ライカレンズの美学

LEICA VARIO-ELMAR-TL F3.5-5.6/18-56mm ASPH.

写りは非凡な標準ズーム APS-C用Lマウントレンズの原点

ライカレンズの魅力をお伝えする本連載。今回はライカTLやライカCL等のAPS-Cモデル用標準ズーム、VARIO-ELMAR-TL F3.5-5.6/18-56mm ASPH.を紹介しよう。

Lマウントの本レンズは、2014年5月にTシリーズと共に登場。当初はTレンズとして「VARIO-ELMAR-T」銘であったが、後にフルサイズ用のSLレンズと区別するためにTLレンズに改称されているのは前回取り上げたSUMMICRON-TL F2/23mm ASPH.と同様だ。現行品ではレンズ刻印なども「T」から「TL」に変更されているが、レンズそのものに変更はない。

35mmフルサイズ換算で27~84mm相当という、標準ズームとしては極めてコンサバな画角を持つレンズで、口径比を欲張っていないこともあってなかなか小型軽量に作られている。レンズ構成は7群10枚で、そのうち2枚は両面非球面レンズを採用。最短撮影距離は18mm側で30cm、56mm側では45cmまで寄ることができる。鏡胴はズーミングによる伸縮はあるが、インナーフォーカスなのでピント合わせに伴う鏡胴の繰り出しはない。

ズーミングによる全長変化は実測で約20mmくらい。

というわけで、スペック的に何か華々しい部分があるわけではなく、数あるライカレンズの中でもどちらかというと地味な存在かもしれない。ただし、作り込みはライカレンズらしく高品位で、ズームリングの回転トルクは常に一定だし、適度な手応えがあるフォーカスリングの操作感も素晴らしい。鏡胴は内筒は樹脂製(フィルターやフードを取り付ける先端部は金属製)だが、外筒はアルミ製で、ブラックアノダイズド処理による高級感のある仕上げになっている。

フードは花型のシッカリとした作りのもの。

写りは驚くほど良好だ。しっかりとコントラストがあるメリハリに優れた描写は大口径ズームを絞って使った時のような均質性のある写りだし、解像性能もかなり高い。ライカのエルマー銘レンズは線が太めの力強い描写というイメージがあるが、本レンズの場合は線がそこまで太くなく、ズミクロンに近い描写バランスに感じた。それほど明るいレンズではないので、絞り開放でのアウトフォーカス量はそれなりだけど、二線ボケ傾向も感じられず、ボケ味はきわめて素直だ。

ハイコントラストなシーンの再現はこのレンズが得意とするところ。ライカCL / ISO100 / F5.0 / 1/800秒 / WB:オート / 19mm
コンパクトで軽量なので街歩き撮影との相性は抜群。ライカCL / ISO100 / F5.0 / 1/800秒 / WB:オート / 25mm
古びた壁などのテクスチャー再現は実に見事。ライカCL / ISO100 / F5.0 / 1/2,000秒 / WB:オート / 36mm
テレ側至近のボケ味はこんな感じ。玉ボケのエッジはやや強調されるが、それほど不自然ではない。ライカCL / ISO640 / F5.6 / 1/100秒 / WB:オート / 19mm
こちらもテレ側の至近撮影。近接しても合焦部の解像は落ちない。ライカCL / ISO800 / F8.0 / 1/100秒 / WB:オート / 56mm

本レンズは比較的小口径なAPS-C用標準ズームという立ち位置もあって、スペック的にはどちらかというとアマチュアユースな印象もあるかも知れない。しかし、そういう固定概念を覆すシーンに筆者は出会ってしまった。それは今年の6月に行われたライツパーク拡張イベントでのこと。若きモハメド・アリの印象的なポートレートで有名なトーマス・ヘプカーさんが、ライカSLに本レンズを装着して撮影していたのだ。

ライツパーク拡張イベントでライカカメラ社主のアンドレアス・カウフマン氏(左)と談笑するトーマス・ヘプカーさん。ライカSLにVARIO-ELMAR-TL F3.5-5.6/18-56mm ASPH.を装着。カメラ、レンズ共にいい感じに使い込まれている。

かつてはマグナムフォトの会長まで務めたヘプカーさんが使っていたことで、ミーハーなボクは一気にこのレンズに対する興味が高まってしまった。ちなみにヘプカーさんを別の場所で見かけた時はライカSL用の24-90mmを使っていたので、用途に合わせて使い分けているのは明らかである。確かに機動性を重視したいときはコンパクトな本レンズが重宝しそうだ。フルサイズのライカSLに装着している時はAPS-Cサイズにクロップされるが、それはそれで使い道はあるということだろう。

また、少し前に開催されたフォトキナ2018では「Lマウントアライアンス」が発表されて大きな話題となった。APS-Cサイズの本レンズもLマウントの一員なので、その意味でも気になる一本だ。

ズーム位置で画質が変化することはなく、どの画角でも撮れるクオリティは同じだ。ライカCL / ISO100 / F8.0 / 1/60秒 / WB:オート / 28mm
画面全体の均質性は優秀で、このような平面的な被写体でも問題はない。ライカCL / ISO250 / F8.0 / 1/50秒 / WB:オート / 28mm
標準ズームとしてごく普通の焦点レンジ。視角に近い画角は普通に使いやすい。ライカCL / ISO100 / F8.0 / 1/80秒 / WB:オート / 37mm
ヌケのよさ、解像の高さが印象的なレンズだ。ライカCL / ISO100 / F8.0 / 1/400秒 / WB:オート / 28mm
ズームリングなどの操作フィーリングは相当に良好で、気持ちよく撮影に臨めるレンズだ。ライカCL / ISO100 / F8.0 / 1/320秒 / WB:オート / 40mm
解像性能の高さが実感できる1枚。ライカCL / ISO100 / F8.0 / 1/320秒 / WB:オート / 18mm
今回の撮影ではライカCLと組み合わせたが、ボディ側の画処理も優れていて、レンズの持つ性能が存分に再現される印象だ。ライカCL / ISO100 / F8.0 / 1/160秒 / WB:オート / 56mm
木の細かい枝振りも驚くほど緻密に再現されていて、解像性能は本当に秀逸。ライカCL / ISO100 / F8.0 / 1/320秒 / WB:オート / 21mm
AFの動きはスナップ撮影にも十分対応できるスピード。ライカCL / ISO100 / F8.0 / 1/80秒 / WB:オート / 30mm

協力:ライカカメラジャパン株式会社

河田一規

(かわだ かずのり)1961年、神奈川県横浜市生まれ。結婚式場のスタッフカメラマン、写真家助手を経て1997年よりフリー。雑誌等での人物撮影の他、写真雑誌にハウツー記事、カメラ・レンズのレビュー記事を執筆中。クラカメからデジタルまでカメラなら何でも好き。ライカは80年代後半から愛用し、現在も銀塩・デジタルを問わず撮影に持ち出している。