イベントレポート

タムロン主催「鉄道写真トークショー 広田尚敬×矢野直美×板見浩史」が開催

鉄道博物館に100名の鉄道写真ファンが集う

タムロン主催「鉄道写真トークショー 広田尚敬×矢野直美×板見浩史」が開催

株式会社タムロンは10月11日、埼玉県さいたま市の鉄道博物館内で「タムロン鉄道風景コンテスト 第10回開催記念 鉄道写真トークショー 広田尚敬×矢野直美×板見浩史」を開催した。

タムロン主催「鉄道写真トークショー 広田尚敬×矢野直美×板見浩史」が開催 鉄道博物館。転車台の機関車に、開館10周年記念のヘッドマークが付いていた
鉄道博物館。転車台の機関車に、開館10周年記念のヘッドマークが付いていた

タムロン鉄道風景コンテストの過去10年分の作品を振り返りながら、鉄道写真の魅力を語るイベント。同コンテストの審査員である写真家の広田尚敬さんとフォトライターの矢野直美さんを迎え、フォトエディターの板見浩史さんが司会進行を務めた。8月末までに応募した参加希望者の中から、抽選で100名が招待された。

タムロン主催「鉄道写真トークショー 広田尚敬×矢野直美×板見浩史」が開催 参加記念の硬券。しっかり日付も打刻されている
参加記念の硬券。しっかり日付も打刻されている

同コンテストの10年を振り返って「応募作品が毎回バラエティに富んでいて、僕らが引っ張られる感じがある」と印象を語った広田さん。「今年は応募総数が5,809点。"ゴハチ(C58型蒸気機関車)の9番"だね」と、会場に集まった鉄道ファン向けの語呂合わせを披露した。

タムロン鉄道風景コンテストは、広田尚敬さんと矢野直美さんが第1回から第10回まで、一貫して審査員を務めている。一般的なフォトコンテストでは審査員が1人ずつ寸評を述べるが、このコンテストでは2人が掛け合いのように振り返るのがスタイルとなった。筆者は第3回から毎年取材しているが、この和やかな進行が変わったことはない。

タムロン主催「鉄道写真トークショー 広田尚敬×矢野直美×板見浩史」が開催 同日開催された表彰式にて
同日開催された表彰式にて

トークショーは第1回「一般の部」の大賞作品からスタート。京都駅の0番ホームを撮影した作品を、人物の配置、パンタグラフの入り具合、奥の線路の見え方、この車両はどこへ向かうのかなど、以降の作品も写真的・鉄道的に様々な視点で振り返った。

タムロン主催「鉄道写真トークショー 広田尚敬×矢野直美×板見浩史」が開催 踏切の向こうまで見えることで「構図というより構成力がある」と評価
踏切の向こうまで見えることで「構図というより構成力がある」と評価
タムロン主催「鉄道写真トークショー 広田尚敬×矢野直美×板見浩史」が開催 親亀・子亀のようなワンシーン。「お父さんの撮った作品がどうなったか気になる」
親亀・子亀のようなワンシーン。「お父さんの撮った作品がどうなったか気になる」
タムロン主催「鉄道写真トークショー 広田尚敬×矢野直美×板見浩史」が開催 「車両写真賞」から、編成写真の王道といえる1枚。車体を遮るものがなく、架線などの影も落ちず、床下装置まで見える光線状態など、写真自体の風格も高く評価された
「車両写真賞」から、編成写真の王道といえる1枚。車体を遮るものがなく、架線などの影も落ちず、床下装置まで見える光線状態など、写真自体の風格も高く評価された
タムロン主催「鉄道写真トークショー 広田尚敬×矢野直美×板見浩史」が開催 立ち入り可能な廃線跡(←これ重要)で撮られた1枚。ローアングルを極めると大きな味方になり、逆光は写真をより印象深くできるとコメント
立ち入り可能な廃線跡(←これ重要)で撮られた1枚。ローアングルを極めると大きな味方になり、逆光は写真をより印象深くできるとコメント
タムロン主催「鉄道写真トークショー 広田尚敬×矢野直美×板見浩史」が開催 最新の受賞作から。「同じ構成でも、被写体が左にいるか右にいるかで物語が変わる。舞台でもそう。主役は常に客席から向かって右側の上手(かみて)から出てくる」と広田さんが解説
最新の受賞作から。「同じ構成でも、被写体が左にいるか右にいるかで物語が変わる。舞台でもそう。主役は常に客席から向かって右側の上手(かみて)から出てくる」と広田さんが解説
タムロン主催「鉄道写真トークショー 広田尚敬×矢野直美×板見浩史」が開催 トークショーに出席していた受賞者から、1時間で撮影した200枚を合成したと解説があった。鉄橋のラインと星の斜めのラインを意識して、カメラを向ける方角を決めたという。
トークショーに出席していた受賞者から、1時間で撮影した200枚を合成したと解説があった。鉄橋のラインと星の斜めのラインを意識して、カメラを向ける方角を決めたという。
タムロン主催「鉄道写真トークショー 広田尚敬×矢野直美×板見浩史」が開催 桜や新緑のやわらかさが感じられ、「廃線の表現にもいろいろあるが、 明るく優しい作品」と評価。
桜や新緑のやわらかさが感じられ、「廃線の表現にもいろいろあるが、 明るく優しい作品」と評価。

審査員の作品も披露

トークショーの後半では、審査員の両氏によるベストショットが紹介された。

タムロン主催「鉄道写真トークショー 広田尚敬×矢野直美×板見浩史」が開催 矢野直美さんの作品。駅弁を売った後、列車の峠越えを待って見送ってくれている様子をとっさに撮影した。「見ず知らずの人が手を振ってくれる職業は、鉄道の運転士ぐらいかもしれない」
矢野直美さんの作品。駅弁を売った後、列車の峠越えを待って見送ってくれている様子をとっさに撮影した。「見ず知らずの人が手を振ってくれる職業は、鉄道の運転士ぐらいかもしれない」
タムロン主催「鉄道写真トークショー 広田尚敬×矢野直美×板見浩史」が開催 こちらも矢野さんの作品。カメラ1台だけを提げて移動中に撮影した。「カメラの高さがいい。これより高いと奥が見えすぎてしまう」と広田さん
こちらも矢野さんの作品。カメラ1台だけを提げて移動中に撮影した。「カメラの高さがいい。これより高いと奥が見えすぎてしまう」と広田さん
タムロン主催「鉄道写真トークショー 広田尚敬×矢野直美×板見浩史」が開催 広田尚敬さんの作品。キヤノンF-1に400mm F5.6のレンズで撮影。「一度モータードライブを借りて使ってみたが、寒さで動かなくなり撮影できなかった」と経験談を語った。そのため、この作品も含めてフィルムカメラでは一貫して「現場に行って、その状況をいただく」という一発勝負の撮影を続けているという。
広田尚敬さんの作品。キヤノンF-1に400mm F5.6のレンズで撮影。「一度モータードライブを借りて使ってみたが、寒さで動かなくなり撮影できなかった」と経験談を語った。そのため、この作品も含めてフィルムカメラでは一貫して「現場に行って、その状況をいただく」という一発勝負の撮影を続けているという。
タムロン主催「鉄道写真トークショー 広田尚敬×矢野直美×板見浩史」が開催 こちらも広田さんの作品。雪が残る東六線の停留所を、塩狩から夜を通して歩き、一番列車より前に撮った。線路のところだけかすかに雪が盛り上がっている。F1.4のワイドレンズを開放で使い、シャッター速度は1/15前後。「ブレてもいい。臨場感があるし、やわらかくなる」と解説。感度が低かったフィルム時代の撮影データは忘れないそうだ。
こちらも広田さんの作品。雪が残る東六線の停留所を、塩狩から夜を通して歩き、一番列車より前に撮った。線路のところだけかすかに雪が盛り上がっている。F1.4のワイドレンズを開放で使い、シャッター速度は1/15前後。「ブレてもいい。臨場感があるし、やわらかくなる」と解説。感度が低かったフィルム時代の撮影データは忘れないそうだ。

「列車で行って、歩く」が広田さんの主な撮影スタイル。車窓から見た景色を求めて戻るのでなく、列車を降りてさらに前へ進むことが多いのだとか。「歩くといい写真が撮れる」と広田さんが語るのは、地面に接地して目線が低く、いろんなものが見えてくるというのがその理由。撮影に出る際には「今日は反射望遠の500mmだけでいこう」などと決め、出かけた先で標準レンズが使いたくなったとしても、その気持ちは無視するのだという。

矢野さんは鉄道写真を「知らない者どうしがレールで繋がったり、幸せを運んでくれるもの」と表現。「自分がいいと思ったものが一番伝わる。気持ちが乗っているものは誰にも伝わると思う」と述べ、広田さんも強く同意。加えて「コンテストには自分が気に入った作品を出すのがいいと思う。現場に行ったら頭をカラにして、現場の良さをつかまえるようにすると、いい写真が撮れます」と広田さんがアドバイスし、イベントを締めくくった。

タムロン主催「鉄道写真トークショー 広田尚敬×矢野直美×板見浩史」が開催 トークショー終演後は、広田さんと矢野さんが記念品の切符にハサミを入れてお見送り。それぞれ鋏痕が異なり、両方に並ぶファンもいた。
トークショー終演後は、広田さんと矢野さんが記念品の切符にハサミを入れてお見送り。それぞれ鋏痕が異なり、両方に並ぶファンもいた。

本誌:鈴木誠