イベントレポート

中井精也さんの「秩父鉄道撮影ツアー」にお邪魔しました

第5回ニッコールレンズフォトツアー同行レポート

講師は鉄道写真家の中井精也さん。

ニコンイメージングジャパンによる「ニッコールレンズフォトツアー」は、対象期間中に対象レンズを買って応募すると、プロ写真家と行く撮影の旅が抽選で当たるキャンペーン。ニッコールレンズ80周年を記念して2013年にスタートし、今回で5回目の開催となる。ここでは中井精也さんが講師を務める日帰りコース「風光明媚な自然とレトロ鉄道風景『秩父鉄道』撮影ツアー」の模様をレポートする。

ツアー当日は、午前9時半にJR熊谷駅近くのホテルからスタート。移動のバス車内では講師の中井さんから「欲張らず、列車を待ち受けてシャッターを切ろう」といった心構えから、今日のメイン被写体となる「鉄道」「桜」「菜の花」といった被写体を画面内へバランスよく配置する基本の考え方を学んだ。

専用バスで移動する。

桜堤から「桜+菜の花+SL」を狙う

桜吹雪が舞う、大麻生の桜堤から撮影した。

秩父鉄道の大麻生駅近くでバスを降り、桜堤から桜+菜の花+SLのショットを狙う。まっすぐな桜並木が線路と並行する花見スポットで、レジャーシートを敷いてくつろぐ家族連れの姿も見られた。ここではSLを線路の両側から狙えるが、ツアーの一行は桜堤の側に集まり、桜と菜の花を絡めて撮影した。

鉄道自体は身近な存在でも、撮影するとなると話は別。様々なトラブルも話題になっているし、現場のマナーやしきたりなど、敷居が高いと感じる方は少なくないのではないか。しかし、ここでは中井さんやスタッフが我々の動きを見ていてくれるから安心だ。

おのおの撮影ポジションを探る。綺麗なラッピング車両も撮りたい。

目当てのSLが来るまでの間に、白い桜は露出アンダーになりがちだから露出補正を+1/2〜+1にしてみよう、ピクチャーコントロール「風景」で彩度とコントラストを1ずつ上げてみよう、といったアドバイスがあり、その場の色彩を活かした設定にトライ。全員がニコンのデジタル一眼レフカメラを使っているので、とても話が早い。

筆者も実際に撮影してみたが、線路を目安にちゃんとフレーミングしたつもりでも、いざ列車が来ると車両の上半分が桜にかかってしまったり、見えていなかった看板が写り込んでいたり、なかなか見映えのする写真を撮るのは難しい。ただ、アドバイス通りに設定した色彩は鮮やかでいい感じだ。

筆者も撮ってみた
中井さんのアドバイス通り、ピクチャーコントロール「風景」に彩度+1、コントラスト+1で鮮やかな仕上がりを狙った。もう少しカメラ位置を低くすればよかった。

ほかにも車両に影が落ちたり、フレームアウトさせたいものを気にしすぎてバランスが悪くなってしまったり、撮影後に架線柱が見切れていたことに気付いたり、いわゆる“普通に見える写真”に込められた目配り・気配りを実感する機会となった。

筆者も撮ってみた
連写で保険をかけるのは難しいと判断して一枚入魂でシャッターを切ったが、ヘッドライトに木の枝が重なってしまった。冷静になってから見ると、電柱や架線柱も気になる。

参加者の中には鉄道写真を撮り続けているベテランの方もいれば、鉄道撮影が初めてという方、カメラ自体も初心者という方もいた。こうしたツアーを通じて「やってみなければわからない」という体験を早いうちに得られるのは宝だろう。

中井さんのお手本を見ながら、自分の狙う写真を考える。
桜と電車を絡めた構図に挑戦。車両が暗くなりそうな時は「アクティブD-ライティング」が有効とのアドバイスも。

続く1時間ほどのバス移動中には、参加者全員のひとこと自己紹介を実施。こうして全員が1人で参加するツアーは、お互いのコミュニケーションが生まれやすいと思う。昼食タイムにも、中井さんとの記念撮影や、ニコンスタッフも交えたカメラトークを楽しんでいる様子も伺えた。

長瀞で、秩父鉄道のSLパレオエクスプレスを狙う

貨物列車などを撮りながら、お目当てのSL撮影に向けイメージを膨らませる。

昼食タイムを経て向かったのが、長瀞の河原から荒川橋梁を狙うスポット。ここではじっくり90分ほどの余裕があり、「列車を待つ」という鉄道写真の醍醐味も実感。

充実の貸し出し機材が用意されていた。
ボディはフラッグシップ機のD5、人気のD850など。レンズは最新の180-400mm(お値段、約150万円)まで揃っていた。“レンズを買ったからツアーに当たったのに、早々にまた別のレンズが欲しくなる”という環境整備がすごい。

時刻表を見ながら、待ち時間には流し撮りのレクチャーがあった。荒川橋梁を遠くから狙うと、列車はとてもゆっくりとしたスピードに見えるため、より低速シャッターに設定する必要がある。しかし、流し撮りにおける多少のブレは被写体に動感が出るのでOK、とのこと。

流し撮りの練習で、横一列に並びカメラを構える。被写体はどこに?
「僕が今からダッシュするので流し撮りしてみてください」と中井さん。しかも2回。

その後は、水面の写り込みを狙うもよし、岩場を前景に入れるもよしで、おのおの貨物列車などを撮りつつSLを待つ。

こういったシーンでは、チルト式モニターが羨ましい。
長い汽笛を鳴らしながら、SLパレオエクスプレスがやってきた。
筆者も撮ってみた
逆光でのシルエットがモノクロ写真のようだったので、ホワイトバランスを変えてセピア風を狙った。わずかに画面が傾いていたことに後で気付く。

サプライズ!「長瀞ラインくだり」の船から列車を撮る

当初のツアー行程表には記載されていなかったが、ライン下りをする船から列車を撮るというスペシャル感あふれる企画が実現した。当日の天候や川の水量を踏まえ、朝の出発直前まで運営スタッフが実施可能かを調整していた。スゴイ!

右奥に見える鉄橋を狙う。

船の乗り場で時刻表を見ながら、列車が鉄橋を通るであろうタイミングを逆算して出発。

ツアー参加者も船頭さんもドキドキ。

見事に、船が鉄橋へ近づいたタイミングで列車が!

列車が来た!みんなで頭を低くして譲り合い。

貸し切り電車で講評会場へ

ライン下りを終えると、先回りで我々の到着を待っていたバスに乗り込み、秩父鉄道の長瀞駅へ。ここからは、今回のツアーのためにニコンが1編成をまるまる借り切った電車で熊谷駅に移動する。

配られた切符。「○○駅発行」ではなく「運輸課発行」となっている。
「団体」表示の貸し切り列車前で、中井さんを囲み記念撮影。

車内では、講評会に提出する作品を選んだり、休憩したり、思い思いに過ごした。専用ダイヤに沿って運行する貸し切り電車は、さながら“ニコントレイン”。普段はすべての列車が停まる駅すら通過する様子は、テレビ番組の鉄道企画に参加しているような心地だった。

貸し切りの3両編成で、のびのび旅気分。ゆったり座って景色を眺められる。

中井さんは、車内からも沿線の桜(朝一番で撮影した大麻生の桜並木)を狙う。参加者もそれぞれ、他の乗客がいては気兼ねするようなローアングルから窓の外を撮影したり、運転台にかぶりついたり、あっという間の特別な1時間を過ごした。

乗客全員が写真愛好家なので、撮影アングルも気兼ねない。

普段も趣味で鉄道写真を撮っているという秩父鉄道スタッフからは、「そろそろ右側に桜が見えます」「この先に新駅ができます」といった沿線情報も入り、至れり尽くせりだった。

ツアーを締めくくる講評会

講評会はホテルの宴会場で実施。

ここまで、参加者は1人1点、自信があれば2点の提出を目標に撮影してきた。中井さんは現場での各参加者の動きを見ており、各自の撮影の狙いなども踏まえて講評した。「画面内で面積の広い部分に露出が合っていると見やすい」「後で見直してみてからトリミングするのもよい」といったアドバイスがあった。

そして、中井さんがその日に撮影した作品も紹介。約20名が同じ場所にいながら、それぞれの視点やアプローチで撮影したバリエーション豊かな作品は、見ていて実に楽しかった。筆者も今回の経験を踏まえて、より満足がいくような鉄道写真の撮影に挑戦してみたい。

次回のキャンペーン開催にも期待

これほど満足感のあるツアーがあと14も開催されていると思うと、その贅沢さに驚くばかり。今回のキャンペーンに応募可能だったレンズはニコン指定の45本だが、その中には実売3万円弱の「AF-S NIKKOR 50mm f/1.8G」なども含まれていて、ハードルは意外に高くない。それでいて“もしかしたらこんなに贅沢なツアーに参加できるかもしれない”と思うと、レンズ購入を迷う背中を押されることは間違いない。この気軽さが、ツアー参加者の顔ぶれの多彩さにも繋がっているのだろう。

ニッコールレンズフォトツアーの次回開催は未定とのことだが、ぜひこの楽しさを通じて「ニコン、すごいな!」と唸るユーザーが一層増えることに期待したい。

筆者はニコンDfに「AF-S NIKKOR 28-300mm f/3.5-5.6G ED VR」と「AF-S NIKKOR 35mm f/1.8G ED」で参加した。

本誌:鈴木誠