私はこれを買いました!

ファインダーも背面モニターもない手のひらサイズカメラ

INSTAX Pal(豊田堅二)

年末恒例のお買い物企画として、写真家・ライターの皆さんに、2023年に購入したアイテムをひとつだけ紹介していただきました。(編集部)

デジタルカメラとして楽しめるチェキ

ファインダーもモニターディスプレイもないこのカメラを買ったのは、いったいどのような使い方をするのだろうと、興味を覚えたからである。なにか全く新しいデジタルカメラの使い道がこれで開けるのではないかというような気がした。ま、そんなわけで発売されて間もなくネットで購入してしまった。

さて、到着した品の梱包を開けると小さなおむすび型の本体がコロンと出てきた。見たところ通常のカメラのような吊環がない。どうやって持ち歩こうか、しばし考えてしまった。一応「リングストラップ」という洋式便器の便座のような形をしたリングをループ状の糸で装着するようになっているのだが、ぶら下げて運ぶには、どうもこの糸が細すぎて心許ない。いろいろ調べた結果、別売りの専用ケースを購入することにした。このケースには付属のカラビナが装着でき、これをズボンのベルト通しやバッグの吊環に引っかけて気軽に持って出ることができる。

専用ケースに収めたところ。本体の載っているグレーの部分がリングストラップである。ケースの「左耳」のところにカラビナが装着されている

本体で操作するところは3カ所しかない。その一つである上部の細長い白いボタンを押すと電源が入り、LEDが点灯する。撮影のモードには二種類あり、二番目の操作部である背面下部のスイッチで切り換える。LINKモードでは背面のレリーズボタン(これが三番目の操作部)を押して撮影すると、即チェキのモバイルプリンターに画像データを送ってプリントする。つまりデジタルタイプのインスタントカメラ「INSTAX mini Evo」や「instax mini LiPlay」のカメラ部だけ切り離したような使い方だ。

もう一つのFunモードはスマートフォン経由でいろいろな設定や撮影を行う。専用のアプリをスマートフォンにインストールしてBluetoothのペアリングと基本設定を行い、撮影モードにするとスマートフォンにライブビューの画像が表示される。これがファインダーの役目となる。撮影はアプリの撮影ボタンでも本体のボタンでも可能で、いずれの場合も撮影データはスマートフォンに送られてくる。

このFunモードでいろいろな所に持ち歩き、使ってみたが結構楽しめた。スマートフォンによるライブビューはBluetoothの転送レートの都合かフレームレートが低く、ファインダーとしてあまり役立たない。前述のリングストラップを本体上部に装着して枠ファインダーとするようになっているが、これも目安程度にしかならない。むしろ35mmフルサイズ換算で16.25mmという超広角レンズを生かしてノーファインダー撮影を楽しんだ方がよさそうだ。面白いのはおむすび型の形状とリングストラップの組み合わせで、かなり自由なアングルでカメラを置くことができることだ。これまでにない新鮮なアングルでの撮影を期待できる。

ただ、ちょっといただけないのは露出補正がスマートフォンアプリのメニューで階層の深いところでしかできないことだ。カメラを低いところに置いて空を背景にした写真を撮影する機会が多いので、通常のインスタントカメラの“DARKEN/LIGHTEN”スイッチのように手軽に補正できるようにしてほしい。

ノーファインダーでおおよその見当をつけての撮影。超広角レンズのおかげか、極端に外すことなく撮影できた。これはmicroSDカードに記録した画像をPCに転送したもの(以下同じ)。
INSTAX Pal/(1/2,233秒・F2.2)
リングストラップを使ってテーブル上に上向きにカメラを置き、覗き込んで撮影した。フラッシュ代わりのLED照明が発光している。
INSTAX Pal/(1/60秒・F2.2)/フラッシュ(LED)発光
自撮りなどでこのように空が背景になることが多い。この写真では+1EVの露出補正をかけているが、露出補正はもっとやりやすくしてもらいたい。
INSTAX Pal/(1/900秒・F2.2・+1EV)

近況報告

日本写真学会のカメラ技術セミナーの企画にこれまでも参画してきたが、今年は第30回の節目ということで、30年間のカメラ業界を振り返る対談を山田久美夫さんと行った。執筆活動の方も何か新たな企画を考えようと画策中。

豊田堅二

(とよだけんじ)元カメラメーカー勤務。現在はカメラ雑誌などにカメラのメカニズムに関する記事を書いている。著書に「とよけん先生のカメラメカニズム講座」(日本カメラ社)、「カメラの雑学図鑑」(日本実業出版社)など。