交換レンズレビュー
世界初の超大口径レンズをポートレートで試す
絞り開放でもシャープな描写――AF-S NIKKOR 105mm f/1.4E ED
2016年12月14日 12:00
AF-S NIKKOR 105mm f/1.4E EDは、中望遠の100mmや105mmの焦点距離において絞り開放F1.4とAF撮影を両立した世界初のレンズだ。非常に注目度が高く、気になっているユーザーも多いはずだ。
筆者もその1人で、実際に購入してポートレートはじめ、スナップ、都市風景などの撮影でも使用している。今回はポートレート撮影を中心に作例を見ながら本レンズの魅力を体感していただきたい。
中望遠レンズがポートレート撮影に好まれているのは、背景の整理がしやすい点やボケを得られやすい点だろう。さらに、特性上パースが少ないため被写体が歪みにくい点も上げられる。
また、ポートレート撮影の王道レンズと言われているのは85mmではあるが、実は100mm前後や135mmなども好まれている。焦点距離が長くなると背景の入り方や距離感が変化するので、癖を知って使うと良いだろう。105mmは、85mmと135mmのちょうど中間のレンズなので、非常に使い勝手がよい印象だった。
発売日 | 2016年8月26日 |
実勢価格 | 税込22万5,880円前後 |
マウント | Fマウント |
最短撮影距離 | 1m |
フィルター径 | 82mm |
外形寸法 | 94.5×106mm |
重量 | 約985g |
デザインと操作性
外観はAF-S NIKKOR 85mm f/1.4Gに似ているが、サイズ感も重さも異なる。全長は106mmで質量は約985gと1kg近い。初めて見る方は必ず「大きいレンズですね」と言うはずだ。使用カメラにもよるが、カメラに装着するとフロントヘビーになりやすい。
フォーカスリングはレンズの径があるため少し厚みを感じられるが、操作感はAF-S NIKKOR 85mm f/1.4Gなどと変わりない。適度に重さがありピント位置の微調整はし易い印象だ。
レンズはとてもシンプルでスイッチ類はM/A-Mの切換スイッチのみ。
AFは速く、これだけの大きなレンズにも関わらずストレスは全く感じなかった。D810と組み合わせて使用したが、ピントを外すことなくしっかりとレンズの性能を引き出すことができている印象だ。
注目すべきはレンズ構成だろう。サイズ感、重さは度外視で作られたレンズだけあり、贅沢なレンズ構成になっている。EDレンズ3枚を含む9群14枚。レンズには定評のあるナノクリスタルコートを採用。汚れにくく、メンテナンスも容易なフッ素コートが施されている点も注目したい。
さらに、「三次元的ハイファイ」の考え方によって設計されていることもポイントだ。このレンズ設計が初めて採用されたのはAF-S NIKKOR 58mm f/1.4Gだ。三次元的ハイファイとは高再現性の設計思想のこと。ピントが合っている部分の解像力やコントラストだけでなく、ピント面からボケにかけての連続性を重視しているレンズなどだという。MTFなどからは読み解けない部分にもこだわった、解像力とボケ味のバランスの良いレンズと言えるだろう。
AF-S NIKKOR 58mm f/1.4Gと同じ三次元的ハイファイ設計を継続とあったので、絞り開放は柔らかい描写と思っていが、実際撮影してみると絞り開放時のキレの良さには正直驚かされた。
ピント面はキリッとシャープでまつげの1本1本まで解像しているのが作例からもわかるはずだ。D810の画素数でも十分に本レンズのシャープさが発揮されていた。絞り開放時のシャープさはAF-S NIKKOR 58mm f/1.4Gを越える。絞る事でさらに解像感が増すのは共通なので、絞り値を変えながらベストな解像感を見つけるのも楽しいはずだ。
ボケ感は期待通りで、とても自然でピント面からデフォーカスに掛けて非常に綺麗だ。全身撮影など画面中央から被写体が外れる場合でもシャープさとボケの自然さはしっかりと表現できている。
大口径レンズということもあり、絞り開放では口径食の影響が出るが、丸ボケの輪線部分も縁取りが気にならないのでとても自然だった。
フードはHB-79。105mm用ということもあり大ぶり。デザインは本レンズに似合っている。
作品
絞りF4で撮影。モデルの左目にピントを合わせている。F4でも被写界深度は浅めではあるが、ピントの合っている目の部分と木の幹の解像感は非常に高い。
スタジオでストロボ1灯を使い撮影。絞り値はF5.6。髪の毛1本1本の解像感と質感の描写には驚かされる。
紅葉した木をバックに絞り開放で撮影。ピント位置は絞り開放にも関わらず非常にシャープだ。背景の葉のボケ具合は美しく、綺麗にとろけている。絞り開放では、口径食の影響は避けられないが輪線部分は縁取りがなく綺麗な印象。
線の多いシーンで撮影してみたが、線も太くなく綺麗にボケている。ハイライト部分も色づきがほとんどない。
105mmの焦点距離があれば人物の全身を入れても背景を綺麗にボカすことができ、被写体が際立つ。
上の写真と同じシーンで膝上で撮影。ボケ感と解像感のバランスがとてもよい。
105mmは屋内では長いと感じるかもしれないが、バストアップやウエストアップには使いやすい。適度な距離感で撮影できるので、撮影会などでも役立つだろう。
緑を配置して前ボケを強調した。前ボケは自然で、背景もさほどうるさくない。
フェンスを前ボケに使用。フェンスのような線は2線ボケになりやすいが、本レンズでは綺麗にボケている。
最短撮影距離の1m付近で撮影。近接域はそこまで得意ではないが、バラのドライフラワーを画面いっぱいに撮影できるくらいまでは近づける。
F2.8まで絞って撮影。背景は口径食の影響がない丸ボケになった。解像感も高く、バランスのよいF値と言えるだろう。
フードで防げるギリギリの所に太陽を配置。ナノクリスタルコートのおかげで、コントラストを保持できている。逆光のポートレート撮影でも十分レンズの味を活かせそうだ。
輝度差のあるシーン。白い服なのでハイライト部分はかなり厳しいはずだが、EDレンズを多く使っていることもあり、うまく収差が補正されている印象だ。厳しく見れば髪の毛の部分は少しだけ色収差が見られるが、絞り開放であることを考えると驚きの高性能だ。
まとめ
今回、本レンズを使用して圧倒的な描写力を再認識することができた。
発表当初は、NIKKOR 58mm F1.4Gと同じコンセプトだと思っていたが、使ってみると違いが感じられた。絞り開放時のキレの良さは本レンズが圧倒的に上まわる。絞り開放でシャープさとボケの美しさの両立しているレンズは多くはないが、本レンズはそれを可能としている。
105mmの単焦点レンズとは思えないほど大きいが、持ちあるいて使う意義のあるレンズだ。ポートレート撮影ではもちろん、都市風景やスナップ撮影でも十分に使える。また、F値を変えるごとに写りも変化するので、好みにあったF値を探すのも良いだろう。画質にこだわりたいユーザーにはぜひ使っていただきたいと思う。
モデル:片岡ミカ