交換レンズレビュー

キヤノン RF16mm F2.8 STM

手軽さが魅力の超広角 最短13cmで寄り引き自在

2021年の10月にキヤノンから発売された「RF16mm F2.8 STM」は、同社のRFマウントミラーレスカメラ用の単焦点超広角レンズです。キヤノンオンラインショップの直販価格は税込4万1,800円です。

キヤノンEOSの交換レンズには一眼レフ時代から、赤いラインでお馴染みの高級ライン「Lレンズ」と、それ以外の“スタンダードクラス”と呼ばれるレンズが存在します。ミラーレスカメラ用のスタンダードクラスもラインナップが充実しはじめ、本レンズに近い単焦点では「RF35mm F1.8 MACRO IS STM」や「RF50mm F1.8 STM」といったレンズが以前から存在し、新しく「RF24mm F1.8 MACRO IS STM」も発表されています。

それにしても、35mm、50mmと来て、なぜ次が、スーパーワイドな焦点距離である16mmなのでしょう? わりと扱いが難しい画角なのでは? 今回は、そんな素朴な謎を探りながら進めていきたいと思います。

バッグの隙間にすっぽり入る小ささが嬉しい

このレンズの最大径は約69.2mmで、長さは40.2mm、重さは約165gとなっています。これは本当に小さく、そして軽い。超広角ズームを持ち運ぶことと比べてしまうと、圧倒的に良好な携行性の良さがあります。

この小ささ。なるほど、「気軽に持ち運べる超広角レンズ」というのが、メリットのひとつになっているわけですね
レンズフード(EW-65C)を装着してみました。残念なことに別売(希望小売価格は4,180円)となっていますが、超広角レンズは横からの有害光を拾いやすく、思いがけないゴーストやフレアの発生の原因となるため、できるだけ用意したいところです

コントロールリングは、露出補正やISO感度、ホワイトバランスなどの機能を好みで割り当てられるのですが、そのコントロールリングをコントロールリングとして使いたいときは切換スイッチを「CONTROL」に、コントロールリングではなくフォーカスリングとして使いたいときは切換スイッチを「FOCUS」にします。

レンズの先端部には電子式のリングが1つ。鏡筒側面の「FOCUS」と「CONTROL」のスイッチで機能を切り替えます
コントロールリングに割り当てるパラメーターを選んでいるところ

EOS Rシリーズのカメラは、どれもAF性能が優れているので、実際にはフォーカスリングとして使うことはほとんどなく、コントールリングとして使うことが多かったです。そうはいっても、いつ何時、MFでのピント合わせが必要になるか分からないため、こうしてどちらも効率よく使えるようにしてくれているのは有難いことです。

解像性能

F2.8で撮影

絞り値を開放のF2.8にして遠景を撮影してみました。全体的に解像感は穏やかですが、決して甘いわけではなく、自然な感じで細かいところまで解像していると思います。とても細かく見れば、四隅と左右の周辺で少しだけ像が乱れ、不鮮明なところもありますが、気になるほどのレベルではありません。湿度が高い条件でしたが、霞にも負けずコントラストも上々です。


F8で撮影

絞り値をF8にして同じ条件で撮影してみました。絞り開放であれだけの描写性能を見せてくれたのだから、絞ればさらにスゴイことに! と思ったのですが、実際には画像を拡大してよくよく見ると「周辺部の画質が少し良くなってるかな……」という程度。つまり、高性能レンズについてよく語られる「絞り開放から良好な描写性能」を、普及価格帯の本レンズも実現しているということになります。大口径ではない単焦点レンズとはいえ、素晴らしいです。

もちろん、絞り値は被写界深度と関連していますので、いくら絞り開放から描写性能が高いからと言って、何でもかんでも絞り開放で撮れば良いというものではありませんのでご注意ください。

近接撮影性能

本レンズの最短撮影距離は0.13m(13cm)。最大撮影倍率は0.26倍になります。昨今はミラーレスカメラ用のズームレンズも、かなり最短撮影距離を縮めてきている印象ですが、その中でも本レンズの最短13cmというのは魅力的です。

最短で撮影
EOS R6 RF16mm F2.8 STM(F2.8・1/500秒)ISO 160

と言うことで、最短撮影距離での撮影にチャレンジしてみました。主要被写体に対して十分な大きさで存在感を主張できるとともに、背景も広く写り込むことによって、いわゆるワイドマクロ的な撮り方を堪能することができます。

背景ボケも違和感がなく、自然で綺麗ですね。


EOS R6 RF16mm F2.8 STM(F2.8・1/640秒)ISO 100

最短撮影距離が13cmとなると、撮影距離の制約から意識が解放されるのがイイところ。最短に拘らず、撮影位置を寄ったり引いたりしながら、自分が一番「いいな」と思える構図を探ることができます。


EOS R6 RF16mm F2.8 STM(F2.8・1/250秒)ISO 800

本レンズ「RF16mm F2.8 STM」についてキヤノンのWebサイトを見ていましたら、「子どもやペットを愛らしく強調するデフォルメ撮影にも好適」とありましたので、恐らくは意図されているであろうイメージを撮ってみました。デフォルメのイメージを伝えるため、天地を入れ替えています。

手に猫のオモチャを持った状態でカメラを構え、飛び上がってきた愛猫を撮影したものです。確かに、肉眼では味わえない、超広角16mmならではのパースや遠近感が強調され、猫の元気ハツラツ感が良く表現できています。飼い主としては嬉しいの一言です。

あと、結構な至近距離での出来事だったのですが、飛び上がってくる猫の瞬間的な動きにシッカリと追従している、本レンズとEOS R6のAF性能にも驚きました。

その他の作例

EOS R6 RF16mm F2.8 STM(F4・1/320秒)ISO 100

絞り値をF4にして撮影しました。開放F2.8の超広角ながら軽く小さなレンズなので、こうした何気ない被写体も気軽に撮れます。歪曲収差などはカメラ側がイイ感じで補正し、EVF内にも反映されるので、撮影者はフレーミングに集中できます。倍率色収差なども見られませんね。


EOS R6 RF16mm F2.8 STM(F2.8・1/2,000秒)ISO 100

最短撮影距離付近での撮影です。近くの被写体を印象的に大きく写しながら、背景を広く画面内に配置するのは、超広角レンズが得意とするところ。絞り開放のF2.8で撮影したため、ボケは大きくなりましたが、素直で綺麗なボケなので作画を邪魔することがありません。


EOS R6 RF16mm F2.8 STM(F5.6・1/50秒)ISO 100

絞り値をF5.6にしての撮影です。F5.6まで絞ると、開放付近でごくわずかに見られた像の乱れも消失し、画面全体が本当にスッキリ綺麗になります。少しの画質の劣化も気になるという人は、F5.6以上に絞って撮ると良いでしょう。逆光での撮影でしたが、このシーンではゴーストやフレアは皆無と言って良いほど見られませんでした。逆光耐性もかなりのものです。

まとめ

お手頃価格帯の本レンズではありますが、実写結果としてはかなり良好な画質を見せてくれました。小型軽量で持ち運びしやすいレンズが良い写りを見せてくれると、不思議と気持ち良くなるものです。

なぜ、いま、単焦点の“16mm F2.8”なのか?についての、ひとつの答えは「気軽に使える超広角レンズ」ということで良いと思います。

もうひとつ、APS-C用のRF-S単焦点レンズをまだ投入していないキヤノンですが、これはフルサイズ用のRFレンズをAPS-C機でも使うことを見越しながら、レンズラインナップを構想しているのかも知れません。

35mmフルサイズの画角で撮影(F2.8)

そう思って、RF16mm F2.8 STMを使ってフルサイズ画角で撮影した画像を、APS-C相当にトリミングしてみると……

上の写真をAPS-C相当にトリミング

なんだかかなりイイ感じの画角になりました。焦点距離は概ね25.6mm相当になります(RF-Sレンズのクロップファクターは1.6倍)。他のRFレンズも、24mmは約38.4mm相当、35mmは約56mm相当、50mmは約80mm相当、と至って順当なラインナップになります。そして、ここに来てAPS-Cサイズセンサー搭載の新型カメラ、「EOS R7」と「EOS R10」が投入されるというわけです。

他にも、室内などでの動画撮影の需要が見込めることはもちろん、撮影者自身と風景を一緒に写す自撮りなど、現代では“超広角レンズ”の活躍シーンがかなり多くなっていることに気づきます。これを比較的購入しやすい価格に収めていることも含め、キヤノンはユーザーのニーズを良くとらえた商品展開をしているなと感心しました。

曽根原昇

(そねはら のぼる)信州大学大学院修了後に映像制作会社を経てフォトグラファーとして独立。2010年に関東に活動の場を移し雑誌・情報誌などの撮影を中心にカメラ誌等で執筆もしている。写真展に「イスタンブルの壁のなか」(オリンパスギャラリー)など。