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ドイツ本社の「ライカI」100周年記念イベントで見たもの(カメラ編)
ライツ アナスチグマット復刻、10億円になった試作ライカなど
2025年7月2日 07:00
6月25日(水)から27日(金)にかけ、ライカ本社のあるドイツ・ウェッツラーで「ライカI」誕生100周年を記念したイベントが開催。プレスとして参加し、現地で見聞きしたことを数回に分けてお伝えする。
ライカ本社では毎年、写真賞「ライカ・オスカー・バルナックアワード」の授賞式を中心としたイベントを10月に開催。世界各国から200人ほどの顧客、写真家、プレスが集まる。しかし今回は100周年記念という特別なタイミングで、集まったのは800人とも1,000人とも聞く。当然ウェッツラーの街中にあるホテルだけでは賄えず、ブラウンフェルズやギーセンといった周辺地域にまで溢れる賑わい。移動用バスの緻密なスケジューリングも相まって滞りなく運営されたが、カタールの空域閉鎖の影響でドイツに辿り着けない人がいるとの話も聞こえてきた。
発売100周年の「ライカI」と、そのレンズを復刻した「ライカM11-D」限定モデル
100周年の起点は、1925年にライカとして初めて量産した35mmカメラ「ライカI」の発売。大きなガラス乾板カメラが主流で、極小の35mmフィルムを使うようなカメラは画質的にオモチャと見られていた時代に、小型かつ堅牢、高性能な撮影レンズと失敗しにくい簡便操作を実現。報道写真やルポルタージュの分野で世界に広まった。
そんな「ライカI」の量産1号機「No.126」が、ライカカメラ社のコレクションに加わった。ライカのシリアル番号は基本的に時系列のため、年代が特定しやすい。「No.126」が最初にブラジル・サンパウロへ出荷された個体だという情報も、資料室に保管されている出荷台帳で容易に確認できたのだろう。
そして、既報の通り100周年を記念した特別限定モデルが登場した。概要情報は以下の記事を参照していただくとして、その中から「ライカM11-D "100 YEARS OF LEICA"」の外観を紹介する。
背面モニターのないカラー撮影機「ライカM11-D」がベース。初期のライカがブラックペイントとニッケルメッキを施した外装を持っていたことから、本機でもグロッシーブラックのペイントとニッケル仕上げを組み合わせている。その後の時代に登場したシルバークロームと異なり、少し黄みがかった色合いがニッケル仕上げの特徴だ。
目を引くのはシャッターボタン周りだろう。ボタンの形状は“マッシュルーム”と呼ばれる当時らしいもので、その台座部分が盛り上がっている点、Ernst Leitz Wetzlarと記載された点も含め、「ライカI」の造形に倣っている。電源スイッチはシャッターボタンと同軸リング部分だ。各部に施された綾目ローレット(英語では“クロス・ナーリング”と言うそうだ)は、初期ライカのレンズ鏡筒や巻き上げノブに見られるディテールに由来している。
付属レンズは2本。1本は、現代のライカレンズの代表だという「ズミルックスM 1.4/50mm ASPH.」。カメラボディのカラーやディテールにマッチした仕上げになっている。最短撮影距離45cmの最新バージョンがベースのようだ。
もう1本のレンズがすごい。ずばり「Leitz Anastigmat-M f3.5/50mm」と命名された、ライカIの搭載レンズがモチーフになった新レンズである。レンズ構成などの詳細は不明だが、沈胴式を継承しつつMマウント化された。外装はアルミ外装にニッケルカラーのアノダイズド処理。このレンズのために記念セットが欲しい!という声も多く聞かれた。
発売は2026年春、限定数は世界で100セット。カメラボディとレンズ2本がグロッシーブラックの木製ケースに収まる。
なお、本限定モデルは101セット生産されるという。その差分の1台は、1954年から数えて生産100万台目のM型ライカであり、1925年から数えて600万台目のライカでもある。これはライカカメラ社を率いて20年となるアンドレアス・カウフマン博士の家族に贈られ、今後チャリティ・オークションに出品される見込み。
目の前で10億円が動いた
もう1つのイベントのハイライトに、ライカ100周年を記念した「第46回ライツ・フォトグラフィカ・オークション」があった。目玉は「ライカI」の量産開始に先駆けて少数製造された1台、「No.112」だ。“ヌル・ライカ”や“0-Series”とも呼ばれる過渡期のプロトタイプである。
このオークションには、電話、Web、会場から入札可能。入札価格が大台に乗るごとに会場は沸き、筆者のような野次馬も含む全員が“その瞬間”を見守る。
結果、「No.112」は600万ユーロ(約10億円)で落札された。実際の落札金額はバイヤーズ・プレミアムの20%を加えた720万ユーロとなる。途方もない金額だが、「ワールドレコードには届かなかった」(※2022年にライカ試作機が約20億円で落札)と見る冷静な関係者も。すごい世界だ。
貴重なライカのプロトタイプに遭遇
イベントの合間に、ライカ本社の資料室を見学するツアーも組まれた。新しいところでは、「ライカM for (RED)」の複数のプロトタイプがお目見え。「No.112」のヌル・ライカに限らず、プロトタイプと聞けば時代を問わずワクワクする。
本機は「ライカM(Typ240)」がベースで、プロダクトデザイナーのジョナサン・アイブとマーク・ニューソンが手がけ、1台だけがチャリティ・オークションに出品された。2012年のフォトキナで、社主のアンドレアス・カウフマン氏が本プロジェクトについて口頭だけで話し、約1年後に突如としてデザインが公開されたのを記憶している。