ライカレンズの美学
LEICA VARIO-ELMAR-TL F3.5-5.6/18-56mm ASPH.
写りは非凡な標準ズーム APS-C用Lマウントレンズの原点
2018年10月31日 18:27
ライカレンズの魅力をお伝えする本連載。今回はライカTLやライカCL等のAPS-Cモデル用標準ズーム、VARIO-ELMAR-TL F3.5-5.6/18-56mm ASPH.を紹介しよう。
Lマウントの本レンズは、2014年5月にTシリーズと共に登場。当初はTレンズとして「VARIO-ELMAR-T」銘であったが、後にフルサイズ用のSLレンズと区別するためにTLレンズに改称されているのは前回取り上げたSUMMICRON-TL F2/23mm ASPH.と同様だ。現行品ではレンズ刻印なども「T」から「TL」に変更されているが、レンズそのものに変更はない。
35mmフルサイズ換算で27~84mm相当という、標準ズームとしては極めてコンサバな画角を持つレンズで、口径比を欲張っていないこともあってなかなか小型軽量に作られている。レンズ構成は7群10枚で、そのうち2枚は両面非球面レンズを採用。最短撮影距離は18mm側で30cm、56mm側では45cmまで寄ることができる。鏡胴はズーミングによる伸縮はあるが、インナーフォーカスなのでピント合わせに伴う鏡胴の繰り出しはない。
というわけで、スペック的に何か華々しい部分があるわけではなく、数あるライカレンズの中でもどちらかというと地味な存在かもしれない。ただし、作り込みはライカレンズらしく高品位で、ズームリングの回転トルクは常に一定だし、適度な手応えがあるフォーカスリングの操作感も素晴らしい。鏡胴は内筒は樹脂製(フィルターやフードを取り付ける先端部は金属製)だが、外筒はアルミ製で、ブラックアノダイズド処理による高級感のある仕上げになっている。
写りは驚くほど良好だ。しっかりとコントラストがあるメリハリに優れた描写は大口径ズームを絞って使った時のような均質性のある写りだし、解像性能もかなり高い。ライカのエルマー銘レンズは線が太めの力強い描写というイメージがあるが、本レンズの場合は線がそこまで太くなく、ズミクロンに近い描写バランスに感じた。それほど明るいレンズではないので、絞り開放でのアウトフォーカス量はそれなりだけど、二線ボケ傾向も感じられず、ボケ味はきわめて素直だ。
本レンズは比較的小口径なAPS-C用標準ズームという立ち位置もあって、スペック的にはどちらかというとアマチュアユースな印象もあるかも知れない。しかし、そういう固定概念を覆すシーンに筆者は出会ってしまった。それは今年の6月に行われたライツパーク拡張イベントでのこと。若きモハメド・アリの印象的なポートレートで有名なトーマス・ヘプカーさんが、ライカSLに本レンズを装着して撮影していたのだ。
かつてはマグナムフォトの会長まで務めたヘプカーさんが使っていたことで、ミーハーなボクは一気にこのレンズに対する興味が高まってしまった。ちなみにヘプカーさんを別の場所で見かけた時はライカSL用の24-90mmを使っていたので、用途に合わせて使い分けているのは明らかである。確かに機動性を重視したいときはコンパクトな本レンズが重宝しそうだ。フルサイズのライカSLに装着している時はAPS-Cサイズにクロップされるが、それはそれで使い道はあるということだろう。
また、少し前に開催されたフォトキナ2018では「Lマウントアライアンス」が発表されて大きな話題となった。APS-Cサイズの本レンズもLマウントの一員なので、その意味でも気になる一本だ。
協力:ライカカメラジャパン株式会社