カメラ用語の散歩道

第5回:電子シャッター(その1・銀塩カメラ編)

歯車から電子制御へ 大らかな時代の"バリアブルK"

2つの"電子シャッター"

カメラ用語は難しい。「インスタントカメラ」という言葉がある。撮影したその場でプリントが得られる、ポラロイドカメラや富士フイルムのチェキのようなカメラを指すものだが、最近では「写ルンです」のような、いわゆるレンズ付きフィルム("使い切りカメラ"とも)のことも、その手軽なイメージからか、インスタントカメラと呼ばれるケースがある。これはまあ、はっきり言って誤用だろう。なぜならレンズ付きフィルムは通常のカメラと同じように、その場でプリントを得られないからだ。と、原理を考えてみれば理解の助けになるはずだ。

しかし、今回採り上げる「電子シャッター」という用語は、ミラーレスカメラ時代にあまりにも一般化しすぎた感があるし、時を超えてダブルミーニングとなっているところに難しさがある。

銀塩カメラの時代に"電子シャッター"と呼ばれたのは、シャッター速度を電子的に制御する「電子制御シャッター」あるいは「電磁制御シャッター」のことだった。しかしミラーレスカメラ時代の現代では、被写体からの光をなにかの部品を機械的に動かして、通したりブロックしたりすること(つまり、物理的なシャッターの開閉)をせず、撮像素子の電荷の蓄積ぐあいを制御してシャッターの機能を実現する仕掛けを「電子シャッター」あるいは「エレクトロニックシャッター」と呼んでいる。

前者の電子シャッターにけっこう深くかかわった筆者としては、後者のものを電子シャッターと呼ぶのはちょっと抵抗があり、あえて「撮像素子シャッター」と呼んでいるのだが、時代的な違いがあるので誤って解釈される可能性はまずないことを考えると、一般的にはダブルミーニングの用語として容認してもよいだろう。ここではまず前者の「電子制御シャッター」から解説していくことにする。

シャッターの調速

カメラのシャッターは、撮像素子あるいは感光体(フィルムなど)に被写体光を当てたり当てなかったりする道具だが、そこで重要となるのが光を当てる時間、つまりシャッターの開いている時間の制御である。レンズ付きフィルムのようにごく簡単なカメラではこの露出時間が1速しかないものもあるが、多くの場合では露出時間を意図に応じて変えることができるようになっている。この露出時間を変化させるべく制御することを「調速」と呼んでいる。

1960年ごろまでは、この露出時間の制御は機械的な方法しかなかった。シャッターが開いて閉じようとする動作を、歯車をかませたり、振り子のようなものを振らせたりして阻止しておき、閉じ動作を遅らせるのだ。この負荷のかませ方によって閉じ動作をスタートさせるまでの時間が決まり、結果として露出時間を制御することになる。中にはこの「遅れ時間」を作るのにピストンのようなエアシリンダーを用いたものもあったが、多くのシャッターでは歯車を何段も連ねてそのうち一部を嚙ませたり外したり、またアンクルとガンギ車という機構、フライホイル(はずみ車)などを用いて時間を作り出していたのである(写真1)。

写真1。機械制御のレンズシャッター内部。このリング状のスペースの右半分から下にかけて調速機構が詰まっている。(中川忠「精工舎シャッター物語 製品編・技術編」朝日ソノラマ刊より)

電子制御シャッターの登場

エレクトロニクスが発達し、カメラにも電子回路が組み込めるようなレベルになってくると、電子回路で露出時間を制御する方法が登場した。その端緒は1963年のフォトキナである。「ポラロイドオートマチック100」という電子制御のシャッターを用いて自動露出を行う機能を組み込んだインスタントカメラ(写真2)が出展されたのだ。

写真2:最初の電子制御シャッターカメラ「ポラロイドオートマチック100」(写真提供:日本カメラ博物館

同じ時期に大和光機というメーカーから一眼レフの「アートロニックFズーム」(写真3)とレンズシャッターカメラの「アートロニックL」も発表され、これを世界初の電子制御シャッターのカメラとする向きもあるが、こちらの方はついに発売されず、メーカーの大和光機も姿を消してしまったので詳細は不明となっている。

写真3:ポラロイドオートマチック100と同時期に発表された「アートロニックFズーム」。詳細は不明で幻のカメラとなっている。(愛宕通英「カメラとレンズの事典」日本カメラ社刊より)

ポラロイドオートマチック100は実際に商品化され、技術内容も明らかにされている。図1に公表されたその構成を示す。ポイントはシャッター後幕を電磁石で吸引して押さえておくところにある。シャッターが閉じようとする動作を、電磁石で阻止しておくのだ。そしてシャッターが開くと同時にタイマー回路がスタートし、所定の時間が経過すると電磁石をオフにして後幕でシャッターを閉じるという構成になっている。

図1:ポラロイドオートマチック100の電子制御シャッター説明図。レンズシャッターだがフォーカルプレンシャッターのように先幕と後幕がある。後幕の動きを電磁石で阻止しておき、電子回路でこの電磁石を制御する。(アサヒカメラ編「世界のカメラ1965年版」朝日新聞社刊より)

時間を測るタイマー回路には「CR時定数回路」が用いられた(図2)。コンデンサー(C)と抵抗(R)を直列に接続してそこに電圧を加える。するとコンデンサーに抵抗を通して充電が始まるが、その際コンデンサーの端子電圧が一定値になるまでの時間はコンデンサーの容量と抵抗の値の積に比例するという性質を利用したものだ。こう書くとややこしいが、要は抵抗値を変えることによって充電時間を変えることができるということだ。

図2:CR時定数回路を用いた電子制御シャッターの制御回路。シャッターが開くと同時にトリガースイッチが開きコンデンサーに充電が始まる。コンデンサーの電圧が一定値になるとスイッチング回路でこれを検出し、電磁石をオフにする。(金野剛志「カメラメカニズム教室(下)」朝日ソノラマ刊より)

つまり、シャッターが開くと同時にCR時定数回路の充電を開始し、コンデンサーの端子電圧が所定の値になったことを電子回路で検出して電磁石をオフにすれば、抵抗値を変えることによって露出時間を制御することができる。

電子制御シャッターによる自動露出

抵抗値を変えるにはシャッターダイヤルに連動した可変抵抗を使えばよいのだが、ポラロイドオートマチック100では最初からこれを自動露出に用いた。当時露出計の受光素子としてそれまでのセレン光電池に代わり、CdS(硫化カドミウム)が使われ始めていた。CdSはセレンに比べ高感度で暗いところまで測光できるということで、カメラ内蔵の露出計として多くのカメラに組み込まれたのだ。このCdS受光素子は光導電素子なので明るさに応じて抵抗値が変わる。明るいところでは抵抗値が低く、暗いところでは抵抗値が高くなる。

このCdSを上記のCR時定数回路のR、すなわち抵抗器に置き換え、シャッター速度を制御したらどうなるか? そう、明るいところではCdSの抵抗値は低く、充電が速いので露出時間が短くなり、暗いところでは高抵抗になるので充電が遅く、スローシャッターになる。つまりシャッター速度による自動露出(AE)が実現するのだ。図1にもあるがこのカメラでは撮影レンズの絞りに連動してCdS受光素子の前に設けた絞りを変えることにより、絞り優先AEとしている。

こうしてポラロイドオートマチック100で始まった電子制御シャッターによる自動露出は、多くの追随を呼んだ。まずはレンズシャッターのメーカーが電磁石を組み込んだ電子制御用のレンズシャッターを供給し、制御回路も提供した。日本ではコパルエレク、セイコーESがそれである。それらがヤシカ・エレクトロハーフやミノルタ・エレクトロショットなどのカメラに採用され、カメラのエレクトロニクス化の幕開けとなった。

電子制御シャッターのメリット

このような電子制御シャッターの秒時を、CdSを使って自動的に制御する方法は、いくつかのメリットがある。それまでのAEは受光素子の出力で電流計を振らせ、その指針の位置を機械的に検出する方法を用いていたが、この電流計は微小な電流を検出しなくてはならないので、構造が非常にデリケートになる。その結果衝撃に弱いという問題点があった。ニコンが"フォトミック"という妙手を編み出し、交換ファインダーに露出計を組み込んだのも、最高級の一眼レフのボディ本体にデリケートな電流計を入れたくなかったということが背景の一つにあるだろう。

電子制御シャッターによるAEは、その解決手段を提供した。電流計を使わないので頑丈なカメラができるというわけだ。そのことを強調するために、ヤシカエレクトロ35(1966年。写真4)などは「落としてもぶつけても壊れない」ということで、わざとカメラを落としてみせるような過激なテレビコマーシャルをやっていた。

写真4:ヤシカエレクトロ35。電子制御シャッターによる絞り優先AEを採用し、ベストセラーとなった。(「日本の歴史的カメラ 増補改訂版」日本カメラ博物館刊より)

また、機械的な調速機構と違い、スローシャッターが得意なところも電子制御シャッターの大きなメリットである。これも「ローソク一本の明かりで撮影できます」というような過激な宣伝がなされていた。

バリアブルK

一方で電子制御シャッターによるAEには問題点もある。その1つはCdSの特性だ。厳密に露出を自動制御するには、CdSの抵抗値が明るさに反比例する必要がある。明るさが2倍になれば抵抗値が1/2になってほしいのだ。そうすれば露出時間も1/2になって露出が一定に保たれる。ところが、通常のCdS受光素子はそうではない。明るさが2倍になると抵抗値は1/2よりも高めの値に、明るさが1/2になると抵抗値は2倍よりも低めの値になる。つまり反比例よりもカーブが寝た特性になるのだ。

これについて当時のカメラメーカーは「バリアブルK」という理論を提示した。この“K”は適正露出の条件式にある“K”だ。適正露出を得るには、被写体の明るさ“B”と撮像感度“S”、絞りのFナンバー“A”、それに露出時間“T”が以下のような条件式を満たす必要がある。

A 2 /T=BS/K

この“K”は定数で本来は一定の値なのだが、それを被写体の明るさに応じて変化させようというのが、バリアブルKである。具体的には明るいところではKを大きく、暗いところではKが小さくなるように変化させるのだ。そうすればCdS受光素子の特性と一致させることができる。

ただ、当然だがこうすると明るいところでは露出オーバー気味に、暗いところでは露出アンダー気味になる。だが、明るいところは明るく写り、暗いところは暗く写るのでその場の雰囲気が出てよいとしていた。昔の露出制御はアバウトでおおらかだったのだ。

表示の問題

もう1つの問題はシャッター速度表示だ。電流計を使ったそれまでのAEなら、電流計指針をファインダーの中に見せれば実際に制御されるシャッター速度や絞り値を撮影者に教えることができる。しかし、電子制御シャッターによるAEだと電流計を使わないのでそれができない。

そこで、当初はランプ表示で(LEDはまだ登場していない)露出オーバーの警告と、シャッター速度が遅く手ブレする可能性を示す警告のみを表示することにした。シャッターボタンのストロークを利用してスイッチを切り換えていく。まず最初のストロークでCdSに露出オーバー検出用の負荷抵抗を接続し、CdSの抵抗値が規定値よりも低かったらオーバー警告を点灯する。次のストロークで手ブレ警告用の負荷抵抗を接続し、CdSの抵抗値が規定値以上だったら手ブレ警告を点灯する。そして最後に制御用のコンデンサーに接続してシャッターを切るという具合だ。

そのためシャッターボタンのストロークが長くなり、またシャッター速度の具体的な値は依然としてわからないままとなる。中には露出制御用のCdSとは別に表示用のCdSを並べて設け、それで電流計を振らせてシャッター速度の表示を実現しているカメラもあった。

問題点の解決

時代が進むと上記の2つの問題点はいずれも解決された。その背景にはエレクトロニクスの急速な進歩がある。具体的にどうやって解決されたかについてはちょっと複雑な話になるので、また機会があれば説明することにしよう。

豊田堅二

(とよだけんじ)元カメラメーカー勤務。現在はカメラ雑誌などにカメラのメカニズムに関する記事を書いている。著書に「とよけん先生のカメラメカニズム講座」(日本カメラ社)、「カメラの雑学図鑑」(日本実業出版社)など。