交換レンズレビュー

SIGMA 23mm F1.4 DC DN|Contemporary

単焦点レンズの楽しさを低価格で体験 35mm相当の大口径レンズ

シグマの「23mm F1.4 DC DN|Contemporary」は、APS-Cサイズ対応のミラーレスカメラ用として登場した大口径単焦点レンズです。今年の4月にライカLマウント用およびソニーEマウント用が発売されていましたが、この9月、新たに富士フイルムXマウント用が追加されました。今回はそのXマウント用レンズのレビューになります。

35mm判換算での焦点距離は35mm相当と、スナップ撮影などにはとても使いやすい人気の画角です。ですが、F1.4の大口径ともなると、純正レンズでは結構なお値段になってしまいがち。それだけに、本レンズの実力のほどは気になるところです。

外観・操作性など

最大径×長さは65.8mm × 79.2mm、質量は335gとなっています。富士フイルムの純正レンズ「XF23mmF1.4 R LM WR」の最大径×長さが67mm×77.8mm、質量が375gですので、サイズはおおむね同等で質量はやや軽いといったところ。スペックを考えると十分にコンパクトで、ミラーレスカメラとのバランスはよいと考えて問題ないと思います。

外観デザインは非常にシンプルで、可動部はフォーカスリングのみという潔さです。絞りリングやロックボタンを装備した富士フイルムのレンズとは対照的ですが、造りの良さはなかなかのもので、実際に使っていても精密感や堅牢性の高さをシッカリ感じ取ることができます。

レンズ構成は10群13枚で、3枚のSLDガラス(色収差を抑制する特殊低分散ガラス)と2枚の非球面レンズを使った贅沢設計。コンパクトなレンズボディながらも、最新かつ高度な光学設計が採用されています。フィルター径も52mmと小型になっており、装着するフィルター類のサイズを小さくできるのは嬉しいところだったりします。

専用の花型フード「LH554-01」が付属します。遮光性や保護効果はもちろん、ブラインドでも着脱が容易にできる設計となっており、使いやすさはかなり良好です。細かいところまで使い心地に気を配ってくれる姿勢は嬉しいですね。

作例

絞りをF2.8にして平面的な建築物の撮影をしてみました。F2.8としたのは、ここから急激に画面全体の解像性能が高くなることから。絞り開放のF1.4で建築物や風景を撮る機会はそうないと思いますが、仮に条件が悪く絞りを開けたい場合であっても、F2.8以上なら安心だろうと思います。さらに絞り込めばますます画面全体の解像感は向上し、おおむねF7.1以上で最高になる印象でした。

X-H2S/SIGMA 23mm F1.4 DC DN|Contemporary/23mm(35mm相当)/絞り優先AE(1/1,900秒、F2.8、+0.3EV)/ISO 160

草むらの陰に河童が佇んでいましたので、絞りを開放のF1.4にして撮りました。F2.8以上で解像性能が高くなることを前述しましたが、絞り開放F1.4での解像性能が低いというわけでは決してありません。そのことは、ピントを合わせた河童の右目あたりを確認してもらえば分かることと思います。大きなボケのなかに被写体を浮き上がらせるだけの、十分な解像感があります。

X-H2S/SIGMA 23mm F1.4 DC DN|Contemporary/23mm(35mm相当)/絞り優先AE(1/900秒、F1.4、+0.7EV)/ISO 160

最短撮影距離は25cmとなっており、この時の最大撮影倍率は1:7.3(約0.14倍)になります。近接撮影性能が特別高く、マクロ的な撮影が可能といった部類の仕様ではありませんが、焦点距離35mm相当で最短撮影距離25cmなら現代的なレンズとしても、十分に優秀な性能といえるでしょう。

X-H2S/SIGMA 23mm F1.4 DC DN|Contemporary/23mm(35mm相当)/絞り優先AE(1/350秒、F1.4、+1.0EV)/ISO 160

飛び回りながら花の蜜を求めるアオスジアゲハの、一瞬のスキをついて撮りました。AF駆動系には静粛かつ高速なステッピングモーターが採用されており、富士フイルムのXマウント用に制御アルゴリズムを最適化しているそうです。ステッピングモーターの採用は、現行ミラーレスカメラ用の交換レンズとしてはトレンド。実際に、本レンズを使っていてもAF速度や精度に不満を感じるようなことはありませんでした。

X-H2S/SIGMA 23mm F1.4 DC DN|Contemporary/23mm(35mm相当)/絞り優先AE(1/1,400秒、F1.4、±0.0EV)/ISO 160

石碑(?)のたもとでネコがお昼寝をしていましたので、すかさず「被写体検出AF設定」を「動物」にして、ネコの瞳にピントが合いつづけるようにしながら撮影しました。ピントはカメラ&レンズに任せられるため、構図と露出に専念できます。サードパーティー製レンズでもボディ側の各種機能に対応してくれているのはとても有難いことです。

X-H2S/SIGMA 23mm F1.4 DC DN|Contemporary/23mm(35mm相当)/絞り優先AE(1/300秒、F1.4、+0.7EV)/ISO 160

陽だまりのなかにリス(の置物)がイイ感じで遊んでいました。「フィルムシミュレーション」を「ノスタルジックネガ」、ホワイトバランスを「ノスタルジックネガ」のコンセプトに合うよう6500Kに設定しました。好みのレンズを使いながら富士フイルムならではの「フィルムシミュレーション」を活用できるのは、ユーザーの醍醐味と言えるのではないかと思います。

X-H2S/SIGMA 23mm F1.4 DC DN|Contemporary/23mm(35mm相当)/絞り優先AE(1/1,800秒、F1.4、−1.7EV)/ISO 160

その「フィルムシミュレーション」ですが、次にはモノクロの「ACROS+Rフィルター」で撮影してみました。焦点距離35mm相当の本レンズがもつスナップ向き画角と、富士フイルムがリアルなモノクロフィルムとして発売してきたアクロスとのイメージが、非常に相性が良く気持ちイイ! と感じました。絞りをF4にしたことで、シグマのレンズらしいメリハリのある描写特性も効いています。

X-H2S/SIGMA 23mm F1.4 DC DN|Contemporary/23mm(35mm相当)/絞り優先AE(1/350秒、F4.0、−0.3EV)/ISO 160

まとめ

富士フイルムのXマウント用レンズが追加された本レンズ「23mm F1.4 DC DN|Contemporary」を使うメリットは、以下に並べる点になるのではないかと思います。

  • 現行ミラーレスカメラ用交換レンズとして十分なコンパクト性と操作性
  • 実用上、十分に優れた描写性能
  • 相対的に純正レンズより低価格な大口径単焦点レンズ

ただし、フォーカスリング以外は操作できるところがないので、絞りリングを備えた富士フイルムの純正レンズと比べ、特に「X-Pro系」ボディや「X-T系」ボディのユーザーには、操作する楽しみを奪われる感覚を覚えることになるかもしれません。あくまで好みの問題ではありますが、ユーザーにとっては譲れないところかもしれません。 外観デザインの好みに関しても同じことが言えるでしょう。

また、優れた描写性能についても、同じく、ユーザーの好みで選択する以外に方法はありません。富士フイルムの純正レンズは拘りの傾向をもった高性能レンズですし、シグマのサードパーティー製レンズも拘りの傾向をもった高性能レンズであることに間違いはないからです。

それでも、現行レンズとして問題なく通用する性能の交換レンズが、低価格で登場することは「とても喜ばしい」の一言です。期待するところとしては、本レンズのようなXマウント用交換レンズがもっと多く登場することで、悩んで選択する楽しみをさらに加速してもらいたいと思います。

曽根原昇

(そねはら のぼる)信州大学大学院修了後に映像制作会社を経てフォトグラファーとして独立。2010年に関東に活動の場を移し雑誌・情報誌などの撮影を中心にカメラ誌等で執筆もしている。写真展に「イスタンブルの壁のなか」(オリンパスギャラリー)など。