交換レンズレビュー
SIGMA 85mm F1.4 DG HSM | Art
高い解像力と自然なボケを両立 AFも高速
2017年2月28日 08:00
ついに、SIGMAのArtシリーズに85mmが誕生した。圧倒的な解像力に定評のあるArtシリーズに85mmが加わるのを待ち望んでいたユーザーは多いはずだ。筆者もその1人で、普段、仕事で24mm、35mm、50mmのArtレンズを使っているだけに、大きな期待を寄せていた。
公式サイトを見ても「Artライン基準の卓越した光学性能。究極の85mm F1.4の誕生」と紹介されており、メーカー渾身の1本であることが伺える。
今回の記事では、そのSIGMA 85mm F1.4 DG HSM | Art を使って女性ポートレートを撮影した。「究極のポートレート用レンズ」とうたわれるこのレンズの魅力とパワーを感じていただければと思う。
発売日 | 2016年11月17日 |
実勢価格 | 12万7,000円前後(税込) |
マウント | EF、F、SA |
最短撮影距離 | 0.85m |
フィルター径 | 86mm |
外形寸法 | 94.7×126.2mm(SA) |
重量 | 約1,130g(SA) |
デザインと操作性
「85mmはポートレート撮影に最適」と言われる理由は、85mmというレンズの特徴と関係がある。85mmレンズの特徴は以下の2点だ。
まず1点目は、被写体が歪みにくいこと。
35mmや50mmでも被写体に寄って撮影をすることができる。ただし、広角になればなるほど被写体の頭が大きく写ってしまったりと、歪みが発生する。その歪みを作風のひとつとして使うのであれば問題ないが、たとえば、被写体を厳格に写し出す必要のある宣材撮影で歪めてしまってはカメラマン失格。被写体をありのままに写すためには、歪みにくいレンズが必須である。
2点目は、35mmや50mmよりも背景をボカしやすく、被写体の存在感を強調できること。
単純に、背景のボケの大きさを求めるのであれば、より焦点距離の長い105mmや135mmなどの長玉に分配が上がる。だが、筆者はどうも長玉の「大きなボケでいろいろなものをごまかしている」感じが気に入らないので、「どこにいるのかわかる程度に背景がボケて、被写体の存在感を強調できる85mm」をよく使う。
以上、被写体をありのままに写せて、背景を適度にボカしながらその存在感を強調できるという点が、「85mmはポートレート撮影に最適」と言われる所以である。
従来モデルの「85mm F1.4 EX DG HSM」と比較すると、レンズの構成は、8群11枚から破格の12群14枚へと変化。非常に贅沢な仕様となっている。
また、見た目もガラリと一新されている。重量は約1.5割増し。フィルター径も77mmから86mmへと一回り大きくなっている。しかし、巨大化した分、レンズの解像力は大幅に向上している。
また、軸上色収差は極限まで補正され、フォーカス前後の色のにじみが徹底的に抑えられている。
ところで、SIGMA 85mm F1.4 DG HSM | Art はカールツァイスが世界最高の中望遠レンズとして作り出した「Otus 1.4/85」をベンチマークとして開発されたという。そのOtus 1.4/85はMF専用レンズであり、かつ非常に高価である。一方、SIGMA 85mm F1.4 DG HSM | Art はAFに対応しており、さらに価格もOtusの1/3程度に抑えられている。
筆者はOtusユーザーでもあるが、個人的に、描写の「線の細さ」はOtusの方が優っているように思う。また「良いレンズを使っている」という高揚感もOtusの方が上だ。ただ、85mm F1.4のレンズをつけた状態で、光学ファインダーを覗きながらMFのみで正確にピントを合わせていくのは至難の技。テンポよく進めていくポートレート撮影には、AF対応で、価格も良心的なSIGMA 85mm F1.4 DG HSM | Art の方が向いていると言わざるを得ない。
鏡筒デザインは、いままでのArtラインのものを踏襲。「極力デザインしないデザイン」がコンセプトだけあって、シンプルで、長く使っても飽きのこない形に仕上がっている。SIGMAの物づくりへのこだわりが感じられ、思わず全種類を揃えて並べたくなる。
Artシリーズの35mm、50mmと比べてみると、その大きさは一目瞭然。フードを付けると、ただでさえ大きなレンズがさらに存在感を増す。
実際手にしてみると、しっとりとした鉄の塊に触れているようだ。1,130gと重たいだけあって、安定したホールド感が得られる。ただし、EOS 5D Mark IV(890g)+1,130g=2,020gを持ち歩くのはなかなか骨が折れる。画質を考えると納得の重量なのだが、重たいカメラやレンズに慣れ親しんでいる筆者でギリギリだったので、正直なところ女性にはオススメできない。
個人的なお気に入りは、フルタイムマニュアル機構を搭載している点だ。フォーカススイッチを切り替えることなくピントの微調整ができる。寄ったときは、AFからMFに切り替えてピントを合わせたい場合もある。それがシームレスにできるのはとてもありがたい。AFは精度が高く、かなり速い。暗所でも合焦速度はほとんど落ちず、ストレスを感じることは全くなかった。
作品
モデルに桜の枝の間に立ってもらい、開放F1.4で撮影した。左の瞳にはピントが合っているが、睫毛はボケている。
先ほどの別カット。モデルが桜の前ボケと後ろボケに挟まれているような画に仕上げたいと思った。前ボケはクセがなく自然な印象。後ろボケもまろやかで、ピンク色の霧のようにも見える。
F1.8でモデルの全身を撮影。85mmの焦点距離があれば全身を入れても背景を適度にボカし、被写体を際立たせることができる。
瞳に力があるモデルなので、その瞳にグっと寄った写真を撮りたいと思い、最短撮影距離(85cm)でシャッターを切った。瞳に写り込むレフもきちんと描写されており、合焦部のキレのある解像感に驚かされた。
レフ板で上からの光を切った、こちらも最短撮影距離のカット。最短撮影距離は決して近くないが、このくらい画面全体を被写体の表情で埋めることができれば十分だ。ピントの合っている左目から自然でなだらかなボケが始まっている。髪の毛をみるとその滑らかさがよくわかる。
モデルに、木にもたれかかってもらい、F5.6まで絞って撮影した。ピントの合っているモデルの顔や髪の毛、木の幹の質感が鮮明に描写されており、中央部の解像感の高さが伺える。
こちらもF5.6まで絞って撮影したもの。ここまで絞ると、背後にある木の幹も自然にボケて、肉眼で見たものに近い印象となる。
モデルの前に葉が前ボケとなって入るように開放F1.4で撮影した。前ボケは自然で、背景もそこまでうるさくない。
まとめ
合焦部の極めて高い解像感、クセがなく自然なボケ、ベンチマークとされたOtus 1.4/85に引けを取らない「究極のポートレート用レンズ」に仕上がっていると感じた。Artシリーズのファンであれば、確実に入手したい1本だ。大きく、重いのがたまにキズだが、画質を考えると納得の重量である。
これでポートレートを撮影したことのない人は損をしているのではないかと思うほどである。ポートレートを撮影する方は、ぜひこの「究極のポートレート用レンズ」を1度試してみて欲しい。
モデル:繭