新製品レビュー

EOS Kiss X90

2,410万画素になった一眼レフ入門機 中・上級者のサブ機としても

キヤノン EOSシリーズのローエンドを担うEOS Kiss X90は2016年4月発売のEOS Kiss X80の後継にあたる機種で、有効約2,410万画素のAPS-CサイズCMOSセンサーを搭載するデジタル一眼レフカメラである。

EOS Kiss X90はEOSの中では最も廉価なモデルで、先代のEOS Kiss X80からの大きな変更点は画素数が約1,800万画素から約2,410万画素へと増えたことだ。

というより、X80からの変更点はイメージセンサーだけといって良いかもしれない(センサー変更に伴って重量もわずかに軽量化されている)。

価格も安く手軽にイチガンを始められるカメラであるが、ひとつ上位のEOS Kiss X9と比べると制限される機能もたくさんあるため自分にとって必要かどうかをよく見極める必要があるだろう。

本記事では実写サンプルも交えながら、EOS Kiss X90の詳細についてお伝えしていきたい。

ライバル

エントリー向けで廉価なモデルの一眼レフカメラというジャンルで考えるなら、同じキヤノンの1つ上のモデルにあたるEOS Kiss X9が最大のライバルになりそうだ。2017年秋発売で完成度も高く価格も落ち着いてきたためお買い得感が出てきている。

他のメーカーに目を向けるとニコンD3400、PENTAX K-S2あたりも同クラスのカメラと言える。

EOS Kiss X90はイメージセンサー以外のシステムは旧式のままのため、他社を含めエントリークラスの一眼レフカメラと比べて機能的に見劣りしてしまう点も多いというのが正直な所だ。

最後にもまとめるが、最近の入門者向けカメラは撮影をサポートする機能が多く搭載されるが、本機はシステムが旧式のままのためその部分が弱い。これからまったくはじめて写真を始めるという入門者の場合は少し注意が必要だ。

ボディデザイン

ボディの外観はボタン配置も含めて先代のEOS Kiss X80とほとんど同じで、従来のEOS Kissシリーズのデザインを踏襲している。外装素材はプラスチックだ。

本体サイズ、重さはそれぞれ約129×101.3×77.6mm(幅×高さ×奥行き)、427g(バッテリー、カード含まず)で、EOS Kiss X80と同サイズだが13g軽くなっている。また、1つ上のグレードにあたるEOS Kiss X9(約122.4×92.6×69.8mm、406g)と比べると一回り大きく、重くなる。

ホールド感はさすが一眼レフカメラという感じだ。深さのあるグリップで手の大きめな私でもしっかりと安定したホールドができる。この辺りはエントリークラスのミラーレス機にはないメリットだろう。

内蔵スロトボはガイドナンバー約9.2(ISO100・m)のポップアップ式で、別途外付けのストロボを使用することも可能だ。

操作部

ボタン配置はEOS Kiss X80とまったく同じで変更点はない。

カメラ上面の操作ボタンはすべて右側(シャッターボタン側)に集約されている。Kissシリーズ以外のEOSではモードダイヤルが左側に配置されるが、Kissシリーズは右側になっている所が特徴。

ダイヤルにはよく使うP、Tv、Av、Mの応用撮影ゾーンの他に、シーンごとにアイコンが分かれたオートモードが並ぶ簡単撮影ゾーンに分かれている。

EOS Kiss X9では風景モードやスポーツモードといったシーンモードはダイヤル上は「SCN」に集約され、メニューからシーンを選ぶ方式だが、EOS Kiss X90ではダイヤルだけで直接シーンを選べるため直感的で初心者にもわかりやすそうだ。

その他、カメラのほとんどの設定変更を担う電子ダイヤルとストロボポップアップボタン、電源スイッチも上面に備える。シャッターボタンも押しやすく良いフィーリングだ。

背面側の操作ボタンもすべて右側に配置されているため、右手ですべてのボタンにアクセス可能だ。

撮像素子と画像処理関連

EOS Kiss X90のトピックとなるのがイメージセンサーのグレードアップだ。

EOS Kiss X80の約1,800万画素から約2,410万画素へと大きくアップしている。センサーサイズはAPS-Cサイズだ。記録画像サイズは6,000×4,000ピクセルでA3プリントにも十分な解像度となった。

約2,410万画素というのは上位機種のEOS KissX9やEOS 80Dと同等だ。ただし、これらの機種に搭載されているデュアルピクセルCMOS AFが非搭載であることに注意したい。

常用感度はISO100~6400。拡張感度としてISO12800を選ぶことも可能だ。

画像処理エンジンはX80と同じDGIC4+のままであり、他のKissシリーズはDIGIC7を搭載することを考えると古いと感じざるをえない。画像エンジンが旧式のため、JPEG撮影時は高感度撮影時のノイズリダクションの性能が低めで、回折ボケ補正も使えないことにも注意したい。

AF

AFはファインダー撮影時は9点(中央クロス)で、ワンショットAFのほか被写体を追従できるAIサーボAF、AIフォーカスAFも使える。

ライブビュー撮影時のAFはコントラスト式となり、像面位相差AFは使えない。コントラスト式のためAF可能範囲はほぼ画面全体で有効だが、速度が遅くやや迷いが生じることがある。

連写性能

連続撮影は最高約3コマ/秒で連続撮影枚数はJPEGで150枚、RAWで11枚、RAW+JPEGで6枚となっている(速度の遅いSDカードでは連続撮影枚数が低下するため注意)。

最近のカメラは入門機でも5~6コマ/秒で撮れるのが標準的となってきているため、連写が必要な人にとっては約3コマ/秒はやや物足りない印象だ。

JPEG撮影すれば150枚まで連写し続けられ十分だが、RAWの場合は連写中にバッファが一杯となりやすいので注意しておこう。

ファインダー

ファインダーは視野率約95%の光学式となり、視度調整も可能だ。ファインダー倍率は約0.8倍でEOS Kiss X9の約0.87倍と比べるとやや狭くなる。

液晶モニター

背面液晶は固定式の3型約92万ドットで、タッチパネル機構は備えていない。手動で7段階の明るさ調整が可能だ。

動画

動画はMOV形式でフルHD(1,920×1,080)30pの撮影が可能。ビットレートは約46Mbpsとなる。EOS Kiss X90はデュアルピクセルCMOS AFを有していないため動画撮影時のAFはコントラスト式となり遅い点に注意しよう。

動画撮影時の感度はISO100~6400で拡張感度(ISO12800は使用できない)。内蔵マイクはモノラルマイクとなり、外部マイク端子も備えないため本格的な動画撮影に使おうとする場合には注意が必要だ。

通信機能

Wi-FiのほかBluetooth、NFCも搭載されており、スマートフォンとの連携はスムーズに行える(専用アプリをインストールすること)。専用アプリではカメラ内の画像確認のほか、スマホでライブビューを見ながらのリモート撮影を行うこともできる。

ただし、通信機能とデジタル端子(USB、HDMI)は排他利用となるため、Wi-Fi機能を「使う」に設定しているとUSBやHDMI接続は無効になる。パソコンやテレビと繋げたい場合はWi-Fi機能を「使わない」に設定する必要があることを覚えておこう。

端子類

外部機器と接続可能な端子はminiUSB、HDMI Mini Type C、レリーズケーブル端子(RS-60E3用)の3つ。外部マイク端子は備えていない。

記録メディアスロット

記録メディアはSDカードでメディアスロットはバッテリー室と兼用となる。

バッテリー

使用バッテリーはLP-E10で撮影可能枚数はファインダー撮影で500枚、ライブビュー撮影では240枚だ。専用チャージャーも付属する。

ファインダー撮影時の枚数はEOS Kiss X80と同じだが、ライブビュー撮影時の枚数はX80の180枚に比べて大幅に伸びている。

作品

EOS Kiss X90は上位機種と同じ約2,410万画素のセンサーへとグレードアップしているものの、画像エンジンは旧式のDIGIC4+となるため絞り込んで撮影したときの小絞りボケ補正などは使えない。

ただし、小絞りボケが生じにくいF8程度で撮影を行うと2,410万画素をしっかり生かして撮影が可能だ。この写真もF8で撮影したが東京スカイツリーの骨組みの細部までしっかりと解像している。ピクチャースタイル風景とすることでスッキリしたキヤノンらしい青空の色となった。

EOS Kiss X90 / EF-S18-55mm F3.5-5.6 IS II / 1/100秒 / F8 / +0.7EV / ISO 100 / 絞り優先AE / 18mm

ハイライトからシャドウにかけての階調の繋がりも良好。水滴の滑らかな質感も違和感なく再現できている。低感度で絞り込まない撮影なら上位機種との画質の違いは小さいだろう。

EOS Kiss X90 / EF-S55-250mm F4-5.6 IS STM / 1/1,000秒 / F8 / 0EV / ISO 100 / 絞り優先AE / 100mm

小形軽量なカメラなので、被写体に寄ってマクロ的に撮影するのもあまり苦にならない。半逆光で撮影したがシャドウ部の階調も良好だ。

EOS Kiss X90 / EF-S18-55mm F3.5-5.6 IS II / 1/1,000秒 / F5.6 / +0.7EV / ISO 100 / 絞り優先AE / 55mm

シャッターは最高1/4,000秒でエントリー機としては標準的。水の流れを1/4,000秒で止めてみたが、1/4,000秒あれば日常のほとんどの動体を止めることが可能だ。

EOS Kiss X90 / EF-S55-250mm F4-5.6 IS STM / 1/4,000秒 / F5.6 / +0.7EV / ISO 800 / Shutter Priority / 163mm

高感度は常用ISO6400までとなる。最新のDIGICに比べてDIGIC4+はノイズリダクションが弱いため6400では空や雲などディティールの少ないところでのカラーノイズが気になってくる。ISO3200ならそれほどノイズは気にならないはずだ。

センサーの素性としては上位のカメラに搭載されているものと似ており、RAWで撮影してPCでDigital Photo Professional(DPP)を使ってRAW現像するとISO6400でもEOS Kiss X9などと同レベルのノイズ感に落ち着いてくる。

EOS Kiss X90 / EF-S18-55mm F3.5-5.6 IS II / 1/200秒 / F8 / -0.7EV / ISO 3200 / 絞り優先AE / 39mm

搭載されるイメージセンサーは優秀であるので、このようにテーブルフォトなど三脚を使ってじっくり撮影する場合にも良いだろう。ライブビューなら画面の端の方でもAFが効くのもポイント。

EOS Kiss X90 / EF-S18-55mm F3.5-5.6 IS II / 1.3秒 / F5.6 / -1.7EV / ISO 100 / 絞り優先AE / 55mm

連写枚数は約3コマ/秒と少ないものの、速度を落としている電車ならこのように連続して撮影できる。ファインダー撮影なら位相差AFが使えるため十分実用的な速度でAFが使え、追従精度もそれほど悪くはない(中央の測距点を使用)。

連写した中の1枚。EOS Kiss X90 / EF-S55-250mm F4-5.6 IS STM / 1/320秒 / F4.5 / +0.7EV / ISO 100 / 絞り優先AE / 100mm

フルHD、30pで動画を撮影した。動画撮影時はライブビューとなるためコントラスト式の本機ではAFによる滑らかなピント送りは難しい。今回はMFに設定して画面奥から手前まで手動でピント送りをした。記録音声がモノラルで外部マイクも使えない点が惜しい所だ。

まとめ

以上、EOS Kiss X90の詳細についてお伝えした。冒頭でも述べたとおり、先代のEOS X80からの違いはイメージセンサーだけと考えても良いだろう。

RAWのデータを見てみると上位のカメラと同程度の画質を得られる実力はあるものの、搭載される画像エンジンが旧式なためグレードアップしたイメージセンサーの実力をフルに引き出せていないのは惜しい所だ。

価格的にはEOSシリーズで最も安いモデルであるのである程度の機能抑制はしかたがないが、もう少し他の機能もアップグレードしてくれたらと感じたのが正直な感想だ。

デジタルカメラは毎年新しく、便利に進化しているため特に初心者はひとつ上のグレードのEOS Kiss X9や先日登場したミラーレス機のEOS Kiss Mの方が使いやすいし良い結果が得られるはずだ。画像エンジン、ライブビューや動画性能などはEOS Kiss X90よりも格段に優れた機能を有しているからだ。

本機を選ぶなら写真入門者よりも光学ファインダー撮影に慣れた中級者以上のサブカメラとして使うのが良いかも知れない。

イメージセンサーは新世代のものに入れ替わっているためRAWで記録できるデータの質は高い。RAW記録メインで静物を中心に撮影するのであれば安価に質の良いセンサーが使え、コンパクトなためカメラバッグの隙間にスッと入れておくこともできるだろう。EF-Sマウントなため豊富なEFレンズ群が使えるという安心感もある。

中原一雄

1982年北海道生まれ。化学メーカー勤務を経て写真の道へ。バンタンデザイン研究所フォトグラフィ専攻卒業。広告写真撮影の傍ら写真ワーク ショップやセミナー講師として活動。写真情報サイトstudio9を主催 。