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2024年度ライカ・オスカー・バルナックアワードの受賞者が決定。ドイツで授賞式
2024年10月24日 12:30
ライカ・オスカー・バルナックアワード(LOBA)とは
1980年に初回が行われ、今年で44回目を迎えた写真コンテスト。短く“LOBA”(ローバ)と呼び親しまれる。現在は「一般部門」と「新人部門」の2つがあり、世界50か国・80名以上の推薦人が候補作家を選出。そこから5名の審査員による2回の審査を経て受賞者が決まる。
今回の審査員は次の通り(引用。敬称略)
- ディミトリ・ベック(フランス)
ポルカ(雑誌、ギャラリー、コンセプトストア) 写真部長 - ペール・ギュルヴィ(アメリカ)
国際写真センター(ICP、ニューヨーク市) 教育部門長 - シリル・ヤズベック(スロベニア)
写真家(2013年度ライカ・オスカー・バルナック・ニューカマーアワード受賞者) - アメリー・シュナイダー(ドイツ)
『ディー・ツァイト』紙 写真編集部長 - カリン・レーン=カウフマン(オーストリア)
ライカギャラリー・インターナショナル代表兼アートディレクター
賞の名前にあるオスカー・バルナック(1879〜1936年)とは、1925年に初号機が発売された「ライカ」を考案した人物。1910年頃、機材一式で18kgもあったという13×18cmの木製乾板カメラで撮影を楽しむ傍ら、映画用の35mmロールフィルムを写真撮影に流用するアイデアを基にカメラを小型精密化。小さいフィルムに撮影した画像を大きく引き伸ばして鑑賞するスタイルをとり、その当時に実用的画質を得られるとバルナックが判断した“映画の2コマ分=24×36mm”のサイズは、現在も“35mm判”として親しまれている。なお、LOBAが設立された1979年はバルナック生誕100年の節目だったという。
一般部門(ライカ・オスカー・バルナックアワード)
受賞者は、イタリア生まれで現在スイスに拠点を置く写真家のダビデ・モンテレオネ氏。約250名の候補者の中から選ばれたという。賞金4万ユーロと1万ユーロ相当のライカカメラ製品が贈られる。
受賞作の「Critical Minerals – Geography of Energy」は、再生可能エネルギーへの転換が進むエネルギー業界にまつわる問題点を指摘する長期プロジェクト。銅、リチウム、コバルトの採掘を例として、その影響を浮き彫りにしている。
LOBAが栄えある賞であるのは誰もが認めるところです。歴代受賞者も錚々たる顔ぶれで、そこに私自身も名を連ねることになり光栄です。また、受賞によってこのプロジェクトとそのストーリーが注目を集める機会を与えられて、感慨深く思います。由々しき事態を浮き彫りにしたこのプロジェクトが多くの人の目に触れることになるのは喜ばしいことです。グリーンエネルギーへの転換と資源の公平な分配は重要な問題です。それゆえ、どのようなかたちであってもこのプロジェクトが広く世間に発信されるのは嬉しい限りです。
ダビデ・モンテレオネ氏 受賞コメント(引用)
新人部門(ライカ・オスカー・バルナック・ニューカマーアワード)
30歳未満の若手写真家を対象とする部門。モルドバの写真家マリア・グツ氏が選ばれた。賞金1万ユーロと「ライカQ3」が贈られる。
受賞作は、作者自身の過去のストーリーである「Homeland」。モルドバでは経済的な理由から子どもを残して国外へ出稼ぎに出る親が多く、作者の両親も同様で、祖父母に育てられたという。ポートレートを中心に「ルーツとは何か、故郷とは何か」という探求を綴った作品。
私はモルドバ国内の村々をよく巡ります。穏やかな雰囲気の場所や人々の中に身を置くと、その土地や動物たちと結びついた質素で無理のない生活様式に刺激を受けます。この作品で撮影した子どもやティーンエイジャーには、自分自身の姿を重ね合わせています。親が出稼ぎに出ていったという同じ境遇を実際に体験しているからです。作品としては、家族や過去、そして生活そのものに対する郷愁や思慕の念が浮かんでくるものに仕上がっています。
マリア・グツ氏 受賞コメント
受賞作家2名にインタビュー
——この度は受賞おめでとうございます。お二人はどのようにして「写真」という表現媒体を選びましたか?
ダビデ・モンテレオネ氏: 人類最初の表現は壁画であり、つまり文字ではなくイメージでした。昔からストーリーテラーになりたいと思っていましたが、イメージは文章よりもシンプルで効率がいいと思います。また、現代においてはイメージこそが最も伝わりやすい表現だと証明されています。
マリア・グツ氏: 元々はカメラを持っておらず、コラージュで作品を作っていました。きっかけは首都キシナウにあるAcademy of Music, Theatre and Fine Artsという学校に通っていたときに取り組んだ「ある村をグループで訪れて撮影する」というプロジェクトです。その時はあまり好きではありませんでしたが、後に一人でその村に戻ってみたところ、“個人対個人”、“個人対サブジェクト”というアプローチに魅力を感じ、自分を見出しました。
——カメラ専門誌の取材なのであえて伺いたいのですが、今回の作品はどのようなカメラで撮影しましたか?
マリア・グツ氏: 私にとって最初のカメラで、ボーイフレンドにもらった6×6判のマミヤC220です。モノクロで撮る理由はカラーフィルムが高いから……というのもありますが、モノクロ写真やサイレント映画が好きだからです。あと、モノクロのラボもあるからです。
ダビデ・モンテレオネ氏: 風景写真家のように構図をコントロールしたいので、デジタルバックを組み合わせたテクニカルカメラを三脚にセットして撮影しました。一部ではドローンと、それに内蔵されたDJIのカメラを使っています。8枚の画像をスティッチしたり、単純に4〜5mの高さがある大きな三脚のようにもドローンを使いました。
ライカ・ホール・オブ・フェイム・アワード
2011年に創設された、偉大な写真家に授与される賞。2023年にはエリオット・アーウィットが殿堂入りした。
2024年に選ばれたヘアリンデ・ケルブル氏は、50年のキャリアを持つドイツの写真家。ファッションを学んだあと写真に出会い、雑誌を中心に活動をスタート。以来多くの写真集を出版し、1980年の『Das Deutsche Wohnzimmer』(ドイツのリビングルーム)や、アンゲラ・メルケル前ドイツ首相のポートレートを毎年撮影した『Traces of Power – Angela Merkel 1991–2021』などで知られ、多くの写真賞のみならずドイツ連邦共和国功労勲章(2009年)やバイエルン功労勲章(2013年)も受けている。
また、その年に殿堂入りしたフォトグラファーの作品に授与する「ライカ・ピクチャー・オブ・ザ・イヤー」は、ヘアリンデ・ケルブル氏のシリーズ『Metamorphoses』から、花が枯れていく過程の中で「儚いことの美しさ」を捉えた作品を選出。限定プリントを各国のライカギャラリーで販売する。
選ばれた作品について「(ポートレートで有名なあなたが)なぜ花を撮るようになりましたか?」と問われたケルブル氏は、当初は静物に退屈なイメージを持っていて興味がなかったものの、花の色が変化していく様子が美しいと感じ、撮影するようになったと答えていた。