交換レンズレビュー

FíRIN 20mm F2 FE MF

画面周辺まで高い描写力の超広角レンズ 歪曲もほぼ無し

トキナーから面白いレンズが発売された。その名は「FíRIN 20mm F2 FE MF」。ソニーEマウント(35mmフルサイズ対応なのでソニーでいうFEタイプ)のマニュアルフォーカス専用レンズにして、焦点距離は超広角の20mm、開放F2の大口径という気合いの入ったスペックである。

「FíRIN」(フィリン)というのは、これまでとは全く異なるコンセプトをもって、ケンコー・トキナーが新たに立ち上げたミラーレス機用の高品位交換レンズのシリーズ名だ。

アイルランド語の「Fírinne」から来ており、これは日本語の「真実」という意味であるとのこと。その場の持つ空気感までも写し撮るため、トキナーが長年培ってきた光学設計の技術力を集結して誕生したという。

つまり、本レンズはそんなFíRINシリーズの記念すべき第一弾に当たるというわけだ。

FíRIN 20mm F2 FE MF
発売日2017年1月27日
実勢価格税込10万円前後
マウントソニーE
最短撮影距離0.28m
フィルター径62mm
外形寸法69×81.5mm
重量約490g

デザインと操作性

MF専用レンズなので当然AFはできないのであるが、その分、MFレンズらしい質の良いこだわりが随所にみられるのが本レンズの特長のひとつである。

鏡筒はもちろん高品位な金属製。その中ほどに同じく金属製のフォーカスリングが配されている。このフォーカスリングの操作感が絶妙で、重すぎることもなく、軽すぎることもなく、適度な回転角で非常に心地よい操作感触を得ることができる。

嬉しいことに絞りリングも鏡筒前方にしっかり備えられており、1/3段で設定されたクリックもガタつくことなくスムーズに操作可能だ。コマンドダイヤルを回し液晶表示で絞り値を確認するのが当たり前となった現代において、絞りリングを直に操作して目で確認するという行為は“カメラを自分が操っている”という実感を久しぶりに思い出させてくれるというものである。

また、この絞りリングには動画撮影にも対応できるよう、クリックを解除して無段階の調整が可能となる「絞りデクリック機構」が搭載されている。ただ、この機構でクリックを無効にして静止画撮影をしていると、ほんのわずかに絞りリングに指が触れただけで(MF操作中にわりと触れがち)ピント拡大などが解除されてしまうので注意したい。

本レンズはCPUと距離エンコーダーを搭載しているため、設定距離や絞り値といった情報をカメラに伝達できる。素晴らしいことに、5軸ボディ内手ブレ補正やMFアシスト、さらには周辺光量、倍率色収差、歪曲収差などのレンズ補正までも有効というスキのなさだ。

鏡筒には距離指標があるので、超広角レンズ特有の広い被写界深度を利用した、目測によるノーファインダー撮影も便利である。こうした、使う人にとっては必須、使わない人にとってもデザイン上重要、といった細かな仕様にまで手を抜いていないところに好感を覚えるというものだ。

レンズ構成は2枚のガラスモールド非球面レンズと3枚の超低分散ガラス(SDガラス)を配置した11群13枚となっている。

絞りによる変化

F8まで絞り込んで建築物を撮影した。「高解像と低歪曲を実現。開放から抜けの良い描写を得られます」とのアナウンス通り、画面の中央部・周辺部とも画質差の少ない安定した画像を得ることができた。

ボディ側のレンズ補正で歪曲収差はオフ(デフォルト)であるが、光学性能に起因する歪みはほぼ皆無といってよい。単焦点レンズであることを差し引いても超広角レンズとして見事な低歪曲を実現している。これならボディ側のレンズ補正は不要であろう。

約4,240万画素の高画素機ソニーα7R IIで撮影しても余裕のある、優れた解像性能である。

α7R II / 1/200秒 / F8 / 0EV / ISO100 / 絞り優先AE / 20mm

さらに絞り込んでF16で撮影。4,000万画素超のフルサイズ機で撮影すると、絞りがF8を超えたあたりから回折現象の影響で解像感が低下することが多いが、この画像を見る限り画質低下はあまり見られない。ボディ側との通信によって回折低減処理機能が働いているためであろう。絞り込んで撮影することが多い風景写真でも有効に使える。

α7R II / 1/60秒 / F16 / 0EV / ISO100 / 絞り優先AE / 20mm

作品

超広角レンズらしく海場でワイドな光景を撮ってみた。波打ち際の表情を主役にしたかったのでピントを2m付近に合わせ、F8に絞って撮影した。この場合でも、背景のボケ具合はとても素直である。単焦点レンズながら表現力豊かなレンズだ。

α7R II / 1/500秒 / F8 / +0.3EV / ISO100 / 絞り優先AE / 20mm

最短撮影距離は0.28mと、焦点距離20mmの大口径単焦点レンズとしては一般的。しかしここまで近寄ると、超広角といえども大口径レンズならではの大きなボケを味わうことができる。距離によっては若干二線ボケが発生することもあるが、決して主題を邪魔する嫌みな現れ方ではない。むしろ柔らかく品の良いボケ味によって、ワイドマクロ撮影の世界を楽しく表現できるレンズだと言える。

α7R II / 1/3,200秒 / F2 / -0.5EV / ISO100 / 絞り優先AE / 20mm

同じく最短撮影距離付近で花を開放F2で撮影。ピントの合った部分は絞り開放でも高い解像感を保っているので、大きくボケた背景の中に主題を浮き上がらせることができる。前ボケ気味の手前側のボケ味も悪くなく、四隅でも広角レンズにありがちな像の流れが見られないところに注目したい。

α7R II / 1/100秒 / F2 / +0.2EV / ISO100 / 絞り優先AE / 20mm

太陽などの強い光源を画面に入れると、光源から対角線上に小さ目のゴーストが並ぶ。非常に優れているわけではないが、高性能レンズとして一般的な逆光耐性と言ったところだろう。ゴーストの発生が素直なので、ファインダー(EVF)または背面モニターで発生具合を確認しながら、作画に効果を与えることができるのがミラーレス用である本レンズのいいところ。

α7R II / 1/640秒 / F5.6 / +0.5EV / ISO100 / 絞り優先AE / 20mm

まとめ

高画素化が進むデジタルカメラに対応して、各レンズメーカーとも従来より高い解像性能をもつ新ラインを立ち上げるというのがひとつのトレンドになっている。そうした中で、ケンコー・トキナーはミラーレス機用の高品位交換レンズという位置づけでFíRINシリーズを立ち上げたところが特徴的だ。

MF専用ではあるものの、CPUと距離エンコーダーを搭載することで、ボディ側との通信を可能としており、露出値やExifだけでなく、ボディ側の手ブレ補正やレンズ補正機能まで使えるようにしている点は高く評価できる。

ソニーのα7シリーズは、マウントアダプターを介して各社のMFレンズを付けて撮影する人が多いことで有名であるが、そうしたコアなファンの人たちにとっても、AF機構を省略するというFíRINの潔い仕様は納得できるのではないかと思う。

描写性能のみならず、質感や操作感も上々に仕上がっている。マニュアルライクな操作を存分に楽しみたいけど、デジタルカメラならではの最新機能も有効に活用したい、という人にはまさにうってつけのレンズといえるだろう。

今後、他の焦点距離やマウントで、どのような展開をみせてくれるのか、楽しみになるレンズシリーズが誕生した。

曽根原昇

(そねはら のぼる)信州大学大学院修了後に映像制作会社を経てフォトグラファーとして独立。2010年に関東に活動の場を移し雑誌・情報誌などの撮影を中心にカメラ誌等で執筆もしている。写真展に「イスタンブルの壁のなか」(オリンパスギャラリー)など。