山岸伸の写真のキモチ
第15回:「M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F2.8 PRO」を愛用しているワケ
2021年12月3日 06:00
山岸さんといえば、早くからOMデジタルソリューションズのカメラを愛用していることで知られています。フィルムからデジタルへの移行もかなり早い段階から完了していましたが、その撮影スタイルを支える重要なレンズがあります。そう、今回は35mm判換算で80-300mm相当となる「M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F2.8 PRO」をポートレート撮影で愛用する理由を語っていただきました。(編集部)
製品のプロモーションを担当
僕はOMデジタルソリューションズ(以下、OMDS)のカメラを愛用しています。この連載で何度もご紹介しているように、コンパクトで僕の手にあっているということが大きな理由です。今回は、そのカメラ運用でF1.2シリーズの単焦点レンズとともに僕の撮影を支えている望遠ズームレンズ「M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F2.8 PRO」にまつわるエピソードをご紹介したいと思います。
Web上で公開されている製品概要でもバナーとして掲載されていますので見たことがあるという方も多いのではないかと思いますが、僕もまたこのレンズのプロモーションを担ったカメラマンの一人です。撮影場所にはタイを選定。モデルにはロシア人のアイーダさんを起用し、4日間の日程で実施しました。
プロモーションの内容はモデルだけを撮影するというものではなく、僕自身のこのレンズに対するインプレッションと、「写真を撮る」という行為そのものに関わる考え方をお伝えする構成となっています。「僕が本レンズを愛用する理由」そのものがプロモーションの内容となっているわけですね。内容の一端はYouTubeでも映像が公開されていますので、ぜひ今回お伝えしている内容とあわせてご覧いただければと思います。ポートレート撮影はもちろん、きっと写真に対するスタンスやアプローチという面でもヒントを持って帰っていただけるはずです。
製品を理解しロケハンでその魅力を引き出す
ロケは現地コーディネーターのほかに、現地のプロカメラマンにも入ってもらう形での進行となりました。というのも、僕の撮影に加えて現地での撮影会もプロモーションの内容に含まれていたからです。4日間の日程でロケハンと製品用の撮影、インプレッションの収録、撮影会の実施と、かなり密度感のあるスケジュール進行となりました。
ところでOMDSのカメラはタイでも高い人気があります。ですから撮影会を催すとなると集まる人数も相当なもの。その規模はプロモーション撮影で登場してもらったアイーダさんとは別に、もう2人モデルを立てているほどです。現地プロカメラマンに入ってもらったというのは、そういった背景もあるわけです。
撮影会の模様はこの後で詳しくお伝えすることにして、さっそくプロモーション撮影時の様子をお伝えしていきましょう。1日目午前の現場は、サンプラン リバーサイド公園。撮影は早朝で実施していますが、とても綺麗な光が彼女を印象的に描き出す役割を果たしています。
このカットで選んだ焦点距離は120mm。35mm判に換算すると240mm相当の画角ということになります。強烈な逆光条件のもとで撮影した1枚ですが、彼女の肌の白さや髪の柔らかな質感を引き出しています。
女性は逆光で撮るのが一番綺麗だと考えていますが、このシーンは特に彼女にマッチしていました。絞りを開放側で撮影できる点もこのレンズの良いところです。逆光条件であることを考えて、あまり大きなレフ板は使いませんでしたが、そうした撮り方に応えてくれるのもF値が明るいレンズだからこそ。しっかりと自然光の良さを活かしきることができました。
撮影時の様子がこちら。僕の頭上でもレフ板を掲げてもらっていますが、これはカメラの背面モニターを利用して撮影する僕のスタイルを補助してもらうことが目的。いつもは愛用の黒傘をハレ切りに利用するのですが、ここではレフ板で代用しました。現地スタッフ複数名の手も借りることができたので実現できた撮り方です。
ちなみにプロモーションの一環として僕が撮影している様子も収める必要がありましたから、ロケでは現地映像スタッフも一緒になって動いています。僕の撮影はアシスタントに加えてヘアメイクもつく複数名で実施することが通常ですが、今回はそれに加えて現地のコーディネーターや映像撮影部隊が加わりますから、かなりの大所帯になりました。
これだけの人数で動いていきますから、撮影ではロケハンと許可取りが欠かせません。もちろんどのような撮影でも許可確認は必須ですが、国外でもそうした行動は必須です。これは前々回の連載でもお伝えしたことですね。
カメラマンとして本当に大切にしたいこと
ご覧のとおり冒頭の1枚は路上で撮影したものとなっています。光線状態と背景のヌケを鑑みて、このシチュエーションを選んでいるというワケです。余計なものをカットできるズームレンズの良さが活きるシーンでもあります。
まさに製品のプロモーションとしてドンピシャリなシーンと光線状態であるわけですが、これは事前に現地情報をリサーチし、また自身の目と足を使って事前に状況を確認しているからこそ。プロモーション映像中でもお伝えしていることですが、OMDSのカメラを使っていく時、もはや僕にとって「どう写るのか」は自明のこと。写り方のイメージが完全に描けていますから、「何を写すか」ということのほうがはるかに重いわけです。でも、それってカメラマンにとっては当たり前のことで、だからこそ「カメラマン」ができるわけです。
本当に大切なことっていうのは使う機材への理解はもちろんですが、被写体とカメラマンとの間で「撮る・撮られるという関係が成立していること」にこそあるのだと思います。被写体が今日は撮られるんだという意識を強くもっていることと、僕がその被写体を撮るんだということを強く意識している状態。それが互いにマッチしていないとポートレート撮影とは言えないんじゃないかなと思っています。少なくとも僕は、そうでないものをポートレートとは認めたくないと考えています。
肝心なのはこの連載で何度もお伝えしていることですが、カメラマンと被写体が仕事という枠組みの中で真剣に向かい合うということ。お互いにより良いものに仕上げようとしていきますから、自然とアガリの質も上がっていきます。もちろん、カメラマン側にしっかりとそれを実現できる力量が備わっていることは大前提ですけどね。
テザー撮影の効用
この撮影でモデルをお願いしたアイーダさんは日本語が堪能というわけではありませんでした。その意味でコミュニケーションは身振り手振り・通訳をお願いしてとなりましたが、何よりも画像自体をその場で見せていく撮り方がコミュニケーションの大きな助けになりました。
僕は早くからデジタルに移行していましたから、テザー撮影の導入も早かったと自認しています。著名人の撮影はもとよりグラビアの撮影で、すぐに仕上がりが確認できる利点はやはり大きいです。モデル本人も安心して仕事ができますからね。言葉が通じない場面というのは往々にしてありますが、デジタルの利点が撮影の助けになっているという一例です。
背面モニターを利用した撮影スタイル導入のキッカケは、病気に伴って薬の副作用で目の調子が悪くなり、ファインダーを覗けなくなったことが一因とはなっています。でもそのおかげで、ファインダーという狭い視野から解放され、周囲の状況を含めて様々な情報が目に入ってくるようになったことで、かえって写真が上手くなったと実感しています。これもデジタルの利点。カメラのデジタル化がもたらしたメリットは、とにかく撮影が自由になったことにあると実感しています。
テーマに即して撮る
1日目午後は寺院「ワットアルンダーチャ」を背景に入れることができる唯一の場所に舞台を移しての撮影となりました。テーマが望遠ズームですから、その特徴を引き出せる場所を引き続き選んでいったというワケです。モデルの脇にグッと背景の寺院が引き寄せられていることがお分かりになると思います。
OMDSのカメラらしくアートフィルターを活用した例も。
これらカットの撮影シーンでは愛用の黒傘・白傘が大活躍。黒傘はハレギリ用に、白傘はモデルに強く当たる光を和らげたい時に多く出番があります。もちろんディフューザーとしての役割もあります。
この2本の傘は壊れる度に新調し続けてきましたが、今や手に入らなくなってしまいました。特に白傘は海外のゴルフショップで手に入れたもので、全面が白くまたサイズも撮影用途を満たすものです。今使っているものが最後の1本となってしまいましたが、実は僕の撮影にとって欠かすことのできない道具の代表格でもあります。
夕暮れが近づいてきた頃合いを見て多灯ストロボによるライティングで印象を変えたカットも押さえていきました。LEDライトもバイカラータイプの製品が多くなり、シーンやイメージにあわせた作画がしやすくなりましたね。
リモートコントロール技術の発達で1人でも複数灯を扱える時代になりましたが、人手があるとフレキシブルな撮り方ができます。これも僕の撮影の特徴のひとつ。モデルにも動いてもらっていますが、僕自身も動き回るので、ライティングにも常に動いてもらう必要があるわけです。人間の表情やしぐさは常に変わっていきますから、用意を整えて「さぁ、撮りますよ」とするのではなく、観察しながら撮る。だからこそ得られるカットや品質があるわけで、それを僕は大切にしている、ということなんです。
大盛況だった撮影会
2日目は撮影会でした。集まってくれた参加者に向けて、さっそく1日目に撮影した内容を実際の撮影内容を見せながら解説していきました。
会場はオリンパスの現地施設「T-TEC」でした。ここは東南アジアの医療従事者向けに内視鏡関連の教育・トレーニングの場を提供することを目的に、バンコク市内に2016年7月にオープンした施設です。名称もその目的を表したもので「Thai – Training and Education Center」となっています。
当日はとても多くの参加者に恵まれ、いかにOMDSのカメラ・レンズに高い関心が集まっているのか、ということがわかるものでした。
続けて3日目はインプレッションの収録。ここまでお伝えしてきた内容を中心に語っていくというものでした。
4日目も引き続き撮影
実撮影と撮影会、インプレッションの収録を3日間の日程でこなしてきました。冒頭でもお伝えしていたように今回のスケジュールは4日間の進行となっていましたが、では4日目は何をしていたのかというと、やはり写真を撮っていました(笑)。
仕事内容はひととおり完了していましたので「では予備日は観光にあてましょう」となる人もいるかと思いますが、僕はやはり写真を撮ってしまいます。メインでモデルをつとめてくれたアイーダさんと撮影会でモデルをつとめてくれた子にも引き続き出演してもらい、バンコク市内のいくつかの場所で撮影をしてきました。
こうして様々な場所をめぐる中で撮影を繰り返すことが、やはり写真上達に向けた糧になっていきますし、次にタイで撮影をしようといった時のロケハンにもなります。写真を核に、そうやって様々な要素が自然と集まっていくんですね(笑)。
兎にも角にも「写真」。移動中もモデルのメイク中でもとにかく撮る。そして良い光を常に探し続けること。僕の生き方であり大切にしてることですが、快く街を案内してくれた現地コーディネーターはもとより、モデルやスタッフには感謝の言葉しかありません。
撮り続けるということ
バンコク市内では水上マーケット「タリンチャン」からチャイナタウン「ジャンクルン通り」にかけて移動。4日目も撮影をすることは決めていましたが、どこに行きたいかを聞かれた時に、僕は即座に「人間のニオイがするところに行きたい」と答えました。
写真の用途は実に様々です。4日目はプライベートということもあり精神的に解放された状態で撮っています。何のために撮っているのかというと、先ほどもお伝えしたように、ロケハンなど次の撮影に向けた蓄積であったりするわけですが、それ以上に僕自身、写真を撮っていることが好きだということが挙げられます。楽しいから写真を撮っていられる、という言い方もできるかもしれません。
僕たちにとっての非日常が、現地の人にとっては日常であったりもする。写真を撮ることを通じて知ることができることはたくさんありますし、写真を撮っているからこそ出会えた人やものもたくさんある。僕にとって、写真を撮るということは、そのものが生き方になっているんですね。
プロモーション映像は僕が「ポートレートを撮る」という行為の中で大切にしていることも同時にお伝えする内容となっていますが、やっぱり「人の気持ち」というのが一番大切です。写真は何よりもハートで撮るものだと思っています。
だから被写体になってくれる女の子を100倍綺麗に撮ってあげたい。そうした気持ちを支えてくれているのがOMDSのカメラであり、M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F2.8 PROだということです。
それに加えて写真を見てくれた人に「綺麗だね」と言ってもらえる成果を出すために、写真を撮る時の気持ちも大切にしてほしい。そうしたハートの部分が被写体に向いていれば、きっと相手にも喜んでもらえる結果が出せるようになると思っています。プロモーションのお仕事をメインにお伝えしてきた今回ですが、そうした「気持ち」もぜひ大切にしてほしいと願っています。