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Adobe MAX 2020で示される各アプリの進化点

AI技術の“年齢スライダー”など 写真関連のトピックを整理

アドビのクリエイター向けイベント「Adobe MAX 2020」がはじまった。本日より3日間(10月21日〜10月23日:米国時間10月20日~22日)、オンライン形式での開催となる。

PhotoshopやLightroom、Illustrator、Premiere Proなど、同社のクリエイティブ系アプリケーションの最新情報や、クリエイター発信の制作技術などを学ぶことができるイベント。日本でも「Adobe MAX Japan」という名称で、例年リアルイベントとして実施されてきたが、今年は新型コロナウィルスの世界的な感染拡大の状況を鑑みてオンラインでの開催となった。

また、今回はじめてオンラインでの開催とするにあたって、参加費が無料に。また海外で実施されるセッションについても、オンライン開催の強みをいかして、翻訳等が入るため、これまでハードルとなっていた言語の違いを超えて、新しい情報や技術に触れやすくなった点もポイントだとしている。

以下、今回のテーマにふれながら、写真および映像関連アプリケーションの機能アップデートのポイントを軸に注目点をお伝えしていきたい。

アップデートポイント:Photoshop(デスクトップ版)

デスクトップ版Photoshopのバージョンは22となる(現在の最新バージョンは21.2.4)。アップデートポイントは大きく分けて3つ。すでにアップデートの提供もはじまっている。

まず一つ目。これは既に報じられている内容だが、「空の置き換え」機能の実装だ。画像処理・現像ソフトではSkylumの「Luminar 4」で広く知られた機能だが、Photoshopにもこのほど実装される。

単純に選択範囲としての空を置き換えるというものではなく、風景の色味も置き換えた空にあわせて自動で調整されるという。

二つ目は「パターンプレビュー」だ。ある模様をパターン生成する、というもので、写真加工というよりはデザイン寄りの機能。テキスタイル系のパターンをIllustratorを使用せずに画像としてつくることができる点がユニークなポイントだろう。

三つ目は「ニューラルフィルター」。その名のとおりAdobe Senseiをいかした同社のAI技術を利用した機能で、肌の補正やできもの等の修正をサポートしてくれるというもの。

ほかにも、画家のタッチを模した効果を与える機能もある。ゴッホやマティス、ドガ、北斎のイメージが並んでいることが見て取れる。これら効果フィルターも順次追加していく予定だという。

また人物の表情に感情表現を与えたり、年齢による効果を反映したりといった表現も可能に。ベータ状態の機能も積極的に実装していくとしており、実際に多くのユーザーに使ってもらうことを通じて、ブラッシュアップを随時進めていく構想なのだという。

効果機能の部分に「ベータ」という表示がある。ユーザーからのフィードバックをもとに、進化と強化を図っていくという
年齢スライダーを調整した状態
年齢スライダーと髪の量スライダーを調整した状態

プリセットの同期も盛り込まれる。ブラシやスウォッチ、グラデーション、パターンなどが同期するため、使用デバイスの垣根をこえてシームレスな作業環境が得られるという。

アップデートポイント:Photoshop(iPad版)

iPad版のPhotoshopは、バージョン2となる。アップデートポイントは3つ。

一つ目は、画像サイズの編集機能。目的とする出力にあわせてPSDファイルのサイズや解像度、サンプリングを変更できるというもの。デスクトップ版ではおなじみのものだが、ついにiPad版にも実装。編集だけでなく出力環境も整ってきた。

二つ目は、Behanceからの検索機能。他のユーザーのアートワークやプロジェクト、ライブストリームを表示できるというもの。

三つ目は、作品のライブストリーム公開機能だ。Behanceからの検索と関連して、Behanceコミュニティ上でワークフローなどを共有できるようになる。6月時点でFrescoに実装されていた。

アップデートポイント:Lightroom Classic

新しいバージョンは10.0となる。盛り込まれている新機能は、大きく3点。

一つ目は、カラーグレーディング。ハイライト、シャドー、ミッドトーンの調整ができるようになるというもの。これは10月21日にもリリース予定となっている。

二つ目は、カスタムカラー。カラーピッカーを利用して、Lightroom Classic以外からカスタムカラーの選択ができるようになるというもの。

三つ目は「ライブテザー」への対応。現状はキヤノン製カメラのみの対応としているが、テザー撮影関連の新機能として予定されている。

このほかにも、調整ブラシやGPUパフォーマンスの改善などが含まれる見通しとなっている。

アップデートポイント:Lightroom(デスクトップ・モバイル版)

Lightroomのアップデートポイントは、9月29日に先行して動画で紹介されているように、「カラーグレーディング」の実装があげられる。これは、ハイライトとシャドウに加え、中間調の色も調整できるようにしたというもので、より精度の高い色調変更が可能になるとしている。

モバイル版の操作画面

このほか“学び”に関する強化ポイントも。「見つける」機能というもので、ライブラリ上に投稿されている写真データのうち、気に入った写真でどのような調整が施されているのかを作業内容を追いかけて確認できるというもの。調整内容はプリセットとしても保存できるようになるという。

風景写真家・木村琢磨さんの作品からの例

新ワークフローにクラウドを積極活用する「編集に招待」

新型コロナウィルスが猛威をふるい、未だ収束に向かう気配が見えない状況下にあって、感染の拡大防止の観点から出社せずにオンラインで業務を進める、リモートワークによる働き方が大きく進展した。

一つのワークスペースに集まって業務を進行しないスタイルの普及は、キヤノンがいちはやく自社デジタルカメラをオンライン会議用のWebカメラに転用するアプリを提供し、他社も追従。今回の新型コロナウィルスは、世の中の働き方そのものに変化を与えたのみならず、カメラ製品にとっても、それをWebカメラとして利用するニーズを生み、高画質なライブ配信の一般化という流れを生んだ。もちろん、カメラを用いた映像配信はYouTubeなどでも利用されていたが、そうしたニーズとは別に、日常業務やプライベートな映像通信での利用が促進された点が大きな違いだといえる。

デザイン業務などクリエイターの仕事を支えるソリューションを提供しているアドビにとっても、これは同様のことで、チームでデザインワークに携わる人々や、オンラインでのやりとりを主体とした、これからの業務フローの構築、また普及に向けてのアップデートや提案が、今回のAdobe MAXにおける大きなテーマだという。

こうしたワークフローに対するAdobeの提案が、「編集に招待」機能の拡充だ。対応するアプリは、Photoshop(デスクトップおよびiPad版)とFresco。

Adobe MAX 2020の後でリリースを予定しているという機能で、チームでの編集状況の共有化が図れるだけでなく、クライアントなど、“その案件に携わっている人々全体で状況や編集の共有化が可能になる”というもの。編集履歴を遡ることも可能となっているため、あるデザインワークについて、編集前のものをもう一度見たいといったニーズがあった場合も、前のデータを探すことなく、即座に巻き戻して共有することができる点などをポイントにしている。

時勢にあわせたアプリ活用のポイントや提案といった趣きだが、ネットワークをさらにいかしたアプリ間の相互連携強化も今回のAdobe Maxの注目点だろう。5G通信もはじまり、インフラの整備も進みつつある今、クリエイティブワークの最前線が垣間見られる3日間となりそうだ。

本誌:宮澤孝周