交換レンズレビュー

ニコン NIKKOR Z MC 50mm f/2.8

スナップや旅行にも 手軽さが魅力の標準マイクロレンズ

ニコンZシリーズの初の標準マイクロレンズ。Zシリーズのマイクロレンズはこの50mmのほか、中望遠105mmの2種類が用意され、どちらも最大撮影倍率は等倍だ。

同じマイクロレンズでも、標準マイクロレンズは中望遠や望遠のそれらと比べて、コンパクトで持ち運びやすく、価格も手頃。

また、中望遠または望遠マイクロレンズよりも最短撮影距離が短いことから、テーブルフォトのような被写体が近い撮影での使い勝手がいい。中望遠・望遠マイクロレンズよりボケは作りにくいものの、最大撮影倍率が同じ等倍なら、被写体に近づくことで同様に背景を大きくぼかすこともできる。

被写体としては花のクローズアップはもちろん、背景の雰囲気を感じさせるようなスナップに向いているし、テーブルフォトにも使い勝手が良い。旅行に持って行くレンズとしてもお勧めだ。

外観

マウントの直径が大きいためレンズ自体も大きく感じるが、約260gと軽量で持ち運びしやすい。

Z 6IIに装着

防塵・防滴設計なので、雨の日でも安心して撮影できる。雨天時は暗くなるのでぶれが心配だが、ボディ内手ぶれ補正が効いていて、花びらや水滴のクローズアップもシャープに撮ることができた。

鏡筒全体の半分ほどがピントリングとなり、マニュアルフォーカス時の操作性は悪くない。滑らかな動きがしっかりとした作りを感じさせる。

ピント合わせは前群繰り出し式。撮影倍率が高くなるほどレンズが繰り出すタイプだ。繰り出した鏡筒には撮影倍率、撮影距離が記されている。

前群繰り出し式のイメージからするとAFは速い。音も静かでストレスなくピントを合わせてくれた。

それでもAF速度が気になる場合は、レンズ側のフォーカス制限切り替えスイッチが利用できる。0.16m〜0.3mに限定することで、近距離でもフォーカス合わせを効率化できる。

作例

近接撮影をメインとするマイクロレンズだけあって、近距離の画質が素晴らしい。絞り開放でもピントの合ったところはとてもシャープだ。

絞りの開放値はF2.8。より明るい単焦点レンズは存在するが、寄れる分大きなボケが得られる。

例えばこの作例。通常の標準レンズではここまで寄れない。マイクロレンズの強みだ。

Z 6II/絞り優先(1/30秒・F4.5・+1.3EV)/ISO 100

このようにクローズアップすれば、標準マイクロレンズでも背景をすっきり見せることができる。シャープな部分は花びらの一部分のみで、周囲の花びらも滑らかにボケている。


料理だけをアップで撮るのではなく、店内の雰囲気も感じられるよう撮ってみた。

Z 6II/絞り優先(1/100秒・F5.6・+0.3EV)/ISO 200

50mmはテーブルに着席した状態で料理を撮るのに程よい撮影距離が保てる。

ピザの奥からピカンテオイル、窓辺へとよくぼけて、背景の雰囲気が感じられる。


50mmのマイクロレンズはスナップにも便利だ。

Z 6II/絞り優先(1/30秒・F5.6・+0.7EV)/ISO 100

絞りの開放値がF2.8なので背景もぼかせるし、レンズ自体がコンパクトなので持ち運びやすいのはスナップ撮影に嬉しい点。ピント合わせもスムーズなのでストレスなく撮影が楽しめる。


雨の中でバラを撮影。花びらに水滴が付いていたので、手持ちでクローズアップした。

Z 6II/絞り優先(1/30秒・F5.6・+0.7EV)/ISO 100

薄暗かったので手ブレが心配だったが、ボディ内手ブレ補正が効いてシャープに撮ることができた。水滴がくっきり描写され、その表面に美しい艶を感じる。


窓辺で撮影したスイーツ。室内でも明るく、きれいな発色で撮ることができた。

Z 6II/絞り優先(1/80秒・F3.5・+2.0EV)/ISO 200

ケーキの上に載せられたシューの緻密な描写を見ると、このレンズの画質の良さがよくわかる。ゼリーの艶やかなテリも美しい。

手前のフルーツ、背景のグラス、テーブルの縁へと続くボケが素直できれい。

まとめ

フルサイズ対応のマイクロレンズなのに軽くてコンパクト。そのため気軽に撮影できた。

そんな気軽に使えるレンズながら、シャープ感、ボケの美しさは予想以上。画角が素直で、ボケも作りやすい。入手しやすい価格もうれしい。

花のアップはもちろん、料理、テーブルフォト、スナップ、旅行などにも使えるだろう。1本あればジャンルを問わず活躍するレンズになりそうだ。

吉住志穂

1979年東京生まれ。高校入学後から本格的に撮影を始める。2001年日本写真芸術専門学校を卒業後、写真家の竹内敏信氏に師事。自然の「こころ」をテーマに、主に花のクローズアップを撮影している。2016年には和紙にプリントし、掛軸に仕立てた展示「花時間」を開催し、好評を博す。また各地での講演会や写真誌での執筆を行う。公益社団法人 日本写真家協会(JPS)会員。