カメラ用語の散歩道

第14回:受光素子と撮像素子(前編)

露出を測るセンサーあれこれ

「このデジタルカメラの受光素子は2,400万画素だから」なんて表現にときどきお目にかかることがある。賢明な読者はすぐにわかると思うが、これは誤りで、「受光素子」ではなく「撮像素子」とすべきなのだ。では「受光素子」とは? 「撮像素子」との違いは? 今回はこのあたりのお話をしてみよう。

受光素子は露出計の入力素子

「受光素子」とは入射した光の強さを電気信号に変換する素子のことで、カメラでは露出制御に用いられる入力素子のことだ。要は光センサーのことである。この言葉がカメラの技術用語として使われ始めたのは1970年代あたりのことらしい。それまでは「受光体」、「フォトセル」というような用語が使われていた。

受光素子には大別して入射光の強度に応じた電流(光電流)を発生する「光起電素子」と、入射光の強度に応じて電気抵抗値が変わる「光導電素子」とがある。露出計の受光素子としてまず実用に供したのは、光起電素子のセレン光電池であった。1930年代のことである。

セレン光電池

セレン光電池は鉄板上にセレンの膜を形成したもので、これに電極を設けると光電流を取り出すことができる(写真1)。太陽電池のようなものと考えてもよいだろう。ある程度の面積があればマイクロアンペアないしはミリアンペアオーダーの光電流が得られるので、直接電流計を振らせることができる。これが「電気露出計」として被写体の明るさを測定する用途に使われ、やがてカメラに内蔵されて露出制御に大きな役割を果たすようになった。

写真1:セレン光電池は、鉄板の上にセレンの膜を形成したもの。カメラや露出計に使うときにはこれに受光角を制限する格子やマイクロレンズのアレイを付加した。(写真は金野剛志「カメラメカニズム教室(下)」朝日ソノラマ刊より)

板状の受光面は、そのまま露出計に使うわけではなく、反射光式の場合には受光角を制限するためにプラスチック製の格子を取り付けたり、やはりプラスチック製のマイクロレンズを並べたアレイを設けたりした。カメラに内蔵した場合は、この格子やマイクロレンズのアレイがボディ前面に配置されるため目立ち、デザイン的に露出計内蔵を誇示するような形となっていたのである(写真2)。

写真2:キヤノンデミの露出計受光部。セレン光電池の場合は受光角制限のためのマイクロレンズが外観上の特徴となっていた。

CdS受光素子

続いて1960年ごろに登場したのがCdS(硫化カドミウム)である(写真3)。これは光導電素子でセレン光電池よりは各段に高感度で、受光部も小さなもので済むというのが大きな特徴だった(写真4)。その代わり自分で電気を起こすものではないので、電源電池が必要となる。といっても電圧も電流も小さなものでよいので、ボタン型の水銀電池あるいは銀電池が用いられた。正にこれがカメラに電池が内蔵される事始めであったのだ。

写真3:CdS受光素子。カメラに使われたものの多くは、このように金属製のケースに封入され、ガラス板で蓋をした形式のものだった。感度を上げる(つまり抵抗値を下げる)ために蛇行した電極のパターンが特徴になっている。
写真4:ローライ35の内蔵CdS露出計受光部。セレン光電池の派手な外観と異なり、ただの孔である。

CdSは高感度で小型ということで、一眼レフなどのTTL測光の実現に大いに役立った(写真5)。撮影レンズを通った光を測定するTTL測光では、外光を直接受けるよりは一段と暗くなるので高感度の受光素子が必要となり、またカメラボディ内の測光に適した場所に置くには、小型であることが好都合なのだ。実際、1950年代の半ばごろ、キヤノンⅣ Sbあたりのレンジファインダーカメラのシャッター幕直前に、セレン光電池をライカM5のようにかざす形式のTTLカメラが試作されたのだが、感度が悪すぎて失敗したという話を聞いたことがある。

写真5:ライツミノルタCLのTTL露出計受光部。アームの先に取り付けたCdS受光素子をシャッター幕の直前に出し入れする。セレン光電池よりも小型で高感度なので、このような測光方法が実現した。

その後CdSは長期にわたってカメラの受光素子として使われたのだが、最大の欠点は応答の遅さだった。特に比較的暗いところではメーターの指示が落ち着くのに数分もの時間がかかるのだ。また、それまでの明るさの変化に指示値が影響される履歴現象もあった。

SPD(シリコンフォトダイオード)

1970年代になって、SPD(シリコンフォトダイオード)がカメラの受光素子として使われるようになった(写真6)。SPDそのものはそれ以前から存在していたのだが、2つの理由からカメラには使われなかった。

写真6:SPD受光素子。セラミック製のパッケージに収められ、分光感度補正用ブルーフィルターを兼ねたガラス板で蓋をしている。

その1は分光感度である。SPDは赤外光に高い感度を持ち、人間の目の分光感度と同等のものが要求されるカメラの露出計用としては使いづらかったのだ。そしてその2は出力電流だ。SPDはセレン光電池と同様に光起電素子なのだが、単結晶のシリコンをから造るため大面積のものを造るのが難しい。前回、画面サイズに関連して説明したと同じ理由である。

光起電素子の光電流は受光面積に比例するので、面積が小さい分出力電流は微小なものとなる。セレン光電池はマイクロアンペア(10のマイナス6乗アンペア)からミリアンペア(10のマイナス3乗アンペア)オーダーの光電流が得られると書いたが、それは受光面が十分な面積を持ち、かつ被写体光が直接当たる外光式だからのことで、受光面のサイズが1~2mm程度のSPDの場合は光電流がピコアンペア(10のマイナス12乗アンペア)からナノアンペア(10のマイナス9乗アンペア)と文字通りケタ違いに小さな光電流しか得られない。

分光感度については半導体のプロセスの工夫と素子前面にブルーのフィルターを置くことによって対応できるようになったが、微小な光電流の方はエレクトロニクスの発達を待たなくてはならなかった。1970年代になってようやくFET(電界効果トランジスタ)を使った高入力インピーダンス、高増幅率で低電圧で動作するアンプが可能になり、SPDをカメラで使う環境が整った。最初にこの受光素子を使ったカメラはフジカST701(1970)だったが、その後一眼レフを中心に多くのカメラに採用され、高級機の受光素子の定番となっている(写真7)。

写真7:初めてSPD受光素子を採用したフジカST701(手前)

GPD(ガリウム・ヒ素・リンフォトダイオード)

SPDに類似の受光素子として、GPDというものもあり、ニコンFM(1977)やコニカFS-1(1978)などに使われた(写真8)。これはガリウム・ヒ素・リンという、赤色LEDにも使われている化合物半導体を用いたフォトダイオードで、赤外領域に感度をもたないことから分光感度補正用のブルーフィルターが不要なところが大きな特徴だ。

写真8:GPD受光素子を採用したコニカFS-1。(写真は「日本の歴史的カメラ増補改訂版」日本カメラ博物館刊より)

しかし、結局のところSPDの陰に隠れてあまり普及はしなかったようだ。SPDの場合はその出力電流を受けて増幅し、露出制御を行う回路と同じ材料と製法を使うので一緒の半導体チップに集積することができるが、GPDではそれが難しい点が大きな理由と思われる。

フォトダイオードアレイから撮像素子へ

SPDになると、半導体ICの技術を応用して、受光面をさまざまに分割してフォトダイオードアレイを形成することが可能になった。それまでの受光素子では撮影画面全体の明るさか、せいぜいでどこかの部分の明るさを1か所だけ測るものだったが、複数のフォトダイオードをアレイにすれば、画面のある領域の明るさの「分布」を測定できる。これは「明るさ」のセンサーから「画像」のセンサーへの発展を意味するのだ。

まず、オートフォーカスの分野に、このフォトダイオードアレイが使われた。市販されたカメラとして世界で初めてオートフォーカスを組み込んだコニカC35AF(1977)はハネウェルのビジトロニク・オートフォーカス(VAF)モジュールを用いているが、これには左右5素子ずつ、計10素子のフォトダイオードアレイが用いられ、2つの窓からみた被写体像の相関から被写体までの距離を測定していた(写真9、図1)。

写真9:初めて市販のカメラでオートフォーカスを実現したコニカC35AF。(写真は「日本の歴史的カメラ増補改訂版」日本カメラ博物館刊より)
図1:コニカC35AFに用いられたビジトロニク・オートフォーカス(VAF)モジュールの原理図。左右の窓から見た被写体像をそれぞれ5素子のフォトダイオードアレイa1~a5とb1~b5に結像して対応するフォトダイオードの出力の相関から被写体距離を割り出している。(図は金野剛志「カメラメカニズム教室(上)」朝日ソノラマ刊より)

つまりこの5つのフォトダイオードアレイ上に結像された被写体像がどんなものかをその出力分布から推測しているわけで、非常にプリミティブな撮像素子、つまり画像の検出センサーの役割を果たしていたと言えるのだ。逆に言えばこのようなフォトダイオードアレイが可能になったからこそ、カメラのオートフォーカスが実現できたとも言えるだろう。

このフォトダイオードアレイの個々のフォトダイオードを更に小さくし、横に並べるだけでなく、縦横二次元の面に敷き詰めたものが撮像素子ということになるのだが、そのあたりの話は次回に!

豊田堅二

(とよだけんじ)元カメラメーカー勤務。現在はカメラ雑誌などにカメラのメカニズムに関する記事を書いている。著書に「とよけん先生のカメラメカニズム講座」(日本カメラ社)、「カメラの雑学図鑑」(日本実業出版社)など。