれ1本で多くの表現が出来ることだろう。さらに機材が軽くなった分を、好みの明るい単焦点レンズと組み合わせれば、さらに撮影領域が広がるに違いない。
EOS RPにキットレンズとして組み合わされているように、RFマウントでの高倍率ズームレンズの登場は、同マウントユーザーの期待を裏切らない、ユーザーの待ち望む声に応えたレンズだと思う。