交換レンズレビュー

10-24mm F/3.5-4.5 Di II VC HLD(Model B023)

手ブレ補正が入って使い勝手が向上 周辺減光や歪曲も少ない超広角ズームレンズ

タムロンが新たに発売するのは、APS-Cサイズのセンサーを搭載するデジタル一眼レフカメラ専用となる超広角ズームレンズ「10-24mm F/3.5-4.5 Di II VC HLD(Model B023)」だ。

本レンズは、2008年に発売されたSP AF10-24mm F/3.5-4.5 Di II LD Aspherical [IF](Model B001)の後継モデルという位置づけなので、得意のコンパクト性能は継承しながらも光学系を一新し、加えて最新技術をフル搭載した意欲的な製品に仕上がっている。超広角域の表現を多用するユーザーにとっては、気になる存在であるはずだ。

10-24mm F/3.5-4.5 Di VC HLD(B023)
発売日ニコン用:2017年3月2日、キヤノン用:2017年3月23日
実勢価格(税込)6万2,000円前後
マウントキヤノンEF、ニコンF
最短撮影距離0.24m
フィルター径77mm
外形寸法83.6×84.6mm(EF)
重量約440g

デザインと操作性

本レンズは「10-24mm」という表記になっているが、APS-C機専用なので実質は35mm判換算で16-37mmに相当する超広角ズームの範疇に属する。ワイド端16mmの画角は、撮影者が「広く撮りたい」と感じた場面のほぼすべてを収めてしまうことができるほどだ。

もちろん、欲張れば16mmでも足りないかもしれないが、筆者が風景を撮影している範囲では、16mmがあれば欲しいと思える表現は十分に可能だ。加えて超広角レンズは、包括性能に秀でるだけでなく、パンフォーカスや遠近感の誇張と言った表現にも活用できる。被写体を歪めるデフォルメ効果もあるので、人間の目を通して見える風景を、よりダイナミックに表現するには最適なレンズと言うことができる。

さて、本レンズは従来モデルと比べると、大幅な進化を遂げていることがわかる。

焦点距離や開放F値こそ変化はないが、光学系は従来の9群12枚構成から、ガラスモールド非球面レンズ、複合非球面レンズ、LDレンズ、XLDレンズなどをふんだんに使用した11群16枚構成へと変更され、ズーム全域あるいは画面全域での画質の高さを実現している。

また、独自のBBARコーティングや鏡筒の内面反射に対応した塗装や遮光溝を備えるなどして、有害光への対策も講じている。

もっとも特徴的な機構と言えるのは、手ブレ補正機構「VC」が搭載されたこと。これは超広角レンズにも手ブレ補正機構を搭載して欲しいという要望に応えたもので、約4段分の補正効果を持つ。

このVCは、スイッチをオンにして機構が作動するとファインダー画面が止まったような錯覚に陥るほどだ。手ブレ補正の効果段数は、現在の基準から考えると物足りなく見えるかもしれないが、超広角レンズを使うという意味においては十分すぎるほどのレベルにある。シャッター速度が遅くなる朝夕や室内などでの手持ち撮影を強力にサポートしてくれる。

また、「HLD」(High/Low torque-modulated Drive)という新しいAFの駆動系を採用したことも着目したい。本レンズは大型のフォーカシングレンズを搭載しているが、それをスムーズに動かすことができ、高いAF精度を持ちながら静粛性も高い。近距離から遠距離、あるいは遠距離から近距離への応答性もスムーズで、気持ちよく扱えるAFと言える。

さらに、簡易的なものだが、防滴構造を採用している点は、アウトドア派にとっては嬉しいニュースだろう。レンズ鏡筒の可動部や接合部にシーリングやゴム部材を使用し、レンズ内部への水滴の侵入を防いでくれるので、積極的に悪天下での撮影にのぞめる。大型の花形フードによって、多少の雨ならしのげるのもメリットだ。

ところで、このレンズを見ると気がつくことがある。SPの名こそ冠していないが、“新SPシリーズ”を特徴づけるルミナスゴールドのリングが装備されているのである。

“新SPシリーズ”は、2015年9月に発売されたSP 35mm F/1.8 Di VC USDとSP 45mm F/1.8 Di VC USDから始まったタムロンの次世代レンズだ。洗練させたデザインと高品位な画質によって高評価を獲得し、その後順調にラインアップを拡充しているシリーズだが、そのデザイン思想が本レンズにも活かされているのである。

本レンズはすでに触れたように、従来モデルから光学系を初めとして一新されているが、そのためもあってか、質量では約34gほど従来モデルより重くなっているが、一方で全長は約2mmほど短い(キヤノン用)というから驚きだ。よりコンパクトになり、程よい手応えを感じる、そんな仕上がりと言ってよいだろう。今回はキヤノンのEOS 80Dとのコンビで使ってみたが、見た目のバランスも、使ったときに重量バランスもよく、気持ちよく使えた。

作品

そろそろ冬も終わろうとしているタイミングで訪れた渓谷。予想以下の氷の出来栄えに少しがっかりしたが、それでも氷の鋭利な表情や冷たさをレンズはきっちり伝えてくれている。ピントは画面下部の氷柱に合わせているが、やや中央部から外れているとは言え、解像感に不足はない。また画面周辺部に目を移すと、像の流れは抑えられ、色ずれも少ないことに気づくだろう。

EOS 80D / 1/5秒 / F11 / +0.7EV / ISO200 / 絞り優先AE / 10mm

軽度の樽型の収差が感じられる。建物など、直線で構成された被写体を写す場合は若干の影響があるが、直線を画面の周辺部から外すなどして対応すればよい。風景写真のジャンルにおいては、ほぼ影響はないレベルだ。

EOS 80D / 1/160秒 / F11 / +0.7EV / ISO200 / 絞り優先AE / 10mm

強い太陽光を画面内に入れて撮影すると、ゴーストが発生する。快晴の空の下での撮影なので、条件としてはもっとも厳しい。ただし、フレアはほぼ発生しておらず、クリアに描写できている。

EOS 80D / 1/80秒 / F16 / +0.7EV / ISO200 / 絞り優先AE / 10mm

太陽を木で隠すようにして撮影すると、ゴーストの発生は最小レベルまで抑えることができる。逆光で撮影する場合はこのような配慮をすれば、美しい光条をポイントにした表現を楽しめる。

EOS 80D / 1/80秒 / F16 / +1EV / ISO200 / 絞り優先AE / 10mm

一般的に広角系のレンズでは、周辺部の光量が足りなくなる傾向があるが、本レンズに関していえば、光量不足はほとんど感じられない。実際にはほんの少しだけ暗くなっているが、絞った画像と比較しないとわからないレベル。軽微な周辺光量落ちは、半絞り程度絞るだけで解消する。

EOS 80D / 1/1,600秒 / F3.5 / +0.3EV / ISO200 / 絞り優先AE / 10mm

最短撮影距離はズーム全域で24cmなので、最大撮影倍率はテレ端で出せることになるが、ワイド端で撮影することのメリットは、背景をたっぷりと見せることができること。小さな梅の花といえども、ここまで寄れれば、クローズアップができている感覚はあるし、背景のダイナミックさも伝わる。

EOS 80D / 1/800秒 / F3.5 / +1.3EV / ISO200 / 絞り優先AE / 10mm

背景が狭くなったぶん、クローズアップらしい表現となっている。開放F4.5で撮影しているが、ワイド系レンズにもかかわらず背景はしっかりとボケていることがわかる。ピントが合った部分のシャープネスは十分にある。手持ちで撮影しているが、ファインダー像がピタッと止まったように見えていることからも、VCの効き味は、構図を作る際にも有効に作用すると感じた。

EOS 80D / 1/1,600秒 / F4.5 / +0.7EV / ISO400 / 絞り優先AE / 24mm

まとめ

超広角域を備えつつも非常にコンパクトに仕上がっているため、ザックへの収納もしやすく、そのうえカメラとのバランスに優れ扱いやすい。画質はSPシリーズではないことを考えると、必要十分なレベルにあると思うが、唯一、強い逆光が入ったときのゴーストには気をつけながら撮影をしたい。

キヤノンの同クラスレンズとしてはEF-S10-18mm F4.5-5.6 IS STMがある。新しいレンズで価格も安いが、タムロンの方は開放F値、およびテレ側の焦点距離に優位性があり、表現という意味において優位性がある。

ニコンにはAF-S DX NIKKOR 10-24mm f/3.5-4.5G EDがある。焦点距離も開放F値も同じだが、価格が高く、また発売時期も2009年とやや古い。このようにして見ると、両メーカーに対するアドバンテージをしっかりと持ったレンズだと評価して良さそうだ。

実勢価格は税込6万2,000円程度。安くはないが、決して高価でもない。画質と価格、そして純正レンズに対するアドバンテージを考えると、今、超広角ズームレンズを必要としているのなら、積極的に導入を考えても良いレンズではないかと思う。

萩原史郎

(はぎはら しろう)1959年山梨県甲府市生まれ。日本大学卒業後、株式会社新日本企画で「季刊風景写真」(※現在は隔月刊) の創刊に携わり、編集長・発行人を経験。退社後はフリーの風景写真家に転向。著書多数。日本風景写真家協会(JSPA)会員。カメラグランプリ選考委員。Webサイトはhttp://hagihara-photo.art.coocan.jp/