ライカレンズの美学
LEICA SUMMICRON-TL F2/23mm ASPH.
35mm好きにお勧めの高性能レンズ
2018年8月30日 07:00
ライカレンズの魅力をお伝えする本連載。今月はライカTLやライカCL用のAPS-Cフォーマットモデル用単焦点レンズ、SUMMICRON-TL F2/23mm ASPH.を取り上げよう。
本レンズは2014年5月、Tシリーズのデビューと同時に登場。当初は「SUMMICRON-T」銘であったが、2015年にライカSLが登場すると、同じライカLバヨネットマウントのライカSL用フルサイズ対応レンズと明確に区別するためAPS-C用レンズはその後「TLレンズ」と呼ぶようになり、本レンズも「SUMMICRON-TL」に改称された経緯がある。レンズそのものはまったく同じである。
APS-Cサイズで23mmという実焦点距離は、35mmフルサイズ換算では35mm相当となる。フィルター径は52mm(ライカの呼称ではE52)、重さはレンズのみ154g、付属フード込みで186gで、どうしても大きくなりがちなデジタル時代のレンズとしては小型軽量な設計になっている。レンズ構成は6群9枚で、もっとも撮像素子に近い後玉の両面が非球面となっている。
最短撮影距離は35cmだが、面白いのは絞り優先AEもしくはマニュアル露出で絞りをF2開放に設定していても、撮影距離が50cmより短くなると、それに応じて絞りがF2.2→F2.5→F2.8と自動的に絞り込まれる「マクロモード」と呼ばれる仕組みになっていることだ(近接に伴って実効F値が低下するのではなく、物理的に絞り込まれる)。近距離になるほど増える収差に対応するためと思われるが、ライカらしい真面目な機能といえるだろう。なおインナーフォーカスなのでピント合わせに伴う鏡胴の伸縮はない。
前述したとおり、本レンズはTシリーズのデビューと同時に登場したこともあって、同カメラとの組み合わせではかなり使用したことがあるのだが、今回ライカCLに装着してみると、レンズとボディのマッチングがデザイン的にもサイズ的にも非常にいいことに感動した。鏡胴はフォーカスリングを含めてアルミ製で、小さく軽いレンズだが、質感はライカの名に恥じないハイレベル。この位のサイズのレンズだと総樹脂製で作られてしまうことも珍しくないけれど、手にした時の高品位な感触はやっぱり金属の方が優れていると実感できる。作動にバックラッシュをまったく伴わない、ウルトラスムースに動くフォーカスリングの作り込みも流石だ。
付属のレンズフードは十分な有効長のある実用性の高いもので、他のTLレンズと同様にフード本体は樹脂製だが、基部のみ金属製になっている。フード有効長はレンズ鏡胴と同じくらいあるので、逆付けするとレンズケースのような体裁となってコンパクトに収まる。
写りはデジタル時代の単焦点レンズに求められる解像性能とコントラスト再現、そして耐逆光性能を満たしており、ポートレートのような優しげな被写体から都市景観のようなハードな被写体まで、あらゆる用途で満足できる結果を得られると感じた。よくできた単焦点レンズだけが持つ、クセのないアウトフォーカス描写も魅力的だ。
35mm相当の画角はライカユーザーにとっては50mm標準レンズと並んで定番的な焦点距離であり、それだけに写りに対する期待値はいやが上にも高くなってしまうわけだが、使ってみた感想は期待以上。小型軽量による機動性の高さも含め、完成度の高いレンズと言えるだろう。
協力:ライカカメラジャパン株式会社