新製品レビュー

RF100-400mm F5.6-8 IS USM

画質と機動性を両立した、ミラーレス時代ならではの普及型レンズ

キヤノンのミラーレスカメラEOS Rシリーズ用の「RF100-400mm F5.6-8 IS USM」は、2021年10月に新しく発売されたRFマウント望遠ズームレンズ。“超望遠の入口”とも言われる焦点距離400mmをカバーする超望遠ズームレンズと言っても差し支えないでしょう。税込で10万円を切る価格も大きな魅力です。

外観のスタイリングや開放F5.6-8というスペックから、本レンズはいわゆる“普及型”のクラスであることがうかがえます。しかし、こうした手頃なレンズが「晴れた日の屋外専用」と言われた時代は過ぎ、現在では“使える実力派”として注目されています。それは何故なのか、本レンズを通じて見ていきましょう。

いさぎよい小型軽量化コンセプトに感心

鏡筒の長さは約164.7mmで、最大径は約79.5mm。質量は約635gです。「EOS R6」に装着するとこんな感じ。

長さこそ超望遠ズームらしい存在感ですが、カメラボディとの重量バランスが良いため、持ち重りを感じることは全くありませんでした。フルサイズ用の望遠ズームとしては、かなり軽く小さく設計されていると言って良いと思います。

現在の100-400mmクラスのレンズでは、一眼レフ用の「EF100-400mm F4.5-5.6L IS II USM」が16群21枚構成、ミラーレス用の「RF100-500mm F4.5-7.1 L IS USM」が14群20枚構成。キヤノンRFマウント用はないものの、本レンズに近い価格帯のミラーレスカメラ専用レンズとして思い当たるシグマ「100-400mm F5-6.3 DG DN OS | Contemporary」も16群22枚構成と、いずれも20枚前後のレンズが使われています。

しかし本レンズの構成枚数は9群12枚と圧倒的に少ない。抑えめの開放F値と共に、軽量化に貢献していることは間違いないでしょう。こうした明確なコンセプトを感じられる商品企画は、キヤノンRFレンズ登場以来の感心ポイントです。

ズームリングを繰り出すと、1段沈胴の鏡筒がニョ~ンと伸びます。写真はテレ端400mmの状態。鏡筒が伸びても、重量バランスが極端に変化しないのは好ましい点です。

対応するレンズフード(ET-74B)を装着したところ。ちなみにこのフード、別売りです。しかも、希望小売価格は税込5,280円とか……。ただ、樹脂製のレンズフードはゴーストやフレアを防いでくれるだけでなく、万が一、レンズを何かにぶつけた時に、衝撃から本体を守ってくれる身代り地蔵的な役割も担ってくれるので、ぜひ準備したいところです。

派手さはないが使い勝手良好

レンズの先端から順に、コントロールリング、フォーカスリング、ズームリングが並びます。フォーカスリングはMF時にピント操作がやりやすい位置にあるうえ、トルクも適切なので、被写界深度の浅い望遠レンズでもスムーズにピントの微調整ができました。フルタイムマニュアルフォーカスにも対応しています。

ズームリングは、その幅広さと設定された段差が特徴。ファインダーを覗きながら手探りで操作しようとする時に、位置が分かりやすく回転させやすいです。凹凸が少なめのスマートな外観デザインですが、ユーザーが使いやすいようによく考えられていますね。

キヤノンのRFレンズと言えば、網目状に加工されたローレットで区別されたコントロールリングの存在があります。RFレンズでも一部には非搭載だったり、フォーカスリングと兼用だったりするレンズもありますが、本レンズはちゃんと独立して搭載されています
このコントロールリングは、カメラの「ダイヤルカスタマイズ」画面で、露出補正やISO感度、ホワイトバランスなどの機能を好みで割り当てられます。便利ですので積極的に使っていくと良いと思います
鏡筒の左側面(カメラを構えた状態で左)には、フォーカスモードスイッチと手ブレ補正スイッチがあります

レンズ内の光学式手ブレ補正機構の補正段数は公表されていないようですが、今回組み合わせて使った「EOS R6」の場合、ボディ内5軸手ブレ補正機構との協調制御が行われるため、実使用時の手ブレ補正効果はかなり高いと感じました。400mmもの超望遠となると、明るい日中でも油断すると手ブレしてしまうことがあるため、レンズ内にも優れた手ブレ補正機構を搭載してくれたのは嬉しいことです。

鏡筒の右側面(カメラを構えた状態で右)には、ズームリングロックレバーがあります。カメラを肩にかけて移動するときなどに、勝手に鏡筒が伸びないよう固定するものですが、こうした伸縮の幅が大きなズームレンズには嬉しい機能です。

良好な解像感が隅々まで安定してました

それでは実写結果に移ります。本レンズは別売のエクステンダーも装着可能ですが、ここではレンズ単体でテストしました。

EOS R6 RF100-400mm F5.6-8 IS USM(F8・1/1,000秒)ISO 400 400mm

まずは、テレ端400mmの描写。絞りは開放のF8です。PCモニターで画像を一見したときは、普及型と言ってもさすがの高画質!と思ったのですけど、拡大してみると細かいところが何だかモヤモヤして解像しきれていないようにみえました。

あれ?おかしいな?と思って、撮影当日の条件をよく考えてみたら、その日はしばらく雨がつづいた後の晴天で、撮影地周辺では濃霧注意報が出ていたのです。つまり、濃度の濃い水蒸気が超望遠撮影で圧縮され、その影響でモヤモヤしていたのですね。日本みたいな高温多湿な気候では“あるある”です。

EOS R6 RF100-400mm F5.6-8 IS USM(F5.6・1/100秒)ISO 100 100mm

そこで、別の日に撮影したお堅い建造物の写真を探してみました。こちらの画像はスッキリ綺麗に写っています。細かいことを言えば、憧れの超高性能レンズにはわずかに及びませんが、普及価格帯のレンズでここまで分解してくれるなら、まったく問題のない解像性能だと言って良いと思います。画面中心から周辺に至る均質性はかなりのものです。

素の状態では若干、糸巻き状の歪曲収差が気になりますが、メニューの「レンズ光学補正」内にある「歪曲収差補正」をONにすれば、ほとんど気にならないレベルに補正してくれます。これも解像性能と小型軽量化の両立を追求した点でしょう。カメラ内処理との協調で高画質と利便性(軽いとか、安いとか)を両立できるなら、利用しない手はないと思います。

EOS R6 RF100-400mm F5.6-8 IS USM(F5.6・1/2,000秒)ISO 400 100mm

つづいて、ワイド端100mmの描写。絞りは同じく開放F5.6です。こちらは400mmほどの圧縮効果もないので、水蒸気の影響も少なくスッキリ綺麗に写りました。画面の四隅まで像の乱れはほとんど見られず、均質性に優れているのはテレ端と同じ。あくまで今回の試写結果での判断になりますが、テレ端よりはワイド端のほうがいくらか解像感が高いかな?と感じます。でも本当に少しだけですので、実使用ではまず気にする必要はなく、どのズーム域でもシャープでハイコントラストな現代的描写性能を楽しめるはずです。

EOS R6 RF100-400mm F5.6-8 IS USM(F8・1/320秒)ISO 100 100mm

問題は、開放F値がワイド端でもF5.6、テレ端になるとF8と、一眼レフ用だったら考えづらいくらい暗いところですが……実はこれこそがミラーレスカメラ全盛時代だからこそ可能となったこと。それについては後ほど。

400mmならではの圧縮効果!ボケも綺麗

望遠レンズと言えば、遠くのモノを大きく写す“引き寄せ効果”をまず思い浮かべますが、被写体どうしの距離感が小さくなって、画面内の密度が高く見える“圧縮効果”も使う楽しみのひとつになっています。

EOS R6 RF100-400mm F5.6-8 IS USM(F8・1/200秒)ISO 100 100mm

標準系や広角系で撮ると意外にスカスカで「なんか違う……」となりがちなネモフィラの群生を、ワイド端100mmで撮るとこんな感じ。中望遠域の焦点距離なので、そこそこ画になる圧縮感が得られました。

EOS R6 RF100-400mm F5.6-8 IS USM(F8・1/500秒)ISO 100 400mm

それがテレ端400mmともなると、ご覧のように同じ場所とは思えないほどイッキに圧縮感が高まりました。100mmが200mmになってもそれほど驚きはしませんが、400mmともなると効果の違いが歴然としてビックリします。諸説ありますが、焦点距離400mmが超望遠の入口と言われる所以でしょう。

それはそうと、背景のボケが予想以上に綺麗で驚きました。普及型の望遠ズームと言うと、解像性能はクラスに比して高く設定されていても、ボケはというと、お世辞にも綺麗とは言えずがさつさを感じることありますけど、本レンズのボケは嫌味なところがなく素直で綺麗です。汚くなりがちな前ボケも良く健闘しています。

EOS R6 RF100-400mm F5.6-8 IS USM(F8・1/125秒)ISO 800 400mm

400mmと言っても小型軽量なレンズですので、カメラに付けて街を歩いても、人を驚かせるようなことはほとんどありません。超望遠で街角スナップっていうのも何だか粋ですね。

EOS R6 RF100-400mm F5.6-8 IS USM(F7.1・1/250秒)ISO 800 236mm

ただ、400mmまで届くからと、何でもかんでも400mmで撮るのはオススメできません。被写体にはそれぞれに適切な画角や効果があるものだと思います。でもそこはズームレンズ。1本でさまざまな焦点距離を選べるのですから、ファインダーを覗きながらイイ感じで画面に収まるポイントを探っていきたいところです。

EOS R6 RF100-400mm F5.6-8 IS USM(F8・1/100秒)ISO 100 325mm

焦点距離325mmをチョイス。近代的なビルの部分切り撮りなんかも簡単に出来ちゃいます。パースがあまりないので端正に切り撮れるのも良いところです。

EOS R6 RF100-400mm F5.6-8 IS USM(F8・1/50秒)ISO 100 200mm

わりと馴染みのある焦点距離200mmで撮影。某有名な銀杏並木ですけど、適度な圧縮効果で森のように見えます。

0.41倍という高い撮影倍率! が……

本レンズの近接撮影能力、実は思いのほか高いです。それを活かすための条件について説明します。

EOS R6 RF100-400mm F5.6-8 IS USM(F8・1/640秒)ISO 160 400mm

最大撮影倍率はテレ端400mm時に最大となる0.41倍と、もうちょっとでハーフマクロ(0.5倍)に迫る勢いです。最短撮影距離は中間の200mm時に0.88mとなっており、それ以外は公表されていませんが、ここまで大きく写せるなら「近接撮影も得意な超望遠ズーム」と言ってしまって良いのではないかとも思えます。

EOS R6 RF100-400mm F5.6-8 IS USM(F8・1/1,600秒)ISO 160 100mm

ただし、ワイド端100mmになると突然“寄れないレンズ”になってしまうのはご愛敬。寄れなければ寄れないなりに作画のしようもあるので、それほど大きな問題ではありませんけど、400mm時との落差が大きいのには正直「あれ?」と思いました。ここらへんが、最大撮影倍率や最短撮影距離を大きくアピールしていない要因なのかもしれませんね。だからと言って本レンズの性能が低いわけでは、決してないので誤解のないようお願いします。

EOS R6 RF100-400mm F5.6-8 IS USM(F5.6・1/125秒)ISO 400 100mm

ちなみに、屋内で猫を100mmの最短距離で撮るとこんな感じ。100mmでも被写体に対してそこそこの距離をとらないといけないので、屋内で使う場合はそれなりに撮影位置に気を使うことになります。それでも、被写体を大きく写したいという希望を比較的容易に叶えてくれるレンズであることには違いありません。

EOS R6 RF100-400mm F5.6-8 IS USM(F8・1/250秒)ISO 400 400mm

まとめ

ここまで本レンズの描写や機能について説明してきましたが、製品名を見て、やはり気になるところがあるのではないでしょうか。はい、開放F値が暗いところです。ワイド端100mmでF5.6なのはともかく、テレ端400mmでF8なのは確かに暗い、と筆者も最初は思いましたけど、使っていくうちにそれは一眼レフ時代、ひいてはフィルム時代の話なのだなと思うようになりました。

フィルム時代であれば、多くの場合、ISO感度は100固定ですので、F5.6~F8ではほとんど手持ちでは話になりません。一眼レフでは、AFセンサーの特性上、多くの機種は開放F8だと合焦すらできないうえに、ファインダーは真っ暗になってしまいます。

でも本レンズは、ミラーレスデジタルカメラである「EOS R」シリーズ用の交換レンズ。撮像センサーそのものがAFセンサーを兼ねていますし、EVFなので開放F値が暗くても問題なく明るく被写体を捉えることができます。ISO 6400、あるいはそれ以上の感度が実用的になった今のデジタルカメラなら、シャッター速度とISO感度のバランスに悩む必要もなくなりました。こう書いてると改めて「スゲーな……」と本気で思えてきたりします。

さらにスゴイのは、本レンズ、普及型でありながら、エクステンダー「RF 1.4x」と「RF 2x」が使用可能であるところ。エクステンダーは、光学的に画像を拡大するものですし、装着すると1.4xなら1段分、2xなら2段分、さらにF値が暗くなります。望遠端では開放F16になります。にもかかわらず使用可能としているということは、拡大された光学性能に対しても、暗くなるF値に対してもキヤノンは実用上「問題なし!」という太鼓判を押したということに他なりません。

長くなってしまいましたけど、本レンズの特長をまとめるなら

・フルサイズミラーレスカメラに対応した先進性
・普及型の超望遠ズームとしては、大変よい描写性能でボケも綺麗
・コントロールリングやレンズ内光学式手ブレ補正機構の搭載など、機能面も満足

と言ったところでしょうか。EOS一眼レフで業界をリードしてきたキヤノンが、ミラーレスEOSでも、本気でユーザーの使用感を考えたうえで出したレンズなのだと思いました。

曽根原昇

(そねはら のぼる)信州大学大学院修了後に映像制作会社を経てフォトグラファーとして独立。2010年に関東に活動の場を移し雑誌・情報誌などの撮影を中心にカメラ誌等で執筆もしている。写真展に「イスタンブルの壁のなか」(オリンパスギャラリー)など。