交換レンズレビュー
キヤノン RF100-500mm F4.5-7.1 L IS USM
飛行機撮影で性能をチェック。フルサイズとAPS-Cで撮り比べ
2023年5月25日 08:00
キヤノン RF100-500mm F4.5-7.1 L IS USMは2020年8月に発売開始された超望遠ズームレンズで、同社の高級レンズシリーズLレンズに分類されており、屋外スポーツや野生動物、航空機撮影などに長けたRFシステムの中核となる一本だ。
今回はEOS Rシステムで最も高画素機のEOS R5と、EOS R3譲りのAFアルゴリズムを搭載したEOS R7の組み合わせで、航空機を撮影したレビューをお送りする。フルサイズセンサーを搭載するEOS R5では表記通り100-500mmの焦点距離となり、APS-Cセンサー搭載したEOS R7との組み合わせでは160-800mm相当の画角が得られ、望遠端はF7.1と明るくはないものの気軽に持ち歩ける超望遠ズームとしての真価を探ってみた。
キヤノンにはベストセラーで定評のあるEFマウントのEF100-400mm F4.5-5.6L IS II USMがラインナップされているが、77mmのフィルター径を維持して望遠側を500mmに伸ばしながらも重量200g(約13%)の軽量化を図ったのが、このレンズといえる。そのほか、手振れ補正はレンズ単体での5.0段分の補正効果から、カメラボディ内手ブレ補正との協調動作が可能となる機種との組み合わせでは約6.0段になる。撮影最短距離は100mm時に0.9m、500mm時に1.2mと向上させている。
なおRFレンズのラインナップにはLシリーズではない小型で安価のRF100-400mm F5.6-8 IS USMもある。
外観
RFレンズ特有の凹凸を極力減らした直線的デザインに、共通で装備される各操作が可能なコントロールリングを配しながら、EF100-400mm F4.5-5.6Lを踏襲するサイズに収めている。しかし実際に手にすると軽量化が実感でき、RFシステムによって小型化したカメラとのマッチングを考慮した新世代レンズであることがわかる。
ズームリングを回して前玉が繰り出す全長可変のズーム方式を採用。ズームリングを固定するロック機構はないが、頻繁にズーミングする際には軽く、また勝手な繰り出しを防ぎたい時には重くする「SMOOTH⇔TIGHT」調整リングがある。
先端側より、ズームリング、ズームリングの調整リング、各種スイッチ類、フォーカスリング、装着時の三脚座、コントロールリングと続く。スイッチ類は構えた際の左手側にあり、上から順にフォーカス距離範囲の切替え、AF/MFの切替え、手振れ補正ISのON/OFF切替え、手振れ補正モード1/2/3の切替えスイッチと配置されている
EFレンズでは黒色だったフードはレンズ本体と同色の白を採用し、装着時にPLフィルターの回転操作窓が付く。
1/4インチのネジ穴とガイドピン用の穴を備える三脚座は、開放するクランプ式となりカメラボディ装着時でも着脱可能だ。
周辺減光
ここからは実写をお届けする。航空機撮影では空にレンズを向けることが多く、画面一杯が空となった場合に4隅が暗くなる周辺減光が気になる。キヤノンはカメラ設定に「レンズ光学補正」「歪曲収差補正」のほか、「デジタルレンズオプティマイザ」を搭載するなど、デジタル一眼レフ世代から周辺減光をはじめとした光学由来の諸収差を積極的に補正しようとしてきたが、それらの補正系をOFFとした素の周辺減光と、ONにした補正具合を比べた。
フルサイズのEOS R5に装着し、レンズ光学補正、歪曲収差補正、デジタルレンズプティマイザをOFFにして、500mmの絞り開放で767-300を撮った。白い機体が白飛びしないよう-0.3段の露出補正を加えている。青空に濃淡が現われ明らかな周辺減光が出ているが、中心部から徐々に広がる様子で極端な落ち込みではない。そのほかのカメラやレンズで諸補正をONにしてもこの程度の減光は現われることがあり、補正OFFでの素性の良さを感じる。
500mm近くでレンズ光学補正、歪曲収差補正をONにして絞り開放で787-8を撮った。減光がわずかに認められるが濃淡は大幅に減り、絞り開放の画像にしては上出来だろう。OFF画像の767機とは光の入り方が違うため比較は好ましくないが、ディテール描写も良好に見える。
広角側100mmで絞り開放、補正系をOFFにした。500mm時よりも目立つ減光だが、これも急に落ち込むような癖はなく、素直な周辺減光だと思える。
広角側、補正ONの絞り開放の画像だが、望遠側のON時と同様、減光がないわけではないがその補正具合は見事といえる。
減光の不自然な出方や補正をONにしても補正しきれていない状況に、諦めざるを得ないレンズを何本も見てきた。この補正ONの結果はもちろん、OFF時の減光具合も自然なものと受け入れられ、ズームだから仕方ないと減光具合に憂うこともない満足の行く結果だ。
以降は特に表記の無いものを除き、周辺や歪曲の補正系の他、デジタルレンズオプティマイザも標準で入れ、ピクチャースタイルはスタンダード、AFはサーボAFのCASE1を用いている。
太陽(逆光)
日の出1時間後の太陽を撮った。露出値からもわかるように、眩しくて目を向けていられない輝度がある。光学ファインダー機では絶対に行うべきではないが、EVFを通せば露出シミュレーションが可能で、ミラーレス機の長所が生かせる、ならではのシチュエーションだ。画面中央やや下にマゼンタ色のフレアが出ているが、この高輝度なら仕方ないだろう。
続いて、輝度もある程度落ち着いた夕陽にレンズを向けた。この日は花粉の飛散が多く、太陽の周りに見られるフレア状の輪は花粉の光環である。太陽の点対称となる位置に僅かながら斑点状のフレアが薄っすら現れているが、気になるほどではない。
レンズコーティングのASC(Air Sphere Coating)は入射角が大きな光に対して効果的とのことだが、これらのケースでは問題のない逆光描写といっていいだろう。
APS-C機のEOS R7で800mm画角を試したく羽田空港C滑走路を離陸したA321をメカシャッターの秒間15コマの連写で追った。陽炎も出ていたが機体の結像具合は満足のいく結果だ。しかしEOS R7のメカシャッター連写では、連写中にISのモードIIが時折センタリングを行ったようで、機体を同じ位置に留めにくかった。画面の縦横辺に対して大きく傾斜する動きのせいかもしれない。
比較的コンパクトボディでもあるAPS-C機との組み合わせでは800mm画角となることに心酔し、続いてB滑走路を離陸するハノイ行のベトナム航空787-9型もEOS R7で狙った。メカシャッターから電子シャッターに変えると、ファインダー表示はISのモードIIも協調しているのか動画撮影時のように安定した。機体が滑走路から浮き、機首から両エンジン、垂直尾翼が入る圧縮された構図となった時の一枚だ。
さらに、この画角でどこまでのアップが狙えるかを試した。B滑走路での離陸機では最大サイズとなるキャセイパシフィックの777-300ERが最至近を通過する際に撮った。機体表面の注意書き、ピトー管の質感、前脚扉内側のタイヤ痕など見て取れる描写具合だ。
AとCの滑走路に同時進入する737-800と787-8が重なる亀親子を狙いつつ、背景に約20km離れたスカイツリーも入れる。装着したR7は縦位置グリップが用意されていないため不安定な構えになりがちな縦位置撮影だが、ここでもISのモードIIを使用することで画面は安定していた。
フルサイズのEOS R5を使用してB滑走路に進入するスカイマークの737-800にレンズを向ける。日の入一時間前、傾いた西陽が機体にハイライトを入れて輝かせた瞬間を、マイナスの露出補正を効かせて、その質感表現を狙った。800mm相当で撮っていると300mm画角ですら広いと思わせるが、さらに広角側に余裕がある状況にあるとわかるとズームレンズの実用性を感じる。
手振れ補正
東京湾に三日月が浮かぶ2月下旬、北米大陸から西へ向かう機体がコントレールを引いていた。遥か1万m上空をゆっくりと動くが、ディテールを再現するため手振れ、被写体ブレは避けたい。ISは流し撮り用のモードIIだったが、カメラを静止させている状態でも補正は有効に働いていた。
駐機場に牽引されてきたA350-900が衝突防止ランプを点灯させていた。赤く煌々と瞬くランプが消され、牽引車が離れる前に納めようと三脚に固定する前にとりあえずシャッターを切った。500mmの手持ちでシャッタースピード1/6秒は自信を持てなかったが、100%ではなかったがブレのない結像が見られる画像が数枚あり、約6段分の手振れ補正が示されたと思える。
駐機場のA350を撮影した場所から、B滑走路に着陸し減速する787-8を真横から流した。マンフロットのビデオ雲台「MVH608AH」に載せ、ISをモードIIにして左から右へパンさせる。背景にある管制塔などの点光源が一直線に伸びるところを見ると、上下のブレだけを補正した流し撮りモードが正確に機能していることがわかる。
テレコンバーター「EXTENDER RF1.4x」を装着し、満月が顔を出す東の空を仰いだ。この100-500mmには純正のEXTENDER RF1.4xとEXTENDER RF2xが取り付けられるものの、エクステンダーの前玉がマウント面より前に出ている構造から、100-500mmレンズを300mm以上に設定して装着する必要があり、それ以下では装着も使用も出来ない。カメラバッグへの収納時に縮められないのは難点ではある。
EOS R7のAPS-C画角と合わせ合計1120mmの望遠世界だ。機体が月面の前を通り過ぎる場所を予想して待機する。月のごく近くを通過していった数機を見送った後に737-800が月面を通過した。月面に合焦させていては機体シルエットをシャープに浮かび上がらせられないと懸念し、月の前を通過する直前に機体で灯るランプを頼りにAFで合焦させた。絞りF10と月面に合わせた露出のため、ライブビュー画面は暗かったが、何とか機体への合焦を確認しつつ737の動きにレンズをフォローさせてシャッターを切った。
まとめ
各社が同レンジの超望遠ズームをラインアップする中、RFマウントとなった100-500mmが気になっていた。同等の焦点域で直進式ズーム採用した望遠レンズ「EF100-400mm F4.5-5.6L IS USM」を1998年にライバルに先駆けて発売したキヤノンだけに、この焦点域のパイオニアとして他社とどのように差別化したかを体験したかったのだ。
今では当たり前の要素技術であるAF駆動の超音波モーターとレンズ内手振れ補正機構は、いずれもキヤノンがはじめに実用化している。今回のRFレンズはAF、IS、そして描写力のすべてを引き上げ、先駆者としての責務を忠実に果たし、EFマウントユーザーを安心してミラーレスに導ける一本に仕上げていると感じた。
革新的な新規要素は特段表には出てないが、この完成度の高さは他社ユーザーとしても羨ましく、RFシステム導入の検討材料にもなる一本でもあった。