交換レンズレビュー
SIGMA 105mm F1.4 DG HSM | Art
シグマ渾身の「ボケマスター」を女性ポートレートで試す
2018年7月10日 07:00
シグマから6月14日に発売された「105mm F1.4 DG HSM | Art」は、35mmフルサイズセンサー対応の焦点距離105mmの中望遠レンズである。同社が提唱する高画質レンズ群のArtラインに属する、開放F値1.4の大口径レンズである。
発売日:2018年6月14日(ソニー用は未定)
実勢価格:税込19万円
マウント:キヤノンEF、シグマSA、ニコンF、ソニーE
最短撮影距離: 1m
フィルター径:105mm
外形寸法:約115.9×131.5mm
重量:約1.645g
デザイン
外観上の最大の特徴は、なんといってもレンズ前玉の大きさだ。フィルター径105mmとなるレンズ先端部の存在感は圧倒的で、これに付属の大きな被せ式フードを組み合わせると、200mm F2クラスのレンズかと思えるほどだ。一方、レンズ鏡筒は他のシグマArtラインレンズと共通するデザインとなっており高品質なイメージを支えている。
付属のフードはレンズ前枠よりもさらに大きな筒であり、これがさらにこのレンズの存在感を大きくしている。ただし素材には航空機等の内外装にも使用されているポリカーボネートにカーボンファイバーを含有したCFRPを採用することで、見た目より大幅に軽量な作りとなっている。
大口径レンズであるだけに中望遠レンズとしては重量級で、付属の三脚座と合わせておよそ1,645gとなる。さらにフルサイズデジタル一眼レフカメラとの組み合わせでは、両腕にずっしりと重さを感じることとなる。
しかし今回の撮影に使用した、バッテリーグリップを装着したEOS 5D Mark IVとの組み合わせでは、左掌に三脚座を乗せてファインダーを除いた際の重量バランスはとても良好で、おかげで手持ち撮影においても手ブレ補正機構が搭載されていないレンズにも関わらず、非常に安定したホールドができた。
三脚座は鏡筒への固定枠を緩めることで、横位置から縦位置への回転が可能。回転軸にクリックはない。三脚座プレート自体がアルカスイス互換の形状となっているので、対応する雲台であればクイック固定が可能。ただしその際には付属のセーフティストップスクリュー2本を装着して、滑り落ち予防用ピンとする必要がある。
なお、三脚座は固定枠ごと鏡筒から取り外すことができる。手持ち撮影などで三脚座が不要な場合は、取り外すことで軽量化(実測123gほど)を図ることも可能だ。その際に現れた鏡筒のビスを隠すためのラバー製プロテクティブカバー(実測19g)が付属している。
操作性
このレンズは単焦点レンズなので、操作するリングはフォーカスリングのみとなる。F1.4の明るいレンズだけに開放絞りでは被写界深度は非常に浅いものとなる。
そのためMF時に操作するフォーカスリングは、フォーカスの移動幅に対して大きめの回転角度とされている。またリングのトルクも若干重めに設定されていることから、慎重なMF操作にも適した味付けとなっている。
リングは幅が広く指2本を架けることもできるので、より力を込めたリング操作も可能。それにより精度の高いMFを素早く行うことができる。
鏡筒側面に設けられたAF/MF切り替えスイッチは、最近のシグマレンズと同様にAFで白表示、MFで黒表示と明確に見分けられるようになっている。
AF
開放F値の明るいレンズはAFのレスポンスにおいても優位となる。一眼レフカメラに内蔵されたAFセンサーにはF2.8対応センサーが用意されており、開放F値2.8以上のレンズを使用することで、AFのレスポンスを大きくあげることができるからだ。
もちろん本レンズは開放F1.4となるため、この恩恵を受けることができる。この点は、おなじく105mmの焦点距離を持つ開放値F4のズームレンズとは異なるおおきな利点だ。
実際に撮影に用いた感想でも、AFのレスポンスは高くポートレート撮影においても、非常にテンポよくキビキビとフォーカスを合わせることができた。精度も高く開放F1.4の浅い被写界深度での撮影でも、ファインダー内のフォーカスポイントでのピント位置と記録された画像のピント位置に大きなずれは見られなかった。
ただし本レンズに関わらず、明るいレンズは事前にカメラとレンズのフォーカス位置調整(マッチング)を行っておく必要があることは覚えておいて欲しい。カメラに搭載されたフォーカス位置調整機能や、シグマレンズ専用のUSB DOCKを使用して、より細やかなフォーカス調整を行うことができる。それによって、より精度の高いピント合わせが可能となる。
作品
本レンズの実力を発揮できる被写体は、やはり女性のポートレート撮影だろう。そこで梅雨の晴れ間に女性モデルのポートレート撮影を行った。使用したカメラはキヤノンEOS 5D Mark IVである。
なお状況に応じてレフ板、クリップオンストロボなどで光をコントロールしている。また、モデルには肌理を描写するために、敢えてスッピンにちかい薄化粧をお願いして撮影させていただいている。
こちらの写真は午前中の光が降り注ぐなか、海沿いの公園で撮影した。太陽に薄雲がかかった順光なので人物は柔らかい光に包まれた状態。レンズの絞りはF4まで絞り、人物の前面はおよそ均等にピントが合うようにしている。
フォーカス位置は女性の右目。目元はもちろん肌理の質感、髪の毛の1本1本まできっちりと解像しているのがわかる。また背景には、ぼけながらも海に架かるおおきな橋の存在が見て取れる。
直上に近い位置の太陽の光で撮影。モデルには芝生に座ってもらい、足元から白レフ板で光を補っている。絞りを開放F1.4にして撮影。フォーカス位置は女性の左目に。
よりカメラに近い左肩はすでにアウトフォーカスとなっているのがわかる。また胸元から奥にかけてなだらかにアウトフォーカスとなっていき、背景の芝生や木々は大きく、かつ柔らかなボケとなっている。
カフェに隣接した温室内にて撮影。太陽光は温室のガラス天井から室内に降り注ぐので、直射光よりは柔らかい光となる。人物の背景にある植物のディテールをある程度出すために絞りをF4に合わせた。フォーカス位置は女性の左目に。
顔面と女性の手の位置をカメラからほぼ等距離にしていることで、背景がそれほどボケていないにも関わらず人物が浮き立って見えるように工夫した。またカメラに極めて近い位置に植物の葉を写し込むことで、透けるようなグリーンの前ボケをアクセントとすることができた。
明るいレンズだからといって、むやみに開放絞りで撮るのではなく、意図に合わせて絞り込んで撮影することが重要となる。
フォーカスモードをMFにしてモデルにぐっと近寄り、左目にピントが合う最短撮影距離(1m)で撮影。105mmの画角であれば1mの距離でもここまでクローズアップできる。
被写体に近寄ると相対的に被写界深度が浅くなるため、開放絞りF1.4でピントが合っているのは、ほぼ左目のみとなる。左目目元の描写をみると、このレンズは開放絞りであっても高い解像力をもっていることがわかる。
温室の窓際にて、外光により背景が明るくなる位置を選び撮影した。人物手前からレフ板で光を補っている。室内と背景の輝度差が大きいシーンだが画像に滲みは見られない。
絞りはF2に設定しているので、フォーカス位置の左目と顔の輪郭のアウトフォーカスへの遷移が、F1.4での撮影ほど極端ではないので、ちょうど良くふんわりとしたイメージに仕上がっている。またアウトフォーカス部にも二線ボケはみられず、柔らかなでなだらかなボケとなっている。
屋外にて海上に架かる橋梁を背景に、人物の足元まで入る程度にまで距離をとり、フォーカスを人物に合わせて撮影。絞りをF7.1まで絞り込み被写界深度を深めて、背景の橋梁を煩雑にならない程度にまで写し込んだ。中望遠レンズの105mmは被写体と背景との間に程よい遠近感を作りやすい焦点距離でもある。
モデルに大きな岩の前に立ってもらい、斜め後ろからの日光で髪の毛を輝かすように撮影した。カメラ下には白レフ板を入れ肌がテカらない程度に弱めに光を入れている。
そのうえで絞りをF8まで絞り込み、人物と同時に植物の茎葉の質感描写も高めた。本レンズは最小絞りがF16であるので、F8以上に絞り込むと小絞りの影響により解像感が低下する恐れがあるが、この画像からはその影響はほとんど見受けられない。
ロケ車の助手席に座り休憩していたモデルを、車外からスナップ撮影。なにげない写真だが中望遠レンズの遠近感と明るいレンズのキレイなボケの組み合わせにより、モデルの自然な表情を捉えることができた。
水平線の向こう側に太陽が沈もうとする夕刻。空に広がった厚い雲が、海に伸びた桟橋の周囲をモノトーンの世界へと誘う。浜から沖に向かって延びる桟橋にモデルと共に立ち撮影した。
絞りは開放F1.4にあわせ、僅かな光をすくい上げるようにしてシャッターを切る。同時に浅い被写体深度と105mmの望遠効果により、桟橋の先端が大きくかつ柔らかにボケているのが印象的だ。補助光としてディフューザーを取り付けたクリップオンストロボをワイヤレスで弱めに発光させ女性の肌の色味を整えている。
まとめ
105mm F1.4 DG HSMは、その特徴的な外観と105mmとしてはヘビー級な重さで、使うにはそれなりの覚悟が必要なレンズではある。しかし実際に撮影に使用してみると最近の標準ズームレンズで慣れた105mmという画角が、非常に扱いやすい画角であることをあらためて思い出すだろう。
それに加え、ズームレンズにはないF1.4という圧倒的な明るさと浅い被写界深度を得られることによる、写真表現の幅の広がりは何物にも代え難いものだ。
画質に関しては開放絞りから驚くほど解像力が高く、色収差は特殊低分散ガラスの採用により極限まで抑えられていることがわかる。また逆光撮影においてもフレアやゴーストの発生も見られない。
ニコンには同等のスペックのレンズとして、AF-S NIKKOR 105mm f/1.4E EDが存在しているが、キヤノン用としては本レンズが唯一の選択肢となる。また、これまでは純正レンズのみが対応していたカメラ内レンズ補正が、このレンズでは対応可能であることもキヤノンのデジタル一眼レフユーザーにとっては嬉しい点だ(ファームアップにて対応可能となったArtラインレンズもある)。
今回はポートレート撮影を行うことでレンズの総合的な実力を検証したが、インフォーカスからアウトフォーカスへと遷移するなだらかなボケはとても美しく、女性ポートレートには最適な描写といえる。
これまでにラインナップされているシグマのF1.4 Artラインシリーズのなかでも群を抜いた存在と言えるだろう。まさに「BOKEH-MASTER」の称号が相応しいレンズだといえる。
モデル:古田ちさこ
撮影協力:マライカバザール木更津店