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シグマ山木社長に聞く新レンズの進化点

大口径ガラスモールドレンズのためにクリーンルームを増築

ステージも賑わっていた

既報の通り、シグマはフォトキナで「SIGMA 12-24mm F4 DG HSM | Art」「SIGMA 85mm F1.4 DG HSM | Art」「SIGMA 500mm F4 DG OS HSM | Sports」という3本の一眼レフカメラ用交換レンズを発表した。

ここではシグマブースで聞いた山木和人社長の説明を交えてお伝えする。

シグマの山木和人社長

3本のレンズはいずれも発売時期、価格共に未定。全て35mmフルサイズに対応している。マウントはキヤノン用、ニコン用、シグマ用を用意する。

SIGMA 12-24mm F4 DG HSM | Art

同社の12-24mmズームレンズとしては3代目となる超広角ズームレンズ。従来モデルは開放でF4.5-5.6だったが、今回はズーム全域でF4固定と明るく、使い勝手も高まっている。

「1979年に『ズーム・ガンマ21-35mm F3.5-4』を発売しており、古くから広角ズームレンズを手がけているというこだわりがある。最広角のズームレンズはキヤノン(EF11-24mm F4L USM)になってしまったが、我々は広角ズームレンズのパイオニアだと思っている」

本レンズの大きな技術的トピックは、最前面にある82mmという超大口径のガラスモールドレンズを採用したことだ。これによって歪曲収差を始め、球面収差やコマ収差を抑えている。

「広角レンズでは前側に非球面レンズを使うと歪曲収差を補正できる。どれだけ大口径の非球面レンズを作れるかが高性能なレンズを作れるかの鍵になる。他のメーカーでは研削で非球面レンズを作っている。大口径の非球面レンズを作る上では有効な方法だが、コストと時間がかかる」

「一方、熱したガラスを型押しして作るガラスモールド非球面レンズはコストは安いが、これまで小さなレンズしか作れず、大きな物でも50~60mm径までだった。今回、大口径のレンズをモールドで作れるように製造装置メーカーに機械のカスタマイズを依頼した。さらにこのためにクリーンルームを増築するなど、このレンズの開発では超大口径のガラスモールドレンズを作るために時間がかかった」

「量産レベルのレンズで、80mmクラスの非球面レンズをガラスモールドで作った例はあまり聞いたことがない。少なくとも交換レンズではこうした例はないだろう。このレンズだけではペイしない投資だったが、今後の広角レンズの展開を見越して投資した」

明るくなった以外の進化点としては全体的な画質性能アップ、歪曲収差の低減といったところだ。

画質性能では、特に周辺部の描写が良くなったそうだ。また歪曲収差については、「前のモデルは、直線を撮るとパソコンで修正したくなるレベルには歪曲収差がややあった。今回は補正無しで建築写真などに使えるレベルに改善した」という。

気になる価格だが、「このクラスとしてはかなり安く出せるはず」とのこと。

フィルター枠は無い。フードは組み込み。レンズ構成は11群16枚、最短撮影距離は24-25.8cm、絞り羽根は9枚(円形)、最大撮影倍率は1:4.9、最大径×全長は102×131.5mm、重量は1,150g。

SIGMA 85mm F1.4 DG HSM | Art

Artシリーズになったポートレート撮影の定番レンズは、どのような進化を遂げたのだろうか?

「今回発表したレンズの中でも85mmは反響が特に大きい。『待ってました』『ようやく』という声が聞かれた。85mmの前モデルは今でもシャープネスは良いレンズなので、これまでは設計の古い広角系レンズの更新を優先していた。それで、発表が今になった」

「全体の性能を上げることを目指した。前モデルは軸上色収差がありボケに色付きが見られたが、今回それを抑えた。また全般的に解像力を上げた。周辺部までの画質向上を図っており、中心から周辺までの解像力、平坦性は85mm F1.4のレンズではトップクラス」

「カールツァイスのOtus 1.4/85をリスペクトし、同等クラスの性能を達成することを目標とした。Otusは非常に良い性能だが、85mmといった浅い被写界深度をMFで合わせるには高いスキルが必要で、みんなが楽しめるわけではない。我々はAFレンズにすることで、Otusクラスの性能をより幅広く使ってもらうことを主眼に開発した」

「解像力とボケ味ということでは、まずは解像力を出すことを優先した。解像度力を担保した上で、ボケ味を良くしていった。今はシミュレーション技術が進んだので、昔ほど解像力とボケ味の両立が難しいわけではない。シミュレーションした画像を社内のいろいろな人で見ながら検討していった。ボケ方は、ピントが合った部分からなだらかにボケるようにした。解像力重視タイプのレンズの中ではボケは良い方」

「大きさはOtus 1.4/85並になっている。性能と大きさは昔からトレードオフの関係にあるが、むしろこうした性能のレンズが現代の新しい技術によってこの大きさで実現できたとも言える。以前であれば、同じ性能でもさらに大きくなっていたはず」

フードを装着したところ

「もともとArtシリーズは、大きくても重くても最高性能にするというのがコンセプト。大きさ、重さ、コストの条件は下げて、その代わり性能を出せとエンジニアに指示している。全部の条件を満たせと言えば、エンジニアが迷い良いものはできない。以前、設計部門の部長をやっていたので、その辺りは理解している。一方、コンパクトさに重きを置いたものがContemporaryシリーズで、棲み分けをしている。高画素対応など性能から言えば、Artシリーズを買った方が長年使えると思う」

本レンズのニュースリリースには、5,000万画素以上に対応すると明記されている。

レンズ構成は12群14枚、フィルター径は86mm、最短撮影距離は85cm、絞り羽根は9枚(円形)、最大撮影倍率は1:8.5、最大径×全長は94.7×126.2mm、重量は未定。

SIGMA 500mm F4 DG OS HSM | Sports

プロはもとより、動物や飛行機などの撮影でアマチュアにも人気が高い“ゴーヨン”。従来のAPO 500mm F4.5 EX DG HSMの後継モデルで、開放F値も明るくなっている。

「超望遠レンズというのは、Artシリーズに比べると光学設計の工夫がしづらく、他社のレンズに差を付けづらいところはあるが500mm F4としてはトップクラスと考えている。こうしたレンズは重いとダメなので鏡胴にはマグネシウム合金を使っている。軽くするためにフードもカーボン製にした。防塵防滴にも対応している」

カーボン製のフード
フードを装着したところ

「三脚座は他社にないもので、今回デクリック機構を入れた。90度毎のクリックストップを解除できる仕組みだ。90度ちょうどから僅かにずらしたいという場合などに使う。ユーザーからの声としては、クリックストップはあった方が良いという人と、ない方が良いという人がいた。そのため、両方のユーザーに価値のある機能として搭載した」

「前面に付ける専用プロテクター(保護フィルター)もオプションで用意する。径が大きいため一般のフィルターの規格にはないサイズになる。プロテクターを付けた場合でも鏡胴先端のゴム部分が出るようにしているので、立てて地面に置いてもプロテクターの枠が地面に触れることはない。プロテクターは鏡胴の内側に付けるため、専用のホルダーで装着する。ホルダーはキャップにもなる」

右のホルダーを使ってプロテクターを鏡胴にねじ込む

新たな需要を掘り起こす

山木氏に今後の展開も聞いた。

「現行品のラインナップ拡充をしていきたい。新コンセプトの3シリーズへの切り替えも進めていく。製品としては他社にないものを意識している。24-35mm F2 DG HSM | Artや50-100mm F1.8 DC HSM | Artがそう。20mm F1.4 DG HSM | Artも世界初」

「例えば、20mm F1.4 DG HSMをソニーα7Sで使うと星景写真を撮る強力なシステムになる。そういった世界初のレンズを出して、今まで無かった需要を掘り起こすことに注力したい」

盛況のハンズオンコーナー
新しい500mm F4も試せる
同社の製品に対する考えなどを大きなパネルで解説していた
参入を発表したばかりのシネレンズもお目見え
お約束の超弩級レンズAPO 200-500mm F2.8 /400-1000mm F5.6 EX DGの姿も