交換レンズレビュー

パナソニック LUMIX S 14-28mm F4-5.6 MACRO

無理のないスペック・サイズ感でも画質に妥協しない超広角ズームレンズ

パナソニックの「LUMIX S 14-28mm F4-5.6 MACRO」は、同社のフルサイズミラーレスカメラ「LUMIX Sシリーズ」に対応するLマウントの広角ズームレンズ。

レンズ名称に“MACRO”が含まれることからも分かる通り、広角ズームでありながら0.5倍のハーフマクロが可能という近接撮影性能の高さが特徴となっており、同じく近接撮影性能に優れた標準ズーム「LUMIX S 20-60mm F3.5-5.6」および望遠ズーム「LUMIX S 70-300mm F4.5-5.6 MACRO O.I.S.」と、兄弟的な関係にあります。

外観・サイズ

本レンズの最大径×長さは、φ84.0×89.8mmで、質量は約345gとなっています。フルサイズミラーレスカメラ用の同スペックレンズと比べてみると、最小最軽量でこそないものの、妥当な程度に小型・軽量化が図られていると思います。

ワイド端を焦点距離14mmとした超広角ズームレンズながらも、前玉が突出していないところは大変に好印象。77mm径のねじ込み式フィルターをそのまま使用できるので、偏光フィルターや可変式NDフィルターを使いたい場合などにも便利です。

付属のレンズフードを装着して「LUMIX S5II」と組み合わせてみました。レンズからファインダーへ向かう光の道筋を表現したグラフィックラインをデザインとして採用しているとのことですが、LUMIX Sシリーズボディと共通の艶やかな黒がよくマッチして、統一感が高くカッコイイです。

操作性

スイッチおよびボタン類については比較的簡素で、AF/MFの切り換えスイッチがあるのみとなっています。

とはいってもフォーカシング系レンズの移動量が少ない広角ズームですし、フォーカスロックスイッチの類も必要としない人は多いので、特に問題はないでしょう。良くいえばムダのないシンプルな造りであるともいえます。

フォーカスリングとズームリングには、操作性とデザイン性のバランスをとった手触りの良い樹脂製ローレットが施されており、操作時の感触は上々です。防塵・防滴に配慮した構造で、-10℃の耐低温設計も施されているので、堅牢性においても問題がありません。

ちょっと嬉しいのが、ズーミング操作を行っても全長の変わらない全長固定ズームを採用しているため、使用時のバランスがとても良いところ。ワイド端では前玉が鏡筒の先端ギリギリまで来ますが、テレ端方向にズームすると鏡筒内に前玉が引っ込むので、焦点距離の位置によってはレンズフードの役割を助ける遮光効果が高くなります。また、ズーミング操作でバランスの変化が少ないのは、ジンバルを使った動画撮影時にも有利です。

インナーズームなのでズーミングしてもバランスの変化が少ないのは長所。テレ端方向にズームすると前玉が引っ込むためレンズフードの役割を助ける遮光効果も期待できます

解像性能

超広角の14mmスタートにして妥当な小型・軽量レンズであるところから、解像性能については気になるところです。というわけで、ワイド端とテレ端のそれぞれについて絞り開放での解像感を確認してみました。

ワイド端14mm絞り開放(F4)での試写結果を見ると、画面全体で先鋭性やコントラスト性は申し分なく、大口径レンズでないことを差し引いても、素晴らしい解像感があることが確認できます。4隅では極わずかに流れるような像の乱れがありますが、それも画像を拡大してよくよく確認すれば分かる程度。フルサイズ対応の超広角14mmとしては、非常に優れた描写性能だと思います。

ワイド端
LUMIX S5II/LUMIX S 14-28mm F4-5.6 MACRO/14mm/絞り優先AE(1/640秒、F4.0、±0.0EV)/ISO 100

一方で、テレ端28mm絞り開放(F5.6)での試写結果も、ワイド端14mmと同じように画面全体で素晴らしい解像感を得られています。ただ、ワイド端14mmと比べると、画面の周辺部においてわずかな甘さがあるようで、絞り開放とは言ってもF5.6であることを考えると、もう少しだけ頑張ってほしいような気もします。とは言っても、実用上はまったく問題なく、十分に高画質なレンズであることは間違いありません。

テレ端
LUMIX S5II/LUMIX S 14-28mm F4-5.6 MACRO/28mm/絞り優先AE(1/320秒、F5.6、-0.3EV)/ISO 100

近接撮影性能

0.5倍のハーフマクロが、広角ズームながら撮れるのが本レンズの特徴です。最短撮影距離はズーム全域で15cmとなっており、実際に撮影していると、レンズ先端が被写体に接触してしまうのではないかと思えるくらい、寄って撮ることができます。

ワイド端14mmにして最短撮影距離で撮った作例は下の通り。ワイド端での最大撮影倍率は公表されていませんが、14mmの超広角としては驚異的に被写体を大きく写すことができるのは確かです。

ワイド端
LUMIX S5II/LUMIX S 14-28mm F4-5.6 MACRO/14mm/絞り優先AE(1/50秒、F6.3、+0.3EV)/ISO 400

被写体を大きく写しながら背景も画面内に入れることができるため、遠近感の効いた超広角ならではのワイドマクロ撮影ができます。

テレ端28mmにして最短撮影距離で撮影したのが下の作例。最大0.5倍のハーフマクロ撮影ができるのはこの28mmのときで、ハーフマクロらしく被写体をとても大きく写すことができます。

LUMIX S5II/LUMIX S 14-28mm F4-5.6 MACRO/28mm/絞り優先AE(1/60秒、F6.3、-0.3EV)/ISO 400

ズームレンズの近接撮影でありながら、フレアでコントラストが低下するようなこともなく、高い画質を維持しているところがイイですね。

作例

飼主さんにお声がけして犬さんを撮影。当たり前ですが「LUMIX S5II」の動物認識は本レンズでも問題なく使えます。ステッピングモーターを用いたインナーフォーカス方式のAFですので駆動音はほとんど気になることなく、高精度に瞳に合焦してくれました。動画撮影にも最適ですね。

LUMIX S5II/LUMIX S 14-28mm F4-5.6 MACRO/28mm/絞り優先AE(1/100秒、F5.2、+1.0EV)/ISO 400

焦点距離20mm、F11にして撮影してみました。絞り開放から描写性能の良いレンズですが、絞り込むことによってさらに高い解像感を画面の隅々まで味わうことができます。風景や建築の撮影でも安心して使えます。

LUMIX S5II/LUMIX S 14-28mm F4-5.6 MACRO/20mm/絞り優先AE(1/100秒、F11、-0.3EV)/ISO 100

同じく絞り値をF11にして今度はスナップ的な撮影をしてみました。このくらい絞り込むと遠近感のある構図でも画面の奥まで被写界深度に収まったパンフォーカスになるため、ピント位置を細かく定めきれないようなスナップ写真でも有効です。

LUMIX S5II/LUMIX S 14-28mm F4-5.6 MACRO/26mm/絞り優先AE(1/60秒、F11、-0.15EV)/ISO 400

焦点距離28mm時のハーフマクロは本レンズの大きな特徴のひとつではありますが、近接撮影時の背景ボケの美しさも見どころのひとつと言って良いのではないでしょうか。被写界深度の深い広角レンズ、しかもF4.0-F5.6と決して明るくもありませんが、ここまで寄って撮れれば、ボケを活かした作画も自由にできるというものです。

LUMIX S5II/LUMIX S 14-28mm F4-5.6 MACRO/25mm/絞り優先AE(1/100秒、F5.2、+1.3EV)/ISO 400

焦点距離18mmで撮影してみました。画面の外ギリギリのところに太陽があるという厳しい条件ですが、目立ったゴーストなども発生しておらず逆光耐性は上々です。背景の玉ボケはなかなか形良く、年輪ボケなども見られず印象的な演出に一役買ってくれています。

LUMIX S5II/LUMIX S 14-28mm F4-5.6 MACRO/18mm/絞り優先AE(1/60秒、F5.6、-0.3EV)/ISO 160

まとめ

画質、特に解像性能のところでは、重箱の隅をつつくようなことを述べていますが、総じて本レンズの描写性能は、至って優秀なそれであります。他メーカーの高性能ラインに匹敵するといって過言ではありませんし、造りや操作性も高品位で、いわゆる「持つ喜び、使う喜び」を感じるのに十分なだけの資質をもったレンズといえると思います。

注目したいのは、このレンズの開放絞りがF4.0-F5.6という、いわゆる普及タイプのスペックであること。このクラスのスペックで、ここまで本気な写りと造りのレンズは、そうそうあるものではありません。そのおかげで、いくぶん手の出しやすい価格になっているのは嬉しいところでしょう。

普及タイプに準ずるスペックのズームレンズであっても、高画質で本格的に仕上げてくれるというのは、いかにも、S5やS5IIなどのようなフルサイズミラーレスカメラをラインナップしているパナソニックらしさでもあります。これはもはや、パナソニックのフルサイズミラーレスカメラをもつユーザーならではの特権なのではないでしょうか。

曽根原昇

(そねはら のぼる)信州大学大学院修了後に映像制作会社を経てフォトグラファーとして独立。2010年に関東に活動の場を移し雑誌・情報誌などの撮影を中心にカメラ誌等で執筆もしている。写真展に「イスタンブルの壁のなか」(オリンパスギャラリー)など。