交換レンズレビュー

SIGMA 30mm F1.4 DC DN | Contemporary

ミラーレスユーザーへ新たな大口径の選択肢

今回はOLYMPUS PEN-F、OLYMPUS OM-D E-M1、OLYMPUS E-M10 Mark IIで試用した。発売は3月。実勢価格は税込3万9,410円前後

シグマから新しくミラーレスカメラ用の交換レンズが発売された。「SIGMA 30mm F1.4 DC DN | Contemporary」である。開放絞り値がF1.4と明るい大口径レンズだ。レンズ構成は非球面レンズ2枚を含んだ7群9枚。前玉に高屈折率高分散ガラスレンズを採用することで、レンズの長さを抑えることに成功しているという。

デザインと操作性

30mm F1.4 DC DN | Contemporaryにはマイクロフォーサーズ用とソニーEマウント用の2種類がある。それぞれのカメラに装着した際の35mm判換算焦点距離は、マイクロフォーサーズ用で約60mm相当、Eマウント用で約45mm相当となる。どちらもレンズ自体の造りは同じだ。

レンズの全長は73.3mm、最大径が64.8mm。ミラーレス用のレンズとしては大きすぎず小さすぎず。質量は265g
開放絞りF1.4の大口径レンズ。30mm F2.8 DN | Artの前玉に比べると圧倒的に大きい。フィルター径は52mm。レンズ銘は黒文字でプリントされている
マウントは金属の真鍮製。今回のレビューではマイクロフォーサーズ用を試用した。なおこのレンズはシグマによる有料のマウント交換サービス対象レンズとなっている
フォーカスリングは幅広くラバー製の滑り止めパターン付き。リングの回転トルクは軽めだが回しすぎることはない程度

レンズ鏡筒や絞りの部品には新複合素材のTSC(Thermally Stable Composite)を採用。TSCは弾性が高く温度変化などでの変形が少ないため、パーツの精度を上げるとともにパーツ間のガタ付きを最小限に抑えることができ、それによって絞りを滑らかに動かすことやレンズ性能の向上を実現できたという。なお絞り羽根は9枚の円形絞りを採用している。

カメラとの組み合わせイメージだが、オリンパスならE-M1に付けるとちょうど良い大きさで、PENに付けるとレンズの方がちょっと大きく感じる程度といえば伝わるだろうか。

OLYMPUS OM-D E-M1との組み合わせ
OLYMPUS PEN-Fとの組み合わせ
同梱のフードは大きめで深さもあるもの。カメラを構えるときにレンズにも指をかけてホールドすることも想定してあり、フードには滑り止めとなるようにとラバーが貼られ溝が設けられている。内側には反射防止の段差が施されている

遠景の描写は?

まず中央部を見ていこう。絞り開放のF1.4でも画像中央に位置する家屋の瓦の線がくっきりと判別できる。そこから1段、2段と絞っていくと線像がよりくっきりとしていき、F4~F5.6で分解能がピークを迎える。そこからさらに絞るとコントラストが徐々に低下していきF16では小絞りによる影響で画像が緩くなる。

次に画像周辺部を見ていこう。絞り開放のF1.4~F2までは画像が流れ気味でパープル色の色収差も僅かだが見られる。F2.8から段々と解像力が上がっていきF5.6~F8でピークを迎える。そこからさらに絞っていくと像が僅かながらに小絞りの影響で緩くなっていく。

F1.4という明るいレンズだけに開放に近い絞り値では、画像中央部と周辺部との画質に差が見受けられる。しかしF2.8まで絞ると画像全面の画質が大きく上がっていく。そこからさらにF11までは絞り込んでも影響は少ないが、遠景撮影の場合F5.6~F8での撮影がもっとも画質が高まる絞り値だと言える。

  • 作例のサムネイルをクリックすると、リサイズなし・補正なしの撮影画像をダウンロード後、800×600ピクセル前後の縮小画像を表示します。その後、クリックした箇所をピクセル等倍で表示します。
  • 縦位置で撮影した写真のみ、無劣化での回転処理を施しています。

※共通設定:PEN-F / 0EV / ISO200 / 絞り優先AE / 30mm

中央部
以下のサムネイルは四角の部分を等倍で切り出したものです。
F1.4
F2
F2.8
F4
F5.6
F8
F11
F16
周辺部
以下のサムネイルは四角の部分を等倍で切り出したものです。
F1.4
F2
F2.8
F4
F5.6
F8
F11
F16

ボケ味は?

このレンズは35mm判換算で45mmもしくは60mmという標準レンズ域の画角が得られるレンズだ。標準域のレンズは人が被写体を注視したときの見え方に近い。そしてF1.4という明るい絞り値を組み合わせることで、浅い被写界深度での自然なボケを活かした描写が得られる。

このレンズもそのセオリーから外れることなく、浅い被写界深度でのボケを楽しむことができる。絞り開放での撮影では、柔らかく大きな前ボケと後ろボケが被写体を浮き立たせる。フォーカスを合わせた箇所は解像力が高くとてもシャープに描写されるだけに、そこから柔らかにボケていく様が美しい。

描画の疎わしさにつながる二線ボケも見当たらない。強い光で照らされた際に後ろボケのエッジに若干の軸上収差による緑の縁取りが見受けられる場合があるが、通常は気になるというほどではないだろう。

絞り開放・最短撮影距離(約30cm)で撮影。E-M1 / 1/13秒 / F1.4 / 0EV / ISO200 / 絞り優先AE / 30mm
絞り開放・距離数mで撮影。E-M10 Mark II / 1/640秒 / F2.8 / 0EV / ISO200 / 絞り優先AE / 30mm
絞りF2.8・距離数mで撮影。E-M10 Mark II / 1/500秒 / F2.8 / -0.7EV / ISO200 / 絞り優先AE / 30mm
絞りF4・距離数mで撮影。E-M1 / 1/320秒 / F4 / +1EV / ISO200 / 絞り優先AE / 30mm

逆光耐性は?

画面内に太陽を直接入れ込んで撮影したものと、画面外に配置したものとで画像への影響を比較する。画面のなかに太陽を入れずに撮影したものに比べ、画面に直接太陽を入れて撮影したものは、ハイライト部が僅かながらに白く滲みもあり一部にハレーションも出ている。

とはいえ、影響は限定的でそれほど大きくはない。一般的な撮影であれば、特に気にする必要もないだろう。逆に言えばわざとフレアやハレーションを入れこみ、白っぽい写りを期待するようなイメージ撮影向きのレンズではない。

太陽が画面内に入る逆光で撮影。E-M1 / 1/6,400秒 / F4 / 0EV / ISO200 / マニュアル / 30mm
太陽が画面外にある逆光で撮影。E-M1 / 1/5,000秒 / F4 / 0EV / ISO200 / マニュアル / 30mm

作品

カフェのカウンターに置かれた水差し。限られた明かりによる撮影でもF1.4の明るい単焦点レンズはありがたい。

E-M10 Mark II / 1/25秒 / F1.4 / +1EV / ISO200 / 絞り優先AE / 30mm

雨上がりの庭先で、トレイに飾られたプラントを撮影。絞りをF5.6に絞ってフォーカスの合う範囲をコントロールする。水滴を湛えたプラントがとても瑞々しい。

E-M10 Mark II / 1/8秒 / F5.6 / -0.3EV / ISO200 / 絞り優先AE / 30mm

牧場にて春の陽にまどろむ羊たち。標準レンズの自然な奥行き感がすこぶる心地よい。F2.8まで絞っているのでレンズ中心部から周辺部にかけての羊の毛の描写もすこぶる良い。

E-M1 / 1/1,250秒 / F2.8 / +0.3EV / ISO200 / 絞り優先AE / 30mm

春の日差しに照らされた桜。絞りを開放気味にし花に近づきシャッターを切る。大口径レンズ特有の薄いベールのような柔らかな描写が画面を覆う。花弁の周辺部にわずかな色収差がみられるが、Contemporaryラインのレンズとして考えれば決して気になる程ではない。

PEN-F / 1/3,200秒 / F1.6 / +1EV / ISO200 / 絞り優先AE / 30mm

最短撮影距離近くにまで花に近寄りシャッターを切る。ピントを合わせた雄しべはとてもクリアでシャープネスも高く描写されているのがわかる。

E-M1 / 1/3,200秒 / F2.8 / -0.7EV / ISO200 / 絞り優先AE / 30mm

F1.4の絞り開放で、人物の目元にだけフォーカスを合わせる。目元の睫毛や目にかかる髪はおどろくほどシャープに描写。そこから奥へとアウトフォーカスしていく流れのボケの柔らかさに惹かれる。

E-M1 / 1/1,600秒 / F1.4 / +0.7EV / ISO200 / 絞り優先AE / 30mm

まとめ

シグマには同じくミラーレスカメラ用の交換レンズとして「30mm F2.8 DN | Art」という単焦点レンズが以前より存在するが、今回発売された30mm F1.4 DC DN | Contemporaryは、焦点距離こそ同じ30mmではあるものの、ArtラインシリーズではなくContemporaryラインに属するレンズとして発売された。

今回このレンズの描写力を検証すればするほど、その高い画質とF1.4大口径レンズというスペックから、Artラインとしても良いのではないかと感じてしまう。

シグマにその話を聞くと、このレンズをContemporaryラインとした理由のひとつに歪曲補正を光学的に解決するのではなく、カメラ内ソフトウェアでの画像補正機能に託していることからArtラインとはしていないという返答だった。

つまりレンズを大きくしたり高価なガラスを多く使うなどをすれば光学的にすべての収差や歪曲を補正することも可能ではあるが、このレンズではあえてそうはせずに、レンズのシャープネスの向上や、フォーカス機構の軽量化、レンズ全体の操作性やコンパクト化に注力することで、ミラーレス用レンズとしてバランスの良い製品として仕上げることを選択したということだ。

それでいて、Artラインレンズにも匹敵する高画質なレンズに仕上げることができたというのだから、ユーザーとしては十分な恩恵を得ることができるレンズだといえるだろう。ミラーレスカメラのユーザーにとって、大口径単焦点レンズの選択肢がひとつ増えたことは、とても喜ばしいことであるのは間違いない。

礒村浩一

(いそむらこういち)1967年福岡県生まれ。東京写真専門学校(現ビジュアルアーツ)卒。広告プロダクションを経たのちに独立。人物ポートレートから商品、建築、舞台、風景など幅広く撮影。撮影に関するセミナーやワークショップの講師としても全国に赴く。近著「マイクロフォーサーズレンズ完全ガイド(玄光社)」「今すぐ使えるかんたんmini オリンパスOM-D E-M10基本&応用撮影ガイド(技術評論社)」Webサイトはisopy.jp Twitter ID:k_isopy