オリンパスZUIKOレンズ 写真家インタビュー
遥かな歴史や文化に敬意をもってシャッターを切る…高橋智史さん
M.ZUIKO DIGITAL ED 12-200mm F3.5-6.3
2020年3月19日 17:00
オリンパスのZUIKOレンズを使う写真家に、作品表現でのポイントや使い勝手をお聞きしていく本企画。
今回は写真家の高橋智史さんに、写真を撮るとき気をつけていることや、撮影機材で重視していることなどを聞きました。レンズ「M.ZUIKO DIGITAL ED 12-200mm F3.5-6.3」と「M.ZUIKO DIGITAL ED 17mm F1.2 PRO」で撮影された作品も紹介します。
高橋智史
TAKAHASHI SATOSHI
フォトジャーナリスト。1981年秋田県生まれ。日本大学芸術学部写真学科卒。大学在学中よりカンボジアを中心に東南アジアの社会問題の取材を開始。2007年から2018年までカンボジアの首都プノンペンに在住し、社会問題、生活、歴史、文化を集中的に取材。近年は、同国の人権問題に焦点を当て、取材活動を続けている。主な受賞に2014年「名取洋之助写真賞」、2016年「三木淳賞奨励賞」、2019年「土門拳賞」。著作に写真集『湖上の命』(窓社)、フォトルポルタージュ『素顔のカンボジア』(秋田魁新報社)、写真集『RESISTANCE カンボジア 屈せざる人々の願い』(秋田魁新報社)。
現在、どのような作品を撮られていますか?
一党独裁体制下の圧政、弾圧と闘うカンボジアの人々を中心に、同国の人権問題や生活、歴史、文化を継続的に取材しています。
高橋さんにとって秋田の魅力とは?
私の故郷である秋田県は「秋田竿燈まつり」や、ユネスコ無形文化遺産にも登録された「男鹿のナマハゲ」など、国指定重要無形民俗文化財が全国最多を数えます。その数は17件にのぼり、古来より受け継がれてきた民俗文化の宝庫と言われています。
また、世界自然遺産に登録されている「白神山地」や日本一の深さを誇る「田沢湖」などの景勝地も多く、写真家を惹きつける魅力がとても多い場所だと思います。今まで海外の現場を主に取材してきましたが、秋田で脈々と受け継がれてきた伝統の息吹も、カンボジアでの取材と併行して今後は見つめていきたいと感じています。
今回の撮影行で特に印象に残ったシーンはありますか?
今回の撮影は、故郷をじっくり見つめることができたとても貴重な時間でした。撮影は夏、秋、冬と季節をずらして、秋田県内の各地を訪問しました。
秋田の短い夏の夜を、熱く美しく彩る「秋田竿燈まつり」は「光の稲穂」と形容され、私の心に故郷を呼び起こしてくれる大切な情景のひとつです。心の奥底まで響き、郷愁を感じるお囃子の音。無数に重なるその音に包まれながら、稲穂に見立てた12mにわたる竿燈を演技者たちが熟練の技を駆使し、額、肩、腰で空中に上げ、五穀豊穣を祈ります。
沿道から沸き上がる声援、屋台から立ち上る料理の香りも、すべてが渾然一体となり歴史の空間をつくりあげていきます。
撮影で用いたレンズは、小型軽量で取り回しのいいM.ZUIKO DIGITAL ED 12-200mm F3.5-6.3とM.ZUIKO DIGITAL ED 17mm F1.2 PROの2本です。機動力の高い機材をいかして、演技者に随伴させて頂きながら撮影しています。複数の機材を用いていますが、重さが気になるようなことはなく、撮影に集中することができました。
また、冬の凍てつく寒さの中で撮影した伝統行事「なまはげ柴灯まつり」の撮影当日は、重たい雪が降り続き、レンズもボディも雪でずぶ濡れになるような状況でしたが機材は問題なく作動し、ナマハゲの躍動をシャープに捉えることができました。オリンパスの強みである耐久性、防塵防滴設計の恩恵を感じた撮影でした。
撮影時に心がけていることはありますか?
カンボジアでの取材も、今回の秋田での取材もそうですが、取材に赴く前の事前準備をとても大切にしています。取材をさせていただく方の人生に真摯に心を寄せ、取材に赴く場所の歴史的背景、込められた願いをしっかりと学び、敬意をもって撮影に臨むように心がけています。そのうえで現場に立ち、シャッターを切るようにしています。
お気に入りの撮影場所はありますか? 今回の撮影行を通じて発見されたオススメスポットなどもありましたら教えてください。
前述したように秋田県は写真家にとって魅力的な場所がたくさんありますが、私のオススメは「男鹿半島」です。男鹿半島は三方を日本海に囲まれた風光明媚な場所ですが、秋田県の民俗文化の象徴として語られることも多い「男鹿のナマハゲ」や、1万体以上の地蔵菩薩が安置されている「真山の万体仏」、修験者の霊場として信仰を集めてきた「男鹿三山」など、古来より受け継がれてきた伝統や信仰が今も息づいてる場所です。
また、男鹿半島の海岸沿いは風化や波による浸食で様々な奇岩が連なり、独特の景観を形作る秋田県屈指の観光地、撮影地になっています。そして、「マール」と呼ばれる火山湖も男鹿半島にはあり、学術的にも貴重な場所と考えられています。秋田県を訪れた際は、ぜひ男鹿半島に足を運んで頂き、心惹かれる場所でシャッターを切ってみてください。
交換レンズに求める性能とは?
防塵・防滴、耐久性、小型軽量の3点です。
私の主たる取材現場であるカンボジアは、5月から10月までが雨季、11月から4月までが乾季となります。雨季には道路が冠水するほどの激しいスコールが突如降り注ぎ、乾季には、特に地方での取材の際は、視界が遮られるほどの砂塵が舞うことがあります。また、ニュースの最前線となる現場では、他の写真家たちと機材がぶつかり合うような押し合いへし合いの中での撮影となることもあります。
デモの現場では、40度近い炎天下の中で、何時間もデモ隊の行進に徒歩で同行することもあります。そして、撮影をさせていただく人々の心に、威圧感を与えないことも重要です。そのような取材環境の中で、防塵・防滴、耐久性、小型軽量の3点を、私は交換レンズの性能に求めたいと考えています。
M.ZUIKO DIGITAL ED 12-200mm F3.5-6.3の使用感や描写について、ご感想をお聞かせください。
M.ZUIKO DIGITAL ED 12-200mm F3.5-6.3は、今回の撮影行で初めて使用したレンズです。35mm判換算で広角24mmから超望遠400mmまでをカバーする高倍率ズームレンズですが、当初は「画質は大丈夫なのだろうか?」という不安が正直ありました。
ですが、その不安は杞憂に過ぎないと分かって来ました。特に広角側での撮影は、高倍率ズームレンズとは思えない解像力を実感することが何度もありました。
国指定重要文化財である「赤神神社 五社堂」を撮影した際も、神社の細かいディテールまで鮮明に写し出す描写力に驚かされました。
望遠側も、1本で400mmまでをカバーできることを考えると、十分過ぎるほどの描写力を持っており、新世代の高倍率ズームの魅力を余すことなく実感できるレンズだと思います。そして何より、重さが455gなので、OM-D EM1 Mark IIとの組み合わせでも約1kgと軽量で、重さを気にせず絵づくりに集中でき、旅にも最適なレンズだと感じました。また、広角端で最短撮影距離22cmの優れた近接能力で、ボケをいかし、伝えたい被写体を強調した幅広い撮影を楽しめる正に万能レンズだと思います。
今回はM.ZUIKO DIGITAL ED 17mm F1.2 PROも同時に携行されています。使い分けのポイントやコツは、どのような点にありますか?
M.ZUIKO DIGITAL ED 17mm F1.2 PROは、大好きなレンズです。35mm判換算で34mm相当となる画角はスナップやドキュメンタリーにも最適で、F1.2の明るさは、夜の撮影や薄暗い環境でも強い味方となります。また、美しいボケ味と高い解像力を兼ね備え、なおかつ小型軽量で頑強な作りは過酷な現場での撮影において安心感を得られます。
今回の撮影においても、光量が足りない場所や、背景のボケを強調し、主題をより引き立たせしたいときは積極的にその利点を活用し、M.ZUIKO DIGITAL ED 17mm F1.2 PROを使用するようにしました。
OM-D E-M1XやOM-D E-M1 Mark IIとの組み合わせでも取り回しが非常に良く、F1.2の明るさと強力な手ブレ補正を組み合わせれば、ISO感度を上げることなく撮影に臨むことができます。
秋田の撮影では、上記2台のボディを使用し、M.ZUIKO DIGITAL ED 12-200mm F3.5-6.3とM.ZUIKO DIGITAL ED 17mm F1.2 PROをそれぞれにつけて取材に臨みました。この2つの組み合わせから、表現したい内容・目的に応じてどちらが適切かを現場で考え、瞬時に対応できるように心がけました。
防塵・防滴で小型軽量を突き詰めたこの2つのレンズの組み合わせがあれば、あらゆる状況を写しとめることができると感じています。
オリンパスのカメラで気に入っている機能は?
「交換レンズに求める性能とは?」でもお答えしていますが、私がカメラに求める最優先事項は耐久性です。カメラが現場で正常に動作せず、二度とない瞬間を逃すことほど悔やまれることはありません。オリンパスのカメラは、雨にも砂塵にも耐える防塵・防滴の頑強なつくりで、‐10度の耐低温性能も兼ね備えています。
この点が一番気に入っている機能ですが、最近は「5,000万画素手持ちハイレゾショット」も気に入っています。記憶に残したい大切な風景、歴史的建造物を、より高解像に描写したいと度々思っていました。例えば、カンボジアのアンコール遺跡群などは世界中からの観光客で溢れ、遺跡群内は三脚での撮影が禁じられている場所も多くあります。そのような場所で、マイクロフォーサーズの強みをいかした小型軽量設計で、手持ち撮影で50M相当の画像が得られることは大きな魅力です。これからは積極的に活用し、大切な光景を撮り続けていきたいと思います。
告知があればぜひ!
近年のカンボジア取材の集大成である写真集「RESISTANCE カンボジア 屈せざる人々の願い」が重版に至り、加筆修正を加えた第2版が発刊されました。これも一重に皆様の温かい応援のおかげです。私はこれからもカンボジアを中心に、人々の届かぬ願いを見つめ、写真の力を信じ、伝え続けていきたいと思います。
第2版の写真集は下記Webサイトにて。
https://www.sakigake.jp/secure/books/
デジタルカメラマガジンにも高橋智史さんが登場!
デジタルカメラマガジン2020年4月号の連載「日本列島 ZUIKO LENSの旅」で、高橋智史さんによるM.ZUIKO DIGITAL ED 12-200mm F3.5-6.3の解説が掲載されています。
本連載は47人の写真家が47の都道府県を巡るというもの。今回、高橋さんは秋田を巡っています。ぜひ、あわせてご覧ください。
制作協力:オリンパス株式会社