交換レンズレビュー

SP 70-200mm F/2.8 Di VC USD G2(A025)

定番望遠ズームが刷新・新世代モデルに 手ブレ補正や最短撮影距離にも磨きがかかる

今回タムロンが満を持して世に送り出す本レンズは、2012年の発売以来、多くのファンを獲得してきた高性能ズームレンズSP 70-200mm F/2.8 Di VC USD(Model A009)の後継機に当たる。35mm判フルサイズのデジタル一眼レフカメラに対応する大口径望遠ズームレンズだ。

新モデルでは光学設計を一新。AFのスピードや精度、手ブレ補正機構が強化され、最短撮影距離も短縮されている。また、防塵防滴構造を採用し、テレコンバーターにも対応するなど、性能の進化が著しい。これはいやがうえにも期待が高まるだろう。

希望小売価格で税別17万5,000円と、このクラスのレンズとしては比較的安価に購入できるのもうれしい。ジャンルを跨り利用できる仕様だが、やはり個人的にはポートレートでガンガン使ってみたい望遠ズームレンズだ。

レンズ構成は17群23枚、フィルター径は77mm、絞り羽根は9枚の円形絞りを採用。このあたりは従来機と同じだ。ラインナップはキヤノン用とニコン用に対応する。

SP 70-200mm F/2.8 Di VC USD G2(A025)
発売日2017年2月23日
希望小売価格17万5,000円(税別)
マウントEF、F
最短撮影距離0.95m
フィルター径77mm
外形寸法88×193.8mm(EF)
重量約1,500g(EF)

デザインと操作性

ということで、今回は主にポートレートを題材にレンズレビューをしていくのだが、そもそも焦点距離70-200mmと開放F値のF2.8という焦点距離と開放値の組み合わせはポートレートを撮るのに理想的なスペックだ。寄っても引いても常にダイナミックなボケを演出しながら撮影が楽しめる。利用できる被写界深度の幅が広いだけで、ストレスを大幅に解消してくれる。つまり、ポートレートでは最も信頼できるレンズ群の1つなのだ。

ポートレートの作例に入る前に、ここで今一度従来モデルからの改良点を整理しておこう。

まずこのレンズで特筆すべきはAF速度、精度の向上とクラス最高となる5段分の手ブレ補正機構の実現が挙げられる。

AFに関しては、リング型超音波モーターUSD(Ultrasonic Silent Drive)を従来機から採用。加えて最新のマイクロコンピューター2基を搭載し、アルゴリズムを最適化することで、従来機より合焦の速度と精度が向上したという。望遠レンズを利用する際にストレスになりがちなピンボケと手ブレの現象が最大限に防げるのは大きなポイントだ。

なお、このレンズでは従来機同様、フルタイムマニュアル機構も採用されている。ピントの微調をAFからMFヘスムーズに移行できる。これは接写時などに大きな役割を発揮しそうだ。

さらにゴーストやフレアを効果的に軽減できるeBANDコーティングや、撥水性・撥油性に優れた防汚コート、塵やホコリからレンズを守るための防塵防滴構造を採用するなど、タフな環境下でも信頼して利用できるスペックを新たに備えた。

タムロンでは手ブレ補正機構搭載機をVC(Vibration Compensation)と呼ぶ。手ブレ補正を有効にする際はこのVCスイッチをONにする。手ブレ補正のモードは3種類あり、VCスイッチの左横にある。ファインダー像の安定と補正効果のバランスが取れた通常時に利用するMODE 1と、流し撮り専用のMODE 2、そして補正効果を優先し、シャッターが切れる瞬間のみ補正するMODE 3の3つから選択できる。なお、5段分の手ブレ補正はMODE 3利用時のデータになる。

最短撮影距離が従来機の1.3mから0.95mへと短縮されたこともこのレンズの大きな特徴だ。望遠レンズは寄りに弱いというイメージもあるが、このレンズには不要な議論だ。

テレコンバーターは1.4倍(左)と2.0倍(右)に対応。装着時のAFはファインダー撮影、ライブビュー撮影いずれの場面でも機能するが、ライブビュー撮影時はコントラストや照度値の低い被写体に対してはピントが合わないこともあるとのこと。最大撮影倍率はテレコンバーター無しで「1:6.1」、テレコンバーター1.4倍で「1:4」、テレコンバーター2.0倍で「1:3」となる。

テレコンバーター1.4倍(TC-X14、左)とテレコンバーター2.0倍(TC-X20、右)

その洗練された高級感のあるフォルムやデザインも、このレンズで目を引く要素のひとつだろう。ホールド感もいい。スッと手に馴染む印象だ。全長はキヤノン用で193.8mm、ニコン用で191.3mm、質量はキヤノン用で1,500g、ニコン用で1,485gとなっている。このクラスのレンズ群にふさわしい重厚感のある仕様だが、見た目には非常にスマート。いい写真を撮ってやろうという気持ちになる。

三脚座は着脱しやすく、安定性のあるアルカスイス互換のクイックシューに対応する仕様に新規設計された。三脚座の固定ネジも操作しやすく扱いやすい。

同梱のフードを装着したところ

なおこのレンズは、TAMRON TAP-in Consoleに対応している。対応レンズのカスタマイズやファームウェアアップデートが可能なアクセサリーで、このレンズの場合は、手ブレ補正のMODE1をデフォルトの「標準」、またはファインダー像の安定を優先する「ファインダー優先」にカスタマイズできる。その他、AFの合焦位置、フォーカスリミットの設定、フルタイムマニュアルの設定ができる。

作品

画質を確認するため、木漏れ日の逆光を利用してモデルを撮影した。本レンズではXLD(eXtra Low Dispersion)レンズとLD(Low Despersion:異常低分散)レンズを採用しているが、画面全域で画質は非常に良好。コントラストも高い。

大口径の望遠レンズで生じやすいハイライト部分の色収差も見受けられず、美しい玉ボケとなって描写のアクセントになっている。

EOS 5D Mark IV / 1/100秒 / F5.6 / 0EV / ISO400 / マニュアル露出 / 200mm

このレンズの魅力は何と言ってもそのダイナミックで美しいボケだろう。望遠端200mmと開放F2.8の組み合わせはまさしく最強だ。AF精度も良好のため、浅い被写界深度でも恐れずにペースを上げて撮影できる。

EOS 5D Mark IV / 1/500秒 / F2.8 / 0EV / ISO400 / マニュアル露出 / 200mm

これも200mmとF2.8の組み合わせ。奥行きのない背景でも被写体にクローズアップすることでこれだけのボケが演出できる。これもこのレンズならでは。ボケ量、質ともに十分の内容だ。

EOS 5D Mark IV / 1/1,000秒 / F2.8 / +1EV / ISO100 / 絞り優先AE / 200mm

ワイド端の70mmは中望遠域だが、角度を付けて被写体にグッと寄ったりすると、ちょっとした広角風の臨場感が演出できる。少し動きを演出したい場面で有効だ。望遠ズームといえども、さまざまな画づくりに対応できる。

EOS 5D Mark IV / 1/400秒 / F2.8 / 0EV / ISO200 / マニュアル露出 / 70mm

70mmとF2.8の組み合わせで少し引き気味に撮影してみたが、印象的な背景ボケで撮影できた。こうしたスナップ風に利用できるのもこのレンズの魅力だろう。

EOS 5D Mark IV / 1/1,600秒 / F2.8 / +0.7EV / ISO400 / 絞り優先AE / 70mm

望遠端200mmで最短撮影距離0.95mまで近づき撮影した。200mmでこれだけ寄れるのは新鮮だ。まるでマクロレンズのよう。片目だけにピントを合わせたが、顔回りのボケのグラデーションも滑らかで美しい。

EOS 5D Mark IV / 1/400秒 / F2.8 / 0EV / ISO200 / 絞り優先AE / 200mm

テレコンバーターによる比較をしてみた。1.4倍は1段、2.0倍は2段暗くなるが、その分望遠になっているため、被写界深度の差は気にならない。また、目立った収差もなく、非常にクリアで高コントラストに描写されている。

テレコンバーター無し:EOS 5D Mark IV / 1/640秒 / F2.8 / +1EV / ISO200 / 絞り優先AE / 200mm
テレコンバーター1.4倍使用:EOS 5D Mark IV / 1/400秒 / F4 / +1EV / ISO200 / 絞り優先AE / 280mm
テレコンバーター2.0倍使用:EOS 5D Mark IV / 1/200秒 / F5.6 / +1EV / ISO200 / 絞り優先AE / 400mm

最後に5段分の手ブレ補正機構VCを街夜景で実践してみた。MODE 3で望遠端200mmを使い1/6秒で手持ち撮影したが、風景はピタリと止まった。驚く精度の良さだ。暗所では大きな武器になりそうだ。

EOS 5D Mark IV / 1/6秒 / F9 / +0.3EV / ISO400 / シャッター優先AE / 200mm

まとめ

このクラスの望遠ズームレンズは各メーカーが競って開発を進めてきているが、その中でもピカイチの仕上がりと言えるだろう。それだけインパクトを残すレンズだった。

個人的にはピント精度の高さ、合焦する速度に驚いた。望遠ズームはいい画が撮れるが、ピントやブレでそれ相応のリスクも伴う。しかし、このレンズは非常に体感的に撮影に集中できる良さがある。この内容で10万円台半ばの価格で購入できるコストパフォーマンスの良さはフォトグラファーにとって朗報だ。

今回は主にポートレートレンズとして使用したが、ほかの場面にも使って見たい。画質も良かった。単にボケが大きいだけなのではなく、美しい滑らかなボケが演出できる。写欲がかきたてられるいいレンズだと感じた。

モデル:京美里(nikolaschka)

製作協力:株式会社タムロン

河野鉄平

1976年東京都生まれ。明治学院大学社会学部社会福祉学科卒業。写真家テラウチマサト氏に師事。写真雑誌「PHaT PHOTO」の立ち上げに参加、2003年独立。著書多数。近著に「【プロワザ】が身につくストロボライティング基礎講座」(玄光社)、「ポートレートの新しい教科書」(MdN)など。カメラ雑誌への寄稿多数。Profoto公認トレーナーを務めるなどセミナーも多数開催。個展は2014年TIPギャラリー(京橋)、2015年ポーラミュージアムアネックス(銀座)など、精力的に活動中 http://fantastic-teppy.chips.jp