交換レンズレビュー

ソニー FE 24-70mm F2.8 GM II

進化を遂げたG Master標準ズーム I型/II型を実写で比較

ソニーから今年6月に発売された「FE 24-70mm F2.8 GM II」は、同社のミラーレスカメラが採用するEマウントに対応した、大口径標準ズームです。

“FE”は35mm判フルサイズ対応であることを、“GM”は同社αシステム用レンズで最高峰ブランドである「G Master」に属する高性能レンズであることを示しています。

分かりやすく言えば、既存の「FE 24-70mm F2.8 GM」(以下I型)の後継モデルが本レンズ「FE 24-70mm F2.8 GM II」です。

G Masterの最新レンズだけに、それなりに覚悟のいるお値段なのは仕方ありませんが、それを押しても、ソニーユーザーなら「これは何とかして手に入れねば」と思ってしまうほど、素晴らしく進化を遂げたレンズになっていますよ。

ぜひ最後までお読みください!

世界最小最軽量の大口径標準ズーム

「ミラーレス化してボディが小さくなったのにレンズが大きい……」フルサイズミラーレスカメラを手に入れると、こんな悩みよくありますよね? 特に大口径レンズなんかで。

本レンズの第一の特徴は何といっても小さく軽いこと。

I型が最大径87.6mm/長さ136mm/質量が約886gだったところ、本レンズは最大径87.8mm/長さ119.9mm /質量約695gとなっています。

左がII型。I型(右)より小型化されている

約20%の軽量化と約18%の小型化(体積比)に成功した本レンズは、フルサイズ対応でAF対応の24-70mm F2.8標準ズームとしては、世界最小最軽量となるそうです。

これなら、機動性や携行性も文句なく、ミラーレスカメラの利点を最大限に活かせると言うものでしょう。

進化した操作性

外観の特徴を見ていきましょう。I型とは大きさ以外にも、いくつかの仕様変更があります。

そのひとつとして挙げられるのが絞りリングの搭載。

最近登場したEマウントレンズの中でも、G MasterレンズやGレンズの多くが絞りリングを搭載していますが、これは静止画撮影時の「絞りリングを操作する楽しみ」だけではなく、「動画撮影時のスムーズな絞り調整」を意識してのことだと思います。

鏡筒の右下側には絞りリングのクリックをオン/オフできるスイッチがあります。

静止画撮影時はクリックオンで1/3段ずつ明確に絞りを刻み、動画撮影時にはクリックオフで絞り値を無音かつシームレスに変更することができます。

また、鏡筒の左側手前には「アイリスロックスイッチ」が搭載されています。

アイリスロックスイッチをオンにすると、Aポジションに絞りリングを固定するか、またはF2.8からF22の間で自由に設定できる(Aポジションに入らない)かを選択できます。撮影中の不用意な誤操作を防止できます。

鏡筒の中ほど右側下付近には「ズーム操作感切り換えスイッチ」が搭載されています。

これは、ズームリングを回す重さを調整する機構で、「TIGHT」にすると重く、「SMOOTH」にすると軽くなります。

不用意に鏡筒が繰り出てほしくないときはTIGHTに、動画撮影などで操作時の揺れを抑えスムーズに繰り出したいときはSMOOTHにする、などといった使い方ができます。

前モデルでは鏡筒左側にひとつだけだったフォーカスホールドボタンは、鏡筒上側にも搭載され、合計2個となりました。

縦位置にカメラを構えた状態でも、フォーカスホールドボタンが使いやすくなりました。

フォーカスホールドボタンはあまり使わない、という人もいるかもしれませんが、「フォーカスホールド」の他にも、「AFオン」「AEロック」「ISO感度」など様々な機能を割り当て、それをレンズを支えた手の指ですぐに押せるのでとても便利ですよ。

同梱のレンズフード「ALC-SH168」を装着してみました。

ただのレンズフードではなく、「レンズフードフィルター窓」を備えているところがスゴイです。

標準ズームのレンズフードとしてはかなり珍しい。円偏光フィルターをよく使う風景・ネイチャー写真家や、可変NDフィルターが必須とされる屋外での動画撮影をする人からは、大いに歓迎されるべき仕様ではないでしょうか。

解像感と美しいボケ味が両立

ここから実写です。まずは、解像性能を確認してみたいと思います。

せっかくですので、I型との撮り比べをします。

こちらはI型の広角端(24mm)で撮影したものです。

I型(広角側)
α7 IV/25mm/絞り優先(1/2,000秒・F2.8・+0.3EV)/ISO 100

絞りは開放のF2.8になります。画面の端、周辺部ではさすがに多少の画質の低下が見られますが、全体的には高性能レンズらしい非常に高い解像感があり、コントラスト、シャープネスとも大変良好です。

さすがはG Masterレンズだけのことはあります。

次はII型で撮影した画像になります。撮影条件はI型と同じです。

II型(広角側)
α7 IV/24mm/絞り優先(1/2,000秒・F2.8・+0.3EV)/ISO 100

小型軽量化されたことで画質低下が心配でしたが、結果はI型を凌ぐ高い解像感。I型よりさらにメリハリが効いていて、とても気持ちの良い画になっています。

「レンズ補正」の「歪曲収差補正」は「切」にしていますが、I型では少し目立っていた歪曲収差が軽減されているところも良いです。

以下は望遠端、絞り開放F2.8での画像です。

I型(望遠側)
α7 IV/70mm/絞り優先(1/250秒・F2.8・+0.3EV)/ISO 100
II型(望遠側)
α7 IV/70mm/絞り優先(1/250秒・F2.8・+0.3EV)/ISO 100

広角端ほどのハッキリとした違いはありませんが、それでも画像を拡大してみると、やはりII型のほうが解像感が高くなっています。

また、背景のボケに目を移すと、I型よりもII型のほうが、より柔らかく、まとまりがあり、綺麗なボケ味となっています。

「解像感と美しいボケ味の両立」を謳い文句にして登場したG Masterレンズですが、II型となって、そのコンセプトにさらなる磨きをかけてきました。

より被写体に近寄れるように

もうひとつ、「これは嬉しい進化!」と感激したのが最短撮影距離の短縮。I型の「FE 24-70mm F2.8 GM」ではズーム全域で38cmだった最短撮影距離ですが、II型の「FE 24-70mm F2.8 GM II」では、広角端24mmで21cm、望遠端で30cmにまで短縮されました。

どのくらい違うものなのか? 以下は被写体まで同じ位置から最短撮影距離で撮影した画像になります。

I型(最短撮影距離・広角側)
α7 IV/24mm/絞り優先(1/800秒・F2.8・+0.7EV)/ISO 400
II型(最短撮影距離・広角側)
α7 IV/24mm/絞り優先(1/800秒・F2.8・+0.3EV)/ISO 400

II型のほうが被写体にグッと寄れて大きく写すことができるのがわかります。

望遠端でも比べてみましょう。

I型(最短撮影距離・望遠側)
α7 IV/70mm/絞り優先(1/80秒・F2.8・-0.3EV)/ISO 100
II型(最短撮影距離・望遠側)
α7 IV/70mm/絞り優先(1/80秒・F2.8・±0.0EV)/ISO 100

広角端と同じく、望遠端でもII型のほうが、被写体により接近することができ、大きく写すことができました。

F2.8通しのような高性能標準ズームの最短撮影距離は、メーカーが認めるところの高画質を保障する意味でも、それほど短くすることができないのが普通でした。

それは特に純正ほど厳格で、ミラーレスカメラが登場しても変わらない状況が続いていたのですが、ここに来てイッキに最短撮影距離の短縮化が進んできています。

当然、いままでより被写体を大きく写せて高画質というなら、ユーザーにとってこれほど嬉しいことはありません。レンズ設計技術の進化に感謝したいところです。

同じような、同スペックレンズでの最短撮影距離の短縮化は、キヤノンの「RF24-70mm F2.8 L IS USM」でも実現されています。

今後はこのくらいの最短撮影距離がスタンダートになるかもしれませんね。

動画撮影時のAFも強力

本レンズは、画角の変動や揺れを最小限にし、動画に求められるなめらかな表現を可能としているとのことです。

ちなみに、ソニーは、こうしたソニーの動画撮影への対策機能をSMO(Smooth Motion Optics)と呼んでいます。

なかでも動画撮影時にピント位置を変えると「ガクン」と画角が変わってしまう、フォーカスブリージング(画角変動)への対策を確認してみた動画が以下になります。

ご覧の通りで、II型である本レンズは「ブリージング補正」機能の入/切にかかわらず、ほとんどフォーカスブリージングは起こりませんでした。

それどころか、I型でもフォーカスブリージングが感じられない結果になりました。特に謳っていなかったものの、動画撮影への対応を見越して高い基本性能を与えていたと言うことなのでしょう。

なおブリージング補正機能は、レンズ側とボディ側の両方が対応している必要があります。対応ボディは「α7 IV」と「FX6」のみとなっています。

あと、動画を見てわかっていただけると思いますが、AFは非常に応答性が良く、スムーズで静寂でした。

作例

α7 IVの動物瞳AFを使って猫を撮影。おとなしく座っているように見えますが、実際には飛び回って遊んでいる最中の一コマです。

α7 IV/70mm/絞り優先(1/200秒・F2.8・-0.3EV)/ISO 800

I型に比べAFの追従性能が約2倍に向上しているとのことで、実際に至近距離で動く被写体でもAFはシッカリ眼を捕捉し続けてくれました。


焦点距離70mm、絞りF4で撮影。

α7 IV/70mm/絞り優先(1/200秒・F4.0・-0.7EV)/ISO 100

個人的に、スナップ撮影の時によく使う絞り値なのですが、開放から1段絞ったところの値になるせいか、画質にも余裕があるように感じられます。

被写界深度から外れた背景が、標準ズームらしからぬ理想的なボケ味に。これは堪りません。


中間の焦点距離でも撮影してみました。焦点距離は35mm付近(34mm)で絞りF5.6。

α7 IV/70mm/絞り優先(1/20秒・F5.6・-0.7EV)/ISO 100

コントラストがありながらも階調表現が絶妙で、涼やかな緑陰の光景を見事に描き出してくれています。汚くなりがちな前ボケも自然で綺麗です。


同じく中間の焦点距離として50mm付近(49mm)を使ってみました。絞りはF5.6です。

α7 IV/49mm/絞り優先(1/25秒・F5.6・-1.3EV)/ISO 400

ピント面の非常に高い精細感と、そこから続くなだらかなボケのおかげで、被写体の立体感が素晴らしく良く表現できます。まるで中判デジタルカメラで撮ったかのよう。


ややイレギュラーかもしれませんが、画面右上にAFポイントを設定して、できるだけチョウに近づきながら撮影しました。

α7 IV/70mm/絞り優先(1/400秒・F2.8・±0.0EV)/ISO 100

余裕の近接撮影性能、正確で素早いAF性能をもった本レンズなら、こうした写真を撮るのは容易かったです。それにしても綺麗なボケ味です。惚れ惚れしてしまいました。

まとめ

I型との画質比較では比較的ソフトな書き方になっていますが、これは詳細に見比べた場合に定量的な違いを述べることの難しさによるものです。実際にI型のレンズを使ったことのある方なら「あっ! 画質すごくイイ!」と見てすぐに分かるくらいの確かな進化を感じられるはずです。

小型軽量なミラーレスカメラによく合うサイズ感を実現したこと、最短撮影距離を大幅に短縮したことなども、従来からのユーザーにとっては待望の進化でした。

絞りリングのデクリック機能を始め、「アイリスロックスイッチ」「ズーム操作感切り換えスイッチ」「レンズフードフィルター窓」などの新搭載や、「フォーカスホールドボタン」の増設、AF性能の向上などは、静止画・動画のどちらの撮影者にも喜ばしいことに違いありません。

筆者はI型の登場時、無理しながらも直ぐに購入したクチですが、単焦点レンズに比べ、G Masterレンズの醍醐味である「解像感と美しいボケ味の両立」をいまひとつ感じにくかったことと、αボディのせっかくの小ささをスポイルしてしまうサイズに負けて手放してしまった苦い思い出があります。

しかし、II型は違います。リアルな「解像感と美しいボケ味の両立」に素直に納得でき、機動性を邪魔しないための小型軽量性を手に入れてます。まさにG Masterの標準ズームに相応しい仕上がりだと言えるでしょう。

曽根原昇

(そねはら のぼる)信州大学大学院修了後に映像制作会社を経てフォトグラファーとして独立。2010年に関東に活動の場を移し雑誌・情報誌などの撮影を中心にカメラ誌等で執筆もしている。写真展に「イスタンブルの壁のなか」(オリンパスギャラリー)など。