イベントレポート

“ラスター”と“マット”、2つの用紙を存分に試せた「Canon PIXUS PRO-100Sセミナー・体験会」

柄木孝志さん&館野二郎さんが解説

講師を務めた写真家の柄木孝志さん(左)と館野二郎さん(右)。

12月8日、神保町にあるインプレスセミナールームにて「絶景のプロが語る!プリントの直伝テクニック with Canon PIXUS PRO-100S セミナー・体験会」が開催された。

講師を務めたのは、写真家の柄木孝志さんと館野二郎さんのお2人。毎年恒例となった本セミナー・体験会シリーズにおいて、お2人の講師を迎えるのは初めての試み。お話を聴く立場としては、その豪華な内容に、開催前から期待が膨らみっぱなしになってしまう。

1人1台にPIXUS PRO-100Sを用意

用意されたプリンターはキヤノンの「PIXUS PRO-100S」だ。8色染料インクのプロフェッショナル向けプリンターであり、1人の参加者につき1台が準備された。「プロ向けの本格的なプリンターを使ってみたい」という理由で申し込んだ参加者は非常に多く、憧れの高性能プリンターを存分に使えることも当セミナーに参加することの醍醐味のひとつとなっている。

PIXUS PRO-100S

交換インクやプリント用紙も十分に用意されていた。

今回用意されたプリント用紙は、落ちついた質感をかもしだす微粒面(半光沢紙)のキヤノン写真用紙・微粒面光沢「ラスター」と、高級感の高い滑らかな仕上がりを楽しめるキヤノン写真用紙「プレミアムマット」の2種類。これらにキヤノン写真用紙・光沢プロ「プラチナグレード」も追加されていた。

計3種類のプリント用紙に交換インクという豊潤な備えに対し、柄木さんは「夢のような環境ですよ」と称賛の言葉を参加者に贈っていた。高級ラインのプリント用紙は、作業中になくなってしまっても、直ぐに買いに行けないし、何よりも高価であるため、柄木さんの言葉は、本格的にプリントを志す者にとって、まさに核心をついていると言えるだろう。

講師それぞれが用紙を推奨

このイベントではラスターとプレミアムマットそれぞれの特徴を参加者に知ってもらうことが主眼になっている。

ラスターは「その場で見ているような立体感を表現できる」(柄木さん)、プレミアムマットは「絵のような世界観が作れる」(館野さん)と、性格が異なる。プリントを作成するうえで、用紙の違いによるそれぞれの表現の違いを、PIXUS PRO-100Sをもって体験してもらおうということになったのであった。プリントするということは、自身の表現を紙の上に実現するということに他ならないわけであるから、2者の方向性を今回のセミナーで体験できるのは大変貴重なことであろう。

というわけで、まずはラスターにプリントされた柄木さんの作品と、プレミアムマットにプリントされた館野さんの作品を、眼で見て鑑賞することになった。

写真プリントと言うと、ツヤツヤの光沢用紙という先入観があり、人によってはそれ以外の選択肢を知らない場合もある。今回は、同じ写真で用紙ごとの見本が用意されていたので、用紙によってどれほど写真の表現が変わってくるかを知ることができた。

「ラスターはプロが写真展などで作品を展示する場合でもよく選ばれるタイプの用紙です。発色が良いだけでなく、絵を上手に引き締めてくれる上質な魅力があります」と柄木さん。

「光の少ない時間帯に撮影することが多い僕の場合、質感を重視したフラットな表現を心がけています。そうした場合、細部まで柔らかい雰囲気が出せるプレミアムマットが合っています」と館野さん。

用紙に合った写真を選ぶ

ラスターとプレミアムマットの特性を確認できたところで、今度は自身が撮影した写真をインデックスプリントで出力してみる。自身で用意してきた約20枚の写真はあらかじめPCにインストールされており、それらをキヤノン純正ソフトの「Digital Photo Professional」で閲覧・選択して、純正プラグインソフト「Print Studio Pro」(Proシリーズプリンター用のプラグインソフト)でプリント方法を指定するという作業だ。

なぜ、インデックスプリントをするのかと言うと、それは柄木さんにラスターでプリントするのに向いた写真を、館野さんにプレミアムマットでプリントするのに向いた写真を選んでもらうため。

「用紙によって写真の表現は変わる!」「写真によって向いた用紙の種類は異なる!」と言われても、初めてだとどの写真がどの用紙に向いているのかなかなか判断が難しいものだ。そこで柄木さんと館野さんが直々に、2枚ずつ向いた写真を選んでくれるというのである。

「なるほど、これなら自分でもプリントする画像を絞り込みやすくなる」と参加者も喜んでいた。

選ばれた4枚の写真を、先ほどより大きくインデックスプリントすることで、プリントする写真はさらに選びやすくなった。

パターン印刷で微妙な違いを直感的に

いよいよ本番プリント! といきたいところだが、その前にここで柄木さんから、お勧めの機能が紹介される。Print Studio Proがもつ機能のひとつ「パターン印刷」である。

パターン印刷とは、ひとつの画像に対して、シアン、マゼンタ、イエローの数値に、少しずつ変化を加えた複数のパターンを1枚の用紙に出力してくれる機能。明るさとコントラストを変化させるモノクロ写真向きの使い方も可能だ。

本番プリント予定の写真の設定を、自身の好みに合わせていくつものパターンの中から選ぶことができるため、イメージに合うまでレタッチを繰り返し、インクや用紙を無駄に浪費することが少なくなる。

柄木さんは作品をプリントする時、こうしてパターン印刷で方向性を探るようにしているそうだ。

本番プリントで写真を“作品”に仕上げる

インデックスプリントとパターン印刷でプリントする写真を選んだら、今度こそまちにまった本番プリントである。用紙サイズは展示などでも十分に映えるA3サイズだ。

初めて大判プリントするという参加者が多かったので、さぞや戸惑うことも多いだろうと思っていたが、意外にも皆さんサクサクと本番プリントの作業をこなし始めていた。

というのも、写真の選び方からプリンターの使い方まで、インデックスプリントやパターン印刷を通して、何度も繰り返し体験してきたからだろう。そう、プリンターや用紙がしっかりしたものであれさえすれば、本格的なプリントは決してそれほど敷居の高いものではない。

真剣に、でも楽しそうに本番プリントを繰り返す参加者を見て、特に目にとまった作品を講師の先生方が壇上で紹介するという一幕もあった。

ラスターにあった写真を、パターン印刷の中から選び抜き、最適な表現を掴んだ作品を紹介しているところ。

プレミアムマットならではの繊細な表現にピッタリな作品を紹介し、その特長を解説しているところ。

同じ写真を敢えてラスターとプレミアムマットで出力して、用紙による表現の違いをリアルに体験することに挑戦した作品を紹介しているところ。

最後に参加者に向けて、講師のお2人からプリントについての言葉が贈られた。

「プリントは作品を制作する工程そのものですが、そうした工程を繰り返すことで、撮影時に自分に足りなかったことや気づかなかったことが見えてくるようになります。プリントすると写真が上手くなるというのは、つまりそういうことです。今日を機会に、皆さんがプリントの本当の意味を理解してくれれば嬉しく思います」(柄木さん)

「絶景の写真はタイミングが全てです。最適なタイミングを演出する光はほんの一瞬しかなく、その瞬間をものにできたか逃したかはプリントすること違いが歴然と表れます。これはレタッチで無理矢理どうにかできるものではありません。ぜひ、プリントすることで写真の本質を掴んでください」(館野さん)

緊張から始まった今回のセミナー・体験会であったが、終わりが近づくにつれ講師のお2人と、参加者に、スタッフまでも巻き込んで、和気あいあいとした雰囲気になっていった様子が印象的だった。プリントするというのはやっぱり楽しいことなんだなと、改めて思った次第である。

参加者の声

谷口宗仁さん

長年仕事でプリント制作に携わっています。業務上のプリントには慣れていますが、自分の作品としてインクジェットプリンターを使うと、なかなか意図した表現ができないという悩みから今回のセミナーに参加しました。

PIXUS PRO-100Sは静かで速く素晴らしいですね。これには驚きました。インデックスプリントやパターン印刷が簡単にできるアプリケーションがデフォルトで付いているのも好印象でした。顔料インクのPIXUS PRO-10Sにも興味がありますのでしっかり検討していきたいと思います。

中川彩乃さん

SNSで「プリントすると写真が上手くなる」という今回のセミナーの広告を観て、「これは行かなきゃ!」と思い参加しました。実際に紙にプリントしたことがありませんでしたが、今回の体験会で自分が思ったよりずっと綺麗な写真がプリント出来たのでびっくりしました。教えてもらったプリント用紙に出力すれば、モニター上では難しかった繊細な青色の違いを表現できました。

青にこだわって写真を撮ってきましたけど、これからはますます写真が楽しくなりそう。本当に楽しい体験会でした。

富永加友里さん

こんなにも綺麗なプリントが家でもできるんだと実感でき、とても参加した甲斐がありました。写真によってプリント用紙に向き不向きがあることは新鮮な驚きで勉強になりました。

教えてもらった方法でプリントしてみたら、もっと明るさを変えてみたい、用紙の違いを見てみたいという興味がどんどん出てきましたが、残念ながら時間がなくすべてをプリントすることはできませんでした。今日知ったプリント環境を自宅でもできるようにしたいなと思います。

内之園友子さん

写真展で見るような綺麗な写真を自分でもプリントしてみたいとずっと思っていました。A3サイズの大きなプリントをしたのは初めてですけど、今まで見えていなかった部分まで分かるようになって嬉しかったです。色や明るさをどうするかはいつも悩んでいましたので、パターン印刷のような分かりやすい機能があることを教えてもらえてよかったです。

PIXUS PRO-100Sは驚くほど静かでしたので、置く場所さえ何とかなれば自分の部屋にも置けそうですね。真面目に考えてみます。

原田捺未さん

真剣に写真を学びたいと思っていて、スタジオでアシスタントをするなどしています。仕事での写真もそうですけど、作品作りについてもいろいろ知りたいので参加しました。柄木先生がおっしゃっていたように、実際にプリントしてみると、ピントの位置や絞り値の選択など、撮影で足りなかったことがハッキリ見えてきて勉強になりました。

まるでその場にいるような臨場感のあるプリントが目標ですが、PIXUS PRO-100Sの表現力ならそれが実現できると思いました。いま自宅にあるプリンターは、色が思ったように出ず、音や揺れも大きいので、買い換えを検討したいです。

谷黒望さん

初めて写真展に出品したことでプリントに対する意識が高くなり、ちょうど良いタイミングだったので参加しました。

使う用紙の種類を考えながら撮影するという方法に興味がありましたので、今日の内容はとても勉強になりました。普通なら光沢紙にプリントする花火の写真も、勧められたプレミアムマットで出力して見たら、これまでとは違った素晴らしい表現でプリントできて嬉しかったです。

花火の線を想像以上にシャープに描き出してくれるPIXUS PRO-100Sのすごさにも驚きです。楽しくてためになる体験ができました、ありがとうございます。

制作協力:キヤノン

曽根原昇

(そねはら のぼる)信州大学大学院修了後に映像制作会社を経てフォトグラファーとして独立。2010年に関東に活動の場を移し雑誌・情報誌などの撮影を中心にカメラ誌等で執筆もしている。写真展に「イスタンブルの壁のなか」(オリンパスギャラリー)など。